勇者PTに追放されたので捨て鉢で魔王と相打ちになったらTS転生した ~実は仲間たちは自分を逃がそうとしていたみたいです~   作:闇の有翼人種

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魔導師アズライール・アヤ・ミステール

「……いない? アズが?」

 

 その日の朝は、ストラの顰め顔で始まった。

 スードリさんに朝ご飯を用意してもらっている途中の、ラウンジでのことだ。

 

「う、うん。宿を探してもいなくて」

「……狭い宿だから、見逃すワケがないわね」

「悪かったね、ちっさくて」

 

 軽口を言うスードリさんに朝食を並べてもらって、一旦はいただきますをする。

 メニューは変わらず、雑穀の粥とスープと漬物だ。

 

「参ったわね。今日はアイツの番でしょ?」

「ええ。そのハズです。前日にも伝えてあるハズですが……」

 

 困った顔でマリアナさんは頬に手を当て息を吐く。

 ボクの面倒を見る人間を、みんなは持ち回りと決めた。

 そして今日はアズの番だった。しかし宿にいない。

 つまり、カリーナ係がいないということだ。

 

「うぅん。でも今日はあたし、傭兵たちの魔族狩りに付き合う予定だし」

「私も、非合法組織と目される商会へのガサ入れに同行する予定です」

「……どっちも連れて行けないわね」

 

 ストラたちは勇者であり、人類諸国の最高戦力である。それゆえ魔王討伐が成った今でも物騒な役割を務める機会が多かった。

 だからこういう日もある。魔族の残党狩りは都市から出なきゃだろうし、非合法組織は当然もっての外だ。流石にこの身体で荒事には付き合えない……。

 

 とはいえ、この身体の身体能力は悪くない。

 むしろ前世のボクよりいいくらいだ。

 筋力、走力、反射神経。どれも少女の見かけよりは高い物を感じる。魔力は分からないけど。

 もちろんストラたちには遠く及ばないし、子どもとしては、程度の話だ。

 しかし鍛え上げれば一端の戦士にはなれるのではないか……そう予感させる可能性は感じた。もしかしたらカリムとは違ってアイテム係から脱却できるのかもしれない。カリーナになってから数少ない、良いニュースだ。

 

 閑話休題。

 とにかく、今はボクの身柄をどうするのかを考えなければ。

 

「スードリさんは……」

「悪いね。今日は炊き出しに呼ばれててさ」

「じゃあ宿に置いておくのも怖いか……」

「鍵は渡しておくよ?」

「ですが、この年頃の子に一人で留守番というのは……」

 

 ボクとしてはアリだと思うけど、マリアナさんにとってはナシのようだ。

 どうにも彼女は、ボクに対して過保護なところがある。

 

「他にアテはないのかい?」

「あったら三人で面倒を見るなんて言ってないわよ……なのにアズの奴……」

「ここ最近、アズちゃんは単独行動することが多いようですね」

 

 確かに、アズは何をしているのだろう。

 国元で立場を持つ二人に対し、アズはそういう柵とは無縁だ。そういう意味ではボク(カリム)に近い。

 魔導師として開闢都市では頼られることもあるのだろうけど、アズはご覧の通りの口下手。積極的にそういう仕事に関わろうとするとは思えない。

 何をしているのか、謎だ。

 

「うーん。どうしましょう」

「今からひとっ走り行って、アズを捕まえてくる?」

「犬猫じゃないんですから……」

 

 二人のそんな話を聞いて、ボクは閃いた。

 

「あ、じゃあボクが直接アズを探しに行くよ」

「……え?」

「そうすれば一石二鳥だよね!」

 

 我ながらいい提案だ。アズを探して、それからアズと一緒にいれば良い。

 思いついたボクはいてもたってもいられず、椅子から飛び降りた。

 

「ごちそうさまでした! ってことで、いってきまーす!」

「ちょっ、カリーナ! だめ、待って!」

「カリーナちゃん!」

 

 何か聞こえた気がしたが、ボクはそのまま宿を飛び出し、そして大通りの雑踏に紛れて消えた。

 

 

 

 ※

 

 

 

「一人で歩くの、久しぶりだな~」

 

 アズを探しに飛び出したボクは、久方ぶりの一人の時間を堪能していた。

 

「まぁ危ないってのは分かるけどね。それでも心配性だよ」

 

 確かに開闢都市の治安は最悪だが、大通りで白昼堂々、というのは流石に希有だ。

 路地裏に近づいたりしなければ問題ない。

 とはいえ、一人で長々と行動していればリスクが増えていくのも事実。

 ここは寄り道せず、アズを探して合流した方がいい。

 

「アズがいそうな場所は見当がつくもんね」

 

 これでも元パーティメンバーだ。仲間の行きそうなところの一つや一つ、心当たりがある。

 

「宿、はいない。修練場……は行くタイプじゃない。じゃあ、やっぱり獣人窟かな」

 

 記憶を辿って、一番あり得そうな場所へ当たりをつける。

 獣人窟。名前の通り、獣人が集まって出来上がった区域だ。

 アズもまた獣人。結構な頻度で出入りしていた。

 そこに行けば、出会える可能性は高いだろう。

 ボクも行ったことがあるので、場所も分かる。

 

「よし、いってみよー!」

 

 と、ルンルン気分でボクは歩き出した。

 

 

 

 ※

 

 

 

 カリーナは理解していなかった。いや、浮かれていて忘れていたというのが正しいか。

 僅かとはいえ若返ったこと。仮にも斥候としての装備を身につけていたのは前世だけで、今は高そうな服を着ているということ。

 ……そして少女であるという自覚。

 

 不埒な輩に狙われる理由としては、十分なことを。

 

「……へへっ」

「おいおい、金の卵が転がってきたぞぉ?」

 

 獣人窟に近づいていく道。路地裏からカリーナの背中を盗み見る影があった。

 獣人のチンピラだ。

 

「金持ってそうなガキだぁ……こりゃついてるぜ」

「しかもこの匂い……只人(バニラ)じゃねぇか。なら遠慮はいらねぇな」

 

 ハイエナのような嗅覚、という言葉が似合う通り、彼らは犬と猫の獣人だった。

 獣人。それは獣の特徴を持った亜人類。

 どれだけ獣の特徴が現われているのかは種族、いや部族単位で大きく違うが、少なくともこの二人の嗅覚と身のこなしは獣のそれだった。

 足音を響かせないよう、影に溶け込むようにして追跡する。

 

「獣人窟の中に行くみてぇだな……中に入ったら攫うぞ」

「ああ。あの中じゃ只人がいくら声を上げたからって助けにはこねぇ」

 

 獣人の中にはその身体的特徴から人間に迫害されてきた歴史を持つ。特にイグニス王国ではその傾向が強く、立地が近い開闢都市にはそうして流れてきた獣人たちが数多く住み着いていた。

 他国家他民族が入り乱れている開闢都市は、彼らにとってイグニスよりも余程居心地がいい住処なのだろう。

 しかしそれは、人間への恨みを忘れることとイコールではない。

 獣人が寄り集まってできた獣人窟ではその傾向が顕著だった。

 

 獣人たちが人間のことを何の特徴も無い只の人と侮蔑するように。

 人間の少女など、どうなろうと構わないと考えるような者は大勢いる。

 

 しかし彼らは運が悪かった。

 不運の内訳は色々とあるが……その最たるものは、彼らの邪な企みを見抜く者が、少女の保護者であったことだ。

 

「ん。相談終わり?」

「「――!?」」

 

 背後からの声に、弾かれるようにチンピラ二人は振り返る。

 そこにいたのは銀髪、黒いローブを着た背の低い少女だった。

 

「へ、へへ……脅かすなよ」

 

 慌てた犬獣人だったが、すぐにその少女もまた獣人であることに気付き安堵する。少女の銀髪には、同じ色の羽根が揺れていた。

 

「お前もあの只人が狙いか? だったら山分けと行こうじゃねぇか。同じ獣人だろう? 只人は憎いよなぁ?」

「……正直、人間は好きじゃない」

「へへ、だろ?」

「だけど」

 

 チンピラたちが疑問を持つよりも速く、手を前に伸ばす。

 二人は彼女の掌で魔力が渦巻くのを、感じ取ることができただろうか。

 

「別に、獣人、好きじゃない」

 

 練り上げた魔力を放つ。

 

「【風刃(フギン)】」

「――へ?」

「ああ?」

 

 スパン――という音がした。

 それが耳元で鳴ったということに気がついたのは、彼らの片耳(・・)がそれぞれポトリと地面に落ちてからだった。

 三角形のそれが血と砂に汚れているのを見て、それを理解するのに彼らは数秒を要した。

 

「い……でぇぇぇええぇぇぇ!?」

「な、ごれ……みみ゛がぁ!?」

「制裁。それで許す。だから、去れ。次は首」

 

 少女は再び手元に風を渦巻かせる――その予備動作と、何より瞳に湛えた冷たい光が、それがハッタリでないことを物語っていた。

 

「「ひ、ひぃぃいいぃぃっ!!」」

 

 こんなところで思いつきで誘拐を考えるような輩に大した覚悟などない。二人は怯えと痛みから即座に逃走を選択した。

 人間の少女など忘れ、飛ぶように逃げ出していく。

 

「……ん。それでいい」

 

 終ぞ、少女の正体がバレることはなかった。

 桃色髪の少女を見守る彼女が――勇者パーティの魔導師である、アズライール・アヤ・ミステールであることには。

 

「カリーナ、守る。いつか絶対――カリムに、会わせる」

 

 そして、その瞳に狂おしい光を浮かべていることにも。

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