フェルンは待てなかった   作:dolph

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最終話


葬送

 翌日、フェルンは早くから動き始めた。一睡もしてないが、頭は冴えている。

 瞑想をして心を沈め、今日すべき事を確認した。一夜明けても変更はない。

 ずっと何年もそうしてきたように、外が暗い時間に食事の準備を始めた。

 手を動かしていると余計な事を考ずにいられる。決めた事は凍ったように揺らがない。

 作ったのはスープパイ。ハイターのところで覚えた料理だ。ハイターにもフリーレンにも振る舞った事がある。

 

 リュグナーはいつもと同じ時間に奥の部屋から出てきた。

 フェルンがフリーレンに師事する前は、食事を一緒に取ったり取らなかったり。師事してからは一緒に取るようになった。

 二人とも口数が多い方ではない。必要がなければいつまでも無言でいる。言葉を交わさなくても、リュグナーがそこにいるだけでフェルンは満足していた。

 今朝は食事が終わるなりフェルンが口を開いた。

 

「今日はリュグナー様に連れて行っていただきたいところがございます」

「ハイターもフリーレンもいない。どこに用がある?」

「私はフリーレン様から一人前の魔法使いであると認められました。一度リュグナー様に私の魔法を見ていただきたいのです」

 

 リュグナーは、フェルンが瞑想をして魔力を高めているところを何度も見ている。フリーレンから学んだ魔法については詳細な報告を受けた。

 しかし、魔法を行使しているところは見た事がない。石の家はハイターの家以上に森に囲まれているため、長距離魔法の訓練には不向きである。

 フェルンの提案に興味を引かれた。

 

「すぐに出る」

「そこは少しお待ちいただけないでしょうか? 私は昨日まで聖都におりました。聖都からハイター様の家を見ても岩山に遮られて全くわかりません。余程の高空を飛ばない限り、明るい時間を飛んでも問題はございません。むしろ暗い時間にゾルトラークを使いますと、魔法の光で目立ってしまいます」

「ならばいつが良い?」

「朝日が出てからが良いと思います」

「わかった」

 

 木々に包まれた石の家に朝日が届く頃になって、フェルンはリュグナーに抱き上げられた。明るい時間にリュグナーの顔を間近に見るのは初めてだった。

 けれど高揚は覚えない。リュグナーの首にすがり付く事もない。心は凍り付いたまま。ハイターから贈られた杖をぎゅっと抱き締めた。

 

 

 

 

 

 

 フェルンが選んだ場所は渓谷を挟んだ崖の上。魔法を研鑽していた場所である。

 遠い反対側の崖には大きな一番岩が鎮座している。ずっとフェルンの的になっていた岩は穴だらけだ。

 フェルンは崖に降ろされ、断崖に向かって足を進める。数歩進んで振り向いた。

 

「リュグナー様はそこでご覧になっていただけませんか? 攻撃魔法の行使ですから傍にいると危険がございます」

「ああ」

 

 崖は断崖に近付くに連れて細くなる。先端まで行くと、並んで立つことも出来ない。

 フェルンはあと一歩踏み出せば落ちるところで足を止めた。魔法の反動で転ばないよう足を前後に開き、杖を構える。

 的にする一番岩は見上げる位置にある。杖の先端を的に向け、魔力を練り上げ、一般攻撃魔法を射出した。

 

 光が迸り、反動で長く伸びた髪がなびく。フェルンの背後では、石ころが後方に吹き飛ばされた。

 五年間一日たりとも休まず磨き上げた光の矢は、中空で離散する事も減衰する事もなく対岸の一番岩に届き、貫いた。

 これまでフェルンが空けた穴は、精々が拳大の小さなものばかり。リュグナーに披露した一般攻撃魔法はそれら全てを消し飛ばし、一抱えもある大きな穴を空けた。威力も射程も、フリーレンが一人前と見做すに十分なものがあった。

 

「ほう」

 

 リュグナーは小さく感嘆の声を上げる。あれが直撃したら己でも死ぬだろう。フェルンは己の喉を切り裂く刃を手に入れたのだ。

 

 が、それだけだ。

 子供とて刃を持てば大人の喉を切り裂ける。どのようにして切り裂くのかが重要だ。幼子が刃を振り回しても、大人には届かない。多少の怪我をさせられるかも知れないが、喉を裂くのは無理だ。フェルンもそれと同じである。

 フリーレンのように真っ向から防御を破るか、それ以外の策を用いるか。今のフェルンはどちらも持ち得ない。

 故に、フェルンがリュグナーに杖を向けても無駄である。言葉もなく放った一般攻撃魔法は、あっけなくリュグナーに防がれた。

 

「やはりリュグナー様には届きませんか」

「当然だ」

 

 一番岩に放った魔法以上に魔力を注ぎ込んだが、リュグナーをその場から動かす事すら出来ない。

 それでもフェルンに落胆はない。それくらいわかっていた事だ。

 

「それではこうすれば如何でしょうか?」

 

 もう一度同じ魔法を放つ。リュグナーは同じように血の盾を生成し、フェルンの魔法に貫かれた。

 

「……器用なものだな」

「リュグナー様を真似ただけでございます」

 

 リュグナーが左肩から血を流す。光の矢は盾を貫き、リュグナーの肩を穿っていた。但し、一番岩に空けた大穴に比べれば、指が入るかどうかといった小さな穴。

 

 一般攻撃魔法と呼ばれるくらいに広く使われる魔法だが、使用者によって違いはある。

 熟練すれば同時に幾本も放てるし、軌道を曲げる事も出来る。フェルンはそこまで達していない。フェルンがしたのは、魔法の矢の径を絞る代わりに貫通力を高めた。フリーレンを感心させた魔力制御があるからこその技。

 しかし、それでもリュグナーには届かない。肉を抉られても、固有魔法によって一瞬で復元出来る。

 

「それで? 他に芸はあるのか?」

「私の魔法ならリュグナー様に届きます」

 

 リュグナーが鼻で笑う時間を与えず、続けての魔法を射出した。

 

 盾で防げないのなら避ければいい。急所を避けるだけなら何ら苦ではない。

 時に避け、時に被弾を許しながらフェルンに近付く。

 フェルンは淡々と魔法を撃ち続けるが、ついにはリュグナーの魔法が届く距離になった。

 

「もう一度聞こう。それでどうするのだ? ここからならお前の首を容易く刈れる」

 

 リュグナーの左腕から流れる血が長大な鎌となってフェルンに伸びた。フェルンの母の胸を切り開いた血の刃。細首を刈り取るべく振られた刃は、硬い音を立てて阻まれた。

 一般攻撃魔法に並んで普及している防御魔法である。フリーレンが基本の防御魔法を教えないわけがない。

 リュグナーは僅かに目を細め、フェルンは魔法を撃った。径を絞らない代わりに、直撃させればリュグナーの体の大部分を消し飛ばす。

 リュグナーは難なく防御し、今度こそ鼻で笑った。フェルンは表情を凍り付かせ、瞬きもしなかった。

 

「リュグナー様の魔法が届くように、ここからならリュグナー様の心臓を撃ち抜けます」

「どうやって?」

「こうします」

 

 馬鹿の一つ覚えのように、フェルンは同じ魔法を繰り返した。フェルンが知る攻撃魔法は一般攻撃魔法しかない。但し、速い。

 リュグナーは盾の生成が間に合わず、攻撃に使った刃で防いだ。

 

 フェルンの攻撃が変わってきた。

 同じ魔法を繰り返しているだけだが、速く、早い。

 速いために回避が間に合わず、防ぐしかない。攻撃の間隔が短いため、リュグナーが刃を伸ばしても防御に転用せざるを得ない。

 時折、貫通力を増した魔法を織り交ぜてリュグナーの肉を抉った。

 

 遮蔽物がなく距離を空ければ防戦一方になりかねないとリュグナーは判断していた。それがこちらの魔法が届く距離になっても防戦を余儀なくされている。フリーレンが余程仕込んだのだろう。

 フリーレンから八十余年前に同じ魔法を受けた。五年前にも受けた。威力は多少上がっていたが早さと速さは変わらなかった。だから盾の生成が間に合い、致命傷を受けることなく回避する事が出来た。その欠点を認識していたようだ。フェルンの魔法はフリーレンより早く速い。

 それでもフェルンは力不足が過ぎた。

 

 フェルンが魔力を隠蔽しているのはリュグナーに倣ったからだ。最初に一番岩を貫いた時と激しく攻防を繰り返す今では、見える魔力量がほとんど変わらない。しかし、確実に消耗している。特に撃つだけの攻撃魔法と違って防御魔法は維持が必要となり消耗が激しい。リュグナーは血の盾と刃を一つずつしか生成していないが、刃を複数追加すればフェルンの魔力はあっという間に枯渇するだろう。

 枯渇を待たずともやりようは幾らでもあった。魔法を忘れた落ちこぼれと指差されようと、リュグナーの技術はフェルンの遥か上を行く。

 

 リュグナーの推測は的を射て、フェルンは限界が近付くのを感じていた。腕が鉛のように重く、杖を構えるのもつらい。

 淡々とした顔は魔法を撃ち続けるに連れて歪み、必死の形相となった。どんなに魔法を撃ってもリュグナーには届かない。母が怒っているのに仇を討てない。

 悔しいのか、自分に価値も意味もない事を再認識しているのか、わけもわからず涙が零れた。

 拭う暇はない。流れるに任せ、魔法を繰り出す。

 間近でカチンカチンと甲高い金属音。防御魔法がリュグナーの刃を防ぐ音。解除した瞬間に首を刈られる。

 死を連れる音に魔力の限界が近付き、しかし限界を越えても、二度と魔法が使えなくなったとしても。

 

「つっ!?」

 

 足に鋭い痛みが走った。

 反射的に目を落とせば、赤い刃が右足を貫いている。

 砕いたリュグナーの刃が消えずに残り、フェルンが認識出来ないところから攻撃してきた。

 致命的な隙となった。

 

「あ」

 

 真っ直ぐに血の槍が伸びてくるのが見えた。

 これで死ぬとも、仇を討てないとも、そもそも勝てるわけがなかったとも、何とも思わなかった。

 何も感じず何も思えず、リュグナーの刃がゆっくりと迫るのを瞬きもせず見詰めて、細い喉に届いた。

 

「あ?」

 

 刃は触れた傍から崩れていく。

 届く瞬間、フェルンは見た。

 光の槍のようなものがリュグナーを貫き、心臓もろとも体の大部分を消し飛ばすのを。

 

「リュグナー様!」

 

 空を仰ぎながら倒れるリュグナーは、遠い空にエルフが杖を構えているのを見た。

 視界が真っ青に染まる。

 七年間見続けた顔が割り込んできた。

 

 

 

 

 

 左腕・左肺喪失。右肺に気管は無事だ。発声は出来る。しかし心臓を失った。心臓だけならまだしも消失した部分が多過ぎる。血を操る事が出来ず、流れる傍から魔力の塵に還元される。僅かな延命は出来ても復元は不可能。

 リュグナーは現状をそう判断した。

 

「リュグナー様!」

 

 七年間傍に置いた少女が駆け寄って来た。何故か涙を流している。

 人間が泣く要因をリュグナーは幾つも知っていたが、フェルンの涙がどれに当て嵌まるのかはわからなかった。

 

「体を失いすぎた。復元が出来ん。ここまでだな」

 

 死が決定したのだから命乞いも何もない。せめて自身の死が無駄にならないよう務めるだけである。

 

「戦闘の組み立ては悪くなかった。しかし威力を補うためとしても距離を詰めるのは悪手だ。いずれ魔力の増加に伴い解消されるだろうが気を付けろ」

「…………え?」

 

 歪んでいたフェルンの顔から表情が抜けた。どうしてここで呆けるのか。

 なんであれ最後である。少しだけ甘い評価をしてやった。

 

「お前から受けた傷がなければ復元が叶ったかも知れんな」

「……………………」

 

 他者からの評価を人間は求めているらしいのだが、フェルンの顔に喜びはない。魔族も笑うことは稀だ。リュグナーは考える事を遂に止めた。

 フェルンを殺そうと思った事は何度かある。どれも取るに足らない思い付きで、殺すに足る理由があるとは思えず手を出さなかった。しかし己が先に死ぬのであれば。

 

「死ぬ前にお前を喰っておけば良かった。人間の血肉はどんな味だったか……」

 

 言葉を遮られた。フェルンに唇を塞がれた。温かく滋養に満ちた液体が流し込まれる。肉も差し込まれたが、リュグナーに噛み切る力は残っていなかった。

 

「朝の方が良かった。が、最後に味わうのがこれなのも悪くない」

「!」

 

 リュグナーが笑った。フェルンにはそう見えた。

 顔面に及んだ崩壊が亀裂を走らせ、口角が上がったように見えただけだった。実際が何であれ、フェルンにはそう見えたのだ。

 

 リュグナーの体が崩れ、顔も崩れ、全てが魔力の塵に還元される。

 跪くフェルンの前には何も残らなかった。

 

 

 

 

 

 

「フェルン!」

「え?」

 

 たった今までリュグナーが横たわっていたところにフリーレンが降り立つ。

 正面に立ったのに、フェルンは振り向いた。後ろには何もない。少し向こうに崖があって、放り投げた杖が落ちている。

 

 ずっとあったから気付かなかった。フリーレンの魔力探知にすら引っかからなかった。失って初めて気付いた。

 無くなったのはリュグナーの魔力。自分の外套にはリュグナーの血が付けられていたのだ。

 リュグナーにその気さえあれば、いつでも自分の首を刎ねられたはずだった。

 最後に伸びた血の槍も先端は尖っていなかったように思う。攻撃のためであれば、根元が砕かれたとは言え全体が崩れるのは不自然。

 先の言葉も戦闘の講評。

 自分にとっては生きるか死ぬかが必至の殺し合いだった。考えたくもないが、リュグナーにとっては戦闘訓練に過ぎなかったのだ。

 

「フェルン?」

「フリーレン様? どうしてここに?」

 

 再度呼びかけられて、ようやくフリーレンの方に向き直った。

 白い美貌は別れた時と変わらず、座り込んで動かないフェルンを見下ろしている。

 

「まだ聖都を出発してなかった。そうしたらリュグナーの魔力を感じてフェルンに攻撃してるところだったから」

 

 フリーレンはリュグナーが死臭をまとったら殺すと宣言している。あのままでは確実にそうなっていた。ならば先に殺す。そもそも魔族を生かしておく方がおかしい。極当たり前な結論だった。

 

「……さようでございましたか」

 

 明日になればフリーレンはいなかった。

 フェルンがたったの一日でも待っていられたら必死の殺し合いは戦闘訓練になって、明日がやって来るはずだった。

 リュグナーへの殺意は消えなくても、あんな風に評価されたらきっと嬉しくなっていた。

 自分が与えた傷がリュグナーへ死を寄せたのだから。

 

「血が出てるよ? 大丈夫?」

「え? あ、はい。大丈夫です。痛みもありません」

 

 唇が血に濡れて、右足は靴に穴が空いて血が滲んでいる。

 舌を噛み切って右足を貫かれたのだから、血くらい出るだろう。けれど、不思議なくらいに痛みを感じない。自分の体が自分のものではなくなったようで、フェルンは何も感じなかった。

 

「ハイター様から頂いた杖が。拾ってまいります」

「そのくらい私が取ってくるよ」

「いいえ、あの杖は私がハイター様から頂いた唯一のものなのです。自分の手で拾わせてください」

「……肩貸そうか?」

「大丈夫でございます。拾ってまいりますから、フリーレン様はここでお待ちください」

 

 座り込んでいたフェルンはようやく立ち上がって、崖に向かって歩き始めた。

 痛みはなくとも右足に穴が空いている。少しだけ歩き辛い。

 崖は少しだけ傾斜して登っている。撃ち抜いた一番岩の向こうは青い空が広がっている。空の上まで歩いていけるように思った。

 

 フェルンの杖は崖のギリギリのところに落ちていた。もう少し向こうだったら渓谷へ向かって真っ逆さまだ。

 あの日、燃える街を見たのも崖の上だった。

 あっちの方がずっと高いはずなのに、今見下ろす崖の下は、どこまでも深くて奈落の底に通じているように思えた。

 

「危ないよ、早くこっちに戻って」

「はい、フリーレン様」

 

 フェルンは返事をするものの、崖の先端から動かない。

 不老のエルフであるため人間の感情の動きに疎いフリーレンであるが、今のフェルンが普通ではないのはわかった。

 フェルンは表情が抜けたまま、独り言のように呟いた。

 

「私はリュグナー様に殺していただくつもりでした」

「何言ってるの?」

 

 フェルンはフリーレンが初めて会った時から「リュグナーを殺すのも殺されるのも自分」と言っていた。それの続きなのだろうか。だとしても、リュグナーはもういない。フェルンが殺す事も殺される事もなくなった。

 

「私は人間です。フリーレン様が仰っていたようにいつまでもリュグナー様のお傍に居る事は出来ません」

「それはそうだね。私から見たら人間はあっという間に死ぬ。ヒンメルもハイターもそうだった。フェルンだけじゃないよ。人間は皆そうだ」

「でも私はリュグナー様のお傍に居たかった。フリーレン様には出来るのに私には出来ない」

「長く生きてもいい事ばかりじゃないよ? エルフなんてただ生きてるだけだ。それより人間の方がしっかり生きて――」

「だから私はリュグナー様の一部になりたかった。母様のように私の心臓を食べて欲しかった」

「……それって……」

 

 フェルンの言葉はフリーレンの理解を超えた。

 言葉をそのまま受け取るなら、フェルンは自分の母を喰い殺した魔族に育てられ、自分を殺して欲しかったと言っている。フェルンの言葉の意味がわからないわけではない。でも、それはあまりにも。

 

 フェルンが、ふっと笑った。

 泣きながら笑っていた。

 

「フリーレン様に私の気持ちはわからない」

「フェルン待って!」

 

 フェルンの胸元で光が迸り、少女の体が後ろへ向かって倒れていく。立っているのは崖の先端。その向こうは深い渓谷。

 フリーレンは短い距離を飛行魔法まで駆使してフェルンに手を伸ばし、間に合った。

 フェルンの手を掴んでも、握り返されない。魔法を使うのも忘れて落ちようとするフェルンの体を引っ張り上げ、諸共に後ろへ倒れた。

 崖の下には落ちなかったが、フリーレンはフェルンの体の下敷きになった。白いローブが真っ赤に染まった。

 

 フェルンは完全にこと切れていた。リュグナーに食べて欲しかったところを自身の魔法で消し飛ばして。

 

 

 

 フリーレンはフェルンを石の家まで運んだ。

 フェルンの部屋に寝かせようと思ったが、広いけど窮屈な書庫の椅子に座らせる事にした。いつもリュグナーが座っていた椅子だ。フェルンは座った事があっただろうか。

 最後に石の家を隅々まで見て回る。ベッドがあるのはフェルンの部屋だけだった。リュグナーはどこで眠っていたのだろう。フェルンが座る椅子で眠ったのかも知れない。

 

 外に出たフリーレンは石の家に火を付けた。

 岩すら融かし燃やし尽くす炎の魔法。

 何もかも灰になって、消え去った。

 リュグナーが執着した蔵書も、ハイターから譲られた書物も、フェルンも。

 

 殺風景ではフェルンが寂しいだろうと思って花畑を作る魔法を使おうとしたが、フェルンが好きな花を知らなかった。リュグナーが好きな花はそもそもないだろう。

 少しだけ考え、かつて子供の頃のヒンメルに見せた花にした。

 

 それからフリーレンは、自分が生まれ育ったエルフの集落の跡地に戻った。

 魔王の軍勢に滅ぼされ、今はもう何も残っていない。

 そこで長く過ごして、旧知のエルフが訪れるまで誰とも会わなかった。




フェルンに最後の台詞を言わせたいがためだけの五万字でした。
王道中の王道を行くストーリーだが需要はない(自分が書いたのでなければ自分だって読まなかった)と思っていたら本当になかった。
でもコーラとハンバーガーが世界一美味しいわけじゃないから(震え声)。
にもかかわらず、ここまでお読みいただきありがとうございます。
中でも感想をくださったお三方には重ねて感謝を。
ここでもお世話になってしまいました。

本話のフェルンは14歳、ジュリエットと同い年。
リュグナーの行動モデルはエルリック(メルニボネの方。メルニボネの民をフリーレン風に解説すると、一級魔法使いが愉悦のために魔族やってる感じ。とても酷い)。
メルニボネの王であるエルリックは読書を通じて倫理やモラルを得た(竜の島にそんな本があるのかと未だに思う)が、魔族のリュグナーはそこまで至れず。

フェルンは違うとこでたぶん幸せになります。
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