勇者PTに追放されたので捨て鉢で魔王と相打ちになったらTS転生した ~実は仲間たちは自分を逃がそうとしていたみたいです~ 作:闇の有翼人種
アズライール・アヤ・ミステール。仰々しく長い名前は、複数の文化が混ざり合ったことで生まれたものだ。
即ち、いくつかの国が纏まって作られた国、聖ユグドヴァニア連合王国の様式である。
ユグドヴァニアは聖夜教を寄る辺として小国が寄り集まってできた国だ。
頂点に聖夜教によって選ばれた聖王を置き、旧国の有力者たちが地方を支配する封建制。そして組み込まれた国の中には、亜人で構成された国もあった。
亜人。人間と同じ血を持ち、しかし異なった特徴を持つ人種。
エルフ、ドワーフといった限りなく人に近い容姿を持つ種族もおり、そういった亜人は人間の中に自然に溶け込んでいる。
一方で獣の特徴を持つ獣人は迫害されがちだ。
しかしユグドヴァニアにおいては穏やかに宥和することが叶っていた。
アズもまた、そうして宥和し溶け込んだ文化で生まれた少女だった。
彼女の生まれ故郷では人間も亜人も共に暮らし、穏やかに生活していた。差別はない。聖夜教という共通する価値観さえあれば、それなりに分かり合える。
皆無ではないし、個人レベルでは色々と思うところはあるのだろう。
それでも表面上は概ね上手くやっている。それがユグドヴァニアにおける亜人の暮らしだった。
アズは鳥獣人として生まれた。頭と、そして
特徴としては、やはりその翼で空を飛べることだろう。
アズの両親もまた、自由に空を飛ぶ人たちだった。
しかしアズに共に飛んだ記憶はない。
飛ぶことが許される歳になるよりも早く、彼女の故郷は焼き払われたからだ。
魔族による侵攻。その矛先が向けられた地域の中にアズの生まれ故郷はあった。
幸いだったのはそれなりに大きな街だったがゆえに軍隊の動員が間に合ったこと。
おかげで住民たちには逃げ出す時間が与えられ、多くの者が脱出することができた。アズの一家もその中にいた。
やはり運が良かったのだろう。家財は全て失ったが、命は助かった。
だがその後に幸運は続かなかった。
難民となった一家は各地を彷徨うことになった。
受け入れ先にも限界はある。入りきらなかった民は次の受け入れ先を目指して再び放浪することになった。
魔族による被害は何処にだってあり得る。直接襲われた他にも暗雲の影響で故郷を捨てなければならなかった者もいた。
なまじユグドヴァニアは数多くの人種を受け入れていたがゆえに、各国から亜人の難民が殺到した。中には改宗さえする者がいたという。
その所為で元からの国民が弾き出されてしまうというのは、皮肉としか言いようがないだろう。
アズの一家は彷徨い続け……そして両親は病に倒れ帰らぬ人となった。
子どもであるアズに少ない食糧を分け与えたがゆえのことだった。
両親の愛によってアズは生かされた。しかし……そのまま一緒に死ぬことこそが幸福だったのではないかと、アズは今でも回想する。
それほどまでに、その後の半生は壮絶だった。
孤児となったアズは最終的にイグニス王国のスラムへと流れ着いた。流れに流れ、押し出されるように。
イグニスは人間主体の国家であり、歴史のある大国だ。……つまり考えが古く、人間至上主義である。
亜人の扱いは最底辺の人間未満。
いや……家畜の認識ですらあっただろう。
アズの両翼は、そう考える人間たちによって
獣人の身体、特に獣の部分は素材として美しく、また希少だ。
それを金に飢えたスラムの人間が見逃すハズもない。
食い込んでくる冷たい刃物の感触。身体の一部を捥ぎ取られる燃えるような痛み。泣き叫びジタバタと藻掻くアズを抑え付け、殴りつける人間たちの手。
迸る絶叫で喉を潰しながら、アズは弾ける光を見た。
魔法を扱う方法は二つある。
一つは魔力の使い方を学び、定められた術式を覚える方法。つまり勉強と修練。
もう一つは、感情による反射的な行使。つまり本能。
後者は、他人には扱えない特別な魔法となる傾向がある。
アズは人の魂を知覚する瞳を得た。そして魔力とは魂を器として溜まる力であった。
その目によって魔力の扱いを習得したアズは、その力を以てその場にいた人間を皆殺しにした。
しかし切り取られた翼は帰ってこない。そして人間に与えられた痛みは、忘れられるハズもない。
それからだ。物を言わず、常に冷たく世を見つめるようになったのは。
誰も信用できず、アズはただ孤独に生きた。
泥を啜り、残飯を漁る。最底辺の生活だが、もう他人と関わって傷つくよりは余程いいと思っていた。
そんなアズに再び触れたのは、スラムに迷い込んだ少年であった。
『すみません! ここって何処でしょうか?』
アズの拒絶の瞳にも物怖じせず少年は話しかけた。
少年はどうやらまったくの無目的ではなく、何か調査をしているらしかった。
その目的は……魔族の捜索。
『どうやら人間に偽装して隠れ潜んでいるみたいなんだ。ストラ……知り合いが探ってて。だからボクが見つけ出して、認めてもらうんだ!』
少年は世話になっている人間に自分の実力を証明したいがために危険を冒しているようだった。
幼稚な功名心。いやあるいは恩返しだろうか。
いずれにせよアズには関係のないことだ。
魔族も嫌いだが、人間も同じくらいに嫌いだ。
『地理とかまったく分からないから、手伝ってほしいんだけど……』
『わ、今のって魔法! すごい、ボクはまったく覚えられなかったのに!』
それでも付き纏ってきた。
威嚇のために軽く魔法を放ってみせても、怖れるどころかより勢いが増した。
恐怖心がどこかイカれているとしか思えない態度。
鬱陶しく思いながらも……アズは次第に絆されていった。
『あ。そいつ』
『え?』
そしてアズの魂を見る目は潜伏する魔族を見抜いた。
そこからなし崩し的に戦闘が始まったり、アズが足止めをしている間に勇者へ助けを求めに行かせたりという一幕があったりするのだが……今は割愛する。
とにもかくにも、アズは少年と共に戦った。
もう二度と誰かと関わることはしないと誓ったのに。
魔族を討伐し、別れの時。
名残惜しげに少年は手を差し出した。
『ねぇ、一緒に行かない?』
『……なんで』
『だってその魔法があれば心強いし……それにもう、友達でしょ?』
『……友達』
それは二度と生まれないと思っていたもの。
だけど……悪い気はしなかった。
『……分かった。友達、一緒に行く』
『やった!』
伸ばされた手をアズは固く握った。
その日から少年は――カリムは、アズの唯一の友達になった。
※
獣人窟の周辺は増築が繰り返される地域であり、一度行ったことがある人間でも迷いやすい。
「あれ……おかしいな、こっちのハズなのに」
アズはキョロキョロと路地を見回すピンク髪の少女へと背後から近づいていく。
「何、してるの」
「あ、アズっ!」
今度は自分から迷子へと声を掛ける。
愛称で呼ぶことは仲間と友達の特権だったが、アズは初日からカリーナへ許可を出していた。
同じように少女も、また大切な存在だからだ。
「なんで、こんなところ?」
「それは、えーっと、アズを探して……」
誤魔化すような態度をとるカリーナにアズは溜息を一つ吐く。
「ここ、危ない、近づかないで」
「……はーい」
シュンと俯いて落ち込むカリーナ。
そんな顔をさせたいワケではない……だが喉を潰した影響でアズはこんな喋り方しかできない。
「えっと、それでアズはここで何をしていたの?」
「……これ、作ってた」
アズはローブの中からある物を取り出した。
それは紐を通した翡翠色の石だった。
「? これって?」
「鳥獣人の工芸品。穴、見て」
アズはカリーナの首にかけながら説明する。
石には平べったい穴が二つ開き、中は空洞になっていた。
「息、吹き込んで」
「……!」
言われたとおり咥えて吹くと、小鳥の鳴き声めいた音がピィィ、と鳴り響いた。
「笛?」
「そう。これ作る、だからここ来た」
「そうだったんだ……」
「カリーナ、あげる」
「え、いいの?」
「ん。その代わり、ずっと付ける。何かあったら吹く。駆けつける」
これはカリーナが危険に巻き込まれた時のための保険だった。
危機が迫ったとき、この笛を吹き鳴らせばどこからでも駆けつけられる。
「……いいのかな」
「構わない。……一人」
「?」
「一人になりたい時、ある。誰にでも」
仲間たちと過ごすのは心地良い。
だが同時に、ずっとそうでは息が詰まるということをアズは知っていた。
ゆえに笛を持たせて対策する。カリーナが一人の時間を過ごせるように。
「そっか。……アズ、ありがとう!」
「ん」
お礼を言われて、アズは満足そうに頷いた。
(――獣人窟に来た、それだけじゃない、けど)
アズはローブの中に隠した
カリーナは大切だ。命に代えても守る。
だが。
(カリムはただ一人の友達。――絶対、諦められない)
それでもカリムは、唯一の友達は一人きりなのだ。
「……帰る。ストラ、怒髪天」
「え、なんで?」
「……マリアナも追加。説教、覚悟」
「え~?」
しかし、それをカリーナが知る必要はない。
ただ、いずれ訪れる
それ以外は、自分の仕事だ。
(――【黄泉がえり】。幻の魔法。絶対、見つける)
冷たき瞳の奥に、意志の炎を燃やしながら。
アズは密かに誓うのだった。