勇者PTに追放されたので捨て鉢で魔王と相打ちになったらTS転生した ~実は仲間たちは自分を逃がそうとしていたみたいです~ 作:闇の有翼人種
「……う、うぅん」
目を瞑ったまま、ボクは呻いた。
身体には気怠さが纏わり付いている。熱を出した日の翌朝みたいな……起き上がるのも億劫になるようなダルさが身体を支配していた。瞼を開けるのも気が滅入る。
このまま寝入ってしまいたい……そんな風に思って、しばらくそうしていたら。
「……ん!?」
そうしていられる。その異常さに、ボンヤリとした頭がようやく追いついた。
すぐにパッチリと目を開き、身体を起こす。
「なんで、ボク……?」
魔王と相打ちになって死んだハズ。
なのに、なんでまだ生きている?
自分の身体を見下ろす。
「手……ある。両手とも」
握り、開き、ちゃんと動くことも確認した。
少なくとも左手は、魔王によって無惨な有様になっていたハズなのに。
それになんだか、そこはかとない違和感がある。
「……? なんで、裸……?」
手以外へ視線を移せば、まっさらな素足が見えた。何故かボクは何も着ていないようだ。すっぽんぽん。服は吹き飛んだりしていなかったような……?
不思議に思いながら、視線は上がって股間に移る。
「――え!?」
そこには、何もついていなかった。
いや、何も着ていないのはまだいい。
だけど、
「え、あ、ど、どどどどういうこと!?」
混乱しながらボクは立ち上がる。すると、桃色の何かがファサリと視界を塞いだ。
「わ、あ……いてて!?」
驚きながら掻き分けようとすると、頭皮が引っ張られる感覚と共に痛みが走る。
これ……髪の毛だ!? しかもボクの頭から生えてる!?
「何が、どうなって……」
どうにか前髪をどかし、視界を確保する。
すると、今度は見覚えのある景色が映った。
「あ、ここは……魔王の部屋」
ボクがいる現在地、それは魔王と戦った魔王の私室だった。どうやら場所は変わっていないらしい。
それどころか。
「う、グロい……」
すぐ傍には床に飛び散った血飛沫が染みついていた。
ボクの装備、魔王の鎧も転がっている。凄まじく凄惨な有様だ。
そっか。死の短剣で死ぬと、確か遺体が弾けて飛び散るんだったっけ……。
ってことは、この血の染みはボクと魔王の遺体?
ならあの戦いは、夢じゃなくちゃんと現実のことだ。
「……あ、鏡」
自分の死に様を見るというレアな体験をしていると、部屋の隅に姿見が置かれていることに気付いた。私室だから、そういうこともあるか。
鏡の前に立って、今の姿を確認する。
ボクはちゃんと死んでいる。
では、今のボクは?
「………」
そこにはある意味では予想通り。しかしある意味では予想外の姿があった。
「女の子になってる……!」
ポカンとした表情で鏡に映るのは、十歳前後の少女の姿だった。
背は同世代と比べても低め。鮮やかな桃色をしたロングヘアは長く腰まで伸びている。毛量も多くてワサワサとした獣みたい。
顔の造形は、完全に女の子。あどけなさが残る、年相応の……というか、結構な美少女ぶりだ。
特にパッチリしたつり目が印象的で、右目が紫、左目が赤のオッドアイだった。
「だ、誰」
ボクとは似ても似つかない。本来の……というか生前のボクは茶髪に赤目、背は低いが体格とかは完全に男だった。片目しか共通していない。
造形の面影は……探せばあるというか、しかし気のせいと言われればそんな気もするレベルだ。
「ホントに誰ぇ……?」
ペタペタと身体を触ってチェックする。触れた感触は確かに返ってくる。間違いなく自分の身体。
ちなみに胸は、歳が歳だからかまったく無くは無いけど、というレベルの小ささだ。いや将来的には期待できるのか……?
そんな、現実逃避的にどうでもいいことすら考えていた時だった。
「……?」
にわかに部屋の外が騒がしくなる。何やら喧噪……いや、これは。
「戦闘音?」
剣がぶつかり合う音。魔法が炸裂する爆発音が聞こえる。誰かが戦っている音だ。
気になる。見てみよう……って。
「このままじゃ駄目か。えっと……」
いくらなんでも裸で徘徊はできない。
かといって元々着ていた服は血塗れだし……。
部屋をキョロキョロと見渡して、着られそうな物を探す。
……うーん。服はなさそうだ。それに魔王がメイスを叩きつけたりした衝撃であちこちがボロボロになってる。
仕方なく、ベッドのシーツをマントのように巻き付けることにした。しかしこれだってあちこちが破けているし、粉塵やら煙幕やらで汚れて浮浪者の襤褸のようだ。でもこれ以外にないんだからしょうがない……。
襤褸の下は裸という強気なスタイルで、外へ出る扉をコッソリと開ける。
「あ……ここは」
扉をちょっとだけ開けてその隙間から外を確認する。すると、玉座の裏側が目に入った。
どうやら謁見の間の後ろ側にあるらしい。魔王の私室なら、あり得なくもない。
通風口の探索はニアミスだったのか。
その謁見の間で、誰かが戦っているようだ。
……いや、誰かというか。
「はあぁぁぁっ!!」
炎を纏った剣を振るい、オレンジの髪が舞い踊る。
先頭に立って戦っているのは……ストラだ!
「グッ、小娘が!」
ストラが斬り結ぶ相手は、黒い肌にヤギのような角が生えた美女だった。背には皮膜の翼を広げている。
こちらも知っている。八魔将の一人、魔王の側近である"粛正の"ワードリアだ。
ワードリアは周囲に浮かべた剣を操る魔法で対抗している。
ストラの後ろにはマリアナさんとアズもいる。
ストラたちと八魔将が戦っている!
そうか。当たり前と言えば当たり前だ。
ボクを追放した後、三人とも魔王との決戦に出発したんだ。
でも先に出発して、しかも一人で身軽な分、ボクは早くに到着した。
そして後から乗り込んできたストラたちと、八魔将が鉢合わせたんだ……!
「ストラ、支援します! 【
修道服の上から白銀の胸当てをつけたマリアナさんが、メイスを掲げて支援魔法を放つ。円環状の光を浴びたストラは、更に苛烈な勢いでワードリアを攻め立てる。
「せぇやぁぁぁ!」
「ぐあっ!!」
聖剣から出る炎に肌を焼かれたワードリアは大きく後退る。
ストラの持つ聖剣は、日輪の力を宿している。ゆえにその剣から迸る炎は太陽のそれと同じ。魔族にとっては天敵だ。
「魔王の居場所をとっとと吐きなさい!」
聖剣を突きつけ、ストラは叫んだ。
その内容に、ワードリアは訝しげな声を上げる。
「何……? 魔王様の居場所と言ったか」
「惚けないで。どこに魔王を隠したの?」
「……それは貴様の方だろう。魔王様をどこへやった。あれから通信も繋がらない。貴様ら、魔王様を殺したな!!」
あっ……。
あの通信相手はワードリアだったのか。八魔将の一人だもんな。
しかもボクが倒したとはまだ気付いていない。話がすれ違っている。
「何を言って……」
「ストラ、無駄。魔族、言葉、惑わす」
ストラの背後でアズがスッと手を掲げる。
「"止まり木に蒼き翼" "煌々たる瞳" "何者にも成れず・ゆえに冷たき石礫と変わらぬ" ――【
背後に現われた魔法陣から、猛烈な吹雪が吹き荒れる。アズの得意とする大魔法。
ストラの聖剣ばかりを警戒していたのか、ワードリアは避けられず、それを正面からまともに浴びてしまう。
「ぐ、あああぁぁぁああぁぁぁぁ!!」
血すらも凍える死の風。それでも耐えきることができたのは魔族の最強格に名を連ねるがゆえか。
しかしもう、決着は明らかについていた。全身を白く染め上げ、睫毛すら凍り付いたワードリアは満身創痍だ。
「わ、私がまさか……人間如きに……」
「侮り、増上慢。魔族の弱点」
「こ、こんなところで……魔王様の仇すら討てず……」
「……そうね。確かにこんな奴どうでもいい。早く倒さなきゃ」
ストラがワードリアへトドメを刺すべく近づいていく。
だが粛正の名を冠する八魔将はボクらが思ったよりも余力を残していたらしい。
ストラの刃圏に入る直前に、凍り付いた翼を広げ、飛び上がる。
「!!」
「これは逃避ではない! お前たちを滅ぼす、その為に降す苦渋の決断だ! ――覚えておけ! お前たちに必ずや、死よりも屈辱的な最期を与えてやる!」
そしてそのままワードリアは、天窓を突き破って逃走してしまった。
口惜しげに割れた窓を見上げ、ストラは舌打ちする。
「チッ、逃がした……!」
「……ごめん。凍結、甘かった」
「仕方ありません。私たち全員が急ぎすぎたのでしょう」
三人は周囲を警戒しつつ武器を収めた。
そしてストラは、玉座へと目を向ける。
「……ここにもいなかった」
ポツリと呟く。
ボクはその言葉を魔王を探しての物だと思った。しかし、次いで発言される仲間たちの言葉から、違ったことを悟る。
「ええ。……確かだったのですか、アズちゃん? 城壁の付近にカリムのアイテムが転がっていたというのは」
「肯定する。間違いない。あれはカリムの所持していた
「……だとすると、アイツはここに侵入したってことよね」
……ボクを探している!?
なんで。みんな、ボクのことを邪魔者だって追放したんじゃ。
「まさか、一人で魔王城に乗り込むなんて……!」
「……その可能性を考えておくべきでした。あの子の決断力は時に果断であるというのに」
「アイテム、没収、しなかったのは、何故?」
「……追い出した後に生活費が必要じゃない。だから、無用の長物は売ると思ってたのに……」
うーん。さっきの戦闘の時と違って自分たちだけが聞こえるように喋っているから、ところどころが聞こえない。一応敵地だもんな。声を潜めるのは当たり前か。
「でも、こんなことになるなら……!」
「……恨まれる覚悟があるなら、それを貫き通すべきでしたね」
「邪魔者とか、酷い事言った」
辛うじて聞こえた単語は、「こんなこと」「邪魔者」。
ボクを探しているということを加味すると、これが意味するところは。
(……魔王討伐の邪魔者になりそうなボクを始末しようとしている!?)
そう考えるとわざわざボクを探している辻褄が合う。
た、確かに魔王との決戦に、関係ない奴がチョロチョロとしたら邪魔だけど……。そ、そこまで嫌われていたのか……!?
「……でも、どうして魔王もいないのかしら」
「それは確かに変ですね。あの八魔将もおかしなことを言っていましたし」
「魔族の言葉、信用に値しない」
「アズちゃんは相変わらず魔族嫌いですねぇ」
「ともかく、手掛かりを探しましょう。ここが謁見の間なら、何かあるハズ」
言いながら、三人は別れて部屋の探索を始める。……マズい、見つかる!
ボクは咄嗟に部屋のドアを閉めた。
「……ん? 二人とも、こっち!」
やがて、ストラは玉座の裏にあるこの扉を見つけたらしい。ドアの前から声がする。
まず間違いなく開けるだろう。
マズい。こんなワケの分からない姿をどうやって弁明するか、まだ思いつかない。
それに、ボクだとバレたら始末されてしまうかも。死ぬ気で魔王と相打ちになったけれど、流石に仲間の手にかかるのは嫌だ……!
ここは隠れなければ!
けど、通風口は高すぎる。とっくにトカゲ化の効果が切れた今では登ることはできない。部屋の様子もボロボロだし……。
仕方なく、ボクはベッドの陰に隠れた。ここなら入り口の方からは死角になって見えないハズ。
「開けるわよ」
ストラたちが部屋へと突入してくる。
魔族の待ち伏せを警戒しているのか、部屋をキョロキョロと見回している気配がする。
「……敵は、いない……え?」
そして、その足が止まった。