家に帰ったら部屋にGUMPがあったせいでデビルサマナーになってしまった大学生男子の話   作:XX(旧山川海のすけ)

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第42話 10日経った

 業魔殿のロビーは静かで、応接セットのソファに腰を下ろした俺と志乃は、今日の修行を終えて一息ついていた。

 俺の手には分厚い歴史小説……ヒトを殴り殺せそうなほどの分厚さがあるやつだ。

 内容は江戸時代の話なんだけど……武士の世界の厳しさが面白く、ページを繰る手が止まらない。

 俺のページをめくる音が、コーヒーの香りが一緒に漂う空間に小さく響いていた。

 

 志乃は隣で紅茶を啜りながら、俺をチラリと見て呟いた。

 

「昔からだけど、よく気力持つわよね」

 

 俺は本から目を上げず、肩を軽くすくめて答える。

 

「内容に興味があるかどうかだからな」

 

 久々に勉強以外の読書ができるのは嬉しい。

 頭を切り替えて、戦いや悪魔のことから少し離れられる。

 

 でも、心のどこかで妹・晶のことが引っかかる。

 

 妹の魂がシドに奪われてから10日経っている。

 ……あと20日しかない。

 

 妹を救うために動いてるのに、こんな悠長なことしてていいのかって思いがチクチク刺さってくる。

 志乃が俺のそんな表情を見透かしたのか、カップを置いて柔らかく言う。

 

「あまり焦ってもダメだよ。気持ちは分かるけど」

 

 志乃の声は穏やかで優しくて

 

「息抜きも大事よ。でないと潰れちゃうし」

 

 その言葉で、俺の心の棘というか。

 無駄な焦りが静まって行く。

 

「……ありがとう」

 

 しかし、思う。

 

 一体シドは何の目的で、インスタントサマナーを作っているんだろうか?

 他人が破滅していく様子を見て愉しむため……?

 

 そんなわけはないよな。

 仮にも闇の組織の構成員が、ホンの数人を破滅させるだけの悪事を、国に盾突いてまでやる意味が分からないし。

 

 皆目見当がつかなくて。

 そのせいで余計焦るんだ。

 

 ……考えても分からないことを考えても仕方ない。

 俺はそこで思考を切り替え、この歴史小説の話に戻った。

 

 ……ちょっと面白い展開になってきてて。

 入り込めた。

 

 主人公の武士が、仲間の武士に喰って掛かるシーンで。

 こういうことを言うんだよね。

 

「あの百姓ども、生きざまが醜すぎる。温情なんて掛けてやる必要はない!」

 

 問題の百姓、つーか農民。

 隠し田を作ってて。

 最初、主人公の所属する代官所は「飢饉に備えているのだろうから見ないふりをしてやろう」と見逃していた。

 だけど、農民たちはそれをいいことに、隠し田のある場所で芥子を育て始めたのだ。

 

 無論、麻薬の原料として。

 

 それが発覚して、激昂。

 首謀者は当然全員死罪なんだけど……

 

 首謀者の企みを見逃していた奴らも裁くべきだと言うんだな。

 この時代の刑法って詳しく知らんから、この主人公の言うことが無理筋なのか妥当なのか良く分からんので、その結末が気になるんだ。

 

 作者は当然江戸時代を調べてこの作品を書いてるだろうしな。

 

 ……まあ、しかし。

 主人公の気持ちは分からないでもない。

 

 支配階級の気分としては、クズを庇護はしたくないよな。

 当たり前の話だよ。

 

 そのときだった。

 

 ロビーの入り口から聞き慣れた声が飛び込んできたんだ。

 

「兄くん、ちょっといいか?」

 

 見ると、妹の姿をしたキョウジが真っ直ぐに近づいてくる。

 彼はいつも落ち着き払っているけど

 

 今日はなんだか、焦りを感じた。

 

「……なんだよ?」

 

 俺はそう訊くと彼は

 

「メアリが返って来ないんだ」

 

 と返してきた。

 俺と志乃は驚く。

 

 そして

 

「同時に、異界化が確認された」

 

 その場所は、メアリさんがお遣いに出向いた場所の近くだそうで。

 そんな状況では、当然こう思うだろう。

 

 メアリさんは、異界化に巻き込まれて出られなくなっているんじゃないのかと。




まあ、守る対象がクズだったら仕事やる気無くすわな。(作中小説の話)

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