勇者PTに追放されたので捨て鉢で魔王と相打ちになったらTS転生した ~実は仲間たちは自分を逃がそうとしていたみたいです~   作:闇の有翼人種

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襲来

「悪いね、カリーナちゃん。おつかいに付き合わせちゃって」

「ううん、大丈夫。女将さんにはいつもお世話になってるもん」

 

 とある日。ボクは宿の女将であるスードリさんに伴っておつかいに出ていた。

 ボクたちしか泊まっていないとはいえ、宿屋を経営している以上色々の物入りだ。特にスードリさんは地域の取りまとめ役として炊き出しなどもしているため、必然的に買い出しは大量になってしまう。

 スードリさんは女性にしては大柄だが、それでも持てる量には限度がある。いや持てるとしても苦労するのは変わりない。なので手伝いを志願したのだ。

 ストラたちと違って、ボクは宿代を支払っているワケでもないし……。お世話になっている恩を少しでも返したかった。

 

「でも大丈夫かい? 重いんじゃないか?」

「ヘーキ、です……!」

 

 心配そうに覗き込むスードリさんに、ボクは抱えた買い物袋を持ち上げて大丈夫とアピールする。

 けど、本音は結構重い。

 しかし、根を上げたくはなかった。

 

 この間の訓練を見学して、ボクは実感した。

 ボクには力がない。一欠片もない。

 この身体になる前からないのに、この身体になった後は更に非力だ。

 

 このままでは、長い間ストラたちの世話になってしまう。十年、あるいは、それ以上。

 それは、嫌だった。勇者であるストラたちをそれだけの間煩わせてしまうのも申し訳ないし、ボクにも男としてのプライドというものがある。

 少しでも戦えるように、最低でも自活できるように。己を鍛えたかった。

 

 なのでこうして手伝いをして筋トレをしているのだけれど……。

 

「……ホントに大丈夫かい?」

「む、むぐぐ」

 

 こ、この身体、思った以上に力がないかも。

 前世ではまだ軽々持ち上げられた量の荷物なのに、もう今のボクの腕は悲鳴をあげている。筋力は半分以下かもしれない。

 し、しんどい……でも、こんなことで挫けていられない!

 

「あ、こらカリーナちゃん、そんなに先に行っちゃうと──あ」

 

 そんな風に持ち上げることに夢中になっていた所為で、周囲への注意が疎かになってしまった。

 気付けばスードリさんを置いて駆け足で先行してしまっていた。

 そして、ぽふん、と軽い衝撃。

 

「あうっ」

「おや、失礼」

 

 道行く誰かとぶつかってしまった。慌てて謝る。

 

「こ、こちらこそごめんなさ──あ、あなたは」

「うん? ……ああ、勇者さまと一緒にいらはった子かぁ」

 

 しかし顔を上げて見た顔は、見覚えのある青年だった。

 ワダツミ風の装束に狐のような糸目。

 カザネ商会の会長、ノリアキさんだ。

 

「すまんな、お嬢はん。怪我はあらへんか?」

「大丈夫です。あの、よそ見していてごめんなさい……」

「あらええ子や。いやいや、こっちも不注意だったもんで」

 

 ひらひらと手を振ってノリアキさんは優しく許してくれる。

 ただその後、ジィっと(糸目なので分かりづらいけど)こちらの顔を覗き込んできた。

 

「そういえば、君の勇者様らの関係を聞きそびれとったなぁ」

 

 しまった。それは疑問に思わないハズがない。

 しかし真実は言えるハズもなく、建前も簡単には説明できない。

 

「気になるなぁ。あの勇者様らとどう知り合ったんか。なんや、深い事情がありそうや」

「え、ええと……」

「あら、ノリアキさんかい」

 

 答えに窮していると、後ろから追いついたスードリさんが軽く目を見開いていた。

 

「こりゃどうも、スードリさん。こちらさんとはどういう……ああいや、確か勇者さまが泊まっとるんやったなぁ」

「そうそう。お手伝いしてもらっちゃって」

「……二人は知り合いなの?」

「いやぁ、スードリさんは有名やからなぁ。炊き出しとかほんま頭が上がらんでぇ」

「それを言ったらノリアキさんの方じゃないか。開闢都市の四半分は、この人が金を出したようなもんだよ」

「ええっ」

 

 驚きだ。確かに有力者の一人とは聞いていたけど。

 

「いやぁ、大したことは」

「聞いたよ、また事業拡大したんだって? 資本金は大丈夫かい」

「ははは。臨時収入があったもんで」

 

 そのまま二人は世間話に興じ始めた。……こうなると、子どもの立場は暇だ。いつだって井戸端会議の犠牲者は子どもなのだ……。

 退屈を噛み殺しながら待っていると、ふと遠方から音が聞こえた。

 

「? なんだろう……」

 

 低く、お腹の中に響くような音だ。遠雷めいている音。

 それが何度も、何度も繰り返される。

 そしてそれは次第に大きくなりつつあった。

 

「? おや、この音は?」

「なんやろ、お祭りでもしとるんか?」

 

 二人も気付いたようで、耳を澄ませる。

 音は、外の──開闢都市の城壁から轟いているようだった。

 

「……いや、なんか」

 

 ヤバいんじゃ。

 脳裏で警鐘が鳴り響いた瞬間だった。

 

 轟音。

 そして遠くに舞い上がる瓦礫が見えた。

 

 

 

 ※

 

 

 

「──城壁が破壊された!?」

 

 その日、ストラは兵舎に詰めていた。

 衛兵、傭兵、そして義勇兵。戦うために集められた兵士たちを待機させる場所。所属によって棟を分けられたその一角は、全体の指揮所にもなっている。

 ストラは何かあった時のためにも、頻繁にそこに通い様子を見ていた。

 そして今日、遂にその“何か”は起こってしまった。

 

「はっ! 西の城壁が破壊され、そこから少数の魔族が雪崩れ込んできているとのこと!」

 

 伝令の報告を聞き、ストラは歯噛みした。

 

「少数。複数の時点で……!」

 

 魔族はそもそも、一体で人間たちの軍勢に匹敵するほどに卓越した生命体だ。そんな奴らが纏めてかかってくる時点で、普通の兵士たちには荷が重い。

 魔族を相手するために集めた傭兵たちならば、まだ対抗はできる。しかしそれも、普通の魔族ならば、だ。

 

「城壁を破壊したのは!?」

「未確認ですが……魔法で生み出された巨大な剣であったと」

「魔法剣……! ワードリア……!」

 

 魔王城で戦った顔が瞼の裏に浮かぶ。

 “粛清の”ワードリアは剣を召喚する魔法を得意とする。そして複数の報告からその大きさは自在であると推測されている。

 つまり相手は八魔将。そのクラスを相手取れるのは──勇者たちしかいない。

 

「あたしたちが出る。他に伝令は?」

「いえ、まだ」

「なら教会と宿に走らせて。マリアナとアズを呼んで!」

「はっ!」

「ありったけの戦力に号令を出して。衛兵は避難と救助を。傭兵と義勇兵で魔族を叩く!」

 

 指示を出し終えたストラは早急に戦支度を整え、兵舎を飛び出した。

 

「今日は曇り。とはいえ魔族には辛い時間帯のハズなのに……!」

 

 魔族は日光を嫌う。しかし暗雲の下で活動していたように、夜でなくても行動することはできる。例えば今日のように、空を厚い雲が覆っている天候ならば。

 しかし少量の日差しといえど魔族には毒。しかも風向きが変わって空が晴れてしまえばすぐに命の危機だ。日中の行動はやはり、あまりにもリスキー。

 つまりはそれだけ、魔族側も追い詰められているということ。

 

(それにしても見張りは何をしていた?)

 

 解せないのはあまりに唐突な襲撃だったこと。

 確かに日中の襲撃というのは不意を突かれた。しかし城壁の上などに見張りの兵士は常に置いていた。

 それなのに城壁が破壊されるまで、発見の報告一つないとは。

 

(まさか、警備の隙を突かれて──?)

 

 答えが出るよりも早く現場に到着する。

 幸い、兵舎は城壁に隣接されている。現場にはすぐに辿り着くことができた。

 開闢都市の中央を抜ける大通りは、地獄に変わっていた。

 

「っ! 被害が……!」

 

 既に被害は出ていた。

 そこら中に魔族の手にかかり、息絶えた市民が転がっている。中には人の形を保っていないものもあった。

 家屋も破壊され、火災も発生している。城壁が破壊された際、吹き飛んだ瓦礫が広範囲を破壊したのだろう。それだけではなく魔法らしき痕跡もある。

 報告を受けてから間もない間に、既に破壊の嵐が吹き抜けていた。

 

「ヒヒヒッ! 思い知ったか人間どもが!!」

「これが本来の姿だ。あるべき奴隷と主の姿だ!!」

 

 魔族たちは逃げ惑う民衆をいたぶるように攻め立てていた。すぐには殺さず、最大限の恐怖を与えるために時間をかけて。

 これまで雌伏の時を過ごした分の鬱憤を晴らしているのは明らかだった。

 

「ひっ」

「皆殺しにしてやる、人間ども──」

「──させない」

 

 今まさに逃げ遅れた子どもの背を踏み潰そうとした魔族の首を、炎を纏った一閃が刎ね飛ばす。

 

「あ……」

「早く逃げなさい」

「は、はいっ!」

 

 子どもを逃しながら、ストラは魔族たちと対峙した。

 数は、十を超える。残存の魔族たちとしては大所帯だ。

 

「勇者だ……」

「勇者……!」

 

 聖剣の生み出した太陽の炎を見て、魔族たちが色めき立つ。一斉に注がれる恨みの視線に、ストラは怯むことすらなく剣を構える。

 

 魔族の中から、灰色の肌をした女が歩み出る。

 

「あァ、どれほどこの時を待ち侘びたか……」

 

 見覚えがある。捻じ曲がった角、皮膜の翼。そして煮えたぎるような怒りの眼差し。

 

「ワードリア……!」

「今ここに宣言するよ、勇者」

 

 ワードリアは自身の周囲に魔力の剣を幾本も生み出しながら告げる。

 

「魔王様への弔いだ。──お前を殺す」

「奇遇ね。こちらも、もうアンタを逃さない」

 

 勇者として。

 ストラが戦う理由はそれが第一。

 しかし。

 

(──カリーナ)

 

 そこに私情が含まれていたことは、おくびにも出さなかった。

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