家に帰ったら部屋にGUMPがあったせいでデビルサマナーになってしまった大学生男子の話 作:XX(旧山川海のすけ)
ハマを喰らって倒れた紀子は起き上がっては来なかった。
幽鬼リッチに転生した彼女は、もう人間では無いから。
「うう……
だが生きてはいるのか、下品な言葉で俺たちを罵っている。
でも。
紀子の体がボロボロに崩れ始めた。
腕の切り傷から灰がこぼれ落ち、肌がひび割れて塵になる。
志乃が息を呑み、俺は蛇の剣を下ろして見守った。
紀子は怯えた様子もなく、志乃を睨みながら掠れた声で呪いの言葉を吐く。
「糞……ずるい。何でこの世はこんなに不平等なの……? 人間辞めて頑張った私が、どうして何も苦労してないこのアバズレに負けるの……? 間違ってる……!」
彼女の目が憎しみに燃え、最後まで志乃を刺すように見つめていた。
どんどん身体が崩れていく。
だが、紀子は一切怯えず、憎々し気に志乃を睨み続けている。
俺は
「お前は何にも頑張ってねぇよ」
そんな紀子の最後の呪詛を、全否定した。
その瞬間、紀子の呪いの視線が俺に向く。
「煩い黙れ馬鹿男!」
……俺はそんな罵倒を無視し。
続けた。
「お前は張りぼての阿保らしい偽物を手に入れるために、自分の持ってた本物の宝石を溝に捨てた大間抜けだ。その気になれば本物が手に入ったかもしれないのに。馬鹿で間抜けで物笑いの種の、下らねぇ人生だなオイ」
「秀司、ちょっと」
……志乃が俺を止めようとしたが、無視した。
この女と志乃の友情はもう、どのみち絶対に終わりだ。
どうしようもない。
……だったら。
最後の呪詛くらい、俺が引き受けたいんだよ。
大切だから。
有難迷惑かもしれないけど……
「うわあああああ! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね……」
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
紀子は泣きながら、死ねとしか言えなくなった。
これでいい。
そして
「死……」
ボロッ。
紀子の頭部が灰になり。
幽鬼リッチに転生した女・岬紀子は
この世から完全に消滅した。
志乃がその場に膝をつき、灰の跡を見つめてた。
彼女の目から涙が溢れ、震える手で床を叩いた。
「紀子……何で……? 私がそんなに憎かったの……?」
友人の本心に傷ついた志乃の声が小さく震えてた。
俺はしかめ面のまま、傍にずっと立っていた。
言葉は何もない。
言えることなんて何もないから。
ただ、隣にいてやるしかなかった。
志乃は静かに泣いていた。
そして
「ゴメン。庇おうとしてくれたんだよね?」
やがてそれだけ、言って来た。
別にお礼を言われたくてしてないから。
俺が嫌だったんだよ。
お前が呪詛を受けるのが。
だから俺の我儘だ。
なので俺は
「俺が勝手にしたことだから。気を使わなくていい」
それだけ、言った。
しばらくして、俺は廊下に目を向けた。クズ男がまだ生きてるはずだ。
「志乃、救急車呼ぶぞ」
俺はGUMPを仕舞い、スマホを取り出して119に連絡した。
簡潔に状況を伝え、マンションの住所を告げる。
志乃が立ち上がり、涙を拭いて頷いた。
俺は廊下に戻り、クズ男を確認した。
両手両足が折れ、猿轡をされている。
涙目で俺を見上げてた。
……紀子が狂ったのはこいつのせいだ。
だけど、助ける。
俺は別に人を裁きに来たんじゃ無いし。
救急車が到着し、クズ男が担架で運ばれるのを俺と志乃は黙って見送った。
警察には業魔殿経由で通報。
これは普通の事件じゃ無いから、専用なんだよ。
そしてこの部屋を出る前に。
リビングに戻って、床に落ちていた紀子が使っていたシドの指輪を拾った。
それを見つめながら
「こんなものを何故ばら撒く……?」
そう呟き、その指輪をポケットに突っ込む。
そして思った。
(シドは何故こんな生産性のないことをするんだ?)
インスタントサマナーを作るこの指輪……。
素人でも悪魔召喚契約が出来る恐ろしい指輪。
紀子を狂わせ、こんな結末を招いた悪魔の道具だ。
そんなものをバラまく意味が分からない。
何のためにそんなことを……?
背後に何か大きな企みがあるのではないかと思うけど……。
それが何であるかが分からない……
志乃が俺の横に立ち、灰の跡を見下ろしていた。
そして
「秀司……私、紀子を救う方法があったのかな?」
そう、俺に言った。
俺は
「志乃。……自分から地獄に駆け込んでるヤツは、誰にも救ったりはできないよ」
それだけ、返した。
これで第4章は終了。
次回から第5章。
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