勇者PTに追放されたので捨て鉢で魔王と相打ちになったらTS転生した ~実は仲間たちは自分を逃がそうとしていたみたいです~   作:闇の有翼人種

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煉獄闘

 まるで幻想のような光景だった。

 吹き荒れる炎の嵐。それを掻き消さんと降り注ぐ剣の雨。巻き込まれた有象無象一切合切を問わず、焼き焦がし、断絶する致命の戦場。

 もし聖夜教の教え通り煉獄があるとするならば、このような世界なのだろうか。

 

 ストラとワードリアの戦いは苛烈を極めた。

 聖剣の炎と魔力の剣は幾重の技と思惑を持って絡み合うように鬩ぎ合う。

 ストラが魔族たちを焼き払わんと炎を広げれば、ワードリアは薄くなった防御を貫かんとレイピアを殺到させた。躱したところを追撃せんと大剣を作り出せば、薙ぎ払われる前に降り注ぐ火球がそれを押し潰す。

 その全てが相手を殺すための最善手。仇敵同士はお互いを追い詰めるべく手札を切り合う。

 戦闘勘と術理が作り出す、混沌とした異次元の押し合いへし合い。

 

 時折援護するように他の魔族の魔法が飛ぶが、茶々入れを咎めるかのように術者の首も同じように飛んだ。

 並大抵の存在では、迂闊に手を出せば巻き込まれる。

 戦場はストラとワードリアの一騎打ちめいていた。

 

 しかし表情は両者で対照的だった。

 

「そらそらァ! どうした勇者、その程度か!? そんなんで私の憎悪を焼き払えるとでも!?」

「チッ……!」

 

 喜悦を浮かべるワードリアに対し、劣勢の焦りを隠せないストラ。

 現在、戦場にはストラにとって不利な要素が出揃っていた。

 

 一つは言わずもがな数の差。

 魔族たちの援護は差したる脅威ではないが、決して無視できない存在でもある。魔族の扱う魔法はどれも、一発当たっただけで人間の耐久力では致命的だ。聖剣が生み出す炎がなければ、とっくに数の暴力でストラは亡き者にされていただろう。ワードリアと戦いながらも、警戒を怠ることはできない。

 

 一つはここが開闢都市の中であること。

 聖剣が生み出すのは炎。ストラの意思によってコントロールされているが、逆に言えば制御化を離れたその後の振る舞いはただの炎だ。家屋に飛び移って燃え広がれば、あっという間に街は火の海と化す。ゆえに街を巻き込むような大技は使えず、ストラの応手に制限がかかる。

 

 そして最後は、単独であること。

 それが一番辛い現実だった。

 

(魔法の援護がない……!)

 

 腕を振り、魔剣を聖剣で打ち落とす。しかし力が足りず、弾き損ねた刃が頬を裂く。一筋の血を流しながら、ストラは歯噛みした。

 勇者はパーティで戦ってきた。人間の身は、単独で魔族を相手にするには脆すぎる。別に正々堂々を気取ることもない。纏まりを欠く魔族とは違い、人間は束ねることで強い力が出せる。

 マリアナの支援があれば。あるいはアズからの援護があれば。

 ストラの全力とは、二人の支援があって初めて出せるものだ。

 

「ハハハッ! ──行け」

 

 そして、数の差はどこまでも祟る。

 ワードリアの指示を受け、幾人かの魔族たちが脇をすり抜けるようにして開闢都市の内部へと侵攻した。

 

「っ! 待て!」

「おっとぉ!」

「ぐっ」

 

 当然止めようとするが、ワードリアがそれを許さない。抑え込むような魔剣の打ち下ろしに聖剣を重ね、耐えている間に魔族たちの背は混乱する都市の中へと消えていく。

 見逃してしまった。更なる被害の種を。

 

「くっ……!」

「ハハッ、嫌がるよなァ、勇者サマなら!」

 

 ワードリアの嘲り声。ストラの苦悶が分かっているからこその一手。

 ストラはここを離れるワケにはいかない。自分以外に相手のできないワードリアがいることもそうだし、何より周囲を取り囲むような魔族たちはまだ残っている。それを放置することはできない。

 ゆえに、都市の中へ消えた少数の魔族たちは……見逃すしかない。

 それで被害が広がろうと、この場を抑えない方が災厄を引き起こすのだから。

 勇者の理屈。それをワードリアは理解し、その上での一手だった。

 

「ハハハッ! 苦しいか? 奇しくも城の時とは真逆だなァ!!」

 

 ワードリアの言葉通り、現在は魔王城に攻め込んだ時とは何もかもが逆だった。

 戦場は勇者側の本拠地たる開闢都市。数の分もワードリアに挙がり、ストラは単騎。

 ならば結果も、あの時の再現か?

 そうはさせまいと、ストラは魔剣を押し返す手に力を籠める。

 

 それにストラには、心強いアテがあった。

 

「──【風刃(フギン)】」

「ッ!」

 

 突如としてワードリアは虚空に向かい魔剣を振るった。それが彼女の命を救った。首目掛けて放たれた風の刃は、魔力の刀身に砕かれて消滅する。

 しかし牽制としては十分だった。

 

「アズ! マリアナ!」

「ストラ! 間に合いましたか!」

 

 聖騎士マリアナ。魔導士アズ。

 ストラの心強い味方が遂に到着した。

 

「……ワードリア。敗北者、懲りない奴。また凍らされたい?」

「ハッ。アンタのことも待っていたよ、生意気な小娘め……」

 

 鼻を鳴らすアズの姿を認め、ワードリアの口角が好戦的に上がる。

 前回の敗因。その直接の原因であるアズは、当然ワードリアの雪辱の対象だ。

 

「マリアナ。街の中に行った魔族たちは?」

「すれ違った傭兵が追ってました。彼らが対処してくれるハズです」

「そうね……それしかない」

 

 本当はマリアナが対処するのが一番安心できるが、八魔将クラスが来ているのにストラの元へ駆け付けないという選択肢はない。傭兵たちの実力を信じるしかなかった。

 マリアナとアズはストラの両隣に並び構える。勇者パーティお決まりの陣形の一つ。

 

「敵はワードリア。他の魔族は有象無象。周囲に人間の生き残りはなし」

「分かりました。アズちゃんが魔族たちを牽制。私が支援してワードリアを討ちましょう」

 

 ストラによる端的な状況報告を聞き、マリアナが即座に方針を立案する。指揮能力は両者共にあるが、年の功だけマリアナに分があるとしてストラ側が頼ることが多い。

 周囲に目を向けながらアズが自分の意見を述べる。

 

「ストラ、火事懸念。なら、私、吹雪で消火。そしたら本気、可能」

「……駄目ね。妨害などでアズの動きが遅れた場合、取り返しのつかない被害になる。万が一を考えたら許容できない」

「ん。了解」

 

 アズの提案は最高率ではあろうが、失敗した場合のリカバリーが効かない。開闢都市が燃え尽きれば甚大な被害が出る。その最悪の未来を自ら招く選択はできない。

 アズの意見は、このように効率はいいがリスキーな場合が多い。

 なので、もう一人(・・・・)の意見も聞いておきたいと思った。

 

「カリムは、何か意見が──」

 

 そう言いかけて、ストラは口を噤む。

 流れで呼んでしまった、もういない、彼の名前。

 

(……あたしが殺したのにね)

 

 勇者パーティのお決まりの流れ。それを自ら崩したのはストラ自身だ。

 追放し、死に追いやった自分がまるで、未亡人のような真似を。

 自嘲する資格すらない。胸の内を覆いかけた黒い闇を、今は押さえ込んでストラは眼前を見据える。

 

「マリアナの案でいく」

「分かりました」

「了解」

「……相談は終わったのかよ」

 

 皮膜の翼で舞い上がったワードリアが、上から見下ろしながら言う。まるで余裕たっぷりに待ってやったと言わんばかりの表情だが、ストラは残った魔族たちが陣形を変えたのを見抜いていた。

 作戦を整えたのは、向こうも同じ。

 

「安い挑発は己の格を下げるだけよ」

「ハッ! 安心しろ。お前らを殺せれば──お釣りがくる!」

 

 再び開かれる戦端。吠えながらワードリアは巨大な魔剣を振り下ろしてくる。

 ストラはそれを迎えうつべく剣を構えた。

 ぶつかり合う魔剣と聖剣。それを支える両腕に負荷がかかる。

 先程までなら、そのまま力負けしていたところだが。

 

「【雷帝の戦帯(ゴッドパワー)】!」

 

 マリアナからの支援魔法。魔力の光がストラの両腕に吸い込まれ、力が湧いてくる。

 ワードリアの魔剣を、今度は余裕を持って力強く弾き返した。

 魔力の破片へと消えていく己の剣を見て、ワードリアは舌打ちをする。

 

「チッ!」

「形勢逆転よ。完全に数の利は覆った」

 

 正確には、まだ数自体は向こうの方が優位だが──。

 

「【吹雪(ブリザード)】」

「ぐおっ」

「がああっ!」

 

 囲う魔族たちにはアズが吹雪の魔法を吹きかけ牽制する。凍てつく風に晒された魔族たちは攻勢に転じられない。

 勇者たちが高度に連携するのに対し、魔族側は連携を断たれていた。

 数の差は、活かせない。

 

「詰みよ、ワードリア」

「ハッ! そのセリフは、私の首を獲ってから吐くんだなァ!」

 

 にも関わらず、ワードリアの戦意は衰えなかった。

 

(……この余裕、何かある?)

 

 魔王城という絶対に退くことできない場であっても冷静に退却してみせたのがワードリアだ。しかし今は、その素振りすら見せない。

 何か、まだ隠された策がある。

 

(慎重に対応すべきね)

 

 ストラはそう心に決めた。

 その判断が吉と出るか凶と出るか。

 今はまだ、誰も知らない。

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