勇者PTに追放されたので捨て鉢で魔王と相打ちになったらTS転生した ~実は仲間たちは自分を逃がそうとしていたみたいです~ 作:闇の有翼人種
マリアナさんの魔力操作技術は勇者一行の中で随一だ。
魔法は効果が強力になればなるほど膨大な魔力か、繊細な魔力操作が要求される。
マリアナさんの魔力は一般人よりは多いが、魔法使いや僧侶として見ると並だ。
だから魔力を大量に使う魔法は使えない。少なくともアズのように広い浴場を一気に凍らせたりという真似はできない。
だけどその代わり、魔力操作技術によって難度の高い魔法を行使できる。
人体を癒す治癒魔法や……人の意識を一瞬で奪う高等魔法まで。
「………」
ついさっきまで溢れんばかりの殺意を漲らせていたハズのググフは、突如意識を失ったかのようにその場で倒れ伏した。
しかしそれは正確なところではない。厳密に言うなら、
「……あぅー」
倒れ込んだググフは、地べたに頬をつけた状態で恍惚とした表情を浮かべていた。頬は赤らみ目は蕩け、半開きになった口からは涎が垂れている。まるで赤ん坊が母親にマッサージをしてもらった後のような、不安も憂いもないただただ安らいだ顔をしていた。
「な、なんだ……?」
「い、一体どうしちまったってんだよ」
何が起こったのか分からず、傭兵たちはざわめく。
一方で事情を知っているストラたちはこうなることが分かっていたと言わんばかりに頷いていた。
「詠唱破棄とは流石ね」
「ん。マリアナだからできる。他の誰にも無理」
「でしょうね。
──戦意喪失魔法・【
それがマリアナさんが使った魔法の正体。
効果はストラが言った通り、自分より保有魔力が小さい相手の心に働きかけ、その戦意を根こそぎ消滅させる魔法である。
戦意を失った者は戦う姿勢を維持することはできない。
怒りを忘れ茫然となるか。あるいは殺意が立ち消えて怯えるか。またあるいは……脳に戦意を漲らせすぎたせいで、一切の思考を一時的に失ってしまうか。
ググフの症状は、まさにそれだ。
非常に強力な魔法である。
自分より格下の相手を問答無用で戦闘不能にさせる。それは魔法、いや戦闘という行為における究極系の一つだろう。
ただ、惜しむらくも弱点も多い魔法である。
一つは、ダメージを与えられないこと。傷つけるための魔法ではないからだ。
もう一つは、格下の──つまり、術者よりも魔力が低い相手にしか使用できないこと。
その所為で、高い魔力を保有する魔族相手にはあまり効かなかった。一緒に旅している間、この魔法が役立った場面をボクも数えるほどしか目にしていない。勇者の相手はほとんどが魔族。なので使用機会は極めて少ない。
だから、使い所を見極める必要がある。
例えば、今のように相手が大規模な魔法を使い、魔力がすっからかんになった隙を突く、とか。
「ふふっ。油断大敵ですよ。これはいい訓練になりましたね」
倒れたググフを見て、マリアナさんは相変わらず微笑みを絶やさない。
彼女にとってこのくらいは、笑顔を崩すようなことではないのだ。
……相変わらず、恐ろしい実力だ。
ボクのような魔力のない人間では太刀打ちできない。
もっと恐ろしいのは、これがマリアナさんにとって手札の一枚に過ぎないと言うことだ。
今回はググフが魔法を使ったから【
この間逃げ出したアズに使ったような拘束魔法を使うもよし。あるいは自分に
とにかく引き出しが多い。豊富な手札で如何様にも戦える。それがマリアナさんの強さだ。
もっともそれは、マリアナさんだけじゃないけど……。
「さて、それでは……お次の方はいらっしゃいますか?」
仲間の傭兵が茫然自失となったググフを訓練場の端へと運んでいくのを横目に、マリアナさんはそう言って首を傾けた。
「つ、次って……」
「お一人と戦って終わりでは、味気なさすぎるでしょう。これは戦闘訓練ですし」
「ど、どうする……」
「いや、んなこと言ったって……」
しかし傭兵側はすっかり怖気付いてしまっていた。一瞬でああなってしまったググフを見れば、無理もないが。
「あら、私ではだめですか? なら、次はアズちゃんにやってもらいましょうか」
「え。……面倒」
指名されたアズは、あからさまに顔を顰める。
「発案、マリアナ。なら、やればいい。最後まで」
「お忘れですか? この戦闘訓練のご依頼は勇者一行全員に向けてお願いされているんですよ」
「それに、そもそもの発端はアンタでしょ、アズ」
「むぅ……」
ストラの恨みのこもった指摘に、渋々アズは前に出た。
「しょうがない。次、私。相手、来い」
「……ガキ?」
前に立ち、半目で億劫そうにするアズを見て傭兵たちの戸惑いは強くなる。
だが、一部は元の調子を取り戻した。
「へ、へへ……な、なんだよ、今度は子どもかよ」
「しかもチビで、見るからに魔導士じゃねぇか……」
アズは背が低く、年齢通りの見た目をしている。しかも魔導士という存在は基本的に近接戦闘が不得手で、単体での戦いを苦手としていた。
着ているのもローブだけ。
つまり、鎧で身を固めたマリアナさんよりかは、与し易い相手に見えたのだろう。
加えて、いつも露出を面倒くさがっている所為で顔が知られていないというのもある。
「でも、なんでガキが勇者一行に……」
「知るかよ! おい、やるぞ。ググフの敵討ちだ」
中には先ほどの戦いを見て警戒し尻込みする者もいたが、今度こそ屈辱を晴らそうと武器を手にする傭兵もいた。
結局、前に出てきたのは半数近い四十人ほどだった。
厳しい面構えの大人たちが一人の子どもを囲うように展開する光景は、中々に異様だった。
「へ、へへ……何人でもかかってこいって言ったのはお前らだからな。卑怯なんて言うんじゃねェぞ?」
「? 言ってない、問題ない、構わない」
「なっ……」
「さっさとかかってくるべき」
自分を囲む傭兵たちを前にしても、アズに怯みはない。むしろ退屈げに傭兵たちを眺めてため息をついている。
「好都合。全員倒せば、早く済む」
「テメェ……!」
生意気な口を叩かれたと思った傭兵たちがいきり立つ。それぞれの武器を握り、怒りのオーラを充満させる。
火に注がれた油は、すぐに爆発する。
「──かかれ!」
誰かが発した号令で、幕は切って落とされた。