勇者PTに追放されたので捨て鉢で魔王と相打ちになったらTS転生した ~実は仲間たちは自分を逃がそうとしていたみたいです~   作:闇の有翼人種

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捨て鉢スタートダッシュ

「カリム。アンタをクビにするわ」

「……え?」

 

 借りた宿。ボクらが利用している一室で、ボクは告げられた言葉に硬直していた。

 何を言われたのか分からない。だからボクの口をついて出たのは、再確認の言葉。

 

「ど……どういうこと?」

「そのままよ。アンタをあたしたちのパーティから追放するわ」

 

 そう告げる少女の瞳は、今までで一番冷たい光を帯びていた。

 

 ……ボクはカリム。

 勇者パーティの斥候をしている15歳。男。

 この五年間、勇者の魔王討伐の旅に同行していたしがない孤児だ。

 

 その勇者であるのが、目の前でクビを宣告した少女。

 ストラ・フリスト。

 

「アンタはあたしたちに相応しくない」

 

 朝焼けのようなオレンジのボブカットに、磨き上げられたエメラルドの如き瞳。常在戦陣とばかりに宿の中でも軽装の鎧を身につけた少女。腰に佩いた聖剣は、紛れも無く勇者の証だ。

 身長は平均的。鎧さえ脱げば宿屋の看板娘に間違われてもおかしくない美少女だけど……少しでも戦いというものを囓った人間なら、その身から立ち昇る武威を侮る者はいない。

 そんな歴戦の風格が今、真正面からボクに吹き付けられていた。

 

「即刻、この宿から出て行きなさい」

「まっ、待ってよ! どうして、今までずっと一緒に戦ってきたのに!?」

「確かに、カリムくんは一緒に旅をしてきた仲間でした(・・・)

 

 そう答えてくれたのは、ストラの側に立つ修道服を着た女性だった。

 マリアナ・フォーセイル。

 見上げるほどの背丈と豊満な体つきでたっぷりの包容力を感じさせる大人の女性。細められた優しげな瞳通りの、優しい聖職者だ。

 

「そ、そうだよ! マリアナさんもこう言って……『でした(・・・)』?」

 

 味方してくれると思っていたマリアナさんの言葉の違和感に、ボクは呆けた。

 

「はい。……私もストラの意見に賛成ですから」

「嘘……」

「嘘じゃありません。みんなで相談して決めました」

「な、なんで!」

「ハッキリ言って、これからの戦いには不必要だからです」

 

 キッパリと告げられる。

 ボクはショックでよろめいた。

 優しかったハズのマリアナまで、そんなことを言うなんて。

 

 二の句が継げなくなっているボクへ、追い打ちを掛けるように勇者パーティ最後の一人が口を開く。

 

「ん。カリムは要らない」

「ア、アズ……」

 

 ボクと同じ年頃をした亜人の少女、アズライール・アヤ・ミステールも同意している。

 髪と同じ銀色をした、頭から生えた小さな翼を畳んでいる少女は、感情を感じさせない怜悧な瞳でボクをジッと見つめていた。

 着ている黒いローブが示す通り魔導師である彼女はいつだって冷静で合理的な判断を下す。

 だからこれからボクに告げられる言葉も、一切の呵責のない真実だった。

 

「カリム、戦闘力ない。全部アイテム頼り。弱い」

「うっ……」

「斥候。魔王城、不要。構造、把握済み」

「運良く魔王城の設計図が手に入りましたからね」

 

 マリアナさんが補足する。それは知っている。ボクも見せて貰ったから……。確かにアレがあれば、道中の案内は不要だ。納得してしまう。

 

「敵、魔王だけじゃない。魔族、側近、強い。連戦、確実」

「それはっ……!」

「回復、貴重。無駄遣い、駄目。カリム、無駄」

「う……」

「……今更ですが、カリムくんはよくアズちゃんの端的な話し方を理解できますねぇ」

「しっ。マリアナうるさい」

 

 背後で何か聞こえるが、ボクは気にできないくらい打ちのめされていた。

 パーティメンバーで回復ができるのは聖職者のマリアナだけ。人が使える魔力は限られているのだから、無駄遣いはできない。道中の戦いでもっとも防御力が低いボクが傷つき、スポンジに水を吸わせるように回復魔法を使わせるのは完全に無駄だ。

 分かる。分かってしまう。次の戦いはこれ以上にないくらいに過酷だから。甘えは許されないことぐらい。

 でも……!

 

「ぼ、ボクだって……! ま、魔族の一人や二人と相打ちすることくらい!」

「っ! ……無理だって言ってんでしょ!!」

 

 ガタリと椅子から立ち上がり、ストラはボクを怒鳴りつけた。

 

「アンタみたいな弱い奴、魔族にも、ましてや魔王になんて敵うワケない!」

「そ、そんなの、やってみなくちゃ……」

「やんなくたって分かる! アンタは、弱い! ……足手纏いなの!」

「!!!」

 

 足手、纏い。

 ……そう、なのかな。

 

 確かに、ボクは弱い。

 それは超人的な勇者パーティと比べてという話ではなく、一般の兵士たちと比べても遥かに下という意味だ。

 背も低ければ、筋力もない。

 唯一足の速さと身軽さだけは自慢出来るが、それは精々が少しすばしっこいというくらいのレベル。

 魔法が使えたりとかもない。ボクに魔力は一切ない。

 

 だから、弱いのは本当だ。

 ……でも。

 

「そっか……要らなかったんだ、ボク」

「……っ! そうよ、要らないの、アンタは」

 

 勇者の仲間として一緒に旅をしてきて、少しくらい役に立ってきたつもりだったけど。

 ……弱いボクを守ることに、みんな辟易としていたのかな。

 

「……ストラ」

「消えなさい。アンタの顔なんか、二度と見たくないわ」

 

 ストラに告げられる強い言葉に……ボクは。

 言い返すことができなかった。

 

 

 

 

 

 それからのことは、よく覚えていない。

 気がつけば、ボクは都市の中をトボトボと歩いていた。

 

「……何も、やることがなくなっちゃった」

 

 元々ボクは、魔王に故郷を滅ぼされた孤児だ。

 ボクもまた死にかけたところをストラとマリアナさんに救われ、どうにか生き延びた。

 以来、パーティにくっつくようにして一緒に旅をしてきたのだけれど……。

 ……迷惑だったみたいだ。

 

 そして魔王討伐の旅以外に、ボクの目標なんてない。

 故郷もないのだから、当然帰るべき場所なんてない。

 ……何もなくなってしまった。

 

「……空、黒いなぁ」

 

 ふと空を見上げると、そこにはいつも通りの(・・・・・・・)暗雲が立ち籠めていた。

 

 魔族。それは人類、いやほとんどの生き物にとって不倶戴天の敵。

 高い魔力、長い寿命、そして個体によっては更に特異な体質を持つ彼らは人類より遥かに強い生物だ。

 ただ一つ、日光に弱いという弱点を除けば。

 

 その弱点の克服に、魔族たちは躍起になっている。

 それを解決するための手段の一つが、この空を覆い尽くしている暗雲だ。

 

 黒い雲は日光をほとんど通さない。一年中を通じて薄暗い曇り空を強要する。

 そのおかげで、魔族たちは大手を振って昼間でも活動できる。

 そしてこの暗雲を作り出して、魔族の版図を広げている存在こそが……魔王だ。

 

 暗雲がもたらす被害は計り知れない。

 作物は育たないし、気温も昔と比べてずっと低くなったそうだ。日の光を浴びられないから人の体調も悪くなる。月で暦を見ることすら叶わない。

 そして暗雲はずっと広まり続けている。際限なく。魔族たちが暮らしやすくする、その為だけに。

 今ではもう、青空を見たことがある人の方が希少だった。

 

「……空、かぁ」

 

 ボクも、小さな頃に見てみたいと思ったことがあった。

 いつも陰鬱なこの黒い空じゃない、気が晴れるような気持ちいい空を、この目で見たいと。

 思えばストラたちの旅に同行したのも、それが理由だった気がする。

 

 魔王を討ち、暗雲を晴らすのが勇者の使命。

 でも、ボクはもう何もする必要がない。

 命を賭けなくても、いずれ空は明るくなる。

 ストラたちが、きっと魔王を倒すから。

 

「………」

 

 倒す……ハズだ。

 ストラたちは強い。それこそ、ボクなんかとは比べものにならないくらい。

 魔王もまた強いとは聞くけれど、それでもストラには聖剣がある。あれは魔族に対して特効の威力を誇る。魔王にも通用するはずだ。

 でも……もし負けたら?

 

「ストラたちは、死んじゃう」

 

 たった今追放されたばかりだというのに、もう彼女たちを案じる気持ちが湧いてしまう。

 ストラ。マリアナさん。アズ。

 一人一人の顔が浮かんでは、消えてくれない。

 

 でも、だって、仕方ないのだ。

 もう家族のいないボクにとって、大切だと言えるのは彼女たちしかいないのだから。

 

「……あ、魔法鞄(マジックバッグ)

 

 そんなことを考えながら目線を落とすと、そこには腰に下げた革の鞄が。

 見た目よりもずっと容量の多い魔法の鞄、魔法鞄(マジックバッグ)

 ボクはパーティの斥候でもあり、アイテム使いだった。だから荷物持ち兼使い手として、多種多様なマジックアイテムを任され持たされている。

 

「そういえば、返すの忘れちゃったな」

 

 勇者の仲間から追放された以上、これは返却すべきものだ。

 ……だけど。

 

「これがあれば……ボクは戦える」

 

 魔王に勝てる、そんなワケがないだろう。

 でも少しくらい削るくらいなら、ボクにでもできるかもしれない。

 ……命を、捨てれば。

 

「うん……そうだよな。どうせ、やることも、行く当てもないんだし」

 

 だったらこの命、大切な人の為に使うのも悪くない。

 

「……行こう」

 

 そう決意して、ボクは魔王城を目指すべく都市を飛び出した。

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