勇者PTに追放されたので捨て鉢で魔王と相打ちになったらTS転生した ~実は仲間たちは自分を逃がそうとしていたみたいです~ 作:闇の有翼人種
パソコンが壊れたりしてました。
新しい環境に慣れるまではスローペースかもしれませんが、今のところはまだまだ続けようと思っていますので、お暇な時間があれば見ていただけると幸いです。
「その節は大変すみませんでした……」
「嫌ですわぁ、勇者さん。気にしとらんって言うとりますのに」
浴場凍結騒動から数日経ったある日。風邪も治ったボクを連れて、一行はとある商会を訪れていた。
商会の店舗は不思議な内装をしていた。木造の建物は吹き抜け構造になっていて、高い天井までよく見える。中央には玉石が敷き詰められた小さな中庭があり、石の置物や朱色の木で組まれたモニュメントが映える位置に設置されていた。そしてそこら中にガラスの玉から紙を垂らした物が吊り下げられていて、風にチリンチリンと揺れている。
異国情緒という言葉がよく似合う、まったく馴染みのない光景。
それもそのハズというべきか。目の前にいる商人はまさにその異国出身なのだから。
「むしろ高名なお人に魔法をかけてもろうたんやから、箔がつくってもんですわ」
不思議な喋り方をする糸目の男性こそが、このカザネ商会の主。
名前をノリアキ・カザネ。ワダツミ皇国出身の商会長だ。
そして例の大衆浴場のオーナーでもあった。
だから、ストラが頭を下げているワケで。
「しかしワダツミから帰ってきたらえらいこっちゃなってたなんて部下から報告受けた際は、そら仰天したもんです」
「う……重ね重ね申し訳ない……」
「もう、ええです言うてますのに」
カラカラと笑うノリアキさんは、先日本国であるワダツミから帰ってきたばかりなのだと言う。ボクらが浴場をお借りした時も許可を出したのは代理の人だったらしい。だからこうしてストラが直接謝りに行くのがボクの風邪が治るくらい後にズレ込んでしまって今に至る。
「なんとお詫びしたらいいか……」
今回は100%こちらに非があるからか、ストラはずっと恐縮している。ちなみに当の本人であるアズはその横で知らんぷりだ。ボクに風邪を引かせてしまったことだけには罪悪感を抱いていたようだったけれど、そもそもアズは世間の評価を気にしない。そういう対外的な折衝をするのは決まってストラやマリアナさんだった。
こうして見ると、勇者はホントに大変だ。
「確かに技師を呼び戻しての全体メンテナンスになりましたけれど」
「う」
「点検した結果幾つか水道管が破裂してたもんですから、取っ替える羽目になりましたけれど」
「うう」
「結果として一般開放がすこーし遅れるくらいの被害しかでんかったんですから、なーんも気にすることはありませんわ」
「ううう……!」
……何だろう、口ぶりや表情はホントに気にしてない風なのに。
セリフだけ見ると皮肉を言っているようにしか聞こえない。
「そんなことより、お怪我があらへんかったかどうかのが心配やわ」
「それは、問題ない。うちで面倒を見ているこの子が風邪を引いたくらいで……」
「あら、それは大変やわ。嬢ちゃん、大丈夫かいな?」
「は、はい。もう治りました」
「そうかそらよかった。お大事に、な」
……いい人、なんだよね?
なんか言葉の端々に含みがあるような気がしてならない!
「とにかく詫びとして、こちらで何かできることはないだろうか……。そうだ、賠償金!」
「いやいや、それこそアカンですわ。勇者様たちの活動資金は国からの支援金やろ? そんなとこからもろうたら、後で問題になりますわ」
「うぅ……」
「呻いてばっかりやなぁ」
勇者パーティの活動資金は各国からの支援で成り立っている。そこから捻り出したら……着服か、あるいは癒着か……とにかく発覚したら碌なことにならないだろう。
「しかしこれでは、こちらが一方的に迷惑を掛けたことになってしまう。なんらかの形で補償させてはもらえないか」
「と、言われましてもなぁ」
「こちらでできることはなんでもする!」
「……ほう、なんでも、と」
カザネ会長の目がキラリと光った……気がした。
「そん言葉に二言はありませんな?」
「? は、はい……」
「せやったら……」
糸目を更に細めて会長は言った。
「体で払ってもらいましょか」
「……え!?」
※
「こういうことか……」
訓練場でストラは安堵の息をついていた。
魔族との最前線である開闢都市には、当然軍備が存在し、軍事施設がある。この訓練場はその一つだ。
今、勇者パーティはそのグラウンドにいた。
そして、対峙するように並んだバラバラな装備の戦士たちも。
カザネ会長が求めたのは訓練への協力だった。
『僕の伝手で集めた奴らなんやけど、一緒に着いたばっかでなぁ』
彼らはどうやら外で雇ってきた傭兵らしい。
開闢都市の主戦力は傭兵だ。
何故なら、各国の正規兵は派兵が難しいくらいには悲惨な状況だからだ。
魔族による激しい侵攻へ矢面に立って対抗してきた結果、軍隊はどこもグチャグチャな有様だ。それこそ勇者に頼らざるを得ないくらいに。
青空を取り戻した今でも部隊はどこも再編中。それ以前はどこも壊滅状態だった。自国を守ることで手一杯で、他所に兵士を派遣することなんてできやしない。
極東がゆえに被害を免れたワダツミ皇国なんかもあるけど、今度は遠すぎて兵を寄越すには地理的に難しい。
なので開闢都市は金で雇える傭兵を攻防に利用していた。
魔王は討ち果たされたとはいえ、まだまだ魔族の残党は多く安心はできず、治安維持のためにも傭兵の手は必要だ。開闢都市を更に拡大していくなら、尚更に。
彼らはそうして集められた新たな人手なのだろう。
『勇者様に訓練つけてもらえんのなら、この上ない名誉やろ』
そして開闢都市最大戦力である勇者が主戦力である傭兵に訓練をつけても違和感はさほどない。
なるほど。これなら怪しまれたりもしない。流石は商人。よく考えている。
問題は、それが本当に礼になるかどうかだけど……。
訓練場はちょっとした闘技場のようになっていて、グラウンドの外縁が客席になっている。ボクはそこに座ってみんなを眺めている。
三人の正面。そこには今回集められた傭兵が百人ほど並んでいた。
一部を除いて荒くれ者そのものといった雰囲気の彼らはストラたちを見て、嗤っていた。
「……あのメスガキが勇者ァ? ホントかよ」
「ギャハハ! 女ばっかじゃねぇか!」
「こりゃあ、魔王も大したことなかったに違いねぇな」
……訓練が礼になるかどうか。その心配は無用だった。
確かに訓練が必要のようだ。
分からず屋には、きっちり教育しないと。