頭脳と異能に筋肉で勝利するデスゲーム   作:もちもち物質@布団

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終わった後:七夕

「ってことで、七夕だったからさぁ……昨夜は大変だったんだぞ、天の川の水が多かったから、流しそうめんするの大変でさあ……」

「お前の話を聞いていると、時々気が狂いそうになってくるんだが」

 ……その日、バカはちょっぴり疲れていた。

 というのも、昨夜は大変な仕事があったのだ。

 そう!年に一度の大事な日……七夕である!

 

 七夕のバカ達は、大変なのだ。天の川の水を減らして、織姫さんと彦星さんが会えるようにしてやらなきゃいけないのだ。

 そこで、そうめんである。

 ……天の川の水を使って、そうめんを生産するのだ。そして、そのそうめんを地上で食べてもらって、川の水を減らしてもらうのだ。それが七夕の習わしである。

 だが!近年は七夕にわざわざそうめんを食べる人が減っており……天の川の増水に歯止めがかからない!そのため、その分はバカ達が空の上で、天の川の水を処理しているのである!

 

「……ってことで、できるそうめんより食べられるそうめんの方が少ないから、最近は、天の川の上の方で、ぶんりゅー?っての作って、そっちに水流して、天の川の水、へらしてるんだけどさあ」

 バカが説明すればするほど、海斗の眉間に皺が寄る。『一体何なんだ!本当に、何なんだ!』とは海斗の叫びである。ご尤もである。

「でも、ぶんりゅー?の先どうすんだ、って話になってぇ……一旦、雲にして取っとくんだけどさあ、それだと大変だし、じゃあ、そうめん作って俺達で食べよう、って話になってぇ……それで、天の川の水あるし、流しそうめん大会しよう、ってなってぇ……」

「……どこから何を聞けばいいのか分からないが、まあいい。とにかくお前達は昨夜、天の川の治水工事を行った後、流しそうめん大会をしていたんだな?」

「うん!多分、そう!それでな!そうめん、めっちゃ美味しかったんだけどな!川の水、なんか思ってたより増えちゃって、そうめんが流れるスピードめっちゃ速くて!大変だったんだよぉ!」

 バカが『やっと伝わった!』とばかりにこにこ顔で話すのを、海斗は『よく分からない!』とばかり眉間に皺を寄せながら聞いている。バカ語の翻訳には強靭な精神を要するのである!

 

 

 

「ってことで、これ、工事終わった後に貰った差し入れ!めっちゃいっぱいあるから、おすそわけ!はい!」

「あ、ああ、ご親切に、どうも……」

 そうしてバカの話が落ち着いたところで、バカは桐箱を差し出した。海斗は桐箱の蓋をそっと開けて、『ああ、分かってはいたが、そうめんだ……』と頷いた。桐箱の中には、上等なそうめんがいっぱい詰まっているのだ!天の川でできたそうめんなので、とても美味しいと評判のそうめんである!

「このそうめん、めっちゃ美味しいんだぞ!おすすめ!」

「そうか。じゃあ、楽しみにしておこう」

 海斗はちょっと笑って、海斗のトートバッグにそうめんの桐箱をそっと入れて……そして。

「……それで、聞きたいんだが」

「ん?」

 海斗は、バカと一緒に向かう先……キューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部社員食堂の方を見ながら、何とも言えない顔をした。

「今日も流しそうめん大会なのか」

「え?うん!まだそうめんあるし!天の川の水も大量に貰ってきちまったし!」

 ……そう。

 本日の日替わり定食は、『流しそうめん定食!なんと!食べ放題だ!乗り遅れるな!』である!

 

 

 

 この社食で、『食べ放題』をやっているのは非常に珍しい。何故かというと、うっかり『食べ放題』などを設定してしまうと、店内全ての食品を食い尽くされてしまうからである。

 この社食では100升ご飯を炊いているのだ!それでも天使達は『腹八分!ヨシ!』とやっていたりするのだ!そんな中でうっかり食べ放題などやってしまったら、お米が200升あっても足りないのである!

 ……が、今日ばかりは、食べ放題である。何せ、『時間制限あり』なので。

 

「あっ!樺島さん!海斗さん!こちらどうぞー!」

 社食前の広場では、ミナがお盆を持ってにこにこしていた。そして、バカと海斗を流しそうめん席へと案内してくれる。

 そうめん席は、小さなテーブルと椅子のセットであるが……眼前に、ぶっとい竹の半割りが設置してある。そこには水が流れており……そこを、絶えずそうめんが一玉ずつ流れていく!

「はい!ではこちら、そうめんつゆです。こちらは薬味です。こっちは箸休めの小鉢!これがそうめんの取り箸で、こっちが食べる用のお箸です!そして制限時間は30分!頑張ってくださいね!」

 そして、あれよあれよという間にミナは砂時計を用意して……。

「では、よーい、どん!」

 ことん、と砂時計をひっくり返したのだった!

 

 

 

 そこからは、バカは大変に頑張った。

 昨日のダイナミックな流しそうめん……というよりは、そうめんと共に川を流れていく行事とは違い、今回は竹を流れていくそうめんを箸で掴んで食べるテクニカルな流しそうめんである。

 バカは持ち前の動体視力でそうめんをしっかりロックオンし、しゅばっ!と捕獲していく。

 ……そして、苦戦している海斗のお皿に『はい!』とそうめんを一玉ずつのっけつつ、自分はその5倍ぐらい食べていく。……バカは学んだのだ。海斗はバカの5分の1くらいしか食べないのだ、と!

 そうしてひたすらそうめんを食べるのだが、これがまた、おいしい。

 コシの強いそうめんに、濃厚な旨味の麺つゆがよく合う。そこに加える薬味の数々……おろししょうがにネギにミョウガ、蒸し鶏、錦糸卵、しいたけの甘く煮た奴、かまぼこ……といった手の込んだ品々が、彩を添えてくれる。社食のそうめんは、高知風の豪華なそうめんなのだ!

 また、箸休めの白和えも大変美味しかった。バカは『これは白和えと言う!』という知識を持たないので、『なんか白くてうまいやつ!』としか認識できていないが!

 

 

 

 そうして30分が終わり、バカは程よく腹8分になった。海斗も腹9分くらいになった。まんぞく!

「はい、時間終了です!ナイスファイトでした!」

 そうしてミナが食器を下げにきつつ、『ないすふぁいと!』とにこにこ言ってくれた。海斗は、『僕はそうめんと戦っていたのか……』と何とも言えない顔をしていたが。

「では、こちら、食後のデザートの七夕ゼリーです。どうぞ!」

 そんなバカ達の前には、ことん、と、可愛らしいゼリーの紙カップが置かれた。バカは、『これ、おいしいやつ!』と目を輝かせた。海斗は、『七夕に、ゼリー……?』と首を傾げている。七夕ゼリーの文化は、知らない者にとっては奇異なものなのだ!

 

「ところで、お二人はもう、短冊、書かれましたか?」

「ん!?まだ!」

 そうして続いたミナとバカの話に、海斗が首を傾げる。

「短冊……というと、1日遅れで、ということか」

「あっ、違うんだぞ!いや、そうなんだけど、違くてぇ……」

 バカは、『俺、バカだから説明が下手ァ!』と嘆きつつ、慌てて考えて、考えて……がんばる!

「毎年、織姫さんが『今年も川のことでお世話になりました』って、お礼に短冊くれるんだよぉ。だから、俺達の短冊は、7月の8日なんだ!」

「それに願いを書いておくと、叶う、と……?」

「うん!それにお願い事書いて吊るしとくと、めっちゃモチベ上がる!だから叶う!」

「成程。叶えるのは自力で、ということか……」

 そうなのだ。バカ達にとって、願いとは自分で叶えるものなのである。しかし、モチベが上がるのはよろしいことだ。ということで、天使達はここのところ毎年、きゃいきゃいと楽しく短冊を書きまくっているのであった。

「この後書きに行く!海斗ぉ!行こぉ!」

「あ、ああ……まあ、年中行事だしな……」

 そうして、バカ達は『あっ、会場はここを出て右手の広場ですよー!』とミナに教えてもらいつつ、早速、短冊を書きに向かうのであった!

 

 

 

「あ、樺島君。海斗も。2人も書きにきたのかな」

「陽ー!こんばんは!書きに来た!短冊!」

 短冊会場へ向かうと、そこには陽とたまが居た。どうやら、2人も短冊を書きに来たようである。

 陽は薄いグレーの短冊、たまは淡いオレンジの短冊を手にしている。ちなみに短冊のカラーバリエーションは64色あるぞ!

「陽とたまはもう書いたのか?」

「うん。私は『光が早くモールス信号を習得しますように』って書いた」

 ……たまは、ぴらり、と短冊を見せてくれた。本当にそう書いてあった。バカは陽に向かって『がんばれよ!』と激励を送った!

「その、陽は何を……いや、差し支えなければ、で構わないんだが」

「ああ、うん、構わないよ。俺は『つぐみが日本城郭検定と税理士試験の1科目に合格しますように』って書いた」

 ……陽も短冊を見せてくれたが、本当にそう書いてあった。バカはたまにも『がんばれよ!』と激励を送った!たまは、『がんばる』と胸を張って返してくれた!

「……この短冊に何かを書く効果が『モチベーションの向上』であるならば、その、自分以外の人のことを書くのは、どうなんだ……?」

「うーん……すごく効果があると思うけどな。だって、自分の恋人がわざわざ書いてくれたんだから」

「成程な……そういうことか……」

 陽が幸せそうにたまの短冊を見ているので、海斗は『野暮なことを言ったな……』と何とも言えない顔をしている。バカはバカなので、『よく分かんないけど仲良しだな!』とニコニコした!

 

 

 

 そうして、陽とたまは竹の枝に短冊を飾った。竹には、他にも沢山の短冊が飾ってあって、風に揺れてはサラサラと音を立てていた。

「一晩ここに飾っておいてから自分の部屋に持って帰るんだ!そうすっとモチベ上がる!」

「ああ……全員に自分の願いを宣言するようなものか。それはモチベーションも上がるだろうな」

 海斗は『成程な……』などと言いつつ、ちら、と皆さんの短冊を見ている。尚、短冊の1割程度は『強靭な筋肉!』だとか、『無敵の筋肉!』だとか、『最強の筋肉!』だとか書いてある。これぞキューティーラブリーエンジェル建設である。

「あっ!これ、ビーナスのだ!」

 そんな中、バカは早速、薄黄色の上品な短冊を見つけた。そこには『蛇原瞳』とビーナスの本名がちゃんと書いてあるのだ!

 そして。

「『世界征服』って書いてある!」

「成就させないでくれそんなもの!」

 バカは『うおおおー!かっけえー!』と目を輝かせ、海斗は『本気じゃないだろうな!?』と青ざめた。

 ……が、風に吹かれて、ぴら、と捲れた短冊の裏面を見ると、そこには『資格試験合格祈願』と綺麗な字で書いてあった。

「……これ、ヒバナのかなあ」

「ヒバナの、かもしれないな……」

 ビーナスも、事務に営業に、と色々大変そうであるが、ヒバナも資格試験をバリバリ受けていて大変なのだ。ヒバナはすごい。もう重機を運転できるし、異能を工事に使うこともできる!次は、玉掛の資格を取ろうとしている!すごいぞヒバナ!

 

「ヒバナのは『資格試験に合格する』だな」

 そして、ビーナスの短冊のちょっと下の枝に、赤い短冊があって、そこには『資格試験に合格する』と、ちょっと汚い字で書いてあった。ヒバナの字だ。

「合格しますように、じゃなくて、合格する!なんだなあ……えへへ」

「彼らしいよな」

 バカも海斗も、ヒバナの短冊を見てにこにこした。頑張る仲間の姿は、かっこよくて眩しいのだ!

 

「これは……先輩のだぁ!」

「……『おいしいごはん!』か。彼らしいな……」

 今日も社食を仕切る先輩天使の短冊は、麦藁色で、かつ、字がでっかかった。バカは『かっこいい!』とにこにこした!

 

「ミナのだ!ミナの!……『皆さんに美味しいごはんをお届けできますように!そして今年こそは……汁?女?……に勝ちます!』……なんて書いてあるんだ!?」

 続いて、ミナの水色の短冊を見つけたバカは、混乱した!何せ……むずかしい漢字が書いてあって、読めない!

「どれどれ……『キョンジャゾンナイに勝ちます』だな」

「何それェ!?」

「以前、ミナさんに聞いたことがある。ショウガの汁で水牛の乳を固めて作るデザートらしい。ただ、何故ショウガの汁でミルクが固まるのかがよく分かっていないらしくて、製法が確立できないんだとか……」

 バカは海斗の話を聞いて、『そういえば、ミナが時々『またショウガミルクを飲むことになってしまいました……』ってしょんぼりしてるなあ』と思い出した。あれはきっと、固まり損ねたショウガ牛乳プリンだったのだろう。

 何はともあれ、難しそうな料理にも果敢に挑戦するミナに、バカは敬意を表する!敬礼!

 

「土屋のおっさんのもある!えーと……『健康第一』……!」

「……まあ、健康は大事だよな」

 バカは、濃いグレーのかっこいい短冊を見つめて、『そっかぁ、土屋のおっさん、健康がほしいのかぁ……』と、しみじみ思った。

 土屋は齢の割にかなり元気な方だとは思われるが、それでも、本人なりに思うところは色々あるのだろう。

「俺、土屋のおっさんに栄養のあるものいっぱい食べてもらえるように、また、釣りとか行ってくる……!」

「そういうことなら、土屋さんも誘ったらどうだ。彼、釣りが趣味だろう?……いや、お前の釣りは『社歌漁』か……?」

 海斗が『そんなところに土屋さんを同行させるわけにはいかないよな……』と悩む一方、バカは、『マグロの掴み取り、土屋のおっさんは嫌かなあ……』と全く別のことを考えていた!バカ!

 

「ああ、天城さんとかにたまの短冊だな、これは」

「どれぇ!?……あっ、蟹の形だ!」

 ……そして、白い短冊と、銀色のぴかぴかの短冊が見事に蟹の形に折られているのが発見された。かにかに。

「……読めないな」

「な。折ってあるもんなあ」

 短冊に何が書いてあるのかは分からない。もしかしたら、何も書いていないのかもしれない。何せ、天城もかにたまも、きっと、もう叶えたい望みはもう全部叶っちゃったのだ。

「……まあ、こういうのも幸せそうだよな」

「うん!」

 バカは、天城とかにたまの穏やかな暮らしに思いを馳せてにこにこした。やっぱり、なかよしが一番!

 

 

 

 ……他にも、双子の乙女が『打倒、とんかつの悪魔』『チキンカツでは負けない』と書いているのを見つけたり、とんかつの悪魔が『とんかつ揚げのポジションは誰にも渡さぬ』とプロ意識を発揮しているのを見つけたり、牡牛の悪魔が『家内安全』とご尤もなことを書いているのを見つけたりして……さて。

「俺、なんて書こうかなあ……」

 バカは、考える。

 ……頑張りたいことはいっぱいある。仕事はもちろん、頑張りたい。先輩達に追いつけるように、いっぱいがんばりたい。

 だが、他にも沢山あるのだ。

 海斗の小説を普通に読めるくらい賢くなりたいし、ヒバナよりも資格をたくさん持っている先輩になりたい。お願い事がいっぱいある!

 ……そうして、頭から湯気が出るほど考えたバカは、遂に、ペンを握って……できる限りの丁寧な字で、一文字一文字、でっかく書いていく。

「……お前らしいな」

「うん!」

 バカの短冊には、『がんばる!』と書かれた!

 バカは、がんばる!色々なことを、とにかくがんばるのだ!

 

 そんなバカの短冊を見ていた海斗は、まだ短冊に何も書いていなかった。だが、馬鹿の短冊を見て、考えがまとまったらしい。『よし』と頷いて、さらさら、とペンを動かして……。

「海斗は!?海斗は何書いたんだ!?」

「今書いている小説を完結させたいから、それを書いた」

 海斗の短冊を覗き込むと、海色の紙の上に綺麗な字で、『書く。』とだけ書いてあった。

「……海斗っぽい!」

「そうか。僕は、僕らしくないな、と思うが……まあ、僕っぽい、ということなら誉め言葉として受け取っておこう」

 海斗はそんなことを言ってちょっと笑うと、早速、竹の枝に短冊をくっつけ始めた。

 なのでバカも、海斗の短冊のお隣に自分の短冊をくっつける。

 ……2枚の短冊がひらひらしているのを見ると、なんだか元気が湧いてくる。これが『モチベが上がる』ということなのだ。バカは満面の笑みで『ヨシ!』と頷いた。

 

 こうして、キューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部の夜は更けていく。

 明日には短冊がそれぞれの人の元へ引き取られていき……部屋の机の引き出しの中だったり、愛読書のページの間だったり、窓辺だったり、それぞれの場所に収まることになるのだろう。

 そして、皆それぞれに、自分の短冊を見ては、決意を新たにするのだ。

 ……頑張る多くの人達のことを、織姫様も彦星様も、きっと、温かく見守ってくれることだろう。そうめんでも食べながら……。

 おお、キューティーラブリーエンジェル建設、ああ、キューティーラブリーエンジェル建設……。




『頭脳と異能に筋肉で勝利するデスゲーム』のコミカライズ1巻が本日発売です。よしなに。
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