勇者PTに追放されたので捨て鉢で魔王と相打ちになったらTS転生した ~実は仲間たちは自分を逃がそうとしていたみたいです~   作:闇の有翼人種

22 / 28
訓練 5

 アズの出した凍えるような低い声が聞こえなかったのか、その原因となる言葉を発した傭兵は変化に気づかずに続ける。

 

「勇者パーティには荷物持ちにしかならねぇ雑魚が紛れ込んでいたって、そういう話じゃねぇか!」

 

 それは紛れもなく、ボクの──カリーナとなる前の、カリムの話だった。

 

「一人で魔族を倒す実力もねぇのに勇者についてっておこぼれを貰うような半端者! この場にいねぇってことは、どうやら魔王に殺されたって話は本当みてぇだな!」

 

 傭兵の言っていることは正しい。確かにボクは一人じゃ何もできないアイテム係だった。

 だが、今更カチンとくるようなことはない。事実であると認めているからだ。

 ボクは弱く、役立たずだった。だから追放されたのだから。

 

「そんな奴をパーティに入れてたなんざ、勇者一行もたかが知れてるなァ!」

 

 今更の話だ。何も心動かされる話など──。

 

「──それで?」

 

 なのに、その声はどこまでも冷え切っていた。

 

「……あ?」

「それで、お仕舞い?」

 

 傭兵を見つめるアズの瞳には、驚くほど光がなかった。まるで深淵のように、どこまでも深く、深く沈むように。

 極夜の如く。

 どこまでも冷え切った声で呟く。

 

「──お前の、遺言」

 

 パキ、パキという音が訓練場に響き始めた。

 

「は? なん──」

「──あ、足が!!」

 

 音の出所は、傭兵たちの足元。たった今自分たちが悪戦苦闘していた、凍りついた地面。

 ツルツルしてすぐに離れてしまうことに苦慮していた足裏。だが今は、そんなことを気にする必要は無くなった。

 もう転ぶことはない。

 凍りついているのだから。足ごと。

 

「はあぁ!?」

「なんだこれ、離れねぇ!」

 

 まるでブーツの如く足を覆う氷。気づいた傭兵たちは引き剥がそうと試みるも、びくともしない。

 それどころか触れた手は凍りつき、共に氷に覆われてしまう。

 

「ヒィッ!?」

「お、おい、どんどん氷が広がって……!」

 

 氷は、どんどん広がり続けていた。足、膝、腿。身体を遡るにして、範囲は拡大されていく。

 

 それが誰の仕業かなどは、言うまでもなく。

 

「なんで、語る? カリムのことを、どうして嘲る? 何も知らない……お前たちがッ!」

 

 見開かれた瞳が輝きを増す。

 アズの目は生き物の魂を見ることができる特別な目だ。そして魔力とは魂と自然が帯びる力だ。

 だから、彼女の瞳は魔法にも応用される。

 己の魂だけではなく、自然から発露し空中を漂う魔力すらも己の物とする。

 人間亜人には通常不可能な、膨大な魔力を。

 

 注ぎ込まれた魔力によって、地面を凍らせる魔法は触れた物全てを凍らせる魔法へと変貌を遂げた。

 

「うわっ!」

「こっちまで来た!」

 

 氷の範囲は更に広がる。

 今やその範囲は自分の周囲にいる戦っていた傭兵だけではなく、その後ろで観戦していた残りの傭兵たちにも及びつつあった。

 

「……!」

「あらら」

 

 広がり続ける氷原に、マリアナさんは頬に手を当て、ストラは目つきを鋭くした。

 今の所ボクのいる観客席までは届いていない……けど、肌を刺すような冷気だけは伝わってくる。

 ここにいてこれでは、中心地はまさしく極寒だろう。

 

「さ、寒ぃ……!」

「ハ、ハヒィ!」

 

 傭兵たちは白い息を吐きながらどうにか氷の束縛から逃れようと試行錯誤する。ある者は武器を打ち付け、ある者は魔法によって溶かそうと試みた。

 しかし全て無意味に終わる。氷の範囲は武器にまで及び、溶かした端から再び凍りつく。

 

 氷は無慈悲に、真綿を締め上げるが如く身体を上り詰めてくる。

 もはや、逃れる術はなかった。

 

「ヒィィ……!」

「それで、終わり? 遺言」

「た、助けて……おごっ」

 

 こうなった最初の切っ掛け。ボクのことを持ち出してアズを煽った傭兵が許しを乞う。しかしそのための口すらも、氷に覆われた。

 

「むぐっ、グゥ〜〜!!」

「あはっ。遺言、もう言えない」

 

 口も鼻も凍りつき、呼吸すら封じられた傭兵にアズは無邪気な童女めいた笑顔を見せる。しかしその瞳は全く変わっていない。

 冷たく、冷たく。死に向かっていく傭兵を前にしても変わらずに、絶対零度のまま。

 

「おゴォぉ〜〜〜っ!!!」

「……苦しんで、後悔して、死──」

「そこまでよ」

 

 そしてそんなアズの肩を、軽く叩く者がいた。

 

「! ストラ、なんで」

「もう充分でしょ」

 

 アズの傍にはストラが立っていた。

 傭兵たちが辿り着けなかったアズの隣に、いつの間にか。

 

 不服そうに睨みつけるアズに対し、ストラは彼女を落ち着かせるようにその頭を撫でる。

 

「気持ちはわかるけど、やりすぎよ」

「でも──!」

「わかってるって。だから、この場はあたしに任せなさい」

 

 そう言って、ストラは軽く手を振った。

 それだけで、熱風が訓練場を吹き抜けた。

 

 氷はその広がりをピタリと止め、シュウシュウと白い水蒸気に溶け始める。

 口元まで凍らされていた傭兵も、呼吸を取り戻す。

 

「っ、ぷはぁっ!! はぁ、はぁ……あ、ありが……」

「あぁ、でも」

「??」

「収まらないのも、わかるから」

 

 礼を言いかけた傭兵が、固まった瞬間。

 その身体は宙を舞っていた。

 

「憂さ晴らしはしておく」

 

 走る。殴る。蹴る。やっていることはただそれだけ。

 しかしそれが、目にも止まらぬ程に早い。

 氷が溶けて動けるようになった傭兵たちが、反応できないくらい。

 

「ぐげっ!」

「うごほっ!」

 

 一方的にボコボコにされ──立っている傭兵はいなかった。

 死屍累々(ギリギリ生きている)の中で、ストラはパンパンと手を叩く。

 

「これで溜飲を下げてちょうだい、アズ」

「………」

「それに……黒幕はそいつじゃない」

「?」

 

 ストラは件の──氷漬けにされかけた傭兵を踏み潰しながら、目線は残りの傭兵に向けた。

 

「アズが表にあまり出ていなかったように、カリムの存在もまた、あまり知られていない。あんな情弱な奴が知っている方が不自然だわ」

「! ってことは……!」

「ええ。……吹き込んだ奴がいる」

 

 遠巻きに眺める傭兵たち。見せつけられた実力差に慄く集団に向かって、ストラは声を張り上げた。

 

「出てきなさい! もう誰かはわかっている!」

 

 ストラは翠玉の瞳を鋭く細め、傭兵の中の一人を睨みつけた。

 

「アズの氷が広がった瞬間、一目散に後ろに下がった。そして、あたしが傭兵共を気絶させた時にも、身構えた。──そんなの、一丁前の実力がなきゃ不可能だわ」

 

 アズが一直線に眺める視線の先──そこから、集団を割るようにして一人の傭兵が進み出る。

 

 派手な兜飾りをつけた、背の高い女傭兵だった。

 

「……勇者様に実力を認めていただけるとは、光栄の極みですね」

 

 黒髪黒目の彼女は、ストラに敵意を向けられてなお、涼やかな表情を崩さずにそう言った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。