家に帰ったら部屋にGUMPがあったせいでデビルサマナーになってしまった大学生男子の話 作:XX(旧山川海のすけ)
トロールに連れられて森の奥へ進むと、突然視界が開けた。
そこには大きな社が存在していた。
古びた社。
俺は首をかしげて呟いた。
「こんな社あったっけ?」
志乃が隣で思案顔で答える。
「多分、異界化の影響じゃないかしら。普段は見えないものが見えてるのかも」
「だよな。なら、土地神もここにいるはずだ」
俺たちは社を見回した。
すると、木々の間からシャラシャラと葉擦れの音が響き、木の葉が集まって人間型の姿を形作っていく。
緑の葉が渦を巻き、やがてそこに立つのは、威厳ある雰囲気を漂わせた悪魔だった。
背が高く、葉でできた顔には鋭い目が宿り、まるで森そのものが意志を持ったかのようだ。
こいつが土地神だろう。
その悪魔が口を開き、深く響く声で名乗った。
「我はヒトコトヌシなり。悪事も一言、善事も一言、言い離つ神ぞ」
ヒトコトヌシ……。その名を聞いて、俺の頭にピンときた。昔読んだ「日本書紀」の話だ。
雄略天皇の逸話で出てきた神だ。
俺は少し目を輝かせて、思わず口を開いた。
「雄略天皇の神話で出て来た神様じゃないか!」
ヒトコトヌシが葉でできた顔をわずかに傾け、鋭い目を細めて俺を見下ろす。
その口元に見える部分がゆっくりと緩み、低い声に微かな満足感が滲んだ。
「ほう……そのことを知っておるか。人間にしては見どころがある。よし、話を聞いてやろう」
その態度に、神話と歴史の気風が感じられて、俺は内心で少し緊張した。
志乃が俺の袖を軽く引っ張って、小声で囁く。
「秀司、良かったね。機嫌が良くなったみたい」
「ああ、読書が趣味で良かったよ」
俺が小さく息を吐くと、ヒトコトヌシが葉の手を振って話を続けた。
その声に苛立ちが混じる。
「だが、我が怒りの理由を問うなら、こうだ。最近、この土地の人間どもが我欲に塗れた見苦しい行いを繰り返しておる。醜い我欲を満たすため、他者を傷つけ、奪い、犯す……我がこの地を守る務めを投げ出したくなるほど、不快極まりない」
ヒトコトヌシの葉がザワザワと震え、怒りが森全体に響くように感じられた。
俺と志乃は顔を見合わせ、慌てて対応に追われる。
俺が頭を下げて叫んだ。
「待って下さい! この土地の人間を代表して謝ります!」
志乃も急いで手を合わせて、必死に言葉を重ねる。
「お願いします! 私たちだってそんな振る舞いは大嫌いです! あなたに仕事を辞められると、本当に困ってしまいます!」
ヒトコトヌシがフンと鼻を鳴らし、葉の顔に浮かんだ苛立ちが少し和らいだ。
やや機嫌を良くした様子で、ゆっくりと返した。
「投げ出すとは言っておらん。ただ、この怒りを抑えきれぬだけだ。お前たちの言葉、誠意は感じる。……よかろう」
その言葉に、俺と志乃は同時に肩の力を抜く。
ヒトコトヌシが葉の手を軽く振って、威厳ある声で続けた。
「ならば、道を案内してやろう。この森の出口へ導く。行くがいい」
俺は志乃に目をやって、小さく頷いた。
彼女がホッとした笑みを浮かべる。
そして俺たちは、ヒトコトヌシの導きを受けたんだ。
……しかし。
ヒトコトヌシの言い分に。
俺はこの間読んだ小説の内容を思い出した。
生きざまの醜い百姓のために、自分たちが心を砕いてやる必要はないのではないか?
そう、怒りに任せて叫んでしまったあの小説の主人公を。
……そこに住んでる人間がクズしかいないと思ったなら、そりゃ土地を守護する気が失せてもおかしくないよな……。
ヒトコトヌシの示した道を抜けると、俺たちは無事森から出ることが出来た。
そして突然目の前に見慣れた景色が広がった。
公園の中枢──元の遊具のある広場だ。
錆びたブランコと滑り台が薄暗い光の中で佇み、その中央に黒髪赤眼のメイドさん……メアリさんが立っていた。
彼女の隣には、小学生くらいの男の子と……巨大な人面樹の悪魔、妖樹トレントがそびえている。
「メアリさん!」
志乃が声を上げると、メアリさんが無表情にこちらを見た。
小学生の男の子が怯えた目で俺たちを窺い、トレントがゴゴッと枝を揺らして威嚇する。
俺は剣を握り直し、志乃に小さく呟いた。
「……どうやら、ここが終着点らしいな」
次回、この件の真相。
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