勇者PTに追放されたので捨て鉢で魔王と相打ちになったらTS転生した ~実は仲間たちは自分を逃がそうとしていたみたいです~ 作:闇の有翼人種
「あの生意気なガキをやっちまえ!」
誰かから飛んだそんな怒鳴り声を号令に、傭兵たちの一斉攻撃が始まる。
今度はググフ単体ではなく、四十人弱の軍団による攻撃だ。つまり、組織だった戦術に則って行われた。
「まずは、飛び道具か……!」
弓、あるいは投石。
それらが距離を置いた位置から投射される。
突撃し、切り結ぶ前に遠距離攻撃。それが戦場の定石。
いくら素行が悪くても兵士は兵士。戦場をそれなりに経験してきたのだろう。特に相談することもなく、全員が合わせた。
何百何千と集まる戦場においては雨霰のように降り注ぐ光景を見ることができる。
流石にこの人数ではそこまでの圧力ではないが、それでも曲線を描いて迫り来る矢弾の数々は常人では避けることは愚か凌ぐことすら難しいほどだ。
それでも、アズが行ったのは一言唱えるだけ。
「【
ただそれだけで、矢も石も弾かれることになる。
アズを中心に球状に広がった、見えない壁によって。
「チッ、防殻魔法か!」
「硬ェ……ビクともしてねェ!」
「見たことがねぇくらいの堅牢さだぞ!」
魔力で自分を守る透明な壁を張る。
身を守る防殻魔法は、脆い魔法使いにおける基本中の基本。最初に覚える魔法の一つだ。
だから傭兵たちはみんな知っているし、中には使える者もいるだろう。
だけどアズのそれは一味違う。
【
しかしひび割れは魔力を消費することで簡単に直すことができる。魔力を注ぎ込んで片端から直し、鉄壁を維持することで防御力を補う。割れやすいが直しやすい。それが通常の【
アズは違う。
そもそも、ひび割れない。
初めから籠められた魔力の密度が圧倒的に違うのだ。
「魔法だ! 魔法を打てる奴は使え!」
業を煮やした傭兵側は、攻撃を矢から魔法へと切り替える。魔力の温存はやめて、まずは防御を突破する戦略に変えたようだ。
人によるが、矢よりも魔法の方が遥かに威力があるのが普通である。
矢に混じって魔法が飛ぶ。火の玉、あるいは氷の槍。
どれもまともに受ければ一瞬で命を奪われるようなものばかりだ。それくらいしなければアズの【
凄まじい衝突音。
しかし──球状の壁は健在だった。
「なん、つー硬さだ……」
「クソ、矢と魔法を止めろ! 接近して叩き割るぞ!」
このままでは残弾と魔力を無駄に消耗するだけだと、傭兵たちは近接攻撃に切り替えるらしい。
誤射を恐れ、一度遠距離攻撃を止め、武器を構えて突撃準備に移る。
それは真っ当な戦術だ。【
流石のアズでも、その点は変わらない。魔法使いが近接を苦手とするのはそういう理屈だ。
だから、手を変える。
「“船旅は閉じる” “戴冠は滞り、城は崩れ去る” “煌めくは白夜の天河”」
詠唱。それは難しい魔法を使うためのスキル。魔法に合った呪文を唱えることで、魔力は調律され、練り上げられる。
アズが詠唱をするのはマリアナさんほど魔力操作が得意ではないから──だけではない。
操作する魔力が膨大だからだ。
「──【
魔法が発動した瞬間。
訓練場に一陣の風が吹く。
「うおっ」
「なん──だぁっ!?」
背筋を震えさせるような寒寒とした突風が吹き抜けたかと思うと、傭兵の一人がその場でずっこけた。
「はぁ? お前、何を間抜けな──でっ!?」
隣にいた傭兵は、醜態を晒す同胞を笑い飛ばそうとして同じように尻餅をつく。そしてそれは彼らだけではなかった。
アズに殺到しようとしていた傭兵たちは、次々とその場で転けるか、立ち止まることになる。
「ぎゃっ!?」
「んげっ!」
「こ、これは──」
辛うじて踏ん張った傭兵は、辺りを見渡して愕然とする。
「──訓練場の地面が、凍りついている!?」
まるで氷の張った湖のように。
固められた土だったはずの地面が、一瞬の間に凍りついていた。
表面は磨き上げられたかのようにツルツルとしており、ここで立ち上がるのは至難の技だろう。
戦うことは疎か、歩いて近づくことすら。
「ぐ、こうも手もなく……!」
「詰み。逆転、無理。終わる?」
「クソが! 誰が……!」
傭兵たちは悪態をついて立ち上がるが、その足は子鹿のように震えていた。
「ぐ……うおっ」
「滑る……!」
中には武器を杖に無理やり立ち上がる者や、なんとか踏ん張って遠距離武器を構える者もいた。しかし進もうとした瞬間に無様に転び、狙いは満足につけられず矢弾はあらぬ方向へ逸れてしまう。
どうにか届く物もあるにはあったが、一発二発では張られたままの【
完封だ。
アズは動くことすらなく傭兵の部隊を封じてみせた。
滑る氷の上では近づけず、散発的な遠距離攻撃では防御魔法を一生かかっても貫けない。
傭兵たちは、ただただその場で転ばないように踏ん張ることが精一杯だ。
「クソ、こんなことで……!」
「終わり? なら、さっさと降参。面倒」
歯噛みする傭兵たちを前に、アズは退屈そうにあくびをした。面倒くさがりの彼女にとっては、訓練そのものが苦痛で仕方ないのだろう。
だから、さっさと終わらせる魔法を選んだ。たったの二手で勝負を決めるコンボを。
これも、アズの魔力量あっての戦い方だ。
普通、見渡す限りを凍らせる魔法なんて使えない。
一般人の魔力では風呂桶の表面を凍らせるだけで精一杯。魔法使いとして一線級で活躍する者でも溜池くらいが精々だ。それだけで魔力切れしてしまう。
しかしアズは水の気配が一切しない地面を広範囲に凍らせて、息切れ一つない。
膨大な魔力。それによる大規模魔法一閃。
それがアズのもっとも強い戦い方だ。
アズにとって、この程度は朝飯前だ。
しかし片手間のようにあしらわれた傭兵側は当然のことながら面白くなかった。
「クソ、クソ! こんなので……」
「チクショウ、あんなガキなんかに」
「卑怯者! 正々堂々、正面からかかってこいや!」
悔しげな傭兵たちはアズに向かって悪態を繰り返す。震える足でどうにか立っている現状では、それしかできないからだ。
「俺らが怖いのか、クソガキ!」
「チビすけが! 大人を舐めるんじゃねぇぞ!」
「……ふあ」
もっとも、アズからすればどこ吹く風。なのであくびを噛み殺しながら、つまらなそうに聞き流していた。
……聞き流していた、が。
「勇者一行なんざ、大したことねェ!」
一人の傭兵が吠えるように言った。
「なにせ──雑魚が一人、混ざってたんだからよぉ!」
「──は?」
氷点下。
その時アズの出した声は、彼女のどの魔法よりも冷え切っていた。