勇者PTに追放されたので捨て鉢で魔王と相打ちになったらTS転生した ~実は仲間たちは自分を逃がそうとしていたみたいです~   作:闇の有翼人種

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相打ち

 名乗りを上げるようなことはしない。自分がその器でないことは誰よりも分かっているから。

 だから無言で斬りかかる。

 

「! 何奴!?」

 

 完全な不意打ち。しかし魔王に反応され、避けられてしまう。短剣の切っ先は虚しく空を切った。

 

「チッ!」

 

 奇襲は失敗した。気配の消し方が悪かったのか、単純にスピード不足か……これがストラだったら成功していたのだろうけど。

 浮かぶネガティブな思考は今は置き去りにする。魔王と対峙して余所見なんてことはできない。

 

「名乗りもしないか。最低限の矜持(プライド)すらない、卑しきネズミ畜生か?」

 

 魔王の挑発は無視する。

 ボクは即座に二つ目のアイテムを魔法鞄(マジックバッグ)から取り出した。

 

「喰らえ!」

「むっ……!」

 

 投げつけたのは袋に入った粉塵。それは宙空で炸裂して、黄土色の粉を撒き散らした。

 

「目潰しを、いや、これは……グッ、ゴホッ!?」

 

 細かい粉だが、兜の所為で目には入らなかったのだろう。しかし息は吸ってしまった。呼吸で粉塵を取り込んでしまった魔王は、激しく咳き込む。

 これは悪魔草の粉塵(デビルテイスト・ダスト)。毒草を乾燥させて粉にしたものだ。肌では無害だが、粘膜に触れた途端に激しい苦痛を生み出す。

 要は目潰しと、喉潰しを兼ねた粉だ。対魔導師用として用意したアイテムである。

 魔法は長い詠唱を必要とする物がある。この部屋ごと吹き飛ばしてしまえるような大魔法は特に。それを使われてしまえば、ボクは一瞬でお陀仏だ。

 これで、その危険は封じられた。

 

「グッ……よ゛ぐも゛!」

「うっ!?」

 

 魔王の反撃。虚空から取り出したメイスを手に取り、ボクへ向かって叩きつけてくる。

 躱せない。仕方なく左手を前に突き出し、盾とした。

 衝撃。

 

「が、はっ……!」

 

 凄まじい音と共に身体が吹き飛び、壁へと叩きつけられる。痛い。身体がバラバラになりそうだ。

 だけど辛うじて身体がペチャンコになることだけは避けた。ただしその代償は軽くない。

 ぷらん、と半ばでへし折れた左腕がそれを物語っていた。

 

「ぐ、ふぅっ……!」

 

 ズキズキという痛みは、見た目から予想出来るほどではない。それが却って恐ろしい。

 だけどここで挫けては駄目だ。

 

「う、ああ゛ぁっ!!」

 

 痛みを堪えながら魔法鞄(マジックバッグ)から取り出したアイテムを投げつける。

 今度はオーソドックスな煙玉。つまり煙幕だ。部屋の中にもうもうと煙が立ち籠める。

 この隙に、水薬(ポーション)を……。

 

「しゃらくさいわ!」

 

 しかし魔王は喉潰しの影響の残る嗄れた声で叫ぶと、メイスを振りかぶって床に振り下ろした。

 その瞬間に巻き起こる、強烈な風圧。それが黒い煙を一息に吹き飛ばしてしまう。

 

「そん、な」

「ハァ。おのれ……!」

 

 これじゃ、水薬(ポーション)を飲む隙がない。

 ボクは腕の回復を諦め、別のアイテムを手に取る。

 だが、魔王の動き出しの方が早い。

 

「潰れろ、卑しきネズミよ!」

 

 腐っても魔王というべきか。その体捌きは歴戦のそれだ。

 ボクを押し潰さんと振り上げられるメイス。避けなければ、ボクは……。

 

 ……だけど、これは最後のチャンスかもしれない。

 だからボクは躱すためではなく、魔王に向かって投げるために身体を動かした。

 

「――貴様」

 

 ボクの目を見た魔王が息を呑んだ気配がする。ボクの覚悟に少しは怯んでくれたのだろうか。

 投げつけられたそれと、ボクの半身がグシャリと潰れるのはほとんど同時だった。

 

「――があ゛あっっあああぁぁあぁぁぁぁっっ!!!」

 

 喉から絶叫が迸る。左腕の感覚が完全に途絶え、下半身も潰れた。

 痛覚ももうグチャグチャで、自分がどうなっているのかすら分からない。

 だがボクは涙と痛みで霞む目で、しっかりと魔王の姿を捉えた。

 そこには、望み通りの状況があった。

 

「これ、は……!」

 

 魔王は、身体を白色の鎖で縛られていた。

 鎖は光を帯びていて、どことなく神聖な雰囲気を感じさせる。

 

「ほ、解けん……! これはまさか……封魔の白鎖(レージング)か!」

「はは……魔王にも、ちゃんと効くんだ……」

 

 封魔の白鎖(レージング)。魔法と身動きを一時的に封じる鎖。

 一度絡め取られてしまえば、効果時間が終わるまでは決して解けることはない。

 一対一。それも魔法に長けた魔族相手には絶大な効果を発揮するアイテム。

 素材が希少すぎるがゆえ、一本しか用意できなかったけど……魔王にも通じるとは。流石貴重品。

 

「く、クソ、おのれ!」

「はぁ、はぁ……ぐっ」

 

 封魔の白鎖(レージング)はその場から移動することすら禁ずる。

 身動きが取れず藻掻いている魔王へと、ボクは這いずりながら近づいた。

 

 動くのは、右腕一本だけ。

 手には先程どこかへ吹き飛ばされた短剣とは別の短剣を握っている。

 青き鋼に赤色が混ざったおどろおどろしい色の剣。

 それを見た魔王の身体が硬直する。

 

「呪いの剣か!」

「はは……そうだよ……死の呪いが籠められた短剣、だ……」

 

 これを直接肌に突き立てれば、魔王ですら死ぬ。

 これが、ボクでも魔族と相打ちが取れると散々に言っていた理由。

 どんなに非力でも、誰でも殺せる。

 

「分かっているのか!? それを使えばお前も死ぬのだぞ!」

「……知ってるよ……」

 

 ただし、強烈なデメリットがあった。

 それは……使った側も死ぬということ。

 誰でも相打ちにできる。だが、相打ちしか取れない。

 この剣は、使い手にすらも死を与えるのだ。

 

(でも、もう関係ない……)

 

 右腕で引き摺る身体は、予想以上に軽い。まるで余計な物がついていないかのように。

 それどころか進む度に軽くなっているような気さえする。……流石に振り返って確かめる気にはならなかった。

 

 どのみち、ボクはもう死ぬ。これほどの深手、マリアナさんの回復魔法でさえどうにもならない。

 だったら、せめて……!

 

「よせ……!」

 

 後退ろうと身体を捩らせる魔王だが、封魔の白鎖(レージング)の効果時間はまだ残されていた。その場から一歩も離れられない。

 ボクの這いずりが亀の歩みだろうと、相手が動かなければ追いつける。

 

「ええい、誰か、誰かあるか! ……チッ、出払っている隙に!」

 

 どうやら、応援も来ないらしい。

 ……ははっ。

 

「運が、よかったな……」

 

 どうやらここに来て、本当に史上最高の幸運に恵まれたらしい。

 一対一。増援はなし。そして……ボクなんかの命と引き換えに魔王の命が今、潰えようとしている。

 これが幸運でなくて、なんだと言うのだろうか。

 

「よ、よせ! やめろ! 自分が何をしようとしているのか、分かっているのか!?」

「……よかった」

「何が……!」

 

 這いずり、ボクは魔王の足元へ達する。ぐ、と足を引き摺ると、縛られた魔王の身体は簡単に倒れた。

 

「ぐっ!?」

「焦ってるなら……ちゃんと、死ぬんだ」

 

 不格好に鎧の上へ身を乗り上げ、死の短剣を振り上げる。

 狙うのは、鎧の隙間。

 視界のために大きく空いている……兜の目元。

 

「こんなことをしようと、無意味だぞ!」

「……それでも、いいさ」

 

 意識が朦朧としてきた。どんな問答をしているのかさえ自分で分からない。

 でも、それでいい。もう後は、この短剣を振り下ろすだけだ。

 

「例えボクの人生が無意味でも――」

 

 短剣を、左目側へと落とすように突き込む。

 

「――その死が誰かの役に立つなら、それでいい」

 

 刺さる。それと同時に迸る、魔王の絶叫。

 絹どころか空間すら裂けてしまいそうな音を聞きながら、ボクは身体から致命的な物が抜けていく感触に身を委ねる。

 ああ……これが死ぬってことか。

 

 視界がぼやけ、思考が黒く塗りつぶされていく。

 薄らいでいく意識の中、最期に思ったのは。

 

(……これでみんなは、助かったのかな)

 

 やっぱり、あの三人の顔だった。

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