勇者PTに追放されたので捨て鉢で魔王と相打ちになったらTS転生した ~実は仲間たちは自分を逃がそうとしていたみたいです~   作:闇の有翼人種

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聖者マリアナ・フォーゼリア

 勇者一行が寝泊まりしている宿は『憩う(ひよどり)亭』という名前だ。

 外は木組みの箱めいたシンプルすぎる外観。中は仮眠室のようなベッドだけが置いてある部屋か、逆に何もない雑魚寝の大部屋。そして朝食を作る食堂と食べるラウンジしかない。まるで山小屋のような宿だ。

 しかしそれは開闢都市そのものが急ピッチで建造されたがゆえの話であり、宿の経営者が粗雑な性格であるということとイコールではない。

 むしろその辺りのサービスがまだ行き届いている方だからこそ、勇者パーティが安心して寝泊まりしていると言える。

 

「悪かったね、ここ最近は出払ってばかりで!」

 

 からからというハスキーな笑い声。

 それは厨房から顔を出した褐色肌の女性から発せられていた。

 歳は三十代ほどだが、何事にも動じない性格はまさに肝っ玉母さん。気っ風のいい女傑というのが相応しい彼女こそがこの宿の女将、スードリさんだ。

 

「仕方ないですよ。あちこちの仲裁に呼ばれていたのでしょう?」

「まぁね。空が晴れて活気づくと、やっぱ血の気も多くなっちまう輩が多くてね……って、それはマリアナ様もだろう? 司祭様だからって、みんな頼りにして大変だ」

「ええ。皆様が元気なのは良いのですが……」

 

 ラウンジで朝食をとっているボクらは女将も交えて雑談する。諸々を警戒して貸し切りにさせてもらっているので、周囲に遠慮する必要はない。

 

「……って、迂闊に喜ばない方が良かったかい?」

「……いえ」

 

 自分の発言にスードリさんはバツが悪そうに頭を掻いた。

 そう、ボクが……生前のカリムもまたこの宿に泊まっていたので、スードリさんはパーティの事情をよく知っている一人だ。

 ちなみにそれ以外にはあまり知れ渡っていない。基本的に勇者として人前に出るのはストラかマリアナさんで、ボクとアズはいつも後ろで大人しくしているだけ。なので対外的に勇者パーティとしても知られているのはその二人で、事実ボクがいなくなったことに気付いているのもごく少数だった。

 その少数であるスードリさんにマリアナさんは首を横に振った。

 

「これは私たちの問題ですから」

「お、おう」

 

 言外に部外者は踏み込むなと告げ、やんわりと断りを入れる。

 それを悟ったスードリさんは、話題を変えるように今度はボクへと水を向けた。

 

「そういや、成長期の子にここのメシはよくないかもね。栄養足りてるかい?」

「大丈夫です!」

 

 ハキハキと答える。実際、ここのご飯が悪いとは思わない。

 メニューは雑穀の粥、キャベツと根菜のスープ。それから漬物。確かに豪勢とは言い難い。

 それでも寒村生まれのボクからすれば十分なご馳走だ。

 

「勇者様方も、もっといいトコで召し上がればいいのに」

「ん。ここで十分」

「それは失礼ですよ、アズちゃん」

「いやいやいいのさ。ま、こんなんで良ければ良いんだけど……」

 

 宿の朝食に文句を言っているパーティメンバーはいない。みんなもこれを十分な朝食だと思っているからだ。

 アズはスラム暮らしだったし、マリアナさんは清貧を心がける聖職者だ。唯一ストラだけが……。

 

「ん。ストラ、貴族。ご飯、ご馳走だった?」

「残念だけど貴族らしい暮らしをさせてもらった経験はないわ。勇者に選ばれてからも食事は制限されたものだったし……そう言えば、マリアナは元々貴族だったんじゃなかったかしら」

「え、そうなんですか?」

「昔の話です。現在は出家して、実家とは縁が切れていますし」

 

 初耳だった。そっか、マリアナさんは元貴族なのか。道理で姿勢や所作が綺麗なハズだ。

 ボクやアズの身だしなみに口うるさいのも納得である。

 

「で、今日はマリアナの日よね」

 

 ストラがチラリとボクを見て言う。

 ボク、つまりカリーナ当番の話だろう。

 

「ええ。その予定です」

「ふーん。どうするの?」

「お仕事の場へ連れて行こうかと。ああ、教会ではありませんよ」

「? それってどこ?」

 

 首を傾げるボクに、マリアナさんは優しく微笑みかける。

 

「食べ盛りの子には丁度良いところですよ」

 

 

 

 ※

 

 

 

 マリアナ・フォーゼリア。

 ユグドヴァニア連合王国出身の聖職者。聖夜教の司祭であり、同時に聖騎士としての資格も持つ文武両道。

 聖夜教は世界中で信仰される宗教で、その司祭ともなればそこいらの貴族よりも希少である。

 普段の嫋やかで気さくな態度からは想像もできないほど高い地位にいる人間なのだ。

 

 そんな彼女は、今。

 畑仕事に精を出していた。

 

「ふぅ。これでこの畑の雑草抜きは終わりましたね!」

 

 曲げた腰を伸ばし、一仕事を終えて汗を拭う。修道服を完全に脱いでいれば、農家と間違ってしまっただろう。

 とはいえボクもそれは変わらない。草刈りは小さな身体には重労働過ぎた。安心感から、その場にポテリと座ってしまう。

 

「ふへぇ……」

「あら。では少し休みましょうか。みなさ~ん、休憩で~す!」

 

 マリアナさんの声かけで、畑仕事をしていた人たちが作業を中断して集まってくる。あっという間にマリアナさんは囲まれて、分厚い人垣ができてしまう。

 

「お疲れ様です」

「マリアナ様こそ!」

「司祭様にこんなことをお手伝いさせてしまって申し訳ありません」

「いえ。私が好きでやっていることですから。それに、田畑の復旧は最優先のお仕事ですし……」

 

 魔王の暗雲によって特に壊滅的な被害を受けたのは農作物だった。

 日は遮られ日照不足で作物は育たない。その上空気が温められないので気温も下がり、冷夏・厳冬ばかりが続いた。

 結果、田畑はほとんどが壊滅。寒さに強い作物に乗り換えてどうにか食いつないでいた地域もあるにはあったが、それも少数派。多くは飢えと寒さに長く苦しむこととなった。

 

 しかし今、空は晴れた。大手を振ってかつて台所を支えた穀物や野菜を栽培することができる。

 しかも丁度今は初春。植え付けにはベストタイミングだ。

 

 開闢都市は長い間魔族に支配されていた地域だ。なので、残された畑は長期間放棄された物ばかり。

 それゆえ、現在はその復旧が急務だった。

 

 マリアナさんはその手伝いをしている。

 正直、司祭がする仕事ではまったくないのだけれど……。

 実際にマリアナさんが率先して作業することで感化され、参加する人も大勢いる。

 こういう泥臭い仕事も自分でやっていくのがマリアナさんのスタイルだ。

 

「カリーナちゃん、大丈夫ですか?」

「あ、平気、です……」

 

 一通り話し終えたのだろう。休憩するボクの隣に戻ってきた。

 

「これ、水筒とタオルをどうぞ。それから少しですけど軽食です。ああ、汗掻いちゃってますよね。着替えも持ってこないと……」

「だ、大丈夫です! そ、そこまではっ」

 

 過剰に世話を焼こうとするマリアナさんを必死に止める。

 ただでさえ既に子ども用の作業着は用意してもらっているのだ。これ以上世話になるワケにはいかない。

 

「そうですか? ……では、これだけ」

 

 そう言って、マリアナさんはボクと目線を合わせながら手を握る。

 

「"清廉なる静謐" "静月" "瀑布と白嶺" ――」

 

 ……待ってその詠唱は。

 確か、結構な大魔法なハズ――。

 

「――【浄化(フレイヤ)】」

 

 青白い光が身体を包み、汚れや汗の臭いが消えていく。のみならず、小さな擦り傷まで癒えていく。

 身体の汚れや悪しきものを一斉に洗い清める大魔法、【浄化(フレイヤ)】。

 普通は魔族の魔法によって汚染された地域を浄化するための魔法であって、間違ってもこんな孤児一人に使っていい魔法じゃないハズ!

 

「――ふぅ。スッキリしましたか?」

「あ、ありがとうございます……」

 

 内心でヒキながらも礼を言う。

 

「あの、どうしてここまで……」

「……え?」

 

 いくらなんでも一人の子どもに対するには過剰な行ないだ。

 大魔法だってタダじゃない。相当な魔力を消費、つまり疲れるハズ。

 なのになんで、こんな些細なことで……。

 

「……そうですね。強いて言うなら……」

 

 マリアナさんは少し考え込んだ末、答える。

 

「……もう子どもに、傷ついてほしくないんです。それが欺瞞で、どんなに無力な願いだとしても」

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