【百合】放課後の呼び出しが男子からなんて、いつから錯覚してたの? 作:冷泉七都
第14話
七月下旬、夏樹と伊吹はバスに乗っている。
映画を見に行こうと、大型ショッピングセンター――エオンモールへ向かっている途中だ。
「映画、わたしの好みで決めちゃったけど、伊吹見たいのとかなかった?」
夏樹は隣に座る伊吹に聞いた。
「大丈夫だよ。私は夏樹が見たいのが見たいからさ」
「それならいいんだけど……。でも、もし伊吹が見たいのあったら、遠慮なく言ってね」
「うん――」
「わたしももっと伊吹の趣味とか知りたいし、他にも色々知れたらなって」
「ほんと? 嬉しい」
わたしの言葉で、伊吹は喜んでくれている――。
笑みを浮かべる伊吹を見てそう思うと、夏樹はなんだか満たされる気がした。
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エオンモール内にあるバス停に到着して、夏樹と伊吹はさっそく映画館へと向かう。
映画館の待機フロアに置かれた機械で、チケットを発券した。
今日見るのは漫画原作の学園スポーツ系アニメ映画――。
夏樹が文芸部で読んだお気に入り作品がシネマタイズ――映画化されるということで、ずっと見たいと思っていたのだ。
「ポップコーン買おうっ」
「そうだね」
「えーっと……、あそこか」
夏樹が伊吹に提案して、フードとドリンクを販売するカウンターの前に来た。
ここの映画館は定番のポップコーンはもちろん、ホットドックやチュロス、フライドポテトまで取り揃えている。
そして、ポップコーンには塩味とキャラメル味の二種類があるらしい。
「伊吹は何味が好きなの?」
「んー……」
伊吹が首を傾け頰に人差し指を当てて、考える仕草をする。
「やっぱり塩かなぁ」
「えっ! わたしと一緒じゃんっ!」
「そうなのっ? なんだか嬉しいなっ」
友達でも恋人でも趣味嗜好が合うというのは安心するし、心嬉しいものだ。
夏樹も言葉にこそしていないが、にへらと軽くニヤついている。
その顔を見た伊吹はなおさら微笑んだ。
「あーでも、買うならハーフの方が良いのかな。キャラメルも美味しいのは美味しいし……」
「うん、私もハーフ買うのが良いと思う」
「だねっ」
そうしてハーフのポップコーン一つとドリンク二つを買った二人は、入場開始のアナウンスがかかるまでフロアでしばらく待った。
「やっぱり、すごい人……」
座席に座った夏樹は周りを見渡してから言った。
「うん、ほんとに人気だね」
「わたし部室で見て、隠れた名作なのかと思ってたのに――」
公開から二週間ほどが経っているにも関わらず、300を超える人が入る――ここで一番大きいスクリーンでの映画だということが、この作品の人気を表している。
隠れた名作でもなく、ネットとかでは名を馳せた名作だ。
しばらく話しながら待っていると、予告映像が流れ始めた。
ある日、私の前に現れた男子――。
そんな語り出しから始まったのは、来週公開の恋愛映画だ。
んー――と、伊吹の声にならない声が聞こえた。
真剣な眼差しでスクリーンを凝視している伊吹。
「伊吹はこういうのが好きなの?」
「えっ――? なんで?」
「なんか釘付けだったから、興味あるのかなぁって……」
伊吹は「なるほど」と、そう思われた訳を納得した。
そして自分の趣味を伝える。
「まぁ、アクション系とかファンタジックなのよりかは、こういう恋愛とか現実であり得そうなのが好きかな」
「へー、そうなんだっ」
「そう――。夏樹はスポーツ系が好きなの?」
今から見る映画のジャンルから、伊吹はそう推測した。
「スポーツ系というよりかは、学園系が好きかもっ。身近な話だったら親近感が湧いて、のめり込めるし――」
「んー。なんか、私たち似てる気がする」
伊吹が夏樹に向けて言った。
「味の好みとかもね――」
夏樹は塩味の減りが早いポップコーンを見て、そう付け加えた。
その後、二人は映画予告を見ながら過ごして、映画本編が始まった。
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「面白かったっ!」
エオンモールの中にあるカフェで、夏樹は語り始めた。
「静止画でしか見てなかったキャラが動いて感動したし、ラストの試合シーンは漫画よりも迫力があって良かった――。
そもそも毎回試合に勝つみたいなサクセスストーリーじゃなくて、負ける時は負ける話だから等身大で共感できるんだよね――」
昼食がてらのサンドウィッチを食べながら伊吹は聞く。
「あれは私も感動したよ。良かったっ」
「でしょ。また伊吹にも漫画を読んで欲しいよ!」
夏樹の勢いは衰えることを知らない。
それほど心打たれるものだったのだ。
「うん。来週の水曜日だったっけ、その時読んでみるよ」
「ぜひぜひっ」
来週の水曜日は文芸部が夏休み中に活動する珍しい日だ。
もちろん伊吹も参加することになっている。
「で、思ったんだけど……、夏樹それで足りるの?」
伊吹は夏樹の前に置かれたパフェと紅茶を見て言った。
「足りると思うけど……。朝食べ過ぎちゃったし――」
「いるならサンドウィッチ食べても良いけど」
「んー、じゃあ少し貰おうかな」
まだ口を付けていないもう一つの方のサンドウィッチを夏樹に差し出す伊吹。
それに対して夏樹は手で掴んで取った――なんてことはなかった。
「夏樹?」
「……」
差し出したまま動かない伊吹は、何もしない夏樹に呼びかける。
だが、夏樹の反応はない。
いや、夏樹は何もしていない訳ではない。
確かに、口だけは開けている。
まさか……、まさか
伊吹は微塵の可能性を信じて、サンドウィッチを夏樹の口へと近づけていく。
その差が5センチになったとき、夏樹は距離を縮めて……。
パクっ――。
食べた。
夏樹は頬張りながら、伊吹の紅くなっている頬を見つめる。
あ……。
やっと夏樹は、自分のしたことの重大さに気づいた。
映画の余韻に浸って頭が回っていなかったおかげで、俗にいうあーんをさせていたのだ――と。
「ごめんっ、伊吹。食べさせてもらうつもりはなかったんだけどっ!」
いまさらの言い訳は伊吹には届かなかった。
「夏樹、わたしもパフェ少し食べてみたいな……」
責任が自分にあると思った夏樹は、恥ずかしながらもスプーンでパフェをすくって伊吹に食べさせる。
頰が紅くなっていることには気づいていたが、しばらく二人は沈黙したままだった。