勇者PTに追放されたので捨て鉢で魔王と相打ちになったらTS転生した ~実は仲間たちは自分を逃がそうとしていたみたいです~ 作:闇の有翼人種
炎が晴れるまで、訓練場にいる人間は無言だった。
傭兵たちはストラの放った太陽の如き火球に、呆然として。
そしてボクらストラの実力をよく知る者たちは、語るまでもないものとして。
ストラは魔法は使えない。だけどその火力は規格外だ。
聖剣の炎は太陽と同じというだけでなく、単純な火力としても強力だ。
並の魔族では太陽で死んだのか、焼け死んだのか見分けがつかなくなるほどに。
炎で全てを焼き尽くす……伊達に聖なる剣と崇められてはいないというワケだ。
だけど炎が晴れた瞬間には、流石に目を見開いた。
その中心にまだ立っている人影がいたからだ。
メイリンは、まだ生きていた。
流石に無傷ではない。身体のあちこちは焼け焦げ、燻っている。それにフラついて、立っているのもやっとという様子だ。
自己再生の魔法を以てしても、完全には癒せないほどのダメージだったのだ。
装備に関しては、更に被害甚大だ。
身につけていたインナーのような服は、燃え尽きて炭になっている。
手にしていた薙刀もない。しかし足元にある赤熱した金属塊が、その成れの果てであることは容易に察することができた。
「ふ、ふふ……これが、勇者の力……」
灼熱に晒されたことでガラス化すらしている訓練場の中心にて、メイリンは熱に浮かされたように笑っていた。
少し離れた位置に、ストラは着地する。
「まだやる気?」
「いえ……武器を破壊されては言い訳のしようもありません。完膚なきまでの敗北です」
命の奪い合いならともかく、訓練ならば武器を破壊された時点で決着だ。
誰がどう見てもストラの勝ちである。
ふっと自嘲するように小さく息を吐いて、メイリンは煤けた髪をかきあげた。……そういえば、羽飾りはまだ健在である。あの高熱に晒されてなお無事とは、何か由来のある品なのだろうか。
「伝説に謳われる
「……アレを魔族以外に使うつもりはないわ」
「そうですか。口惜しい限りです」
メイリンはそう言って肩を竦めた後、ストラへと真っ直ぐ向き直った。
「さて、敗者としての務めを果たしましょうか」
「? 何を……え!?」
突然背筋を正したかと思えば、メイリンはその場で膝を折って座り込んだ。
そして焼け焦げた大地に手をつき──頭を下げた。
あれは……ワダツミに伝わるとされる最大謝罪の姿勢、ドゲザ!?
「な……」
「この度は、誠に申し訳ありませんでした」
屋外で、裸身で。
メイリンは三つ指をついて頭を地につける。
傭兵とボクらという衆人の中でも、意に介さず。
「私は自分の好奇心を優先し、勇者様の仲間を侮辱するという愚行を犯しました。言葉にもならぬほど愚かな行いであり、言い訳にしようもございません」
震えすらなく、謝罪の言葉を述べる。
「どのような裁きも受ける所存です。この度は、誠に申し訳ありませんでした」
「………」
予想以上にキッチリとした謝罪に、ストラも言葉がないようだ。
しばらく呆然としていたが、その後もその態勢のまま一切微動だにしないメイリンを見てストラも我に返る。
そして聖剣の柄を握りしめたまま言う。
「……貴女のした所業は、あたしの仲間、その命の尊厳に泥を塗る行為だわ」
「はい」
「私心は、今も煮えくり返っている。これが野生の只中での話なら、あたしは貴女の首を切り落としていることでしょうね」
「お怒り、ごもっともです」
「……でもね、あたしは勇者だから」
震えるほどに籠っていた手の力を抜き、ストラは聖剣を鞘へと仕舞う。そして翠緑の瞳で土下座の態勢を維持したままのメイリンを射抜きながら言った。
「怒りは飲み込んで、こう言う。……傭兵、メイリン。罪を犯し、償いたいと願うならば、人界を守るために命を尽くせ。ここに集められた通り、開闢都市を守るために本懐を遂げなさい。……それがあたしが貴女へと下す裁きよ」
それはつまり、許すと言うこと。
ストラが選んだのは、勇者らしい行いだった。
「……よろしいので?」
「溜飲が下がった、とは絶対に言わないわ。でもね……」
天を仰ぎ、ストラは曇天を見つめた。
「……一番に腹立たしいのは、結局あたし自身だから」
ボソリとした呟きは、ほとんど聞こえなかった。
用は済んだと言わんばかりに、ストラはその場で踵を返す。
「傭兵らしく命を尽くしなさい。それが罰よ」
「……ハッ」
立ち上がったメイリンは、その場でもう一度礼をする。
その姿はあくまで凛としている。とても全裸で土下座という屈辱的な行為をしていたとは思えないほどだった。
……なんか、最後まで変わった人だったな。
話題の当事者であったボクは、結局彼女にはそんな感想しか抱かなかった。
※
それで訓練は終わり、ストラに変わってマリアナさんが解散を告げた。
もう傭兵たちには逆らう気力もないようで、大人しく言うことを聞いてすごすごと撤収した。
とにかくこれで、開闢都市を守れる一端の戦力となってくれればいい。
まだまだ魔族が潜んでいる可能性は、消えていないのだから。
……しかし。
今回ボクは、見ているだけだったなぁ。
「う〜ん……」
「カリーナ、どうした?」
唸っていると、隣にいるアズが首を傾げて覗き込んでくる。
今は帰り道。訓練場から宿屋まで帰る途上だ。
勇者一行と一緒に歩きながら、ボクは腕を組んで悩んでいた。
「ボク、輪にかけて弱っちいなって」
今回、それを自覚した。
ボクは無力だ。
ストラもマリアナさんもアズも、みんな強い。それは当たり前と言えるくらい確かな事実だ。
だけどググフやメイリンといった傭兵たちだって、ボクよりも強かった。
ボクは白兵も、魔法もできない。
それは何も今が女の子の身体だからというだけじゃない。
前世からそうだ。
鍛えても筋肉がつかなかった。背も低く、十代の少年そのままの細くて見窄らしい身体だった。
足は早い方だったが、韋駄天と呼ばれるほどのものではない。
剣の才能なんてものもなく、ストラの素振りに混ざって剣を振るっても一向に上達しない。ましてや魔法なんてからきしで、アズやマリアナさんに首を横に振られるくらいだった。
努力をしなかったワケじゃない……でもどれだけ鍛錬を積んでも、誇れるようなものは何一つ身に付かなかった。
そして結局、ボクは勇者一行のアイテム係にしかなれなかった。
生まれ変わった今なんて、ただの女の子。
運良く魔王を倒すことができたって……その事実は変わらない。
ボクは守られるだけの、無力な存在だ。
「カリーナちゃん。そんなこと、気にする必要ないんですよ」
「ん。カリーナ、戦う必要ない」
「ええ。これから平和な時代がきっとくる。貴女みたいな子が、平和に暮らせる日が……」
「……うん」
三人はそう言って口々に慰めてくれた。きっとみんなは、訓練に浮かされた少女の譫言程度に思っているのだろう。
でもボクを苛む無力感は三人が想像するよりもずっと、重く、深い。
心の奥底に、へばりつくようにしてあるのだ。
一度死んだ後も変わらない。
急かされるような、追い立てられるような想い。
死は、怖くない。
でも誰の役に立てないことは……怖い。
ただ無力な存在として生き続けることが、恐ろしいのだ。
「……強くなりたいな」
聞かれないように小さく呟き、ぎゅっと拳を握る。悔しい気持ちごと、潰れんばかりに。
けれどその拳にどれほどの意思を込めたとしても……。
それは、小さくてか細い少女の手でしかなかった。
例え命を賭したところで。
この身にできることは、あるのだろうか。