【百合】放課後の呼び出しが男子からなんて、いつから錯覚してたの? 作:冷泉七都
カフェでの食事も終えて、夏樹と伊吹はエオンモールをうろつく。
気になる店舗があれば随時入ってみようという魂胆だ。
そして、十分ほどが経過したとき――。
「あれ、夏樹じゃーんっ!」
前方から、周囲にハートをばら撒いていそうな、腕を絡ませ合うイチャラブカップルがやってきた。
ちなみに、このカップルは二人とも女子だ。
その内の一人――抱かれている側に声をかけられて、夏樹が記憶を呼び起こすと、すぐに思い出した。
「
夏樹がそう聞くと、首を縦に激しく振って肯定する。
「そうだよ! 久しぶり!」
「久しぶりっ」
「一年も会ってないから、会いたかった!」
「うん、わたしも」
言葉の全てに感嘆符がついていそうな天音は、夏樹の小学校と中学校時代の友達だ。
でも天音は夏樹と違う高校に入学して、そこからは特に縁もなく、会う機会もなく過ごしてきた。
その二人が今、再会した――。
「ねぇ天音、この子友達?」
天音の隣の女子が、ほぼ無表情で質問する。
「そうっ、夏樹って言うの!」
「ふーん。……なんか、やけに親しくない?」
「ただの中学の時の友達だから、普通だよ!」
「ほんとう?」
その姿は重い彼女そのものだった。
夏樹も伊吹も、思わずじっと見入ってしまった。
圧倒されつつも、妙な興味が湧いてくる。
「本当――! でも、不安にさせちゃったのならごめん……!」
「不安とか、そういうんじゃ……」
「わたしが好きなのは
そう言って天音は優にハグをした。
優もそれに応えるように、腕全体を使って抱き返す。
「天音、もういいよ。私が重い女なせいだから――」
「
二人は見つめ合う。
そして、だんだんと唇同士を近づけていき……。
ちゅ――。
エオンモールの真ん中で、軽くリップ音を鳴らしながらキスをした。
へへっ、と微笑む優。
その優の頭を撫でる天音。
夏樹と伊吹は思った。
これが俗に言うバカップルか――と。
「すごいな……」
「こんな人達、初めて見た――」
「中学の天音はもうちょっとだけ静かだった気がするけどな……」
「ぇぇ」
伊吹は若干引きつつも、少しばかりだけ感心した。
「二人は付き合ってるんだね」
そして夏樹は天音に聞く。
聞く必要もないだろうけど、一応聞いておこう。
「うんっ、去年から付き合ってるんだよっ!」
「運命的に出会ったんだよね」
「そう! わたしがテニスボールを変に飛ばしちゃったときに、優ちゃんにちょうど当たっちゃって、それから……ってかんじ!」
「うんうん」
「わたし、女子校に入って恋人できないなー残念って思ってたけど、全然そんなことなかった! 可愛い子がいたからっ!」
「へへへっ」
夏樹は優の軽快な反応を見て楽しんでいると、天音に「夏樹は――」と言われてビクッとした。
「夏樹は――、隣の子が彼女っ?」
「「ぇっ……!」」
夏樹も伊吹も目を丸くさせた。
友達――? 恋人――?
じゃあ、保留……いや、未定――、なのか?
どれでもない自分たちを、なんて説明しようかと悩む。
「私が告白して、返事待ちの段階かな……」
伊吹はできるだけ簡潔にまとめて言った。
「珍しいねっ、付き合ったら良いのに! 夏樹もまんざらでもなさそうだしっ!」
「うん、私たちには分かる」
伊吹が夏樹の方を向くと、夏樹は「それは……」とたじろっていた。
誤魔化しとしか思えない夏樹を、伊吹は微笑んで見る。
伊吹は天音の近くに行き、優に睨まれながらも耳打ちした。
「夏樹をオトす方法を教えて欲しい。二人みたいにイチャイチャしてみたいの」
「いいよっ! じゃあ伊吹、ラウィン交換しよっか」
二人はスマホを取り出して、それぞれ繋がった。
「わたし、二人のこと応援してるからねっ!」
伊吹に頼もしい助っ人ができて、夏樹と付き合う未来も近いのかな――と思ってしまう。
それに、身近なところに女子同士のカップルがいると知ったことで、女の子同士っていうのも少しだけ自然に思えてきた。
夏樹の考えにも、変化の兆しがやってきたのだ。
「天音、時間になっちゃうよ」
「あ、ほんとだっ! もう行かないと!」
優がスマホのロック画面を見せる。
現在時刻とともに、天音と優の自撮り写真が伊吹の目に入った。
いいなぁ――。
伊吹のそんな呟きは、夏樹たちには聞こえない。
「夏樹、伊吹、またいつかねっ!」
そう言って二人は、腕を組んで歩き始めた。
後ろ姿だけでも、天音は幸せなんだな――と、夏樹に伝わった。
衝撃的なバカップルも見えなくなり、夏樹と伊吹は再びエオンモールの中をうろつきだす。
一階のイベントスペースにやってきた二人は、あるものを見つけた。
沢山の水槽に沢山の金魚――。
金魚すくいを開催しているらしい。