勇者PTに追放されたので捨て鉢で魔王と相打ちになったらTS転生した ~実は仲間たちは自分を逃がそうとしていたみたいです~ 作:闇の有翼人種
魔王城への道中は、何もなかった。
それは予想通りだ。だってさっきまでいた都市は通称開闢都市。魔族の領域に深く食い込むように建設された人類の橋頭堡だ。
そして魔王城もまた、人類を攻めるために前線に寄って建てられている。なので開闢都市と然程の距離はない。
その上今日まで勇者パーティを始めとする勇士たちが魔族と戦い、城まで追い詰めたのだ。決戦直前は伊達ではない。道中に危険がないのは予想出来たことだ。
……だから、問題はこの後だ。
「これが……魔王城」
ボクは聳え立つ城壁を見上げ、息を呑んだ。
勇者パーティの一員として様々な戦場を転々としてきたので、城や砦というのは見慣れたものだ。だがこの魔王の根城は、そのいずれとも比較にならないほど大きい。
開闢都市全部……とはいわずとも、半分くらいなら余裕で入りそうだ。
流石は魔族最後の砦。これからその中に潜入するのだと思うと身震いしてしまいそうになる。
「何とか見つからずに来られた……」
大きいということは死角も多いということ。幸い、斥候であるボクはその死角を見つける技能に長けていた。
それに大軍勢ならいざ知らず、荒野を歩く小童一人を物見塔から見つけられるワケがない。
「さて、と」
城壁に手をついたボクは早速
黄色に緑にオレンジが斑に混ざった奇っ怪な液体を一息に飲み干す。
変化はすぐに始まった。掌がウニョウニョと蠢き、爬虫類めいた質感の肌へと変わる。
「よし、成功……!」
これで城壁に手をついて移動できる。効果は短時間だが、登り切るどころか中枢へ侵入するまではそれ程掛からない。ボクは靴も脱ぎ、四つ足を使って城壁へと張り付いた。
ピッタリしっかりと張り付いてくれるおかげで垂直のクライミングでも楽々と行ける。
まさか人間が城壁を垂直に登ってくるとは魔族も夢にも思うまい。
見つかるということもなく、城壁を登り切った。
「……見張りもなし」
キョロキョロと動線を確保しながら、城の中へ中へと潜入していく。
構造は、記憶にある限りの地図と同じだ。
とはいえ、流石に地図の隅々まで憶えられているワケじゃない。
それでも、重要なところだけは記憶にクッキリ刻みつけていた。
「……あった!
見つけ出したのは廊下の天井近くに作られた四角い格子戸だった。これは広く入り組んだ造りである魔王城の通気性を良くするために、隅々まで張り巡らされた通風口だ。
トカゲの手足を使って上がり、格子を外す。厳重に嵌め込んでいるワケではないようで、ボクの力でも楽々外せた。
ササッと侵入し、内側から格子を閉じる。
「よし、よし。順調だぞ……!」
通風口の中は狭いが、ボクの体格なら辛うじて音を立てずに這いずることができる。
これがみんなと考えた魔王城への侵入ルートの一つ。
結局、マリアナさんの体格では入らないだろうと没にした計画だったけど……ボク一人なら問題ない。覚えておいてよかった。
まだ効果時間の続くトカゲの手足も利用して、狭い迷路を這い進んでいく。
通風口は情報通り入り組んでいた。多少迷いつつも、目的地目指して進んでいく。
目的地……当然、それは魔王のいる場所だ。
(謁見の間……!)
玉座のある場所。
そこに魔王がいる。
想像しただけでぞわりと肌が粟立つ。
人類の仇敵。今まで何度も人類の軍勢を退けてきた軍神。そしてたった一人で大陸のほとんどを暗雲で覆えてしまう膨大な魔力の持ち主。
どれ一つとってもボクが敵う要素はない。だけどそれでもやらなくちゃ。
ボクの命一つでストラたちが勝てる確率が1%でも上がるなら安いものだ。
謁見の間に近づくにつれ、通風口の迷路は複雑さを増していく。
侵入者を予想していたのだろうか……? とにかく迷いやすく、同じような風景が続いて方向が分からなくなる。通風口の隙間から見える景色を見ても、それは同じだった。
そして遂には、自分のいる位置を完全に見失ってしまった。
(どうしよう……)
もう魔王城への中枢近い。それは確実。だが通風口から見える光景に謁見の間らしきところはない……地図では続いていたハズなのに。
いっそ降りて探すか……? だけどそれじゃ見つかるリスクが跳ね上がる。
何人かの魔族の姿は目撃している。いずれもやり過ごしたから、侵入には気付かれていないハズだけど、でも見つかったら応援を呼ばれてしまう。そうなれば一瞬で魔族を無効化する手段に欠けるボクじゃ一発アウトだ。
だけどこのまま延々と通風口の中を彷徨うワケにも……!
「―――。――」
「……?」
話し声が聞こえる。ボクはそちらへ吸い寄せられるように這いずった。
通風口の格子。その間から見下ろすと、そこは誰かの私室のようだった。
ベッド。クローゼット。人間と然程変わらない調度品が並ぶ部屋の中で佇むのは、場違いな一人の魔族らしき影。
らしき、と置いたのはその人物が全身に黒い甲冑を身につけていたからだ。兜もフルフェイスの物を被り、身体全部をスッポリと覆い隠している。おかげで性別も分からない。
黒鎧の人物は、兜でくぐもった声で手にした水晶へと何か話しかけていた。
「ああ。もうこちらには一切の余裕はない。八魔将もお前たち二人を残して斃されてしまった。勇者共はここまで乗り込んでくるだろう……その時が最後の決戦となる」
うん。魔族で確定だ。八魔将は魔族の幹部。そのほとんどが既に人類の手によって討ち取られているのも正しい情報だ。それを味方側で語るということは、魔族で間違いない。水晶は通話用途のマジックアイテムだろう。
しかし、通話相手は八魔将なのか? だとすると、魔族最高幹部に随分上から目線じゃないか……?
「各地の魔族を集める? いや、もう残っている連中を集めたところで物の数にはならないだろう。人類諸国への牽制も必要だしな……。彼奴ももうしばらくは帰ってくるまい。ならば結局は、お前だけに警護を任せた方が安心できるというものだ。
……フッ。誰を心配している?
我は不死身の魔王だぞ?」
――!
魔王!
確かに……魔王は全身鎧に身を包んだ風貌だとは聞いていたけど……。
ということは、ここは魔王の私室か。
これは思わぬ幸運に恵まれたぞ。
魔王はこれ以上なく油断している。親しげに相手と通話していることからもそれは明らかだ。
ここで不意打ちをすれば、痛手を与えられる……!
音を立てないように構える。いつでも飛び出して襲いかかれるように。
タイミングは通話を終えた瞬間だ。通話中だと向こう側に聞かれて、増援を呼ばれる恐れがある。通話を切った一瞬が、仕掛けるチャンス……!
これはボクが普段使いしている短剣だ。特殊な効果はないけれど細く鋭く、鎧通しとしては最適だ。あの鎧が如何なる鉱物でできているのか知らないが、隙間なら貫けるハズだ。
コイツで急所を突けば、いくら魔王だってタダでは済まない。
ギュッと柄を握り締め、息を呑んでその時を待つ。
心臓が早鐘を打つ。内臓という内臓が口から飛び出してきてしまいそうだ。ボクは緊張の極限で叫び出しそうになるのを堪えながら、ジッと耐え忍んだ。
「……ああ。分かっている。無暗に死ぬことはしないさ。……では、またな」
魔王が通話を……切った。
今だ。
ボクは無言で通風口を飛び出し、魔王へと躍りかかった。