勇者PTに追放されたので捨て鉢で魔王と相打ちになったらTS転生した ~実は仲間たちは自分を逃がそうとしていたみたいです~   作:闇の有翼人種

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訓練 7

 構えを一目見て、ストラは目の前の女傭兵が強敵であると理解した。

 

 薙刀の刃は肉厚で幅広だった。柄を短くして剣と扱ったとしても大剣に見えるくらいだ。相当な重量があるハズだが、しかしその切先に一切のブレはない。しっかりと腰も入っている。それは即ち、武器の熟練度が高いということであった。

 間違いなく精錬された兵士だ。

 

 ゆえにストラは先程の奇特な態度を忘れ、油断なく先制攻撃をした。

 先手を取り、取り続ければ、戦局を優位に運べる。それはあらゆる勝負に通じる黄金の法則である。

 

 刃圏まで潜り込んだストラは聖剣を横薙ぎに振り抜く。真正面からの素早い一撃。

 対してメイリンは薙刀の刃を合わせるようにして対応した。

 刃と刃が噛み合い、鍔迫り合いが発生する。

 

「っ!?」

 

 驚愕に顔が歪んだのはストラの方だった。

 押し返す力が想定よりも強い。

 

「ふんっ!」

「くっ!」

 

 力の差をそのまま生かし、メイリンは下から掬い上げるようにしてストラを持ち上げる。

 堪えきれず、やむなくストラは刃を弾くようにして距離を取った。

 

「っ、怪力……! 亜人の血が混ざっているならば、そういうこともあるか」

 

 亜人獣人の身体能力は種族によって千差万別。中には当然、人間よりも優れた膂力を持つ種族もいる。

 見かけは人間に見えるが、亜人の血が入っているというならば納得だ。

 

 初撃はメイリンが上回った。ニヤリと会心の笑みを浮かべる。

 

「ええ、その通り。生まれつきでしてね。そしてその怪力でリーチが長く、重い武器を振り回す! 馬鹿の理屈だとお笑いになりますか?」

「いいえ。理にかなっているわ。シンプルだけど、それゆえに隙がない」

 

 重くて長い武器を使えば強い。

 単純。しかしそれゆえに明快な理屈。

 自分のリーチに入れなければ攻撃は届かず、重さで負ければ鍔迫り合いに勝てない。

 効果的だ。

 

「でも、単なる力任せだけじゃ勝負は決まらないわ」

 

 もしそうなら、身体能力で負ける魔族たちを前に生き残っていない。

 勇者は存在証明として、怪力の重薙刀へと立ち向かう。

 

 リーチを測るように、メイリンの外周を走る。メイリンは薙刀を構えながら身体を回して追うが、機動力に差があるためか若干の遅れがあった。

 その遅れをストラは突いた。構えからどうしても振り抜けないような態勢になった瞬間、一気に接近し、振られる前に薙刀の内側へと潜り込む。

 

「悪いわね、一瞬で」

「ええ、お互い様に」

「? ──!!」

 

 胴に一撃。ストラはそのつもりで剣を振り抜いた。

 一応は模擬戦。剣の腹で叩き、衝撃を与えて立ち上がれなくさせることで決着をつけようとした。

 しかし当たる直前、メイリンが姿勢を大きく動かす。

 左脇腹から叩きつけられようとしていた聖剣に、まるで自ら当たりに行くように身体を捻る。

 結果、刃は埋まるように足の付け根へ深く食い込んだ。

 

「何を──!」

「こうする腹づもりです!」

 

 深手を負わせるつもりはなかったストラは狼狽するが、一方でメイリンはこれを狙っていたかのように薙刀を振りかぶった。一瞬で我に返ったストラは退避しようとするが、そのために引いた聖剣に固い手応え。

 メイリンの肉体に埋まった聖剣は、その筋肉によって押さえつけられていた。

 

「これで逃げられないでしょう!」

 

 ストラは勇者。戦闘スタイル的にも道義的にも、聖剣を捨てるワケにはいかない。

 捨て身で捕らえた超至近距離。メイリンは薙刀を短く持ち替え、懐の勇者へ向かって振り下ろす。

 

 近すぎる上に、攻撃手段も回避手段もない。

 決着──だっただろう。

 もし彼女が握っていた剣が、普通の剣ならば。

 

「──【励起】」

「!! っっあ!!」

 

 聖剣を握ったままのストラは小さく唱えた。

 その瞬間刀身から迸るのは、紅蓮の炎。

 一瞬だけ燃え上がったそれは、メイリンの筋肉による拘束を緩ませるには十分だった。

 

 炎の残滓を纏う聖剣を引き抜いて、メイリンの身体を蹴るようにして距離を取る。

 死地を脱したストラはため息をついた。

 

「ふぅ……まさか、傷を負ってまであたしを捕まえようとするなんて。おかげで──」

 

 ──聖剣を使わざるを得なかった。

 その事実は少なくとも、戦士としての後手に回ったということを意味していた。

 

 だがストラの本職は勇者であって、聖剣を使う者だ。

 その意味としては、まだ敗北という二文字には遠い。

 ……しかし。

 

「ふむ。失敗はしましたが、まずは最低限の本気を引き出せただけよしとしますか」

「……そこまでやるつもりはなかったのだけれど」

「? ああ」

 

 惜しかったと肩を竦めるメイリンだが、その腹は聖剣が突き刺されて悲惨なことになっている。

 だくだくと血が溢れている上に、火傷まで。

 もし内臓か神経が傷ついていれば戦士生命に関わるほどの大怪我だ。模擬戦で負うにはあまりに深すぎる重症である。

 

 しかしメイリンは今気づいたと言わんばかりの表情で、特に動揺することもなく言った。

 

「ご心配なく。このくらいの傷はほら、この通り──【再生(リジェネレート)】」

 

 言うが早いか、すぐに傷跡は変化する。

 明滅するように光が走ったかと思えば、傷口はまるで逆再生するかのように塞がっていった。火傷も、元通り。

 一瞬の変化の後、そこにはインナーが破れただけの傷一つない白い肌があるだけだった。

 

「! 回復──いや、自己再生魔法ね」

「ご名答。人の怪我は癒せない、そこにいるマリアナ殿の下位互換的魔法です」

 

 そうメイリンは自嘲する。

 だが実際、かなり厄介な性質であるとストラは見抜いていた。

 

 確かに自己再生、つまり自分を回復させるだけならばマリアナの下位互換だろう。その言葉に偽りはない。

 しかし戦士として個体で戦うならば、それだけで十分だ。

 加えて、あの怪力。技量もある。

 一流の戦士が怪我を厭わず捨て身で仕掛けてくる──その恐ろしさが分からないほど、ストラの経験は浅くない。

 

 先ほどの行動は、わざと。そしてまだ、メイリンに模擬戦を降りるつもりはない。

 

「さて、足腰立たなくなるまではお相手願おうか!」

「……なるほど。そういう手合いなら、こちらも少し本気を出しましょうか」

 

 言った途端、炎が溢れるように噴き出す。

 輝陽の剣。その本領を解き放った瞬間であった。

 炎に照らされて、翠の瞳に揺らめく光が反射する。

 

「言った手前、その綺麗な肌がどうなっても知らないわよ」

「ご心配なく。いくらでも癒せますので。それに傭兵が肌だの髪だのを気にするのは、如何にも馬鹿らしい話じゃありませんか」

「言えてるわね」

 

 ならば遠慮なくと言わんばかりに、ストラは聖剣を振るった。

 瞬間、膨張する炎。

 

「っ!」

 

 今度はメイリンが驚愕に身を竦ませる番だった。

 まるで猫をじゃらすかのような気軽な動きで、大木のように太い炎が迫り来る。

 

「ぬおおっ!!」

 

 メイリンは自らの身体で受けることを選んだ。薙刀で切り払うことではなく、むしろ己が身を盾として。

 直感であった。そして確信でもあった。この炎は──

 

 ──鉄すら溶かしうる。

 

「ぐううっ! これほどとはっ!!」

 

 真正面から炎を浴びる。そして直感は正しかったと確信する。

 炎は肉を容赦なく焦がし、骨すら炙る高熱だった。

 まさに、天に燃える太陽の如き熱。

 

 薙刀で受ければ、唯一の得物を失ってそこで終わりだった。

 しかし、身体の方ならば代えが利く。

 【再生(リジェネレート)】の魔法で身体が火葬されるよりも速く再生。炎が過ぎ去っていく一瞬を耐え切る。

 

 そして炎は、風のように過ぎ去り消えた。

 一瞬の出来事。されど身を襲った焦熱は煉獄そのものだった。

 しかしメイリンには呆けている暇もない。

 

「どこに!?」

 

 炎が晴れた瞬間にストラの姿を探す。炎は眩しく、それゆえに前を見続けることができなかった。

 目眩し。人一人を溶かし尽くし兼ねない一撃ですら次の布石に過ぎないと、メイリンはそう断じる。

 

 そしてそれは間違いではなかった。

 ストラの姿は、ない。

 

「どこ、に──」

 

 見渡す。少し離れた場所にはマリアナとアズ。その後背には観客席で観戦する少女。反対側には介抱を受けているググフとだらしのない傭兵たち。己の背後には、遠巻きに眺めるだけのろくでなし。

 ストラの姿は、どこにもない。

 

「な、そんなハズは!?」

 

 忽然として消えた。影も形もない。

 逃げたか? 一瞬その考えがメイリンの脳裏に浮かぶが、すぐさま打ち消す。

 ここで無様に逃げるならば、そもそも挑発には乗っていない。

 

 そう、挑発したのだ。

 ならば相手はもちろん、こちらを完膚までに叩き潰すために動いているハズ。

 

 完膚までに、叩き潰す……。

 

「──っ!!」

 

 気づく。地面に残された黒いシミに。

 訂正する。姿形はないが──()は、あった。

 

「上か!」

 

 見上げる。そこには、先ほどと違わない勇者の姿。

 違うのは炎の位置。剣に纏っていた炎は、今は足裏に。

 

 噴き出す炎によって滞空する、ストラがいた。

 

「人の身で、飛ぶとは……!」

「何も、驚くことはないでしょう」

 

 涼しい顔でストラは見下ろす。

 

「太陽は、空に在るものよ」

「……は、はは……」

 

 メイリンは、ストラから目を離せない。

 しかし、足元の影が大きくなっていることは、予想がついた。

 

 太陽。

 まさに、太陽だ。

 宙に浮くストラ──その背には、日輪が宿っていた。

 

 成層圏の彼方。遠く遠くにある天体ではない。

 聖剣によって形作られた二つ目の太陽が降臨している。

 降り注いでくる壮烈な光と熱が、それで炙られる肌と瞳が、その存在が実在のものであると雄弁に伝えてくる。

 

 その熱量は、先ほどの火柱などとは比べ物にならない。規模は小さいが、それは単に狙いをメイリンに絞っているだけだろう。中身の熱に影響はない。

 アレを受けることは即ち、太陽の中に放り込まれることと同義。

 もちろんストラに殺意はなく、完全に焼き尽くされる前にどうにか消し去ってくれるだろうが、耐えられるかどうかはまた別の話。自己再生が切れるまでは焼かれ続けるだろう。

 ましてや、得物を隠すことなど。

 

 つまり、決着だ。

 これは模擬戦。訓練。得物が溶かされれば、降参するしかない。

 ストラは──ただメイリンの薙刀を奪うためだけに、ここまでしたのだ。

 否──、

 

拳骨(・・)喰らって、反省しなさい」

 

 この程度、なのだ。

 勇者にとっては。

 

「ははは──」

 

 笑うしかなく。

 メイリンは、己目掛けて降ってくる太陽に、文字通り叩き潰された。

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