勇者PTに追放されたので捨て鉢で魔王と相打ちになったらTS転生した ~実は仲間たちは自分を逃がそうとしていたみたいです~   作:闇の有翼人種

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勇者ストラ・フリスト

 翌朝。宿のラウンジ。

 ボクはストラとアズを前に『お披露目』をさせられていた。

 

「あら、可愛いわね」

「ん、可憐」

「でしょう?」

 

 二人の良さげな反応を前に、マリアナさんが得意げに胸を反らす。

 ボクは襤褸を剥ぎ取られ、仕立ての良いワンピースを着させられていた。

 

 袖などに白いフリルの使われた濃紺の生地。金色のボタンなど、とても高そうな服だ。靴もピカピカとした革のブーツで、いい履き心地をしている。

 その上風呂に入れられて、ピンク色の髪も磨き上げられていた。

 どこからどう見ても、良いところのお嬢さまだった。

 

「ずっと襤褸に裸なんて論外ですからね。街に戻ったら真っ先に着替えさせようと思ってました。まぁ、昨日は凱旋があったので今日になってしまいましたが……」

「うぅ、こんな高そうな服……!」

 

 絶対高い。朝早くどこかへ行ったマリアナさんがウキウキで戻ってきたことから嫌な予感はしていたけど、まさかこんな高そうな服を着させられるなんて。

 

「本当はオーダーメイドが良かったのですけれど、流石に高級店などはまだ整っていないですしね。知り合いのお針子にお願いして、なるべくいい生地でできた出来合いを選んでもらいました。サイズもピッタリですし、これで決まりですね」

「こ、こんなのじゃなくてもっと、麻の貫頭衣とかでいいのに」

「駄目ですよ。女の子なんだから、服にちゃんと気を使わないと」

 

 マリアナさんは指を立て、窘めるように言ってくる。

 

「髪もせっかく綺麗なんですから、ちゃんと梳かしましょうね。やり方はまた今度教えてあげますから」

 

 そういえば、この人はカリムの身だしなみにも気をかけたりしていた。その時は男の子だからと見逃されたけど……今は女の子だから許してもらえないのか。

 そんなボクを見て、アズがうんうんと頷いている。

 

「ん。マリアナ、うるさい、分かる。私も、滅茶苦茶怒られた」

「アズも最初は汚かったからね。懐かしい」

 

 アズも元孤児だ。最初出会った頃は、それこそさっきまでのボクと同じように襤褸が一張羅のような有様だった。それが今では魔導師然とした埃一つないローブをキチンと纏っているのだから、マリアナさんの教育熱心が窺えるというものだ。

 アズでさえ逃れられなかったのだ。ボクもこの躾からは逃げられそうもない……。

 

「でも、大丈夫? お金持ち、子ども。チンピラ、大好物」

「ああ、それはそうですね。身代金目当てに誘拐されてしまうかもしれません」

 

 ハッと思い至ったようにマリアナさんは口に手を当てる。

 開闢都市の治安は悪い。多国籍と言えば聞こえはいいが、要は全国各地から悪い奴らも集合しているということである。

 そんな中を身なりのいい子どもがトコトコ歩いていたらどうなるかなど、火を見るより明らかだ。

 

「困りました。どうしましょう……」

「それなら、常にあたしたちの誰かがついてればいいじゃない」

 

 ストラが提案する。

 

「ああ、それはいいですね。流石に勇者の庇護下にあって、手を出そうとする人は少ないでしょう」

「ええ。魔王すら倒した相手を前におかしなことをする奴なんざ、自殺志願者だけよ」

 

 それは確かにその通りだ。特に勇者であるストラは大国の認可を受けている。余程のことがない限り、国という後ろ盾を敵に回す者はいない。

 

「……魔王を倒したのは、本当は別の奴なのにね」

 

 そう暗い表情で自嘲する。ご、ごめんって。

 そんなストラの肩に、マリアナさんが手を置く。

 

「では、ストラ。カリーナちゃんをお願いしますね」

 

 ストラはポカンと口を開けた。

 

「は? なんであたし?」

「だって私は教会に顔を出さなければなりませんから。慣れてない内に連れ出すワケにはいきませんよ」

「……アズ」

「無理。用事。獣人窟。危険」

「むむ……」

「ストラは国王からの知らせが来るまでは暇でしょうし、ね」

「……しょうがないわね」

 

 自分で言った手前、拒否しづらいのだろう。

 悩んだ末、ストラはボクに向かって手を差し出した。

 

「今日はあたしから離れないように。分かった?」

「う、うん」

 

 おずおずと手を取る。

 それはなんだか……懐かしいことの気がした。

 

 

 

 ※

 

 

 

 ストラ・フリスト。

 魔王討伐の要である聖剣の所有者であり、その扱いにもっとも長けた優秀な戦士。

 『日輪の勇者』『聖なる炎』といった二つ名で呼ばれ、最近はそこに『青空の解放者』という称号も加わった。

 

 性格は、対外向けには品行方正で清廉潔白。

 裏では少々激しい気性の持ち主であるが、その正義感は本物だ。

 悪を許さず、非道を許さず。手の届く範囲にいる人間を誰でも救いにいく。

 これほど勇者に相応しい人格の持ち主もそうはいないと、ボクも思う。

 

 そんな彼女は、宿の裏手にある空き地で鞘に収めた聖剣で素振りをしていた。

 オレンジの髪を一纏めに括って、ノースリーブの動きやすい服装に着替えた彼女は一心不乱に剣を振るっている。

 

「ふっ……!」

 

 上段から斬り下ろし。飛び退くように下がりながら剣を引いて反撃に備え、今度は一気に懐へ踏み込む。

 それも捌かれたら今度は細かい連撃を加えつつ、足払いを仕掛け……それも凌がれたのなら鋭い突きを放つ。

 流れるような、踊るような剣捌き。それでいて一撃一撃に必殺の強さが籠められている。それは強靱な魔族の身体を破壊するためにストラが実戦の中で築き上げた、対魔族特化の彼女らしい剣術だった。

 

 そんな風に、ストラは仮想敵を想定した実戦的な訓練をしていた。

 

「――ふぅーっ」

 

 一段落したところで、空き地の脇に座っていたボクはパチパチと拍手した。

 

「すごーいっ!」

「……そんなものじゃないでしょ」

「ううん、本当にすごいよ!」

 

 本心だ。

 ストラの剣は美しく、それでいて実戦的。見ているだけで凄みが分かった。

 ボクは剣術はからっきしで、結局習ってもほとんど身にならなかった……それでもストラの剣の素晴らしさは分かる。というか、実戦の中で何度も助けられてきた。

 

「こんなつまらないことに、付き合わせて悪いとは思うけど。無理に褒める必要はないわよ」

「そんなことないよ! 本当にすごい!」

「……本当?」

「うんっ!」

 

 頷く。これも本心。

 そんな彼女の日課である素振りを間近で見た機会は、実は少ない。その時間帯は、ボクはボクでできることをしていたからだ。

 アイテムの手入れをしたり、走り込みをしたり……。

 何の取り柄もなかったボクなりに、色々と努力をしていた。ストラのひたむきな性格に触発されていたともいう。

 結局、あまり役に立たなかったけれど……。

 

 だから、こういう風に見る剣術は新鮮だ。

 なのでボクは純粋な気持ちで拍手していた。

 

「ふぅん。女の子にしては珍しい趣味ね」

「あっ……い、いや、だって綺麗だもん!」

「綺麗?」

「そ、そう! 綺麗なものは、女の子が好きなものでしょ!」

 

 ドキッ。

 慌てて取り繕う。これからは趣味も女の子らしくしないといけないのか。大変だ。

 

「ま、退屈しのぎになるならいいけど」

 

 そう言って休憩に入ることにしたのか、隣に座るストラ。自分の水筒を手に取り、口に付けて傾ける。

 そんな何気ない仕草一つとっても、ストラは綺麗だ。

 今年で十八歳になるという彼女は、所作も美貌も兼ね備えている。

 滑らかな白い肌。均整の取れた筋肉。夜明けのようなオレンジの髪に、翠玉の瞳。誰もが振り返る美人と言えるだろう。水を飲んでいるところでさえ、絵画が一枚描けてしまいそうだ。

 

 ジッと見ていると、気付いたストラが水筒を置いて振り返る。

 

「何?」

「な、なんでもないっ」

 

 パッと目を逸らす。見とれていたなんて、恥ずかしくて言えない。

 ただそんなボクの態度に不信を覚えたのか、ストラはその緑の瞳でボクをジッと覗き込んだ。

 

「ふぅん? 怪しいなぁ」

「な、何も怪しくなんか……」

「何か気になるなら、答えるけど」

「え、ええと……」

 

 ボクは気を逸らすためにも質問を考えた。

 

「……な、なんでまだ、鍛えるの?」

「え?」

「だ、だって、魔王倒した……んだよね?」

 

 気になっていたと言えば、気になっていた。

 ストラの訓練は実戦を想定したものだ。つまり戦うことを考えていたということ。

 もう魔王は倒して(正確なところはちょっと違うけど)、彼女の大仕事は終わったハズだ。まだ魔族の残党はいるとはいえ、無理に彼女が出張る必要はない。

 なのにどうして、剣を握るのか。

 

「これ以上、強くなる必要は、ないよね?」

「……ああ、そんなこと」

 

 ストラは、フッと自嘲して傍らに置いた聖剣を見つめる。

 

「だってそうしなきゃ……何も守れないから」

 

 そう言って拳を握る彼女の目には――悔恨が満ちていた。

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