頭脳と異能に筋肉で勝利するデスゲーム 作:もちもち物質@布団
その日、とあるプールにはちっちゃな蟹ロボがかにかにしていた。
そう。ちびたまボディに乗ったかにたまであるが……かにたまは、浮き輪に乗っかり、日除けの大きな麦藁帽子を被って、かにかにかに、と、流れるプールを流れていく。
「……プールなんて、何十年ぶりだかな」
「俺とつぐみも高校の授業以来だから……あなたは50年以上、プールに入ってないんじゃないかな」
「いや、デスゲームの中で泳がされたことがあるのでな……あれは何回目のデスゲームだったか」
「それはプールに含んでいいのかな」
……かにたまと天城、そして陽とたまが流れるプールをかにかにと流れていく中、そんな彼らを追い越して、バカが元気に泳いでいく。
「ところで、樺島君が泳ぐとそのプール、勝手に流れるプールになっちゃうね」
「そうだね……まあ、いいんじゃないかな。ほら、かにたまは嬉しそうだし」
かにかに、と、夏仕様かにたまが喜ぶ中、バカは元気に、『うおおおおおおお!』と泳ぎまくって、プールに水流を生み出している。
……そう。これは流れるプールではない。
流すプール!
一頻り泳いで、一頻り勝手に流れるプールを作っていたバカであったが、流石に少し疲れて、プールサイドに上がってきた。
プールサイドのビーチベッドには海斗が腰かけていて、海斗はバカが上がってくると苦笑いを向けてきた。バカがプールを流れるプールに変えている様子は、プールサイドから見ていると中々に怖いのである。
「流れるプール作ってきた!」
「ああ、そうだな。見てたが、うん……アレはいいのか?」
「他に人が居ない時はやっていいぞ、って親方に言われてる!」
「成程、教育済みだったか……」
尚、本日のプールには他の利用客も居るが、いくつかあるプールの中の1つを勝手に流れるプールにしていただけである。海斗は『まあ、セーフ……ということにしておこう……』とぶつぶつ言いながら頭を抱えた。
「プール楽しいなあ、楽しいなあ……ヒバナも来られたらよかったのになあ」
バカは海斗の横に腰かけつつ、本日、この楽しいプールに来られなかった仲間のことを思う。
……ヒバナである。そう。ヒバナは、こういうところには来られないのだ。
「彼は刺青があるからな……。まあ、僕らがあまり言うことでもないだろう」
一般的な温泉やプールは、タトゥー禁止である。その点、ヒバナは見事に蛇さんの刺青が入っているので、プールには来られないのだ!
プールによっては、テープなどでしっかり隠してあれば入場できるところもあるのだが、ヒバナは『そもそも墨入れた時点でそういうモンだと思ってる』とのことで、さっさとお留守番を決め込んでしまった。
バカとしては、折角だから皆でプールを楽しみたかったのだが……ヒバナの、そういうきっぱりしたところはカッコいいなあ、とも思う。
「まあ、思い出話はビーナスからヒバナに届くだろうから……」
一方、刺青が無いビーナスは、ミナと一緒に浅いプールできゃいきゃいとはしゃいでいる。非常に楽しそうだ。……この楽しそうなビーナスをヒバナに見せてやれないのはやっぱり残念な気がしてくるバカなのであった!
「ところで、海斗は泳がねえのか?」
さて。そうして仲間達の様子を見ていたバカだが、ふと、首を傾げた。
何せ、海斗はずっとここに居る様子なのだ。日除けに着ているパーカーは脱いだ形跡が無いし、濡れてもいないので……否、足だけちゃぷちゃぷ水に浸けていた様子はあるのだが、それだけである。
すると。
「……あまり好きじゃないんだ」
「なんでェ!?」
「そもそも何故泳ぐのが好きなんだ?僕には理解できない!」
なんと!バカにとってはあまりにも衝撃的な言葉が返ってきてしまった!バカ、びっくり!
「えっ……えっ、泳ぐの、嫌いなのか……?」
「……水の中で呼吸できるなら話は別だったかもな」
バカが恐る恐る聞いてみると、海斗はものすごーく渋い顔で言った。
「思うように身動きが取れない中で呼吸もままならないし、鼻に水が入ったら痛いし……」
「そ、そっかぁ……」
バカが圧倒されて『ほげえ……』となっている横で、海斗はどんどん、泳ぐことの楽しくない点を挙げていく。挙句、『そもそも人間は陸に上がった生き物だぞ!』とまで言い出している。バカは『そうなんだけどぉ……』と、ちょっぴりしょんぼりしてきた!
「……と、まあ、泳ぐのはあまり、好きではないんだ。元々、運動自体がさして好きじゃないせいも多分にあるが……」
「うん……」
バカはしょんぼりしながら、しかし確かに納得していた。
そうなのだ。バカが好きだからって、海斗も泳ぐのが好きとは限らないのだ。
バカは、海斗が好きなものはなんでも好きになりたいくらいなのだが、それでも、海斗が読んでいる難しい小説は未だに読めないし……それと同じで、バカが楽しくやれることも、海斗には楽しくない、ということは沢山あるはずなのである。
……でも、バカは今日、プールで海斗と一緒にぷかぷか浮いていたかったのである。なんとなく。
「……あー、まあ、しかし、折角プールに来たわけだからな、うん……」
すると、海斗は唐突に、そんなことを言い始めた。ちょっとわざとらしい具合ではあったが、バカは頭の上に『?』マークをいっぱい浮かべて首を傾げるばかりである。バカなので。
「だから、その……まあ、うん」
海斗はもごもご、と口ごもってから、えい、とばかり、日除けのパーカーを脱いでビーチベッドの上にぱふんと放ると、よいしょ、とプールの縁に座って、そのまま、とぷん、と水の中に入った。
……それを見ていたバカは、ぽかん、としながら、なんだかじわじわと嬉しい予感がしてきて……そして。
「久しぶりに、ちょっとだけ泳いでみることにする」
「……そっかぁ!」
海斗の宣言を聞いて、いよいよ嬉しくなって大喜びのバカなのであった!やったね!
「樺島ァ!お前が泳ぐと波が立つ!やめろ!泳ぐな!」
「わ、分かった!浮いてる!」
「水に浮くだけにしろ!空気には浮くんじゃない!」
「えっ!?俺、空気にも浮いてたァ!?浮いちゃってたァ!?うわあああん!ごめんよぉおおお!」
……が、バカと一緒に泳ぐというのは大変なのである。バカは猛省した。海斗と一緒にぷかぷかやるだけでも、こんなにも大変なのである!
バカは猛省しながら、ぶくぶくぶくぶく!と水底へ沈んでいった!それもそのはず……バカは筋肉の塊であるため、浮こうとしなければ普通に沈むのである!でも空気に浮かずに水にだけ浮くのは、加減が非常に難しいのであった!大変!
そうして、バカが『水に浮いて空気には浮かない!』を練習しつつ、海斗も『もう泳がなくていいか』と諦めてぷかぷかふやふや漂っていたところ。
「あ、あの、私、1人じゃないです!お友達と来てます!だからごめんなさい!」
何やら、ちょっと緊張したミナの声が聞こえてきたので、バカも海斗も、すわ何事か、とそちらを見る。
……すると、ミナが何やら、見知らぬ男子2人に囲まれているのが見えた。ヒバナよりは怖くない男子であるが、ヒバナよりもちゃんとしていないかんじがする男子である!
これを見て、バカは海斗に『これ、俺が行った方がいいかなあ!?』と確認し、海斗は海斗でバカを嗾けようとしていたのだが……。
「ちょっと!その子は私のよ!」
そこへ、つかつかとやってきたのは、ビーナスである。
……飲み物を買いに行っていたらしいビーナスの、堂々たる帰還である。
すると、ミナに声を掛けていた2人組は、圧倒された。当然のことである。何せ……ビーナスは、『ビーナス』の名に恥じぬ出で立ちであるので。
自ら美の女神を名乗るほどのビーナスだ。当然、かなりの美人さんである。その恵まれたプロポーションで、シンプルながらしっかり肩も腹も脚も出る水着を堂々と着こなしているものだから、とんでもないことである。
ミナはそんなビーナスの横に、そそっ、と移動しつつ、自分の水色のパレオの裾をちょっと引っ張って、ビーナスの脚をちょっと隠した。
……そんな2人に、男子2人組は何やら言ったらしい。多分、誘い文句だったのだろう。声はバカ達のところまでは聞こえないが。
しかし、その後に返されたビーナスの声は怒りに満ちてデカかったので、バカ達にも大変よく聞こえる。
「はあ?あんた達みたいなのが居たら面白くないから嫌、って言ってんの。本当に無粋ね!それとも、何?あんた達、この私達の横に立って釣り合うって、本気で思えるの?大した自信家だこと!」
……ビーナスの、自分の事はしっかり棚に上げたかのような、いっそ傲慢にすら思える言葉であったが……それも仕方ないね、と思ってしまう程の『美の女神』っぷりである。
そうして、男子2人はすごすごと帰っていった。ビーナスは、ふんす、と鼻を鳴らしつつ、ミナと腕を組んで楽しそうにプールサイドを歩いていく。
ミナもにこにこしながら、そんなビーナスと仲良く喋り、そして2人できゃらきゃら笑い声を上げているので……バカは『ビーナスって、つええんだなあ……』と、そんな2人を見送るのだった。
ついでに、『帰ったらヒバナと土屋のおっさんにも、これ教えてやろっと……』などと思いつつ。
その後、バカはまた元気に泳ぎ、プールを流した。
ミナとビーナスが『折角だから流れていく?』ということで、楽しく水流に流され、海斗も『折角だし……』と流され、陽とたまも『折角だからもう一回』とまた流され……そんな様子を、プールサイドのビーチベッドから、天城とかにたまが見守る。
尚、かにたまの手にはトロピカルジュースがある。かにかに、と時々ストローの先っぽを咥えているかにたまであったが、ジュースのほとんどは、かにかに、と天城に与えられている。天城は天城で、かにたまとジュースをシェアしつつ、若い自分達を眺めたり、『樺島。水着が今脱げたが大丈夫か』と教えてくれたりしていた。バカは大慌てであった。水着には筋肉がついていないので、バカの泳ぎに付いてこられないのである!
そんなこんなで一行はプールを楽しく満喫し……そして。
「プールで泳いだ後のアイスって美味しいよなあ!」
「そうだな……。疲れに甘さが効く」
プールを出たバカ達は、アイスの自販機でアイスを買って食べていた。由緒正しきセブンティーンアイスである。プールにはセブンティーンアイスと相場が決まっているのである。
「……俺、プールで売ってるアイス、初めて食べたかもしれない」
「そっか。じゃあ、光の初めてが1つ更新されたね」
何やら神妙な顔でアイスを食べていた陽を見て、たまが満足気な顔をしている。たまはこういう時、妙に満足気なのだ!
「……私も初めてだわ。そもそもうち、プールに行ける若衆が居なかったからね。かといって、私1人でプールに行かせてくれる家でもなかったし」
「わ、わあ……そ、そうですよね……あ、じゃあ、もしかしてビーナスさん、お友達とプールに行くの自体、初めてでしたか?」
「そうねえ。初めてだったわ。ふふふ」
「わあ……なんだかちょっと嬉しいような気がします。うふふ……」
そして、ビーナスも何やら、初めましてのプールであったらしい。ミナもたまっぽさがちょっと移っちゃったのか、ふにふにと嬉しそうな笑顔ではにかんでいる。
……そんなミナとビーナスの様子に、かにたまがカニラを向ける。カニッ、とシャッター音が鳴り、その音に驚いたミナとビーナスがかにたまを見て、それから『そうねえ、折角だから写真撮りましょ!』と、笑顔でかにたまを取り囲むのだった。
尚、カニラはかにたまガジェットの1つであるが、そこそこの小型でありながら、なんと5000万画素ある。くっきりはっきり鮮やかな写りである。強いぞかにたまガジェット!
……ということで、バカ達のプールの日の写真が撮影された。
撮影された写真は、後日、現像されてヒバナの手元に届いたわけだが……ヒバナは、『墨入れたのこういう風に後悔する日が来るとは思ってなかったぜ』とぼやいていた。
が、ぼやきながらもなんだか嬉しそうなヒバナは、ビーナスに『私、楽しそうでしょ』と笑いかけられて、『おう』と笑い返すのだった。
一方、バカはバカで、『水に浮いて空気に浮かない!』の練習の成果を先輩達に見せるべく、今度は先輩達と一緒にプールに行くことを決めた。
つまり。その日、プールは非常にむさくるしいことになるのが決定したのである。
バカは只々笑顔であったが、海斗はむさくるしい様子のプールが『超・流すプール』と化す様子を想像しかけて、そして、そっと、想像に蓋をするのであった。
おお、キューティーラブリーエンジェル建設。ああ、キューティーラブリーエンジェル建設……。
明日、書籍版『頭脳と異能に筋肉で勝利するデスゲーム』の3巻が発売となります。3巻で堂々の完結です。よしなに。