【百合】放課後の呼び出しが男子からなんて、いつから錯覚してたの?   作:冷泉七都

11 / 23
第11話

 火曜と水曜の二日間は何事もなく過ぎ、木曜日になった。

 

 先週とは違い、夏樹と司沙が文芸部に来るときにはすでに、伊吹はドアの前で待機していた。

 もう一つ違う点と言えば、伊吹の隣に葵がいることだ。

 

「霜崎さん、お久しぶり」

「ひさしぶり」

 

 司沙と伊吹の会話を聞いた夏樹は、先に話されなかったことに不満を覚えつつも、挨拶を求めるように伊吹を眺める。

 

「夏樹も実際に会うのは久しぶりだねっ」

「うん、そうだね」

 

 一転してにこやかに微笑む夏樹。

 その顔が、伊吹に安心を与えて――。

 

「スマホ上で話してたけど、やっぱり直接会えたら嬉しいな」

 

 伊吹が恥ずかしがり斜め下を向くが、夏樹をチラッと見上げて共感を求める。

 どことなく伊吹の頰は紅くなっている。

 

「わたしも会いたかったよ」

 

 取り繕うなんて言葉を知らないのか、夏樹は正直に言った。

 伊吹は顔をもっと紅くさせ、二人の間に曖昧で甘い空気が流れる。

 

 すると今まで一言も喋らなかった葵が、司沙にこそこそと話しかけた。

 

「つかさ、本当にこの二人付き合ってないの?」

「そうらしいよ」

「ぇぇ……」

 

 困惑と怒りが混じったような声を漏らした。

 

「私は付き合ってるに等しいと思うけど……」

「思ってた関係と全然違う――」

 

 葵は、本人からの証言には意味がないと思い知らされた。

 

 いぶきの話だけなら、誰でもまだいけるってなるじゃん――。

 そんな気持ちもあの二人には届かない。

 

 司沙はドアを開けて入っていった。

 葵もその後に続く。

 

 夏樹と伊吹は先週と同じところに座り、司沙も定位置に行ったため、葵は余った席――司沙の隣に座ることになった。

 本当は伊吹の横が良かったなんて言えない。

 

 わざわざ誘ってくれたんなら、なつきが譲ってくれても良くない――?

 とかはさらに言えない。

 月曜日は言えたのに、伊吹が居ると威勢も消え去る葵だった。

 

 

 伊吹は先週の続きを、葵は適当に見繕ったライトノベルを読む。

 そして夏樹は先週とは打って変わって漫画を開いていた。

 ノートパソコンで執筆作業をしている司沙は、そんな三人を見渡して考えを巡らせた。

 

 先週はあんなゲームをしたけど、今日はできなさそうだな――。

 司沙の周りのややこしい関係は一筋縄ではいかないようで、司沙はみんなの仲が深まることを探すが見つからない。

 

「……あっ!」

「――? 司沙、どうしたの?」

 

 やっと思いついた司沙の言葉に、夏樹は漫画から顔を上げて不思議そうな表情で応える。

 

「週末にでもさ、四人でショッピングにでも行きたいなぁって――」

「へぇ。司沙から提案するなんて、珍しいね」

「まあ、せっかくの縁だからさ、もっと仲良くなれたらいいじゃん」

「確かにそうかもっ!」

 

 手を叩いて感心する夏樹。

 

「伊吹と葵さんは部活とか大丈夫……?」

 

 と、右を向いて伊吹に尋ねた。

 

「葵、部活は日曜オフだったよね」

「うん、そうだけど」

「じゃあ、私は日曜なら行けるよっ」

 

 伊吹は隣の夏樹に笑顔を振り撒いた。

 

 そんな笑顔見たことない――。

 と葵はモヤモヤしながらも、「あたしも大丈夫」と取り繕う。

 それは、葵が読んでいる小説に登場する負けヒロインと似ていた。

 

「菟田さん、伊吹さんと一緒で良かったね」

 

 この展開が優しさと純粋から生まれたものだとは知っている。

 だから、甘んじて受け入れようと心に決めた。

 

「うん、ありがと」

 

   / / /

 

 四人で帰路に着く。

 

「日曜はどこに行くの?」

 

 夏樹は司沙に尋ねた。

 その言葉で司沙はハッとする。

 

「あ……、決めてなかった――」

「じゃあ、どこにしよっか。二人はどこか行きたいところある?」

「あたしは特に……。伊吹はどう?」

「んー……」

 

 伊吹は顎に拳を当てて考え込む。

 その姿を葵は微笑みながら見つめる。

 

「せっかくだから、奈良以外が良いな」

「なら、難波(なんば)あたり?」

 

 夏樹はこの地方で一番栄えているところを提案する。

 

「そうだね、難波なら近いし良いかも――。霜崎さんは?」

「うん、そうしよっ」

「あたしも良いと思う」

「じゃあ、難波で決定っ!」

 

 司沙も葵も賛成したところで、夏樹が少し大きめの声を出して言った。

 

 集合場所や時間を決めた後は、先生や授業の取るに足らない話をして最寄駅に着いた。

 

「あと一分で電車来ちゃうから行くね……。またねっ」

 

 バイバイと手を振り合い、司沙がホームに消えていった。

 

 葵さんもわたしと同じ方面なんだ……。

 

 ここで伊吹と二人きりになるかと、少しだけでも思っていたから残念だ。

 もちろん葵も同じことを考えているのだが、本人たちには知り得ない。

 

 

 近くで一番大きい乗り換え駅で、葵とは別れた。

 葵はこの付近に住んでいるらしい。

 

 残された二人は次なる電車に乗り込んだ。

 

「先週も思ったんだけど、夏樹は急行に乗らなくて良いの? そっちの方が早く着くんじゃない?」

「いや、乗らなくていいよ。わたしも伊吹ともっと仲良くなりたいし……。少しでも一緒にいられる時間が長い方が良いなって……」

「んー」

 

 伊吹は夏樹の言葉に嬉しくなった。

 

 私と同じように、進展しようと考えてくれている。

 よし、日曜日は手を繋ごう。

 二人に見られるけど、霜崎さんも葵も応援してくれてるらしいし、大丈夫だよね――。

 

「日曜もここから一緒に行っても良い?」

 

 ここから――とは、伊吹の最寄駅のことだろう。

 まもなく着くという放送がかかっている。

 

「良いよ。……ううん、わたしもそうしたい」

「本当? 嬉しい――」

 

 駅に着いた。

 伊吹はじゃあねと言って電車から降りていく。

 

 その後ろ姿を眺めながら、わたしは葵さんのことを思い浮かべた。

 頭の中の葵さんは、苦い顔をしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。