前回の,『デイブレイクのやり直しアカデミア』プロローグ1。
ヒーローがヴィランとの最終決戦に敗北した未来。そこで倫太郎は師に手を引かれながら過去の事を回想していた。
これは,彼が『デイブレイク』となるまでの話…
パアン!!!!!!!!!!
…乾いた音がレジスタンス内に響き渡った。頬がヒリヒリと痛む。
あの後,瀬呂さんの応急処置を済ませ何時間かした後報告を受けた切島さん達数名が襲撃を受けたレジスタンス内に飛び込んできた。
そこで,全てを話した。
…ケミーの事。襲撃の事。そして…俺が仮面ライダーへと変身して戦った事。
レジスタンスのヒーローがある程度襲撃を受けた拠点集まり,今に至る。
「…全て,無に帰るところだったんだよ。」
耳郎さんが怒りに満ちた目で俺を睨みつけた。俺の頬を叩いた左手は,若干ではあるが赤く腫れている。
俺は視線をゆっくりと耳郎さんの方へと戻した。しかしそんな俺に構わず耳郎さんは両手を俺の肩に置き俺の体を揺らしながら問い詰めた。
「分かってるの!!?」
「…はい。」
改めて調子に乗って無謀な行為に走ってしまったと思ってしまった。
初めて仮面ライダーに変身した時…自分の力を試して見たいと本気で思ってしまった。
一歩間違えれば,俺はヴィランに殺されていたかもしれないのに。
「まあ,まあ…耳郎,ここはちょっと怒りを鎮めてくれよ。ホラ,一ノ瀬が居なかったら俺だって殺されていたかもしれないし。…それは,緑谷もきっと望んで無いだろ?」
「まあ,そうかもしれないけど…それでも,今回の事は見過ごせない。
子供の我儘だとしても度が過ぎすぎてる。」
「すみません…」
瀬呂さんが仲介に入るも,耳郎さんに下される。その時,俺のパーカーのポケットから2体のケミーが飛び出して来た。
『ホッパー!!』『スチームゥ!!』
「ちょ,入れって…すみません…」
「しっかし驚きだよなぁ…まさか,そのバッタと機関車みたいなカードがドライバーを動かす動力源になるなんてよ…」
「…俺も正直驚いてます。ヒーローに成りたいと願ったら,まさかこの2匹が出てくるなんて…」
切島さんの問いに俺はそう答える。すると2枚のケミーカードは俺が以前の戦いで使った血濡れてかなり錆びついてしまっている刀の方へと向かった。
するとケミー達はカードから光を放出し,刀を新たな形へと変化させた!!
「ええ!!?え,倫太郎お前どういう事!?」
「分からないですよ!!…まさか,俺の『個性』をケミー達も使える,のか…?」
想定外の事態に困惑していると,耳郎さんがわざとらしく咳き込み俺の視線を戻させる。
「とにかく!!!…もう,勝手な事はしない。良いね?」
「…はい。」
俺はそう言うと拠点の扉を開き外の空気を吸いに行こうと表へ出た。
空に浮かんでいた星空は,目を奪われる程の美しさだった。
今尚戦いが続き地上は荒れ果てているというのに,空だけは綺麗なのは何処か不思議な様に感じた。
「はぁ…この戦い,俺ら勝てんのかなぁ…終わりが見えねぇよ。」
俺は夜空を見上げながら終わりの見えない戦いについて不安を吐露した。
彼方は未だに勢力を伸ばし続け,尚且つヒーロー社会そのものを賭けても勝つ事が出来なかったスーパー敵AFO率いる異能解放戦線。
対して此方は勝つ事を諦め敵側へ寝返る人間が後を絶たないが,それでも尚醜く抗い続けるヒーロー。
果たして俺達ヒーロー側は敵側に勝つ事が出来るのだろうか。
いや,このまま行けば俺達は間違い無く勝つ事はあり得ない。その為に,『仮面ライダーガッチャード』になって戦う事を決めたんじゃ無いか…
いざとなったら,俺が,この手で…
「よっ!…さっきはこってり耳郎に絞られてたなぁ〜。」
「…上鳴さん。」
「アイツはああお前の事叱ったけど…あんなんでも,お前の事がずっと心配だったんだぜ?」
「…知ってます。あの人ってそういう人ですから…」
「ハハッ。だろ?…正直,俺はお前を責める気にはなれねぇや。…知ってるだろ?レジスタンスのヒーローが今も少なくなってるって。」
「…はい…」
「だから,拠点に俺らが居ない事も前より多くなる。だから…避難民を守る為に,倫太郎みたいな戦力も必要なんだ。耳郎はああ言うけど,頼めるよな?」
「…はい!」
ハハッと笑うと上鳴さんは俺の肩を叩きレジスタンスの拠点へと戻っていった。
…恩人から頼まれたんだ。絶対…守ってやる。
俺はそう心に決め,再び夜空を見上げた…
しかし,この時の俺はまだ知らなかった。あの時俺の慢心から倒す事を避けヴィランを撤退させた事。
そのせいで,『恩人』を失う結果になってしまうことに…
「イメージだ,イメージを…強く…!!」
俺は負傷した瀬呂さんの看護がてら,錬金術によるケミーの創造を試行していた。
前回,俺は『自分の成りたいモノ(誰かを助けられるヒーロー)』になる事を強く願った事でホッパー1,スチームライナーの2匹のケミーを生み出す事が出来た。
つまり,『成りたいモノ』を強く思い浮かべられればそれに呼応してケミーが生まれる,という事だ。
しかし…
「…!うわっと!…っつー,やっぱそう簡単にはいかない,か…」
ケミーの創造を行なっている最中,破裂した様な音が鳴ると同時に俺は体に激痛が流れ,思わず尻餅をついた。
その後,瀬呂さんが俺のケミーの創造についての相談に乗ってくれた。
「まぁ,あの時その2匹が生まれたのは,偶然というか…奇跡みたいなモノだからな。」
「そうですけど…」
「…誰かを助けられるヒーロー。ケミー達がお前の願いを形にしてあの姿,スチームホッパーだっけ?にしてくれたんだよな。」
「最初に変身した時から,色々とイメージしてはいるんですが…イマイチ定まっていないというか…モヤモヤっとしたままストップしたままというか…」
「まぁ,成りたいヒーローがもう具現化されてる時点で『次に成りたいのは?』って言われてる様なモンだからな…」
俺はコクリと頷いて傷だらけの両手を見た。何度も個性の錬金術を使っているせいか,いつの間にか身体がボロボロになっていた。
これが俺の個性のデメリット…『使い過ぎると肉体が錬金術の出力自体に耐えられなく成り返って自壊してしまう』という点。
ソレを補う為に色々試してみたが…結局,矢印型のシンボルが刻印されている指輪を介して使う事によって多少その自傷ダメージを軽減する事しか出来なかった。
…だから俺は,そのデメリットを完全に防ぐ為に『ガッチャードライバー』の創造を急いだ。
俺一人だと到底不可能な錬金術をドライバーを介する事によって初めて使用が可能となる,『多重錬成』。
一度錬金術で創造,構築したモノを更に錬成して精度と元の硬度や出力を上げる理論上可能な力。
…俺は,多重錬成から生まれた戦士を『仮面ライダー』と呼ぶ事にした。
アーマードを纏い,誰かの悲鳴が聞こえればバイクで駆けつけ助けられるヒーローに俺が成りたかったからだ。
…笑われもした。下らないと一蹴されもした。
『お前みたいなヘボが?ヒーローに!?笑わせんなよww』
『悪い,そんなモノには構っていられないんだ。』
でも,それ以上に誰かの悲鳴が間近にあるのに,何も出来ない自分に腹が立った。
だから俺は,何年も何年も賭けてドライバーを作り上げ,ようやく仮面ライダーに『変身』する事が出来た。
もうあの時の様な何も出来なかった自分とは違う…上鳴さんにも頼まれた…!今度は俺が…俺が!!
「なれるよ!ヒーローに!!」
そう決意を固めかけた瞬間,子供の叫び声の様なものが外から聞こえた。
「…外から何か聞こえるな。」
「ちょっと,俺見てきます。」
俺は瀬呂さんに一礼すると,病室のドアを開き外へと出る。その声の発せられた場所には,子供が大勢固まって何やら話していた。
一応何があったか聞こうとその場所へと向かった。
「どうか,したのかな?」
「あっ,ヒーローの!!」
「わぁ…凄いや!僕ヒーローなんて初めて見た!!」
「…まぁ,ホントはヒーローじゃないんだけどね…」
俺は苦笑いして子供の無邪気な言葉に応える。あの時は敵の襲撃により『仮面ライダー』の試運転も兼ねて戦った。
旧超人社会なら本来はアウトの行為だ。
俺は何故気付いたのかと聞くと,腰に装着されているドライバーを子供がつついたので漸く腑に落ちた。
「それで,どうかしたのかな?」
あわてて俺はここに来た目的を聞いた。あの普通は出ないほどの大きな叫び声。何故それを発したのかを。
「…このこたちが,もうヒーローにはなれないんだって。まおうにはかてないんだっていうから…」
「成程…でも,普通あんな声は出ない様な気はするけど,ね…」
「…あっ!ごめんなさい!ソレ,ぼくの『声玉』のせいだ!」
「声玉…つまり,『個性』,かな?」
「うん!おいしゃさんがいってた!」
漸く理解が出来た。要は,俺達の今の逼迫した状況に絶望した子供達を元気付けようと激励しようとしたら思わず『個性』の声玉が発動してしまい周囲に響き渡る程の大音量になってしまった,と…
「成程…。ごめんね,安心させられる事が出来なくて。」
「ううん!あやまらないで!だって,いつかかてるってしんじてるから!きて!みせたいものがあるんだ!」
俺は子供に手を引かれ,避難民の生活場所としている廃工場に辿り着いた。あそこは,俺が初めて『仮面ライダー』として戦った場所でもあった。
子供は少し遠くまで行くと紙束を両手に抱えながら、俺の元まで再び来た。
「あのね,コレ,みんなでかいたんだ!いつか,こんなヒーローになりたいって!」
俺はその紙束を受け取ると一枚ずつその紙束に描かれている絵を見た。
そこに描かれているモノを見て,俺は驚愕した。
その絵はどれも,俺の変身する『ガッチャード』と限りなく近い程に描かれていたからだ。
そして,それに呼応するかの様に俺のポケットからホッパー1,スチームライナーのケミーカードが飛び出し,それと同時に薬指にはめている指輪が光り輝きだした。
俺の指輪から大量の白いカードが飛び出,ケミーが絵の中のガッチャードを浮かせ,カードに宿して行く。
絵に描かれたガッチャードは2つのケミーに分かれ,1つのブランクカードに宿って行った。
遂に最後の絵がカードになり終えると,計100体のケミー達は各自それぞれのケミーと戯れていた。
俺はソレを何とか収めようとしたが,中々収拾がつかない。
「あっ,おい!…ごめん,絵が勝手にケミーに…」
「ううん!あやまらないで!…おにいさん!ぜったい…ぜったい!かってね!」
「…!…ああゲボッ!!」
「うわああああ!!おにいさぁぁぁん!!!」
しまった…個性の反動が遂に…!錬金術の力に俺の身体そのものが耐えきれなくなって自壊し始めてる…!
「ゴボッ!!…ごめんね,少し横になる。」
「だいじょうぶだよ,いまからママよんでくる!!」
…しかし,子供が『スチームホッパー』から自分の成りたいヒーローを想像して描いた絵からケミー達が錬成されるだなんて…流石に驚いた。
でも,これで…!これで漸く皆さんの役に…!
「ホラ!ママ,あそこ!」
「あっ!大丈夫ですか!?」
「え,ええ…まぁ…もしかして,親御さんですか?」
「はい,星本遥です。こっちは,息子の星本礼司。」
「よろしくね,おにいさん!!」
子供…礼司君の声で現実に引き戻されると,そこには母親らしき存在が礼司君に手を引かれ此方へ向かってきていた。手には救急箱が握られている。
遥さんは,箱を開き自壊により噴き出た俺の血を医療キットで慎重に止血しその傷口を抑えて行った。
俺は集中力を切らしてはいけないと口を閉ざしていると,急に遥さんが口を開いた。
「…私,元々はアッチ(魔王の支配する社会)にいたんです。」
「!?」
「ヒーロー達が無惨に倒されている姿を見て。…怖くなって。夫と共に支配される事を受け入れました。…でも,現実は残酷でした。向こうでは最終決戦時に雄英に保護されていたというだけで散々な扱いを受けて。まともな職にもつけなくて…。最終的には,『粛清』という形で夫が殺されて私は右目と左足を失いました。」
「…それは…お気の毒です。」
「でも,そんな時にヒーローは助けてくれたんです。その時に知ったんです。まだ戦い続けてる人がいるんだ,って。だから,自分も託してみよう,って。…『明日』を。」
「…『明日』…。」
「ええ。…そういえば,一ノ瀬君は考えてるんですか?ヒーロー名。」
「ヒーロー名,ですか…というか,何で俺の名前を…?」
「ヒーロー達が血の気の引いた顔で拠点に突入して,イヤホン=ジャックに思い切りビンタされてたって噂になってますよ?」
「(うっ!全部事実だ…)あぁ,だから…」
妙に納得してしまった。あの時の事はすっかり周りの噂になってしまっていたのか…!
…やっぱり俺は多くの恩人達に迷惑やら心配をかけてしまったのか。
これから謝りに行かないとな…。…そう,思っていた直後だった…
『メーデーメーデー!!敵襲来,敵襲来!!避難民は速やかに拠点Cへと移動して下さい!繰り返します!速やかに拠点Cへと移動して下さい!!』
…拠点内に,警報が響き渡った。それも敵の襲来を知らせる警報だ。…あの時と同じ…!
俺は出口から星本親子を連れ出そうとしたが,そこには既に敵が侵入して来ていた。
「…速い…!もうこんなにも敵が…!!」
「…こわいよぉ…」
「大丈夫,大丈夫だから…!」
そう遥さんが礼司君を元気づけているのも束の間,敵が刀を武装して攻撃してくる。俺は錬金術で盾を創造するとその攻撃を防ぎ親子に向かって叫んだ。
「逃げて下さい!!…ここは,俺が食い止めます!」
「…でも,そしたら「大丈夫!」
「ヒーローが来るまでですから。直ぐに戻ります。」
遥さんは少し黙った後直ぐにコクリと頷き礼司君を連れて拠点Cへと向かって行った。
…よし,コレで心置きなく…
「…お前らと,戦える。」
「へっ!その威勢も今の内だ!今度こそお前を殺す!…それに,あの方から『脳無』もお借りしている事だしなぁ!!」
脳,無…?何だと?そんな怪人が,今,ここに来ているのか?
「だとしたら…あまりウカウカしてられないな。」
俺は懐からガッチャードライバーを取り出し腰に巻き付ける。その時,『拠点での戦い』を終えた後の耳郎さんの言葉がフラッシュバックした。
『…全て,無に還るところだったんだよ。』
…そうだ,俺の独断で戦う事を決めちゃ行けないんだ。一挙手一投足が死へと繋がるこの戦場では尚更。
前回の戦いは事前に鍛えて来たとはいえ『運が良かっただけ』。それ以外には表しようが無かった。
「くっ…」
「どうした?戦うんじゃあ…無かったのかぁ!!?ハァ!!」
目の前の敵は左手を発火させその火を俺に向けて弾丸状にして飛ばして来た!
俺は咄嗟に右手に持っていた盾でその攻撃を防ぐが,盾は攻撃を受けるたびに『ジュッジュッ』と燃えている音がする。
「ホレホレェ。あの時の勢いはどうしたぁ!」
「くっ…!(どうすれば…どうすれば良い…!?)」
先程錬金術で盾を創造したが,負担が大きい中苦し紛れに創造した為強度や硬度も対して強く無い。
故に盾自体がダメになるのは時間の問題であった。
では,言いつけを破り変身してこの敵達と戦うか?
いや,それはマズい。
確かに変身すれば今よりは優位な状態になれるかもしれないが,あの敵は何をしてくるかどうか分からない。
それに,脳無という存在も今あの敵のバックに控えている。
そんな状況で戦っても結果的に俺が無駄死にして拠点Cに入られて避難民が惨殺させられる…!
どうすれば…どうすれば…!
…でも,今俺がやらなきゃ…やらなきゃ,いけないんだ。
「行くぞ!ホッパー1!スチームライナー!」
『ホパ!』『スチームゥ!』
《ホッパー1! スチームライナー!!》
俺は直ぐに屈み,ポケットからホッパー1達のケミーカードを取り出すと直ぐにドライバーに装填する。
俺の背後にホッパー1やスチームライナーのケミーカードの幻影が浮かび上がると,その幻影の中からホッパー1達が飛び出し,敵の連射している火の弾丸から俺を守った。
俺はあの時の様に変身のポーズを取ると,目の前に三角形型にした手を突き出しこの言葉を叫ぶ。
「変身!!!」
《ガッチャーンコ!!…スチーム,ホッパー!ホッパー,ホッパー!!!》
ドライバー内で裏返った2枚のケミーカードが連結すると,『ガッチャード』のスチームホッパーの顔がドライバーに浮かび上がる。
すると2体のケミー達は俺を包み込み,スチームホッパーへと変身させた!!
「…行くぞ。」
「かかってこいやぁクソガキィィ!!!!」
目の前の敵は今度は掌から炎を射出して来る。俺は何とか右手に持っていた盾で防ぐ。するとその盾は限界を迎えたらしく防ぎ切った瞬間砕け散った。
「…マジか…!なら…!」
俺はあの時ケミー達が使用した錬金術で生まれた剣…『ガッチャートルネード』を取り出し炎の幕を割るように切った!
「…コレ,何でも切れるんだな…」
「ハァ,ハァ…嘘だろ…!?俺の出した『炎幕』を…一瞬で…!?」
流石にここまで剣の切れ味が良いのはお互い想定外だったらしく,お互いに動揺していた。
するとあの時絵から分かれて生まれた新たなケミー達が2枚,俺の懐から飛び出て来た!
「うわっと!…お前達も,戦いたいのか?」
『スッケボー!』『あっぱれ!』
「…分かった…一緒に戦ってくれ!!」
俺はホッパー1達をドライバーから抜き取り,新たなケミー達をドライバーに装填する。
《スケボーズ! アッパレブシドー!!》
この2体は,スケボーズとアッパレブシドーと言うらしい。
…実は,ドライバーがケミー達の名称を考え音声に出しているので実際の所初めて読み込むケミーカードは装填するまで名称が分からない。
…話が脱線してしまった。
先程の変身時と同じ様に2枚のケミーカードの幻影が俺の背後に浮かびその中のケミーがこの場に現れる。
俺は変身ポーズを取り,ドライバーのレバー部を再度引いてスチームホッパーでは無いアーマードを展開する。
《ガッチャーンコ!!アッパレスケボー!!!!》
ガッチャードの特徴である「パンクライダゴーグル」は横長の鋭利な形状に変化し,胸の変換炉の真上には開いた扇子がある。
この姿は,言い表せば武士のガッチャード,とでも言う様な風体をしていた。
俺の背後から季節外れの桜が舞っている。その花びらは,次々と空へ向かって浮いていった。
「これが新しいガッチャード…!…ガッチャ!」
今飛び出た俺の口癖,『ガッチャ』の意味は、「どでかい夢」とか「やった!」「掴んだ!」というような感じだ。
「何がガッチャだ!…死ねぇ!!!」
「行くぞぉぉぉ!!!」
俺は右手に持っているガッチャートルネードで敵の出す炎の幕を斬る。
その後,地面を蹴って一気に敵へと近づき,接近戦へともつれ込む。
「くっ!…テメェ!まさか…」
「お前の個性は指から炎を射出するんだろ!?なら…接近戦は弱い筈!」
ガッチャートルネードで敵を斬りつける。しかし,指から射出した炎の幕を用いてソレが躱されてしまった。
間近で見て漸く理解した。アイツは,片手の指全本から出す炎は然程大きく無いが,両手を合わせて炎を射出するとそれが幕の様になる。
原理が理解できれば,怖いものはない。
「うわあっ!!…馬鹿な,この俺が…あんなガキに…有り得ねえ…!?」
「…コレで,最後だ!」
「ヒッ!…な〜んて,な。何の為に彼の方にあの力をお借りしたと思ってる!行けぇ脳無!奴をスクラップにしろ!」
そう敵が命じると後方に控えていた脳みそが剥き出しの怪人が現れる。
その姿には,見覚えがあった。その数を上げるとキリが無い。
レジスタンスを襲撃された時。データベースの最終決戦時の記録。
そして,今…。
その名は,『脳無』。数多くの人間の個性と個性因子が入った最悪の怪人だ。
個性因子とは,『個性』そのものを発生させる為の器官であり,コレが傷ついてまえば個性が弱体化,最悪使用不可となってしまう場合がある。
そんな個性因子を多くの人間から抜き取り,新たな個性として再構築しそれを扱える怪人が『脳無』である。
「ハハハ…これでお終いだなぁえぇ?ガッチャード君よぉ!?」
「ぐっ!くぅ…」
脳無の怪力に圧倒され,押さえつけられ劣勢となってしまった時に炎を使う敵がそう言う。
「…くっ…!…何が面白いんだ…」
「ハハハ!!…ハァ…?」
腹の底から怒りが湧いてくる。こんな怪人を作る為に,一体どれだけの人が犠牲になってしまったのか。
いや,コイツだけじゃ無い。
人々の幸せを破壊し,その絶望を嘲笑う敵(ヴィラン)。
世界の全てを掌握しようとどんな非道も厭わない魔王,AFO。
それら全てが,許せない。
「悪戯に人を傷つけて!何が楽しいって言うんだ!バカヤロォォォォ!!!」
俺は怒りのままに俺の両腕を押さえつけている脳無を蹴り,手に持っているガッチャートルネードを振るった。
脳無は炎を使う敵の居る場所にまで後退する。
「ハァ…?何を言うかと思えば…そんな事か?」
「…は…?」
「たかがそんな事の為に怒ったんだなぁ,お前!」
「何…だとぉ…!」
「良いか,糞ガキ!この世界では,魔王に従う者達こそが正義!…反逆する者は,悪なんだよ。
…それにお前は,自身の憧れや守りたい人さすら一人とも守れない!脳無!ソイツを押さえつけとけ!」
脳無は両手からもの凄い勢いの水を放射し俺からガッチャートルネードを奪う。その後,俺の腹目掛けて思い切り飛び乗り,俺の身体を再び押さえつけた。
「ギャアアアア…!!!」
当然,全体重を掛けて飛び乗られ,押さえつけられると自身の全身に激痛が走る。
だが,あの敵はそんな事をお構い無しに歩を進める。
今度こそ本当に死ぬかと思ったが,敵は俺を通り過ぎ,そのまま真っ直ぐ進んだ。
…まさか!?
「やぁめぇろぉ…!!」
「ヤダね。…そこで痛感すると良い。自身の無力さを…!」
敵は俺との戦闘で使用した炎の幕を,レジスタンスが避難した施設に向けて射出した。
元々古くなっていた事もあってか,炎はどんどん強くなった。
微かに,人の呻き声の様なモノが聞こえた。きっと,避難した人達の断末魔だろう。
あの施設には…俺に無限大の可能性を教えてくれた星本親子もいた…
それなのに…それなのに!!俺は守れなかった!!!
「あああっ!!ああああああああ!!!!!」
「ヒャヒヒヒ!!…なぁ,何であの時俺が退避したと思う?初めての戦闘で善戦して調子こいた糞ガキを絶望させる為にわざわざ退いたんだ!
それなのに,お前と来たら…ww それで自分は強いと錯覚しちまって…ww ほんと,おめでたい頭してると思ったよw ま,俺を劣勢まで追い込んだのは予想外だったけどな。」
「…うう…それじゃあ俺は…!踊らされてただけだって言うのか…!」
「まさか,俺に教えられるまで気づかなかったのかよ!?マジでおめでたいなお前w ほんとお笑いだぜww」
俺は非力な自分を呪い,手で土を掬い上げそれを握り潰した。
それを見て,あの敵は嘲笑う。嗚呼,漸く分かった。
命を失わさない為,–を0に戻そうと日夜戦うのがヒーロー。
それをさせない為に,自身の目的を果たす為に非道行為も厭わないのがヴィラン。
そこに理解も,同情も無い。あるのは戦って生まれる悲劇と苦しみだけ。
なら,もう止めよう。終わらせよう。俺が,この,手で…!!
その時,ガッチャードライバーが熱くなった。そしてそこから生まれた高エネルギーが脳無を吹き飛ばすと,俺はゆっくりと立ち上がった。
ドライバーは縁がオレンジからクリアな赤に染まり,ガッチャードの青銅のアーマードも徐々に暁色へと変色していった。
まるで,溶け切った色が流れて周りに広がっていくかの様に。
姿も,アッパレスケボーからスチームホッパーへと戻った。
…俺の個性が覚醒して,使用した道具とアーマードの強化が可能になったんだな。いや,今はそんな事どうでも良いか。
今,俺に残されているのは。
「…俺に残されているのは,お前を,お前達を…残らず消す…!!その使命だけだ…!!」
「ヘ…ヘッ。姿が変わったからなんだ!行け,脳無!奴を…」
「グギャウッッッ‼︎」
「消…せ…?…う,ウワアアアアア!!」
スチームホッパーの胸に搭載されている『バーテックスアタノール』。
その変換炉内から生まれる蒼白業火『ガッチャーバーナー』は,万物から莫大なエネルギーを生み出し今まで使用してきた錬金術よりも更に高度なモノを連続生成,使用する事が可能だ。
俺は即座にもう一本のガッチャートルネードを生成すると脳無の左胸目掛けてそれを飛ばし突き刺すと,脳無の右肩から脇腹までを二本目のガッチャートルネードで斬った。
脳無は断末魔を上げると,その場に倒れ伏した。
あの敵も,それに驚いたのか驚愕の声を上げた。
「な,何で…!?…まぁ,良い!コイツには『超再生』の個性がある!こんな傷,直ぐに治る!」
「…だろうな。」
脳無はスックと起き上がると,左胸に刺さっているガッチャートルネードを抜き取る。すると脳無はファインディングポーズをとり始めた。
そうしている内に俺は二枚のケミーカードを抜き取ると,絵に描かれてあったガッチャード,『ニードルホーク』に変身する為サボニードルとホークスターのケミーカードを取り出した。
そのケミーカードは以前とは違い,炎に包まれ姿が変色している様だった。
…そうか,お前達も今同じ気持ちか。
俺は彼らの気持ちを察すると,ドライバーにカードを差し込んだ。
『サボニードル! ホークスター!!』
「…変身。」
『ガッチャーンコ!!!…ニードルホーーークッ!!!』
全身がそれまでのフォームと異なりジャケットを羽織った様な見た目で,胴回りに装甲が集中しており、腹部や股下付近にもアーマーが配置されているのが特徴だ。
俺はアーマードの各部についている『ニードルビーク』を脳無目掛けて超スピードで飛ばす。
この形態は,スピードに特化している様だ。
成す術も無く脳無はニードルビークのサンドバッグになっているが,超再生でその傷もニードルビークを埋め込む形で再生する。
その光景を見た敵は,まだ自分に分があると思い高笑いした。
「ハ…ハハハッ…ハハハハハハ!!!どうだ!お前のどんな攻撃も,奴には通用しない!」
「…そうだな,このぐらいで良いだろう。」
敵が活力を取り戻して来たタイミングで,俺はニードルビークを射出するのを止めた。
「ハハハ!今更怖気付いたか!!行け,脳無!奴をミンチにしてしまえ!」
「…それは,どうかな?」
「…ハァ…?」
脳無は俺に向けて猛スピードで走ってくる。それを見て敵は大笑いしていた。
脳無の拳が俺の頭に近づいて来たその時,俺は広げていた掌を拳に戻した。
…すると,脳無の体に埋め込まれていたニードルビークが何十,何百,何千本も飛び出脳無の体を串刺しにした。
脳無はそれに耐え切る事なくやがてはニードルビークを体に格納出来なくなったのか,その体は弾けて肉片になった。
敵はその光景を見ると足がすくんで尻餅をついた。
俺はガッチャートルネードを構えると敵に向けて歩いていく。すると敵は悲鳴を上げ俺に向けて命乞いをして来た。
「ヒ,ヒイイイイ!!!た,助けてくれ,命だけは,命だけはァァァ!!」
「あの時お前に燃やされた人達も,似た様な事を言っていただろう。
…それを聞いてお前は何をした?笑ったよな?…もう許さねえ,次はこっちが奪う番だ。」
「ヤ,ヤメテ…」
「…ここで,死ね。」
「いやだぁぁぁぁぁ!!!」
ザシュッと酷い音がその場に響くと,喉を掻っ切られた敵は血を吹き出しその場に横たわり,動かなくなった。
俺は血濡れたガッチャートルネードを投げ捨てると,ドライバーを傾け変身を解除する。
俺は今も轟々と燃え盛っている炎を見つめた。
「…ウグッ,クッ…アアアアアアアアアア!!!!」
…その炎を見て,俺は悔し涙を流し,咆哮を何度も,何度も吐いた。
俺達の敵は退けた。でも,その代償として奪われたのは…罪なき人々の命だった。
これは,俺がヒーロー『DAYBREAK』となって魔王を討ち倒す,そんは…そんな悲しい物語だ。
敵名:チャッカマン
個性:炎…指先から炎を出す事が出来る。それを他の指と合わせて炎を増加させる事によって,変幻自在に炎の形状を変化させる事が可能。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
一人佇んでいた宝太郎を他所に,それを『魔王』に向けて中継で映像を送っていたドローンが静かにその場を後にした。
その映像を見た魔王は,王室とも言える様な部屋でとても愉快そうな顔で高笑いしていた。
それを横目に見ていた医者の見た目をしている人物が魔王に向けて尋ねた。
「どうしたんじゃAFO…楽しい事でもあったのか?」
「ああ,Dr。そうさ,その通りだ!素晴らしい,本当に素晴らしい!」
「ほぉ,それは何より…所で,頼まれていた例の『脳無』じゃが,整備が完了した。後足りていないのは…現在も存命中のイヤホン=ジャック,そしてセロファンのみじゃ。」
「ククク…まさか,僕に向けて大人数で奇襲を掛けて来るとは。ただでさえヒーローは絶滅危惧種なのに,良くそんな事が出来たものだ。
…まぁ,返り討ちにはしてやったがね。」
魔王はそう言って部屋を見渡した。そこには,無惨に散らばっている肉片と,血溜まりが散見された。
…あの時集合したヒーロー達は倫太郎の件の集合が終わると,魔王を奇襲し討ち倒す作戦に打って出た。
今の間違っている社会を終わらせる為…そして,乗っ取られた『緑谷出久』の肉体を取り戻す為に。
しかし結果は惨敗。彼らは肉片と化し,魔王の部屋へとサンプルとして回収されたのだ。
唯二人,味方に逃げる様促され泣きながら逃亡したイヤホン=ジャックと負傷しているセロファンを除き,今この瞬間からプロヒーローは消滅した。
では何故彼らの肉片は魔王にサンプルとして回収され持ち帰られたのか。それは…
「新たな脳無を作る為に僕は部下に肉片と血液を採取させ持ち帰らせた。最近脳無も強いのが作れなくなって来たし,『丁度いい』と思ってね。」
「丁度良い…?」
「ああ,今後の僕らの目的が決まったよ,Dr。…今後僕らは,仮面ライダーガッチャード…一ノ瀬倫太郎の体を求める。僕の新たな器とする為に…」
魔王は手を顔に付け目元を隠す様にすると,再び高笑いした。…彼の終焉は,もうすぐそこまで来ている。