家に帰ったら部屋にGUMPがあったせいでデビルサマナーになってしまった大学生男子の話   作:XX(旧山川海のすけ)

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第5章 メアリさんと迷いの森
第41話 お静かに


 俺たちは今は業魔殿住まいだ。

 ホテル住まいっていうとまるで富裕層みたいだけどさ。

 それを嬉しいとは思えんよ。

 

 叶う事なら、晶を救い出した後に。

 自分で稼げるようになったら。

 

 志乃と2人で、改めて同じことをしたい。

 

 俺たちが業魔殿で使わせてもらってる部屋はビジネスホテルよりは広い感じ。

 ベッドとテレビと小さい机が1つ。

 みたいな寝るだけの部屋じゃ無い。

 

 それなりに2人で寛げるスペースがある。

 

 その日、窓から差し込む朝日の淡い光が、カーテンの隙間を縫って床に細い線を描いていた。

 空気は少し重く、汗と微かな吐息の余韻が漂っている。

 

 乱れたベッドシーツが俺たち2人を優しく包み込み、静寂の中で昨日のことを振り返らせる。

 

 ……昨日、俺たちはヒトが死を迎える現場に立ち会った。

 そのヒトは俺たちを憎悪して。

 呪いながら消えて行った。

 

 気分が良いわけが無い。

 戻ってきてから、志乃が言い出した。

 

「抱いて欲しい」って

 

 

 

 俺はベッドの端に腰を下ろし、じっとしていた。

 隣には彼女の志乃が、膝を抱えるようにして座っている。

 

 彼女のその細い肩がわずかに震えているように見えた。

 明らかに、昨日の行為の熱がまだ冷めやらぬ雰囲気だ。

 

 友達が幽鬼リッチと化し、襲って来て破れて消滅した。

 

 とてつもなく重い。

 その事実を受け止めるためなんだろうな。

 志乃はすごく積極的だった。

 

「……なぁ、志乃」

 

 俺はポツリと呟いた。声が少し掠れてるのに気づいて、軽く咳払いする。

 志乃が顔を上げ、俺をじっと見つめてくる。

 彼女の瞳は少し赤く、泣いた後みたいに潤んでいた。

 

 俺は目を逸らし、天井の染みを眺めながら言葉を続けた。

 

「まだ気にしてるのか……? してるよな。スマン」

 

 気休めにもならない言葉だけど。

 言わずにはいられなかった。

 

 俺は

 

「お前の友達さ……最初からお前のことを嫌ってたわけじゃないと思うぞ」

 

 根拠は無いけど、言い切った。

 

 紀子の最後の憎しみに満ちた視線と呪詛を思い出すと、そんな優しい結論には到底辿り着けない。

 

 でも、俺は言い切った。

 

 志乃の肩の荷を少しでも軽くしたかったんだ。

 志乃は小さく息を吐き、膝に顔を埋めるようにして呟いた。

 

「……そうかな」

 

 その声は小さくて、信じてるのか疑ってるのか分からない。

 俺は

 

「嫉妬と友情みたいな、相反する感情の共存ってのはあるもんだろ。……俺だって、お前が大切な彼女だと思う気持ちと、お前を自分の財産であると思ってる面が無いかと言えば嘘になるしな」

 

 そう言うと、志乃がゆっくり顔を上げた。

 彼女の手が俺の腕に触れ、そっと握ってくる。

 

 そして

 

「私もそうかも……あなたのことを支えたいと思う気持ちに嘘は無いけど、苦しいときに自分を助け上げて欲しいと依存してる気持ちもあるもんね……」

 

 志乃の声は静かだったけど、少し明るかった。

 俺は彼女の目を覗き込んで、苦笑いを浮かべる。

 

「お互い様だな」

 

 そんな言葉が自然と口をついて出た。

 少し気恥ずかしくて、落ち着かなくなった。

 

 部屋の中の空気が、少し軽くなる。

 

 その時だった。

 

 コンコン、と控えめなノックがドアから響いた。

 

 はい、と返事をすると

 

「……皆本様、飛鳥馬様。お部屋ではお静かにお願いします」

 

 他のお客様から苦情が来ました。

 少し呆れたような、でも丁寧な声。

 

 ドアの向こうに立つのはメアリさんだ。

 業魔殿で俺たちのお世話をしてくれるメイドさん。

 

 その言葉で。

 志乃が瞬間沸騰するみたいに真っ赤になって

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 全力謝罪する。

 

 俺も気まずい気分になる。

 どうやら、昨日の行為中の声が大きすぎたんだな。

 全然考えて無かったよ。最中は。

 

「……分かったよ、メアリさん。次から気を付ける」

 

 言ってから「次からって何だよ」と思ったが、しょうがない。

 

 俺がそう返すと、ドアの向こうから「ありがとうございます」と淡々とした返事が返ってきた。

 

 メアリさんらしい、感情の薄い声。

 それだけが用事だったのか、そのまま足音が遠くに去って行った。

 

 志乃がまだ赤い顔で「恥ずかしい……」と呟きながらベッドに突っ伏す。

 俺は笑いを堪えつつ、彼女の背中を軽く叩いた。

 

「まぁ、気にすんな。メアリさんだって慣れてるだろ、このくらい」

 

「……そういう問題じゃないわ」

 

 志乃のボヤキに、俺はついに小さく笑ってしまった。

 

 こうやって、元の志乃に戻れるのなら、それでいいだろ。




他にもお客は居るのですよ。
いくら業魔殿が合体する場所でも限度があります。

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