PSYCHO-PASS 二次創作 MIDGRAY   作:ろくみ

18 / 24
再起動

 11月18日。泣き腫らした目の朝津は、オフィスの皆を見て言った。

 

「捜査会議を、します。」

「……うっス、そんじゃ始めますか!」

 

 朝津の様子はまだ立ち直り切れているとは言い難かったが、執行官達は付き合うことをとうに決めていた。灰賀もまた、その覚悟を受け入れる。

 灰賀が進行役を買って出る。昨日行い頓挫した会議の反省から、優秀な新人は改善を見出していた。

 改めて、灰賀は1から事件を説明する。

 

「事件が起きたのは11月14日。軽谷檀馬氏の講演会の最中のことだった。」

 

 灰賀が主体となり、事件の流れを再度追う。

 

「最初に起きた異変は……片倉か。」

「……ああ。と言っても……おれから報告できることは殆ど何も無いんだけどな……」

 

 片倉は左目を伏せる。

 

「突然、背後に誰かの気配を感じた。講演中出歩く奴にまともなヤツなんかいない。そう思ってドミネーターを抜いたけど……それが逆にアウトだった。」

 

 首を横に振る。

 

「あっという間に組み伏せられて、銃口がこっち向いたなって気付いた時には……もう手遅れ。」

 

 片倉は片倉自身の手でドミネーターのトリガーを引かされていた。ログにも、片倉による片倉千秋執行官への執行が残っていた。

 

「……ドミネーターは、使用者の意識の有無を問わないのか。」

「ああ……残念なことに。網膜による生体認証さえ突破すりゃ、誰でも自由に使えるのがこの銃の売りだ。」

 

 皮肉混じりに戌井は言った。

 

「おかげさまで、里見サンまで気絶させられ……仮面の男に軽谷を殺させられた。」

 

 デバイスは軽谷の死に様を映し出す。白基調のステージ上に真っ赤な血溜まりが映える。

 

「意識を取り戻した里見は仮面の男に対抗したが……里見もまた、エリミネーターによって執行された。」

 

 ログには里見による里見善光執行官への執行の記録がしっかりと残されていた。

 デバイスは里見の死に様を映し出す。胴体は跡形もなく吹き飛び、内臓や骨のカケラが座席の上に散乱していた。唯一破壊を逃れた四肢もまたあちこちに散らばっている。死して尚抗おうとしたのか左手には刑事手帳のホロが張られていた。

 その壮絶な死に際に、朝津は唇を噛み締め、戌井はハッと目を見開き、片倉は顔を背けた。

 

「仮面の男は、その後姿をくらませた。」

 

 灰賀はデバイスを操り、次に起こった悲劇の映像を呼び出した。男も女も、老いも若きも、倒れ伏した地獄絵図。

 

「芥が見つけた、犯罪係数300を超えていた男。彼が落としたホログラムスーツ展開リモコンには、仮面の男が付けていた仮面の登録が為されていた。」

 

 仮面の男の特徴だった、奇妙な仮面が表示される。

 

「が……彼の歩幅は、仮面の男のものとは程遠い。」

 

 入館前の同じ男の映像記録の分析と、仮面の男の映像記録の分析は一致しない。

 

「また、彼の所持品から、仮面の男が使っていた麻酔銃は見つからなかった。芥が執行した人々も……同じく、そういったものは持っていなかった。」

「……逃げられた。」

 

 戌井はぽつりと呟く。

 惨事後、会場にいた人間は片っ端から犯罪係数の再測定を行われ、それぞれに適切な処置が行われた。だが、仮面の男を捕まえられた実感はない。喉笛を食いちぎった感触は猟犬達には無かった。

 

「仮面の男はまたしても消えた。そのトリックについては未だに答えは無い。が……麻酔銃については、答えが出そうだ。」

 

 3人は灰賀の顔を見る。その表情は……いつになく、暗い。

 灰賀は改めて疑問点を洗い出す。

 

「仮面の男の他に、今回の事件には奇妙な現象が1つある。一般的な……普通の状態なら、起こらないはずのことがある。」

 

 ずっと黙り込んでいた朝津が、灰賀の問いに答えた。

 

「……犯罪係数の上昇。」

「そうだ。犯罪係数の著しい悪化が、軽谷や里見、芥の状態から見て取れる。」

 

 灰賀はデバイスを軽谷の死に様まで戻す。白基調のステージに映える赤。その周辺にいるのは、朝津か、もしくは戌井のみだった。

 

「講演会前、軽谷の色相は健常値(クリアカラー)だった。前日に仮面の男に追いかけられた一件から、軽谷には入念なケアが行われ色相はクリアに戻っていた。そして、軽谷は壇上で講演を行なっていた。潜在犯が近づく機会は無く、濁る機会は無かったはずだ。唯一……麻酔銃での一撃を除けば。」

 

 朝津は思い出す。軽谷がドミネーターで執行される前、麻酔銃の特徴的な銃声を聞いていた。軽谷が足を押さえてしゃがみ込んだ姿を朝津は見ている。

 

「里見サンも、芥も……麻酔銃によって撃たれてた。それは、オレが見た。それに……異常な犯罪係数の上昇ッてんなら、講演会の日だけじゃない……初日の親子もそうだ。あの日も、麻酔銃の発砲は記録されている。」

 

 戌井は証言し、灰賀を見る。それが何に繋がるのかを答えろ、という無言の意思伝達があった。

 

「麻酔銃には犯罪係数を上昇させる薬が仕込まれていた。そう考えるのが自然だ。」

 

 灰賀は平穏を装いながら話を続ける。だが、その声はいつになく震えていた。

 

「心当たり……あるんスか。」

「ああ……ある。数年前の……私がまだ研究室に居た頃の話だ。向精神薬は脳内の神経物質を堰き止めることで感情を抑え、色相悪化を防止する働きがあるのだが……私は、逆の効果を齎す薬を発見してしまった。」

「灰賀監視官が……!?」

 

 片倉は驚きの声を上げる。

 執行官に目をやることなく、灰賀は推理を続けた。

 

「勿論、そんな薬はすぐに廃棄された。調合配分表(レシピ)も存在しない……だが。だが……麻酔銃での効果を鑑みるに、それ以外に答えはないんだ。」

「ちょっ……ちょっと待つっスよ。」

 

 灰賀の推理から、戌井は最悪の可能性に到達していた。

 

「ここ数日……やたらと色相を濁らせた患者の発生が多かったよな。」

 

 連続する街頭スキャナでの通報や、エリアストレス警報の発令。患者達は皆共通して無関係であり、原因は全く不明だった謎の現象。

 灰賀は唇を噛みしめ、戌井の推理を引き継ぐ。

 

「色相を濁らせた患者が向精神薬を飲むのは当たり前の行動だ……だが、その中に、色相を悪化させる薬が混じっていたするなら……!」

 

 患者達に共通点は無いと思われていた。だが、共通していた───患者である(・・・・・)、という、その一点が。

 灰賀はまた、心当たりを思い出す。

 

「MALUS……ERIS製薬から先月発売された新薬がある。これに、仮面の男が細工をしていたとしたのなら!」

 

 MALUS、というキーワードに片倉が反応する。

 

「そういえば……仮面の男が麻酔銃と引き換えに渡した薬も同じ名前だった!けど……」

「けど、なんだ?」

「流通を調べてみたんですが、どうもどこの店舗にも下ろされた形跡がないみたいだった。店舗では紛失在庫になってるっぽい。」

「未着だった店舗は1件か?」

「いや、複数。届いてる同じ薬もあったから、発送が遅れているもんだと思われていたらしくて見過ごされてたらしい。どこかの店舗からくすねるんだったら、最初からその店舗の在庫を丸っと持っていくべきだろうに……」

 

 片倉の言葉を、灰賀は否定する。

 

「違う。薬は店舗から盗まれたんじゃない……元から店には届いていなかったんだ。」

 

 言いながら、灰賀は出かける支度を整える。椅子にかけていたレイドジャケットを羽織り、首までボタンを留めていく。

 

「どこに行こうッてんスか。」

「工場だ。」

 

 君たちもついてこい、と灰賀は言う。

 

「仮面の男は工場の出荷前のものを盗んでいった。だから、店には届いておらず……届かなかった店も複数に渡った。それに……」

 

 言い淀むも、真実を追求する手を灰賀は緩めなかった。

 

「それに、これだけの広範囲に影響があるのなら……色相悪化薬が混じった汚染薬の数が一箱二箱とは考えづらい。……全てが……源流から、手が加えられている可能性が極めて高い。工場の調合表が書き換えられたと見ていいだろう。」

 

 逸る気持ちを抑えることができず、灰賀は拳を握りしめる。

 

「MALUSは、私が作った、私が人々を救う為に調合した薬だ……それを、人々を濁らせる毒を混ぜるなど。許せるものか……!」

 

 灰賀は朝津を見る。ついてくる意思はあるか、と視線で語る。

 朝津はレイドジャケットを掴み、ぶかぶかのそれを羽織った。袖をまくり、手を出す。

 2人の監視官は頷き、オフィスを飛び出していった。

 

 

 オフィスには執行官2人が残された。

 急いで護送車に乗るべきだ、と戌井はもう1人の執行官を見る。

 

「なぁ……戌井。」

 

 もう1人の執行官は、立ち上がろうとはしなかった。

 

「……なんだよ。」

「テメェ、今どこまでわかってるんだ。」

 

 目隠れの男は、赤髪の男を見上げて言う。その視線には、説明するまでは絶対に離さないという意思があった。

 赤髪の男は躊躇ってから、話を始めた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。