勇者PTに追放されたので捨て鉢で魔王と相打ちになったらTS転生した ~実は仲間たちは自分を逃がそうとしていたみたいです~   作:闇の有翼人種

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訓練 1

 傭兵はイメージそのまま、荒くれ者が多い。

 もちろん全員が全員そうってわけじゃないけど……概ねは予想を外れない。

 ガサツで乱暴。喧嘩っ早くて大雑把。そのくせ金にはうるさい。

 暴力だけが取り柄で、学がないから他の職には就けないような奴ら。

 傭兵はそんな連中の集まりだ。

 

 しかしだからこそ、というところはある。

 今の時代……というよりついこの間までは、人がバンバン死んでいく時代だった。

 そんな中で命を張る職業に就けるのは、よっぽど正義感が強い人か、あるいは血の気の多い人間くらいだ。

 賢い人間はさっさと逃げ出して、後に残ったからこそ荒くれ者ばかりであるという説が有力だ。

 

 それゆえ、彼らもご多分に漏れない。

 それはいい、のだが……。

 

「へっ! 女だてらに勇者なんてやってるからどんなメスゴリラなのかと思えば……」

「可愛いお嬢ちゃんじゃないの。しかも子どもまでいやがる」

「ホントに剣が振れるんでちゅか〜?」

 

 ……いくらなんでも舐め腐り過ぎである。

 確かにこれまで同道した傭兵の中にもストラたちが女性であることから横柄な態度を取る奴らはいた。ボクに対してガキだと因縁をつけてくる奴も。

 だからそういった手合いがいることは分かっていたのだけれど……まさか魔王が倒された後でも出てくるとは。

 普通に考えても百年以上人類を苦しめてきた親玉を倒した大英雄だ。ホントはちょっと違うけど……でもそれ以外に八魔将を倒した実績もある。

 その風評を聞いていないハズもない。なのに、この態度とは。

 ボクでもちょっと驚きだ。

 

「……久しぶりね、こういう輩」

 

 ストラも眉を顰めるというよりは、物珍しそうに目を丸くしている。

 最初期は勇者の存在や聖剣の性能が未知数で、イグニス王国からすらも半信半疑だった。その頃を思い出す。

 

「あらあら……」

「面倒。見るに堪えない」

 

 マリアナさんは困ったふうに頬に手を当て、アズは興味なさげ。

 どこ吹く風だ。

 今更多少馬鹿にされたところで癇に障るほど、勇者一行は子どもじゃない。

 

 白けた表情で三人が突っ立っていると、横柄な態度を崩さない傭兵たちの中から一人の男が歩み出てくる。

 

「……アンタがカザネ会長の言っていた勇者さん、ということでいいんだな?」

「そうよ。でも人に誰何する時は、自分から名乗るのがマナーじゃないかしら」

「ハッ! これは失礼をしたな。俺はググフ。傭兵隊長をしている。と言っても後ろの連中全員じゃなく、その中の三十人くらいだがな」

 

 青髭を生やした筋骨隆々の、如何にも戦士という男だった。革鎧に槍を背負い、中々歴戦の風格を醸し出している。

 

「だが自慢じゃないが……ここに集まった連中の中じゃ一番俺がつえぇだろ」

「アンタが? ……ふぅん」

 

 ストラは一瞬だけググフの肩越しに傭兵たちを見たが、すぐに目を戻した。

 

「ああ。……ちなみに『この中』ってのは、もちろんアンタたちのことも含めての話だぜ」

「………」

 

 ググフは素直に自己紹介に応じたが……それは何も勇者に対して敬意を払ってのことではなさそうだ。

 明らかに他の傭兵と同じように、舐め腐った目をしている。

 

 ググフはストラの眼前に立った。

 巨躯と言えるググフとの身長差はかなりのものだ。従って、見下ろされる形になる。

 だが、注がれる視線にも精神的な“見下し”が籠められていた。

 

「訓練付けるってのはいいけどよ、恥かかなきゃいいなァ」

「………」

 

 揶揄うようなググフの言葉に、ストラは無言だ。

 ただそれは言い返せないからではなく、何か別の考え事をしているからのようだった。

 つまり、眼中にない。

 

「っ、おいーー」

「では、私から参りましょうか」

 

 業を煮やしたググフが掴み掛かろうとした寸前、マリアナさんが手を挙げて言った。

 

「アァ?」

「訓練の話です。皆さん、実践形式を所望していらっしゃるようですので……こうしましょう」

 

 傭兵たちの視線を一点に受けながら、マリアナさんはいつもの微笑を崩さずに提案する。

 

「私たち一人一人がお相手します。そちらはどなたが、何人でも来て構いません。その後に総評を述べて、駄目そうなところは修正する……という形でどうでしょうか?」

 

 穏やかに、丁寧に言っているが、それはつまるところこう言っているも同然だ。

 “かかってこい。何人でも相手してやるぞ、雑魚どもが”。

 

「……へぇ〜、それはそれは……光栄なことで」

 

 ググフはこめかみをピクピクと痙攣させ、引き攣った笑みを浮かべた。

 見事に神経を逆撫でしたらしい。マリアナさんのことだから、単純に不満そうな傭兵たちへと訓練を早急に終わらせる提案をしただけだろうけど……そういうところ、天然だからなぁ。

 しかし効果はテキメンだ。傭兵たちは全員色めき立っている。

 中でも一番効いているのは、やっぱりググフである。

 

「なら……俺のお相手はアンタがしてくれるんでしょうね、司祭様?」

「ええ。そのつもりで申し上げました」

 

 威圧するググフへと、ニッコリと変わらぬ笑顔で応えるマリアナさん。

 それが更に怒りへ油を注ぐ。顔を赤くしながら、ググフは背中の槍に手をかけた。

 

「お前らは手を出すんじゃねぇぞ!!」

 

 背後へと怒鳴りながら、ググフは槍を引き抜く。

 

「よかった。では、お二人もそういうことで」

「ん。それでいい。楽」

「ええ。……分かったわ。少し、気になることもあるし」

 

 二人が頷くのを見てマリアナさんも、少し離れたところで戦闘態勢に入った。

 

「へっ、神サマの僕だからって、手加減してもらえると思ったら大間違いだぜ」

「ええ。理解しています。心掛けるべきのは他人ではなく、自身ですから」

 

 ググフは深く腰を落とし、両手でいつでも突き出せるよう槍を構える。その姿は実に堂に入ったもので、歴戦の風格を感じさせる。流石に口だけではないようだ。

 

 一方のマリアナさんは右手にハンマー、左手にタワーシールドを構える。白亜の金属で造られたそれらは見るからに重そうだが、マリアナさんの体幹は揺るぎない。

 

 飢えた猛獣めいた荒々しい気配を立ち上らせるググフに対し、マリアナさんの纏う空気は凪いでいる。教会の中で立っているかのように自然体で、泰然自若。

 対照的な両者は向かい合い、視線をぶつけ合う。

 

「では審判役は、ストラにお願いしますね」

「いいわよ。……では、始め!」

「おおおおぉぉっ!!」

 

 ストラが開始の合図を言い放った瞬間に、野太い雄叫びと共に地を蹴った。

 先んじたのは、ググフ。

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