家に帰ったら部屋にGUMPがあったせいでデビルサマナーになってしまった大学生男子の話 作:XX(旧山川海のすけ)
彼女が手を振ると、黒い靄が遺体を包む。
すると少年の身体がゆっくり動き出し、首なしの死体が自分の首を両手で抱えて立ち上がる。
白く濁った目が、俺たちをじっと見つめる。
「苦しい……辛い……憎い……」
少年のゾンビは、壊れたスピーカーのように言葉を繰り返す。
意味のある会話はできないみたいだ。
何で外にいたのか、詳しいことは分からない。
けど、その声には深い恨みと憎しみがこもってる。
アリスが少年のゾンビに近づき、優しく言う。
「お兄ちゃん、お兄ちゃんをそんなにした相手に、アリスたちを連れて行って。代わりに仕返ししてあげるから!」
この凄惨な情景でも、怯まず志乃が少年のゾンビを見つめ、静かに続ける。
「……全部終わったら、解放してあげる。あなたにも守りたい人が居るんじゃないの?」
その言葉が届いたのか。
少年のゾンビが、動き出した。
「苦しい……辛い……憎い……」
そう呟きながら、ゆっくり歩き出す。
俺たちはその後を追う。
アリスのゾンビが導く先に、幾月がいる。
そして少年のゾンビが連れてきたのは、木見北市の警察署だった。
「ここなのか? 神社じゃなくて?」
俺は首を傾げる。幾月は神社を破壊してたはずなのに、なぜ警察署?
その時、署内から破裂音が響いた。
パン! パン! っていう、リアルな銃声だ。
昔、ネットで聞いたことある。
「銃声!? 幾月、警察署で暴れてるの!?」
志乃も気づいたらしい。
俺はGUMPを握り、警察署内に踏み込む。
署内は地獄だった。
首の無い倒れた警官、血の跡、散乱する備品。
署内廊下に、豪奢な中世ヨーロッパ風の衣装をまとった男が立っている。
身長は低め、痩せていて、青白い顔。
そしてヨーロッパ上流階級っぽい髪型。
おそらくカツラなんだろうな。
そんな男が冷たい表情で、空中に浮かぶギロチンの刃を操っていた。
「く、クソッ! 俺たちはお前たちを外に出したりしないぞ!」
警官が両手で拳銃を構え、何度も発砲している。
だが、男の周りでギロチンの刃が盾のように動き、銃弾を全て受け止める。
そして警官が銃弾を撃ち尽くした瞬間、その男が冷たく言った。
「……もう反逆できないのだな……反共和国の痴れ者め。ギロチンの露に消えるがいい」
その言葉と同時に、警官の身体が硬直し、空中にギロチン台が現れる。警官の身体が浮かび上がり、そのギロチン台に掛けられた。
ギロチンの刃が定位置に移動し、斬首の準備を整える。
「ひッ……! 玲子、美代子ッ……!」
怯えた警官が口にしたのは家族の名前かもしれない。
まずい! 俺は蛇の剣を抜き、飛び出す。
志乃に言葉を掛けながら
「志乃、タルカジャ!」
「タルカジャ!」
志乃がすかさず俺に筋力増強魔法タルカジャをかけてくれた。
俺の身体に力がみなぎる。
俺は全力でギロチンの刃に剣を滑り込ませ、落ちて来た刃を受け止めて。
斬首を阻止した。
その瞬間、警官がギロチン台から解放され、床に落下し。
受け身が間に合ったのか、警官は身を起こす。
俺はそこに大声で言った。
「早く逃げろ!」
有無を言わせぬ強い口調で。
警官は俺の言葉に
「し、しかし!」
使命感だろうか?
抗う言葉を返して来た。
俺は
「アンタじゃ無理だ!」
ハッキリそう言った。
死体が増えるだけで何の意味もない!
「家族が居るんだろ!? 消えてくれ! 邪魔だ!」
俺の方も余裕がない。
一方的に顔も見ずに、頭ごなしにそう言い放った。
それに対しての警官の色々な感情の気配……安堵、悔しさ、無力感……それを感じて。
数秒後、警官が無言で去って行った。
……何も言えなかったんだろうな。
自分から「ありがとう」も「任せた」も。
だって警官だもの。
本来は言われる立場だものな。
去っていく足音を聞きながら、俺は前を見つめる。
昔のヨーロッパの上流階級のような恰好をした痩せた男を。
男は冷たい目で俺を見返していた。
そこに
「ロベスピエールさん、少しいいかな?」
割って入るもうひとつの声があった。
穏やかな声が
「……君たちがシドさんの言ってた邪魔者たちだね?」
その声を発したのは、落ち着いた茶色の背広を着た中年男性だった。
顔立ちは整っていて、切れ長の優しそうな目。
そこにインテリを伺わせる眼鏡を掛けている。
やや長い黒髪に、細身の身体。
だけど貧弱な印象が無い。
……絵にかいたようなエリート中年男性。
コイツの罪状を知らなかったら、敵意をもってこの男に向き合う人間はほぼ居ないんじゃないだろうか?
幾月修司。
数年前に原発占拠のテロを行い、死刑判決を受けたテロリスト……
「はじめまして。名前を教えてくれないか? シドさんは覚えていなかったんだよ。君たちの名前を」
ニコニコと優しい笑みを浮かべて俺たちに問う男。
俺たちは油断なく身構えた。
戦いはもう始まっている……!
幾月の目的は?
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