家に帰ったら部屋にGUMPがあったせいでデビルサマナーになってしまった大学生男子の話 作:XX(旧山川海のすけ)
トレントが消えると同時に、異界化が解けた。
まるで霧が晴れるように、周囲の異様な空気が一瞬で消え去る。
木々がまるで引き潮のように消え去って行く。
さっきまで俺たちを閉じ込めていた薄暗い森の威圧感が溶けてなくなる。
目の前に広がるのは、元の普通の公園の姿だ。
錆びたブランコがキィキィと小さく軋み、滑り台の表面には夕陽のオレンジが反射して鈍く光っている。
広場の端には、雑草に埋もれた石のベンチが寂しげに佇んでいる。
遠くの街灯がぼんやりと点灯し始め、時間の経過を俺たちに知らせる。
俺は大きく息を吐き、蛇の剣をゆっくり下ろした。
そして鞘に納める。
手に残る汗と緊張が、じんわりと冷えていくのを感じる。
肩の力が抜けると同時に、疲れがどっと押し寄せてきた。
志乃が傍に来て、小さく呟く。
「やっと終わったね……」
その声は安堵に満ちていたけど、どこか疲れと切なさが混じっている。
彼女の視線が俺を通り越して、小学生の少年に向かっている。
俺もそっちを見ると、少年は涙目で立ち尽くしていた。
細い肩が震え、小さな手がぎゅっと握られている。
俺はメアリさんに近づき、事情を訊いた。
「メアリさん、一体何があったんですか?」
メアリさんが無表情にこちらを見つめている。
その赤い瞳がまっすぐこちらを。
そして彼女は淡々と、いつもの落ち着いた声で答えた。
「この子と成り行きでキャッチボールをしておりました。1時間ほど経ち、私が帰ろうとすると、彼が『帰らないで欲しい』と言い出して……その指輪を嵌め、悪魔を呼び出したのです。それで公園が異界化し、私を閉じ込めたというわけです」
……かなりの危機的状況だったというのに、ホント落ち着いてるな……。
この人、感情が無いんだろうか……?
まるで人形みたいだ。
でも、すぐにその感情を飲み込む。
大きなお世話な話だし。
「分かりました」
そう返し、俺は少年に目を移す。
そして言った。
「お前、なんでそんなことしたんだ?」
静かに訊くと、少年がビクッと震えた。
まるで雷に打たれたみたいに身体が跳ね、涙をこらえるように唇を噛む。
その唇が小さく震え、歯が食い込んで白くなっていた。
やがて、震える声でぽつぽつと話し始めた。
「家に帰っても……誰もいないんだよ……」
少年の目から涙が一滴こぼれ、頬を伝って地面に落ちる。
そして続けた
「寂しいから友達の家に行ってたけど、なんか向こうの家のおばちゃんにあなたは来るな、って……」
少年の声が途切れ途切れになり、嗚咽が混じる。
ああ……なるほど。
聞いたことあるぞ、これは……
放置子だな。
親が子供の相手をすることを怠っている家の子供。
そういう子は、他人の家に親がくれなかったものを求めにいくそうだ。
で、結果として嫌がられ、叩き出され……そして孤立する。
俺の家はそうではなかったし、多分志乃の家もそうではなかった。
だから可哀想だと思った。
……だけど、自分たちにはどうしようもない。
子育てに口出しできるような身分でも無いし、偉そうに説教をしに行く立場でもないしな。
「……とにかく、その指輪は貰うぞ」
俺は何も言えなかったから、そこでその子の話を聞くことを打ち切り、その手から指輪を奪い取った。
だけどさ……
俺は少年を見つめながら、心の中で誓った。
もしこの先、例えば志乃と結婚して。
俺が自分の子供を持つときが来たら。
俺は子供をこんな風にはしない。
絶対にこんな風に孤独にさせない。
……そう決めた。
誓った。
ここで第5章は終了。
次回から第6章。
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