家に帰ったら部屋にGUMPがあったせいでデビルサマナーになってしまった大学生男子の話 作:XX(旧山川海のすけ)
岩洞窟に降り立つと、目の前に広がる光景に俺は一瞬息を呑んだ。
石壁には奇怪な符がびっしりと刻まれ、まるで生き物のように蠢いて見える。
地面には血と骨が散らばり、鼻を刺す鉄錆の匂いが漂う。
だが、それだけじゃない。
少し中に入ると洞窟の奥には、明らかに人が住むための工夫が施されていた。
ゴツゴツした岩が片付けられ、地面には獣の毛皮や藁を編んだ敷物が敷かれている。
壁には松明が等間隔に立てられ、赤い光が揺らめく。
どこかで見たような模様が敷物に織り込まれていて、俺はふと思った。
「これ……中華っぽくないか?」
予想はしてたことだけど。
志乃が隣で目を細め、頷く。
「うん、なんか……漫画で見たことがあるような……」
まぁ、予想はしてたけどな。
集落で話を聞いた段階で。
入り口には甲骨文字っぽいものがあったし。
甲骨文字と言われると、殷王朝を思い出すよな……。
封神演義で倒される国の名前だ。
最後の代でとんでもない悪王が立ち、そのせいで反乱が起きて滅んだという。
……今の研究ではそれは創作で、むしろ殷の悪習……人間を生贄に捧げる文化を廃止した賢王であるという見方もされてるんだっけか。
……呪術師ディーグイの正体を改めて推理する。
単純かもしれないが、思うよな……殷の関係者か? って。
だとしたら、何でわざわざ日本にやってきたんだよ。
当時の航海は俺たちの時代とは比べ物にならないほど危険な行為のはず。
命を賭けた大冒険だったはずだ。
そこまでしてディーグイがこの国に来た理由……手がかりがあっても頭が混乱するばかりで、答えは出ない。
その時、イチモクレンの低い声が響いた。単眼の龍神が身体をくねらせ、俺たちを見下ろす。
「乗りかかった船だ。手助けしてやる」
「ありがとう……! 助かる……!」
俺は即座にGUMPを握り、契約してる仲魔の中で最強のメンツを召喚する準備をした。
志乃が俺の隣で油断なく洞窟の奥を見つめる。
「……来い!」
俺はGUMPのトリガーを引いた。
すると地面に4つの輝く魔法陣が描かれ、そこから4体の仲魔が現れた。
鬼女マナナンガル。
神獣カマプアア。
聖獣シーサー。
妖鬼オニ。
……この4体だ。
マナナンガルの血走った眼が輝く。
カマプアアがブヒッと鼻を鳴らし、シーサーが低く唸った。
オニは巨大な棍棒を肩に担ぎ「用事か秀司?」と言いニヤリと笑った。
「行くぞ、志乃。油断するな」
「うん、分かってる」
俺たちは洞窟の奥へ進んだ。
足元の敷物が柔らかく沈み、足音を殺した。
……この洞窟の住人は、侵入者があることを想定していないのかもしれない。
外にあれだけ、アツユを放っていたものな……!
静かに歩みを進め、奥に辿り着く。
すると、奥の空間に老人がいた。
見た感じ60代近くに見える。
だがこの時代の栄養状態だと、ひょっとしたら40代くらいなのかもしれないな。
禿頭で鷲鼻が強く、痩せ気味なので余計老けて見えた。
その人影は上半身裸で、身体に赤い刺青をたくさん入れていた。
それは全部甲骨文字に見える。
そして下半身に袴に近いものを身に着けて……一心不乱に呪文を唱えていた。
あれがディーグイだろうか……?
俺は観察しつつ、ここに来て人違いだとまずいと思ったので様子を見た。
そして探す。
この男が邪悪な呪術師である証拠を……
まず男の周りには悪魔がいた。
首のない屈強な男の姿で、手には盾と片手斧を装備している。
頭が無い戦士……だが、顔は胴体にあり、乳首の位置に巨大な2つの目がギョロリと光る。腹の部分には牙の生えた大きな口が開いていた。
俺はこの悪魔を知っていた。
「……邪鬼ケイテンだ」
好戦的な戦士タイプの悪魔。
それが2体いた。
こいつらは決して弱い悪魔ではなかったはず……
そう思っていたら。
事態が動いたんだ。
そのケイテンの1体がディーグイの呪文が終わると、マグネタイトに分解し始め……。
マグネタイトが変化した緑色の光の粒子が宙を舞い、ディーグイの前に横たわる裸の幼女に吸い込まれていく。
俺はそこで初めて幼女の存在に気づいた。
生贄か!?
そう、一瞬思ったが……違った。
幼女はマグネタイトを吸収すると、7才くらいから一気に12才くらいまで急成長したんだ。
幼女……いや少女は黒髪で。
肌が病的に白かった。
……なんだかメアリさんを彷彿とする。
「何だ、あれ……?」
幼女を助けようと俺は飛び出そうとした。
だけど、今言ったことに気づき足が止まる。
そのとき、ディーグイがこっちに気づき、叫んだ。
「お前たち、どうやってここに来た!? アツユたちをどうやり過ごした!?」
その言葉が、なぜかハッキリ理解できた。日本語に聞こえたんだ。
状況的におかしいだろ。ここまで中華中華してるのに……!
俺が危機感と困惑で戸惑い、動けなくなっていると、イチモクレンが背後で説明してくる。
「……お前たちは時間旅行者だ。厳密には精神のみがこの時代に来ている。ゆえに、相手の精神から発せられた言葉は、言語を習得していなくとも理解できるのだ」
「時間旅行者……精神だけ?」
だからか。
だからあの縄文人の集落でも言葉が理解できたのか……!
だがそんな納得をするより先に、ディーグイと思しい男が動き出した。
消えなかったもう1体の邪鬼ケイテンが盾を構え、突っ込んでくる。
俺は愛刀である蛇の剣を握り、それを迎え撃った。
果たして男の正体は……?
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