拙者は名もなき仕事忍。以前は混然大地を中心にフリーの忍者として働いていたが、この度神楽天原の武酉城皇家、楠舞家直属の忍者部隊[裏玄武]に就職が決まった。
今は中途採用の下忍として龍寓島で働いているが、いずれは昇格し、武酉城に上忍として常任したい。
「しかしこの龍寓島は存在意義はあるのでござろうか・・・?」
この龍寓島は世界融合以前は神楽天原とエルフェテイルを繋ぐ交鬼門の監視のために使われていた砦だったが、融合後、新ロストエレンシアの南に位置取られた今はこれと言った役割が無い。
「こんなに暇では出世できない・・・。」
そう思っていた矢先、突然消えたはずの交鬼門が現れ、見慣れぬ怪物が現れた。
我ら裏玄武がその怪物に苦戦していた時、門から更に見慣れぬ風貌の少年と少女が現れる。
少年と少女、ダイチ殿とアスカ殿が珍妙な腕輪の帯を回転させると、何もないところから武器が現れ怪物たちを撃退した。
すると動物たちは犬やネズミ、熊などと言った普通の動物に姿を変え、森へと帰っていく。聞けばそれが本来の姿であり、マターと言う物質を取り込んだ突然変異で怪物と化していたとか・・・。
交鬼門は閉ざされ、ダイチ殿たちは元の世界に戻れなくなり、拙者は上から彼らの監視役兼世話係を指示される。
その矢先、ダイチ殿が少し目を離したすきに姿を消した。どうしよう・・・。
拙者ら裏玄武とアスカ殿は慌ててダイチ殿の捜索に当たったのだった。
「という事は、ダイチくんとアスカちゃんはクロスゲートを通ってこのエンドレスフロンティアにやってきたんスね?」
アブリエータ城でダイチ殿を発見した拙者らは、そのままトレイデルシュタットの一団と合流し、情報交換を行っている。
「たぶん、私たちはポロックタウンでガーディの座をかけてグラップで勝負していたの・・・キャ!?」
アスカ殿が喋っている途中で、ダイチ殿の懐から小さな動物が現れ、アスカの股下を潜り抜けて立ち止まる。
「シュウシュウ。」
小動物は何やら小ばかにした態度で声を出している。
「なんですって!?この変態モモンガ!」
アスカ殿はそのモモンガに向かって怒鳴ると、その間にダイチ殿が割って入る。
「モンジをイジメちゃ、ダメ。」
「・・・・!」
アスカ殿は振り上げた拳を静かに降ろす。しかしその顔は明らかに怒ったままだ。
「・・・そのげっ歯類はなんなんスか?」
「モンジ、ボクの友達。」
トレイデルシュタットのウィンク殿の問いにダイチ殿がそう答えるが、何の説明にもなっていない。
「私たちポロックタウンの人間は動物の言葉がわかるの。」
「またまた、ご冗談を!」
同席していたツァイト・クロコディール副長、リィ・リー殿がアスカ殿の言葉を笑い飛ばす。「動物と話せる」と言う話は眉唾だが、虎の獣人がそれを否定するのはシュールである。
「いやアンタが否定すんのかよ・・・!?」
拙者と同じ感想を抱いたらしく、トレイデルシュタット一行に同行していたヒビトという少年がリィ副長にツッコミを入れる。
なんでも、ダイチ殿たちと同じくこのエンドレスフロンティアに転移してきたグラッパーであるらしい。腕には同じようなからくり腕輪を身につけている。
「私たちの村には伝説があるの。・・・遥か昔ポロックタウンに大災害が降りかかろうとしていた時、森に住む動物たちがそれを未然に教えてくれて難を逃れ、それ以来動物と一緒に生活していくうちに動物と会話できるようになったとか・・・。」
「んじゃさっきそのモモンガに怒った時はなんて言われてたんスか?」
「こいつは私のお尻を下から眺めてニヤけてただけよ!」
アスカ殿は不機嫌そうにそう答える。
「リィ副長、合ってるッスか?」
「私は動物の言葉など分らん。」
「その見た目で!?動物と話せる人間が目の前にいるのに獣人の副長が動物とは話せないとか、ガッカリだな~。」
ウィンク殿は虎の獣人であるリィ殿に対し、舐め切った態度でそう告げる。
「今日の食卓に並びたいならば勝手にガッカリしているといい。」
「すいませんでした!」
即謝罪だと?何がしたいんだこの女は、話の腰を折っただけではないか?
「話を続けるわね・・・村人たちは村を救ってくれたお礼に数年に一度、選ばれたガーディ・・・村の代表が「世界中の動物たちを救う旅に出る」という名誉ある掟が出来たの。代々ガーディは長老の占いで毎回一人決められていたんだけど、何故か今回は二人の名前が浮かび上がって・・・。」
「なるほど、つまりその二人ってのがダイチとアスカで、どっちがガーディになるかはグラップで決めようって事になったんだな!熱い展開だぜ!」
ヒビト殿がが食い気味で結論を先に述べる。どうやら彼はグラップが好きらしい。
「そうよ、村の皆で話し合って定期的に行われる祭りの儀式でグラップで決闘して、勝った方がガーディの旅に出ることになったの。けどその決闘の最中二人組の妙な女の人が現れて、変なぷよぷよした生き物や岩の怪物を操って襲ってきたの・・・で、その二人と戦ってたはずなんだけど、気が付いたら龍寓島に居たの・・・。」
恐らくその際に転移現象が起きたのだろう。
「ぷよぷよと岩、ゲルとゴーレムかな?・・・だとするとその女の人、羽を剣に変えたりブーメランに変えたりして攻撃してこなかった?」
今度はキュートと言う少女がアスカ殿に尋ねる。
「片方はそんな攻撃方法だったわ・・・知ってるの?」
「私たち・・・というかヒビトくんも同じ人に襲われたの。他にも仲間がいるんだね・・・。」
「そろそろ龍寓島だ。」
リィ殿が一同にそう告げる。
「送っていただきかたじけない。」
拙者はリィ殿とウィンク殿に礼を述べる。
「・・・居たんスか下忍、なに勝手に乗車してんスか?」
存在を認識されていなかった。
そういや拙者、ぜんぜん喋ってないや。
◇◇◇
「猫騒堂、開店でございま~す!」
龍寓島の一角で猫又の琥魔が商いを始めている。
「ヒールカプセルをくれ!」「こっちは精神安定剤を!」「フォルミッドヘイムの装備があるって聞いたんだが?」「私はキビダンゴが欲しい!」「神夜様とネージュ様のブロマイドを所望する!」
定期的に現れるその露天商に客が殺到している。
琥魔の隣では着物姿の少女がしぶしぶ仕事を手伝っている。
「ほらほらアラネ様、ちゃんと声を出してカモ・・・お客を呼び込んでくださいませ!」
「なんで私がこんなことを・・・。早く例の場所に案内してほしいのだけど?」
「分っておりますとも!これが済んだらちゃんと案内いたしますよ、もちろん別料金で♪」
「仕事を手伝わせて更にお金を取ろうって言うの?」
アラネと呼ばれた少女は呆れながら仕事をつづけた。
◇◇◇
「ここが裏玄武の詰め所っスか。」
私たちは下忍に案内され、裏玄武の詰め所に訪れる。別に用事があるわけではないが・・・。
ぐ~~~
ダイチくんのお腹から大きな音が聞こえててくる。
「・・・お腹すいた。」
ダイチくんは普段通りの無表情でそんな事を言う。
「カワイイッスね・・・。」
ダイチくんは無表情ではあるけど、キリっとした目元と丸々とした体形のアンバランスさ、そして真面目で素直で口下手な感じが溜まらない。
「ウィンクさん!?」
アスカちゃんが微妙な顔を見せる。こっちはこっちで分かりやすい。
「あ~、深い意味は無いんㇲよ。取らないんで安心してほしいっス。」
「そっ・・・そんなんじゃありません!」
アスカちゃんは全力で何かを否定する。
「シュー、シュー。」
「アンタは黙ってなさい、変態モモンガ!」
モモンガのモンジがアスカちゃんに何か言ったようだ。たぶん冷やかされている。
「下忍さん、ここには食堂とかは無いんスか?」
「食堂はあるが今は閉まっています。乙音様が武酉城に行っていて不在であるが故に。」
裏玄武棟梁[乙音]、龍寓島と武酉城を行ったり来たりと忙しそうだ。
裏玄武は神楽天原最強の戦闘集団だけど、世界が融合以前の事件でゲシュペンストこと黒い亡霊、[ファントム]と交戦し壊滅寸前にまで追い込まれた。
そしてそのまま世界の融合が起こり、武酉城と龍寓島は位置的に分断され、人手不足にさいなまれている。
「なんで棟梁さんが居ないと閉まるんス?アンタらも困るんじゃないッスか?」
「裏玄武は棟梁の乙音以外、料理を出来る者が居ないのです!男子厨房に入らずと言いますからね!」
威張るな!どんな組織だ!?
「使い方間違ってるッスよそれ・・・元々は男子じゃなく君子ッス。そんでアンタは下忍ッス。」
「なるほど、言葉の誤用は御用だと言いたいわけですね?」
言いたいわけあるか!
「なあウィンク、俺も腹が減ったぜ?」「私も~!」
ヒビトくんとキュートちゃんも空腹を訴えてくる。正直、私が作ってもいいんだけど・・・
「せっかく龍寓島に来たんだし、経費で寿司でも食ってくるっスか・・・」
「「「賛成!」」」
◆◆
「ごめんくださいませ~♪」
「行商人の琥魔か・・・こんなところに何の用だ?」
ウィンク殿たちが外食に出かけると、町で一仕事を終えた琥魔と見慣れぬ少女が入れ違い裏玄武の詰め所を訪ねて来た。
「商品をお持ちしましたので、裏玄武の方々もいかがかと思いまして。」
琥魔は手もみしながら下忍にすり寄っていく。相変わらず胡散臭い。
「必要な物があればこちらから買いに行く・・・いったい何を企んでいるのだ?」
この琥魔は先の戦いでこそハーケン・ブロウニング一行に加勢しアグラッドヘイムと戦ったが、金次第では悪党にも簡単に加勢するため信用のおける人物ではない。そしてそれはもはや周知の事実である。
「企むなど滅相も無い。ただ私めは情報の売り買いも行っておりまして、何か変わったことなどございませんかと。例えば・・・クロスゲートが現れたとか・・・?」
「貴様、どこでその情報を・・・あ!」
しまった!分かりやすく事実を認めてしまった!しかもうっかり「あ!」って言ってしまった!
「ふふふ、風のうわさでお聞きして気になっただけでございますよ。蛇の道は蛇、猫の道は猫でございます。」
「クロスゲートは扱いを間違えれば争いの火種となる!・・・乙音様が今楠舞皇に報告に・・・あ!」
「ほうほう、つまり今は乙音様は不在であると・・・?」
しまった・・・またうっかり口が滑った。
「ち・・・違うぞ!乙音様は今、食料の買い出しに出かけておるだけですぐに帰ってくるのだ!」
「つまらん嘘を言うなニャ、棟梁が買い出しなんぞ行くわけないニャ。」
「ほ・・・本当だ!我ら裏玄武は乙音様以外に料理を出来る者が・・・」
「もういい・・・」
琥魔の傍らの少女が拙者の言葉を遮るように声を発する。和服姿・・・神楽天原の服装をしているが見慣れぬ顔だ。
少女は突然、その刃のような髪で斬りかかってくた。
「ぐわっ!?なんだその娘は!?」
「最近知り合った女郎蜘蛛のアラネ様でございます。同じ妖怪のよしみで雇い雇われているのですよ。」
琥魔が少女をそう紹介する。妖怪仲間と言うわけか・・・!?
「話が長い、声が大きい、黙ってクロスゲートを明け渡して・・・」
「と言うわけで・・・そこを通せニャ、モブ忍者が。」
モブ忍者だと!?なんでそんな酷い事言うんだ!?
「お断りだ、ここは通すわけにはいかぬ・・・!」
拙者はそう言って二人の足下に苦無を投げつける。
「忍!」
印を結ぶと苦無は爆発した。
「どうだ?これぞ我が最強の忍術、爆裂苦無!これに懲りたらさっさと帰るがよい!」
爆煙の中、二人だったはずの人影が増えて見える。
「お断りよ・・・」
煙が消えるとそこには、アラネと同じ姿をした女郎蜘蛛の少女が無数に現れていた。