【百合】放課後の呼び出しが男子からなんて、いつから錯覚してたの?   作:冷泉七都

13 / 23
第13話

「あたし決めた――」

 

 葵は夏樹に向けて言葉を放つ。

 その真剣さに黙ってしまう夏樹。

 

「あたし、これからはなつきといぶきを応援するよ」

「……」

「いぶきとは親友のままでいる」

 

 夏樹はなぜ葵がそんなことを言うのかは分かっていた。

 だが、葵になんて言うべきかは分からない。

 喋らない夏樹を見て、葵は話し続ける。

 

「今日のなつき、いぶきと手を繋いだりしてて羨ましかったし――。でも不意に目線が合ったら恥ずかしがったりしてて、本当のカップルみたいだなって思って……」

「うん」

 

 夏樹は客観的に見た自分たちに気づき、取り繕って相槌を打った。

 

「だから、なつきには勝てないんだなって……」

 

 葵は一つ深呼吸をして心を落ち着かせた。

 そして、悲しみに溢れながらの言葉を続ける。

 

「戦う前から負けていたんだなって、気づいたの――」

 

 その言葉に、夏樹は居ても立っても居られなくなって――。

 

「ごめん……」

「……なんで謝るの?」

「だって、葵さん今日辛かったでしょ。好きな人が他人と仲良くしてるのを見るだけなんて」

 

 わたしがそんなことを言うべきではないとは知りながらも、夏樹は言ってしまっていた。

 

「まぁそうだけど……」

「だから、ごめん」

「でも、あたしはそのお陰でいぶきを諦めるって決められたから……」

 

 葵は食い気味に気持ちを伝える。

 

「もしなつきが遠慮してたら、あたし、いぶきに告白しちゃってたかもしれない」

「それは――」

 

 告白した方が良かったんじゃ――。

 そんな言葉は葵の考えとは真逆だと気づいて、言うのをやめた。

 告白しないも一つの選択肢なんだって、葵から伝わった。

 

「あと一つだけお願いがあって、つかさには言ったんだけど、あたしがいぶきを好きってことは秘密にしておいてほしい」

「うん、分かった」

 

 そんなの言われなくても分かってるよ。

 葵は伊吹と親友で居続けると決心したんだから――。

 夏樹は心からそう思った。

 

「そろそろ戻ろっか」

「そうだね」

 

 司沙と伊吹の待つところに戻った二人は、なんにもなかったように振る舞う。

 

「いぶき、つかさ、お待たせっ」

 

 夏樹は司沙の親友としての心意気に、思わず感心した。

 

「じゃあ、帰ろーっ」

 

 司沙の一声で四人は改札へと向かい、ホームで五分ほど待つと電車がやってきた。

 

 

「あたし、文芸部に行くのやめる」

 

 唐突な発言に伊吹は驚いた。

 

「――? なんで?」

「嫌だからって訳じゃなくて、部活が週六になるから身体が持たなそうで……」

「ぁぁ、そっか」

「でも、いぶきは行ってあげてね。なつきが待ってるでしょ」

 

 葵は付け加えて言った。

 葵には違う理由もあるのだが、伊吹は気付いていない。

 もちろん夏樹と司沙は分かっている。

 

 伊吹は嬉しそうに夏樹の方を向いた。

 

「そうなの?」

「うん、伊吹にきて欲しいな」

「じゃあ、毎週行かせてもらうよ。夏休みもテニス部ないときは絶対行く」

「そうなの――?」

 

 夏樹は司沙に確認する。

 

「夏樹には言ってなかったっけ? ごめん」

 

 まだ夏休みに部活があるとは決まってない。

 でも、さっき伊吹を引き止めるために司沙は言ってしまったのだ。

 

「去年はなかったじゃん。なんで今年は」

「夏休みも部活しましょうって、先生に提案されて……」

「まぁいいけど。伊吹も来てくれるし」

 

 どうやら夏休みは本当に部活をすることになったらしい。

 あとで顧問に伝えとかないと――と、一応部長である司沙は思った。

 

   / / /

 

 今日の朝、四人が集合した駅まで帰ってきた。

 電車では語りきれなかった話を少しだけして解散になった。

 葵は改札の方へと向かい、司沙は違う方面のホームに向かっていく。

 

 

 夏樹と伊吹は二人、車内で揺られている。

 

「夏樹――」

「ん?」

 

 名前を呼ばれて顔を見る夏樹。

 

「あと一週間で夏休みだね」

「あー、ほんとだ。すっかり忘れてた」

「でさ、二人だけでどこか行きたいなって……」

 

 伊吹は依然不安そうに、夏樹を遊びに誘う。

 

「うん、行くっ」

「良かった――」

 

 笑顔で応える夏樹に、伊吹は安堵を浮かべた。

 

「どこ行こっか?」

「ちょっと遠いけど、せっかくの夏休みだし、五條(ごじょう)の花火大会とかどう?」

「花火大会っ! 行きたいっ!」

 

 夏樹は目をキラキラさせて喜ぶ。

 

「じゃあそこは決まりで。でも花火は八月の真ん中あたりだったと思うから、その前にも会いたいな――」

「っ……!」

 

 不意に『会いたいな』なんて伊吹に言われて、夏樹の頰は紅くなった。

 それを隠すように、夏樹が提案する。

 

「わたし見たい映画があるから、一緒に行かない?」

「いいの?」

「良いよ、行こっ」

 

 伊吹はうなづいて、もっと笑顔になった。

 

「家に帰ったら空いてる日確認して連絡するから」

「うん。わたしは夏休み暇だから、伊吹に合わせるよ」

「ありがと」

 

 

「また連絡するねっ」

 

 最寄駅に着くと、伊吹はそう言って電車を降りていく。

 

 来週からは待ちに待った夏休み。

 この間で、わたしは葵さんの分まで伊吹と仲良くなるんだと決心した。




◇あとがき◇
 奈良、大阪の地名多くてすみません。
 五條とか、絶対に知らないじゃん……。

 さて、これにて葵がメインの第二章はおしまいです。
 そしてキリもいいので、ぜひ評価をお願いします!
 すでにして頂いている方々、本当にありがとうございます。

 最後に一言。
 第三章は夏樹と伊吹メインで、ラブコメラブコメします。
 待ちに待った夏休みなので。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。