「スゲエ!口の中でとろけたぜ!」
ヒビトくんが大トロを頬張りながらはしゃいている。
「ヒビトくん、大トロだけを食べるのは止めるっス。中トロと一緒に頼んで食べ比べることでそれぞれの良さが引き立つんスよ!」
元々海沿いに有った龍寓島は世界が融合した後、新ロストエレンシアの真ん中に小さな海と共に結合された。その海に囲まれた龍寓島の魚介類は当然ながら新鮮なのである。
「ふ~ん・・・けど俺、赤身の方が好きだな!」
台無しだ・・・さっきのテンションはなんだったんだ。
まあ確かにトロは赤身よりも取れる量が少ないために必然的に高額になるが、昔は鮮度を保つ技術が無く捨てられていた部位だ。つまり食材としては赤身がトロに劣っているわけではない。
「なにこれ・・・凄く大きい・・・」
キュートちゃんが特別メニューの太巻きを両手で持って口いっぱいに頬張り、それをジャンさんがニヤニヤしながら見つめている。正直、絡みたくない空間だ。
「はい・・・モンジ・・・」
ダイチくんがモモンガに河童巻きのキュウリを与え、残ったご飯を自分が食べている。
「ううぅ・・・鼻がツーンとする。」
その隣ではアスカちゃんがワサビに苦しむ。
この二人はなんというか、癒しだ。
「姉ちゃん、随分と賑やかじゃねえか・・・旅行かい?」
後ろの席の男が話しかけてくる。丸々とした体形で頭からてんとう虫のような羽を生やしたサングラスの男だ。
「新手の変態っスか?」
私は怪しさ満点の男に警戒を示す。
「・・・ニュートンJ。」
現れた男を見てキュートちゃんが呟く。その髪色は普段のピンク色から薄いグリーンに変化している。
「ん?このオッサンを知ってんのか?」
ヒビトくんがそう尋ねる。
「ニュートンJ、このエンドレスフロンティアをはじめとする無数の平行世界が生まれるより前に存在したという伝説の世界、[コアランド]の英雄。」
キュートちゃんは虚ろな表情でなんか壮大な設定を説明する。
「ちょ・・・ちょっとお嬢様、なんでそんな事知ってるんです?それになんか変ですよ!?」
「ん?いま私なにか言った・・・?」
ジャンさんが心配した様子でキュートちゃんに尋ねると、キュートちゃんの髪の色が戻り、普段の調子を取り戻す。なんだこの娘・・・?
「クロスゲートを悪用しようとしている連中がいる。急いで裏玄武の詰め所に戻ることをお勧めするぜ・・・」
ニュートンJはそう言いながら一枚のプレートをこちらに投げ渡し、立ち去って行った。
「何を渡されたんだ?」
「これは・・・ただの伝票ッス・・・」
カッコよく奢らされた!?経費だからいいけどね!
◇◇
「何があったんスか!?」
裏玄武の詰め所に戻ると入り口では数名の下忍が倒れていた。
「妖女にやられた・・・」
「幼女にやられたんスか!?」
「違う、幼女ではなく妖女・・・いや、幼女でもあるが・・・女郎蜘蛛の妖女に・・・我が忍術がまるで通用しなかった、爆裂苦無は強くない・・・」
下忍はそう言って気を失う。
中に入ると同じ顔を下着物姿の少女、女郎蜘蛛が大量に湧いていた。
「髪爪・・・」
女郎蜘蛛たちは髪を刃に変え、真横に伸ばした状態で高速回転しながら接近してくる。
「必殺、ショットガン連射!」
ウィングは愛用のショットガンで女郎蜘蛛を迎撃する。
「邪魔しないで・・・」
別の女郎蜘蛛が中指と薬指だけを握った手をこちらにかざし、蜘蛛の糸を発射してくる。
「武器が奪われた!?日本妖怪モチーフの癖にアメコミみたいな攻撃っス!?」
ウィンクのショットガンが蜘蛛の糸で絡めとられる。
「問答無用ってわけね!?」
アスカがGコンのベルトを回すと、掌に花が咲き開くように巨大な扇が現れる。
「はあ!」
扇を振るうとピンク色のエネルギーが球体となり女郎蜘蛛に向かって飛ぶ。
「俺たちも続くぞ、ダイチ!」「・・・うん!」
ヒビトとダイチもグレイドを生成し、女郎蜘蛛との交戦を始める。
「おりゃああ!」
ヒビトも女郎蜘蛛の一匹を掴み、炎を纏った足で蹴り飛ばす。
「メゾニーダ・・・!」
ダイチは空中に棘のついた球体を発生させ、それをハンマーで叩き飛ばし女郎蜘蛛にぶつける。
「・・・ううぅ!?」
女郎蜘蛛はダメージを受け、その衣服が破れる。
「・・・!!!?」
女郎蜘蛛はダイチを睨みつけ、ダイチは動揺し、キョロキョロと挙動不審に陥る。
「見ちゃダメっス。」
ウィンクはダイチの目元を隠し、視界を塞ぐ。
「うわわわわ!?」
いつのまにかジャンが糸でぐるぐる巻きにされている。どうやら女郎蜘蛛にスケベな視線を送っていたようだ。
「ソードブレイク!いっけー!!」
キュートが双剣をハサミの様に合体させ、女郎蜘蛛の糸を切り裂いた。
「ふう・・・助かりました、お嬢様。」
救出されたジャンが一安心する。
「数が多すぎるわね、こうなったら・・・ローズロード!」
アスカの足下に赤いバラが咲く。
「皆、飛んで!」
アスカに言われて一同がジャンプすると、床一面に茨が伸び広がり、女郎蜘蛛の集団を絡めとった。
「アスカちゃん、凄いっス!」
「BPの消費が激しいから多用は出来ないわ、今のうちに進みましょう!」
◇◇
「ようやくたどり着きましたね。」
「あれがクロスゲート・・・?」
琥魔とアラネ、そして多数の女郎蜘蛛が裏玄武の下忍たちを撃破し、詰め所の最深部へと到達すると、そこから龍寓島を取り囲む小さな海に浮かぶクロスゲートが確認できた。
「さっそくクロスゲートにアクセスを・・・」
「待てぃ!」
アラネがクロスゲート干渉しようとした瞬間、何処からともなく声が聞こえてきた。
「どうやら厄介な奴が現れたようだニャ・・・」
「誰・・・?」
琥魔がそう呟きながら上を見ると、詰め所の屋根の上に白い忍び装束の女の姿が見える。
「お前たちに名乗る名前は無い!」
「これはこれは乙音様ではございませんか?武酉城に居なくてもよろしいので?」
現れたのは裏玄武棟梁の乙音だった。
名乗らなかったが琥魔とは顔見知りなので意味がない。
「・・・貴様のような輩が居ては安心して離れられぬ。ここを襲撃したからにはそれ相応の覚悟はできておるのだろうな!」
乙音がそう言って琥魔たちとクロスゲートとの間に割って入る。
「邪魔しないで・・・」
女郎蜘蛛たちは一斉に乙音に向けて糸を飛ばす。
「調子に乗るなよ、妖ぶぜいが・・・線鋼の舞!」
乙音は四肢に仕込んだワイヤーで女郎蜘蛛の糸を切り払う。
「髪槍・・・」
女郎蜘蛛の群れが少女は高く飛び上がり、その小さな体を髪で覆い、それぞれが一本の巨大な棘となり乙音に突撃していく。
「させぬぞ!」「忍忍!」
乙音の前に上忍が現れ、爆裂苦無や雷で女郎蜘蛛を迎撃する。
「火鼠の衣!」
そして乙音が女郎蜘蛛の群れをワイヤーで薙ぎ払った。
「今のは神夜さま技でございますね、流石はお師匠さま・・・と言いたいところですが、露出が足りねえニャ!」
琥魔が一瞬で乙音の懐に入り込み、二本の尾で巧みに刀を操り斬撃を繰り出す。
乙音がそれを咄嗟に苦無で防ぐ。
上忍たちが琥魔に迫ると、琥魔は尻尾をプロペラの様に回転させ、浮遊すると同時に切り裂く。
「あとは貴方だけ・・・」
乙音は何処からともなく無数に溢れ出る女郎蜘蛛に取り囲まれる。
「メゾブラスト!」
突如、複数の火球が女郎蜘蛛を襲う。
「熱いグラップを見せてやるぜ!」
そこに現れたヒビトが女郎蜘蛛を攻撃していく。
「どうやら間に合ったようッスね!?」
一足遅れてウィンクやダイチが現れる。
「いえいえ、どうやら手遅れのようでございますよ?」
琥魔がそう促すと、アラネが蜘蛛の糸を伝い、クロスゲートにたどり着いていた。
「・・・タッチアウト」
するとクロスゲートから巨大な般若の面が現れる。
『ほっほっほ、ここが新たなる世界であるか・・・愉快愉快』
般若の面は笑いながら近づいてくると、その下にうっすらと人の身体が現れる。
「貴様は何者だ!?」
乙音が般若面に尋ねる。
「般若の面に和服姿に扇子、神楽天原に由来する奴じゃないんスか?」
「いや、こんな奴は知らぬが・・・なんという妖気だ!?」
乙音は最大限の警戒を示す。
『ひい、ふう、みい・・・むう、何と女子の多い事か・・・全て攫うのはちと骨が折れるのう・・・』
「攫う?女の子を攫ってどうしようってんスか?」
『どうもせぬ、ただ攫うだけじゃ。女子を攫うは悪の美学よ!』
般若面は再び浮遊し、扇子を閉じるとその周囲には髑髏の球体が現れる。
髑髏の球体は般若面の接近と共に周囲を削り取っていく。
「させるかよ!」「・・・・!」
ヒビトとダイチが髑髏の球体を狙って攻撃する。しかし髑髏に触れた瞬間、グレイドが消失した。
「何!?」
ヒビトとダイチはその場に膝を付く。
「一瞬でマターが尽きた・・・どうなってんだ!?」
『ほう、髑髏球に触れて意識を保つとは、やるではないか小僧共。・・・若干だが聖なる竜の加護を感じるな・・・念のため始末しておくとしよう!』
髑髏の球をヒビトに向けて飛ばしてくる。
「やべえ!?」
次の瞬間、光弾が飛来し、髑髏の球を撃ち抜いた。
「相変わらず趣味の悪い格好だな、ワルサー大王!」
ウィンクが上を向くと、空中には寿司屋であったニュートンJが浮遊していた。
『貴様は我が宿敵、ニュートンJ!?』
「宿敵なんかじゃねえ、でめえは単なる悪党だ!」
ニュートンJは額から光弾を連射し、髑髏球を破壊していく。
「ビートコンボ、[やなぎのしたで]!」
アスカが隙をついてワルサー大王に接近し、ビートコンボを叩きこむ。
「爆ぜろ・・・裏玄武流忍術、鳳閃火!!」
続けて乙音が爆裂苦無でワルサー大王の身体を吹き飛ばした。
『おのれ小娘共!?・・・仕方がない、ここは退くとしよう!』
胴体を失い般若面だけとなったワルサー大王が逃走しようとするが、キュートがそれを阻む。その髪色は緑色に変化している。
「ワルサー大王、逃がさない・・・」
『ぬう・・・貴様はまさか!?』
「マジカルハンマー!」
空中に巨大なハンマーが現れ、ワルサー大王を叩き潰す。
「光になれー!!」
『ワ~ルサ~~!!?』
ワルサー大王はそう叫びながら消えていった。
▽▽▽
「ぶうぇ~い・・・いい湯っスね~・・・」
「ウィンクさん、なんて声出してるんですか!?」
キュートちゃんが私の声に反応する。
私たちは戦いの後、旅館[裏縞]の温泉を堪能している。目の前にはアスカちゃんとキュートちゃんが並んで湯につかっている。
「・・・安心のクオリティっスね。」
「それ、なんの感想です?」
キュートちゃんが怪訝な目でこちらを見てくる。正直、温泉に入っているのにこのメンバーではありがたみが無いし語ることも無い。
なにせ、公式の立ち絵が存在しているのがキュートちゃんだけなのだ。雑魚モンスターの私はもちろん、アスカちゃんも原作では説明書などにも紹介されておらず、ゲーム内にしか登場しない。
これではせっかくの入浴シーンもイメージが沸かない。
「それにしてもキュートの最期の技、凄かったわね?マジカルハンマーだっけ?」
「そうっスね・・・なんかド派手な技だったッス・・・。」
正直、演出の派手さがエンドレスフロンティアの基準を超えてて強さの基準が分からなくなる。
「う~ん、あんまり覚えてないんだよね。なんか凄い事をした疲労感だけは残ってるんだけど・・・」
キュートちゃんが首を傾げながらそう答える。キュートちゃんがあの雰囲気になると毎度記憶が朧気なようだ。どうやら本人はあの変化にさえ気づいていないようだが・・・。
「ウィンクさんのショットガン連射だって凄かったよ・・・。」
嘘つけ、要らん気を回すな!
▽
「何やってんスか・・・?」
部屋に戻ると男子たちもお風呂を済ませて先にくつろいでいた。ヒビトくんは既に爆睡し、ダイチくんはモンジと遊んでいる。
そして何故かジャンさんがキュートちゃんの衣服を抱えていた・・・流石に引く。
「ご・・・誤解ですよ!?ほつれた部分を直していただけです!」
よく見るとその傍らには裁縫セットが置かれている。
「ジャンは裁縫が得意なのよ!そもそも私の服はジャンが作ったんだから!」
意外な特技!?
「フフフ・・・今は新作を作ってる最中なので楽しみにしていてください!」
ジャンさんは珍しく自信ありげに不敵な笑みを見せる。
「あと女郎蜘蛛の一体がこれを落としていきました。」
「これはガーネットっスか?」
なぜあの女郎蜘蛛が宝石を・・・?
「これは僕たちの世界の宝石です。装備すればスキル[ディフェンスアップ]を使用できるようになりますよ。」
ジャンさんはそう言ってガーネットをキュートちゃんに渡す。
「・・・!!」
それを見ていたダイチくんが思い出したかのように自分のカバンをあさり始める。
「・・・これ!」
ダイチくんがカバンの中から青く光る宝石を取り出す。
「これはトパーズですね。ダイチくん、どこでこれを?」
ジャンさんがダイチくんに尋ねる。
「・・・この間の鳥の女の人が落としてった」
「鳥女・・・アブリエータ城を襲撃したハーピーっスね?という事はあのハーピーや女郎蜘蛛はジャンさん達と同じ世界の住人の可能性が高いっスね。」
「どうなんでしょう、僕たちは最近までお屋敷からろくに出たことが無かったので・・・。」
箱入り娘とその使用人は世間知らずという事か・・・緑の髪のキュートちゃんにゆっくり話を聞きたいところだが・・・
「なんにせよトパーズがあれば針と糸は要らないね!」
「はい、お嬢様・・・リペア!」
ジャンさんが手直ししていたキュートちゃんの服にトパーズをかざし唱えると、服のダメージが回復していく。
「・・・地味な魔法ッスね。しかも〈裁縫が出来る〉と言うせっかく見出したアイデンティティが無に帰したッス。」
せっかくスケベ以外の特技に感心した直後だったのに。
「今日はもう疲れたし、寝るとするッス・・・。」
【キャラクター出典紹介】
ニュートンJ [のぼらんか(AC)]
ワルサー大王 [のぼらんか(AC)]
【ゲーム紹介】
[のぼらんか(AC)]
1986年にバンプレストの前身、コアランドテクノロジーによって開発された縦スクロールシューティング。つまりバンプレストではない。
流石に遊んだことは無いのですけど、1986年のゲームにしてはやたら映像がキレイなんです。スーファミくらいのクオリティはあると思います。
【ちょっと語らせて】
マグロとトロの記述は江戸時代以前の話、太巻きは本来は節分限定のメニュー・・・エンドレスフロンティアじゃないじゃん!
【Spellai】
古いゲームやアニメでは般若の面を付けたキャラクターが沢山いますけど、般若は女性の顔の面なんですよね。
そのせいかワルサー大王の画像を作ろうとしてもAI様が混乱して上手くいかなかった。
なのでお風呂の絵です
【挿絵表示】
そして寝る
【挿絵表示】