勇者PTに追放されたので捨て鉢で魔王と相打ちになったらTS転生した ~実は仲間たちは自分を逃がそうとしていたみたいです~ 作:闇の有翼人種
「……嘘、これって……」
呆然としたストラの声が響いた。
「? どうしたんですか、スト、ラ……」
「……あ……」
続いてマリアナさんの息を呑む気配と、絶句するアズの吐息。
ああ、見つけてしまったのか。魔王と、ついでにボクの遺体(血の染み)を。
原形を留めない形になってはいても、遺留品からここで何が起こったかは分かるハズだ。
討たれた魔王を見て、三人はどんな反応をするのだろうか。
……もしかして、怒ったりするのだろうか。
いや、あり得るかもしれない。何せ勇者一行は魔王の討伐を悲願として今まで辛い旅路を乗り越えてきたのだ。先を越されたと知ったら、これまでの旅を無駄にされたと憤懣する可能性はある。手柄の盗人とか、いいとこ取りとか罵倒されるかも。
ストラたちがいい人だってのは知っている。けれど、事が事だ。人は容易く豹変するものだということはボクも知っている。
……だって、本当に魔王と相打ちになれるとは思わなかったんだもん。
何を言われるのかと気になって、ボクはベッドの縁からコッソリと顔を出した。
そして見たのは、三人が血の染みを見て目を見開いている姿。
怒られるのだろうか。それとも魔王が討たれたことを喜ぶのだろうか。
胸を(悪い意味で)ドキドキさせながら待っていると……。
(ポロリ)
!?
ストラが、突然涙を流した。
「なん、で……なんで、これがここにあるのよ」
フラフラとしゃがみストラが抱え上げたのは……ボクの
「なんで、なんでっ!!」
「……ストラ。分かっているでしょう」
マリアナさんは盾の持ち手を震える手で握り締める。
「カリムくんは、ここで……!」
「嘘」
ポツリとアズが呟く。
瞳孔を開き、いつもは鉄仮面のように動じない無表情を大きく崩している。
視線の先には、使用したことで折れて砕けた青色の短剣が。
「これ、死の呪い。使……った? じゃあ、助からない……よ?」
突然身体の支えを失ったようにペタリとその場で座り込む。
振り返ってストラが叫ぶ。
「ま、マリアナ!」
「……無理、です。蘇生の魔法は……傷を塞ぎ、心肺を賦活させるだけの魔法。それですら成功率は低いというのに……死体すらも、残っていないのでは」
首を横に振るマリアナさん。ストラは顔をくしゃりと歪める。
「そんなの……こんなの!!」
ストラは血の染み込んだ
「あ、ああぁぁぁぁあああああ゛ぁぁぁぁぁぁ!!!」
全てを絞り出すかのような絶叫が響き渡る。
「どうしてっ! どうしてぇ……こんなことにならないように……馬鹿なことをしないようにって、だからぁ……っ!」
溢れ返るような涙を拭うこともせず、ストラは鞄を抱きしめる。
「あたしがっ……カリムを、手放せなかったせい? だから、巻き込まれて……? ……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいぃ……!」
泣き崩れながらストラは、ひたすら謝り続けた。
その背後で、マリアナさんも立ち竦む。
「……ああ、また私は……救えなかったのですね、誰も」
光の消えた眼差しで血の染みを見つめ、盾を取り落とす。
その顔からは表情という表情が抜け落ちていた。まるで忘れてしまったかのように。
「私は、また……自らの過ちを誰かに押しつけて……無様に生きながらえる。幼き子らに過酷を背負わせ、のうのうと……。神はそのような運命をお与えになるのですね……」
目を瞑り、ブツブツと呟くように言葉を紡ぎ続ける。
隣ではアズが虚空を見つめていた。
「やだ。なんで。どうして」
普段から冷静で、感情を動かすことがほとんどないアズ。だがその時は、まるでずっと幼い少女になってしまったかのように瞳を震わせていた。
「嘘。違う。これは違う。認めない。こんなの現実じゃない。あり得ない。あり得ない、ありえない、アリエナイ、アリエナイ……」
そして呟き続けたアズは、時が止まってしまったかのように動かなくなった。
叫ぶストラ。
無力そうに目を瞑るマリアナさん。
呆然と天を見上げるアズ。
……え、何コレ。
どうしてこんな地獄みたいな空気になってるの。
みんながボクを邪魔者だって追放したのに!?
……これどうするの。
みんなその場に座り込むか立ち竦むかで動かなくなってしまった。
これじゃボクもここから動けない。
どうにかコッソリバレないように外へ出られないか……とベッドから踏み出した瞬間。
(あ)
ボロボロだったベッドの足が、バキンと乾いた音を立てて折れた。
きっと限界だったのだろう。
だが問題は……。
「!! ……誰!?」
ボクがそこにいるということ。
どんな状況でも身体が動くのは戦人として染みついた本能なのか。
泣き腫らして赤くなった目で、それでもストラは抜き放った剣をこちらへ突きつける。
「ひっ」
「……女の、子?」
勇者ほどの達人に切っ先を喉元へ突きつけられれば竦み上がるしかない。
大人しく手を挙げるボクの姿を認め、訝しげにストラは眉根を寄せた。
「……人間の子ども、ですね」
次に立ち直り、近づいてくるのはマリアナさんだった。かつては孤児の面倒を見ていたという彼女は、ボクが幼い子どもの姿をしているからか気遣わしげに寄ってくる。
「魔族の身体的特徴がありません。……アズちゃん、いいですか?」
「……あ、うん」
肩をポンと叩かれて、アズも正気に戻る。それはむしろ、役割を与えられたことで考えるのを後回しにしたように見えたが、とにかく動き出す。
三人の少女に、囲い込まれるボク。
「え、えっと……」
「……ん。魂の形、紛れも無く人間」
「やっぱり、そうですか。ここに囚われていた奴隷、でしょうか」
まずい、どうしよう。
逃げる、という選択肢は失われた。この三人から逃げ切ることなんてできない。
ストラ、マリアナさん、アズ。いずれも戦闘のエキスパート。走っても追いつかれるし、なんだったら動き出しを首根っこで引っ掴まれて終いだ。
かといって、正体を明かす選択肢はもっとない。
先程三人が起こした怪奇現象じみた謎の行動を忘れたワケではない。
一体アレは、何だったのか。
もしかしてボクの死を悼んでいた……? いやだけど、追放したのはみんなだし……。
それにボクは死を悲しんでもらえるほど、価値のある人間ではない。
ただの斥候で、アイテム係。
誰でも成り代われるような才能しかない小僧に過ぎないのだ。
それに自分の身に何が起こったのかも分からない。分からないから、説明ができない。
もし怪しまれて殺されたら、流石に死んでも死にきれない……いや、死にきれなかったんだけど。
「ねぇ、あなたのお名前は?」
マリアナさんが優しく聞いてくる。
やはりここは、どうにか誤魔化す……!
「か、カリーナ」
……が、咄嗟に出てきたのは自分とよく似た名前だった。
偽名にしてももっとやりようはあったのに。うぅ、自分の頭の鈍さが恨めしい……!
「……! ……そう、ですか。……あの子と、よく似た……」
ボクの名前を聞いた三人が再び一気に表情を曇らせる。な、なんで?
「この子は、保護しないと」
「……そうね。連れて帰りましょう。もう城に魔族は残っていない。そうよね、アズ?」
「あ、うん。城の素材、見えにくい。でも、見える範囲、いない」
「なら一応警戒しながら行けば大丈夫ね」
どうやら三人は女体化したボクのことを連れ帰るらしい。それはありがたいことだ。魔王亡き後とはいえ、魔族の本拠地だったこの場所でこんな少女が生き残れるワケがない。
「では、行きましょう。歩けますか?」
「……(コクリ)」
マリアナさんの差し出した手を取り、小さく頷く。
都市に帰るまでは、大人しく従おう。
「……もちろん、これも」
ストラは、
「連れ帰ってあげないと」
「……そうですね」
「……うん」
神妙に頷く二人。
まぁ、貴重なアイテムが入ってるもんね。それはボクでも分かる。
そのまま三人に連れられて、無人の魔王城を行く。
あちこちには、魔族の死体が転がっていた。ストラたちが片っ端から倒してきたらしい。
「結局、残った八魔将の片割れはいなかったわね」
「別の場所で指揮を執っているか、あるいは残党を取り纏めているのかもしれません」
「魔族、狡猾、しぶとい。きっと、終わりじゃない」
「そうね。気を引き締めないと……じゃないと、アイツの死が無駄になる」
……空気がズンと重くなる。
ど、どうして。旅をしてきた時はあんなに明るかったハズなのに。
そうこうしていると、城門まで辿り着く。ボクの通らなかった正門だ。
力尽くで突破したのか、閂が焼き切られている。
そして、外に……外……。
「――わぁ……!」
そう、外。
その空は……青く、澄み渡っていた。
暗雲に覆われていない空。それは生まれて初めて見る……青空だった。
「わぁ、わぁ! みて、みて空だよ! 青いよ!」
興奮から我を忘れてピョンピョンと飛び跳ねてしまう。空! 青空! 世界中のみんながずっと求めてきた、暗雲のない明るい空だ!
「これは……そっか、魔王が倒されたから……」
「……あの子がもたらしてくれたんですね」
「………」
「え、えぇ~……?」
しかし、三人の顔は何故か曇り空だった。