PSYCHO-PASS 二次創作 MIDGRAY   作:ろくみ

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祈り

 12月1日。久しぶりの非番を迎えた朝津は、霊園へと足を向けていた。

 街の喧騒から離れた集合霊園には、無数の墓が並ぶ。ひんやりとした空気の間を通り抜け、朝津はある墓石を見つけた。

 墓石には、田辺と書かれていた。朝津達が捜査に駆けずり回っていた間に、親子の葬儀はしめやかに行われていた。

 朝津は手に持った花束を墓前に備えた。

 そして、目を閉じ、祈る。

 

 それが自己満足に過ぎないと、朝津は理解している。

 目を閉じると、再び幻聴が朝津の耳を襲う。赤ん坊の泣き声と、母親の叫び声。何の罪も無い、色相を濁らされ、殺された人々の、無念の嘆き。

 朝津の手は血みどろだった。彼が殺した人数は、最早片手で数えきれなくなった。瞳は余りにも多くの人間の末路を見た。

 それでも、朝津は血みどろの手で、祈る。冥福を。死者の安寧を、祈る。

 

 朝津は、どこまで行っても凡庸だった。

 悪を憎み、悲劇に苦しみ、他人の幸せを願う。そんな普通(・・)の感性を、この期に及んでまだ持ち合わせていた。

 

 朝津は、目を開ける。

 景色は先ほどとまるで変わらない。朝津が置かれた状況も、取り返しのつかない過去も、変わることはない。

 置いた花束を拾い、立ち上がる。

 一歩一歩、歩みを進め、霊園の外に出る。

 

 天気は今日も曇りだった。淀んだ空の下、朝津はアテもなく歩いた。

 道中の街角に、ゴミ箱を発見する。

 朝津は思い出したように、スーツのポケットを探った。辞表と書かれた白い封筒と、向精神薬のタブレットケースが出てくる。

 

「……。」

 

 阿多須は、辞表を見つめる。

 

「……ごめん、芥さん。」

 

 間違いなく喜びはしないことだけは想像がつき、自然と謝罪の言葉が口をついて出た。

 朝津の心を思いやり、逃げ道を肯定した、芥の気持ちを踏み躙るのだと。それはとても悪いことなのだと、朝津は再度自覚する。

 

「……ごめんなさい。」

 

 もう一度謝ってから、朝津は辞表を引きちぎった。

 何度か破いて紙切れになった辞表とタブレットケースを、ゴミ箱に捨てる。

 

 戻れない、と思いに耽るのも束の間。端末が鳴り響く。

 

「は、はい!朝津です!」

《ども、灰係さん!非番のトコ悪いね、まーた潜在犯の出現ですよぉ。一係も三係も出突っ張りでさ、手が空いてるのが居なくて。》

「位置は!」

《どうせ伝えても迷子になるんでしょ、方向音痴のアッシュさん。ワンちゃん向かわせてるんで、護送車相乗りしてください。》

 

 間もなくして、護送車が到着する。扉が開き、朝津は車に乗り込んだ。途端、目の前をレイドジャケットが塞ぐ。戌井が投げつけたジャケットが頭から被さった。

 

「どーこほっつき歩いてんスかご主人!」

「ごめん……ちょっと散歩してて……」

「しっかりしてくださいっスよ。ご主人が居ないと捜査始まんないんスから。」

 

 ギャンギャンと馬鹿騒ぎをしつつ、犬は知っている。主人の持ち物に花束があることを。主人の持ち物から封筒と錠剤が無くなったことを。

 そんな犬の気持ちはつゆ知らず。飼い主はぶかぶかのレイドジャケットを羽織る。袖から穴あきグローブを付けた手を出し、余った袖を折って整える。

 

「それで……事件の詳細は?」

 

 潔白の善人とは到底言えず、だが、漆黒の悪人にもなれない。どうしようもない灰色の凡人は───今日も、街を駆ける。

 

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