【百合】放課後の呼び出しが男子からなんて、いつから錯覚してたの?   作:冷泉七都

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第22話

 ここは……?

 

 翌日目が覚めた伊吹は、慣れない天井を見てそう思う。

 

 意識が明確になっていくと、身体に違和感を感じてきた。

 なにかに抱かれていると気づき、目線を右にやる。

 そこには可愛い寝顔を晒しながら眠っている夏樹がいた。

 昨日の記憶、全てが蘇った。

 

「あぁそっか、夏樹の家に来てたんだった」

「……んぁっ?」

 

 夏樹は伊吹の呟きで起きてしまい、寝ぼけた声を出してしまう。

 可愛らしいあくびをしてから目を開いた夏樹は、隣の伊吹を見つめると、おはよ――と微笑んで言う。

 

 柔らかい声と虜になるほどの破顔に、伊吹は胸がドキドキするとともに、夏樹と恋人同士になったのだと実感が湧く。

 そして、こんな夏樹を愛していたいと心から思った。

 

「おはよう、夏樹」

 

 伊吹は気持ちを抑えて、平静を装いながら挨拶を返す。

 こうでもしないと、溢れた思いが夏樹を襲ってしまいそうだった。

 

 夏樹と伊吹は、恋人二人がベッドの中――というシーンを無言で楽しむ。

 そして、ふと夏樹がベッドの側においていたスマホを見た。

 

「――って、もうこんな時間っ!」

「ほんとだ……」

 

 夏樹から伊吹に見せられた画面には『12:23』と表示されている。

 確かに昨日は、二人ともアラームをかけずに寝てしまった。

 

 状況が状況で、そんなことまで頭が回らなかったのだから仕方がない――。

 夏樹と伊吹はそう割り切る。

 

 しかし伊吹が自分のスマホを見ると、親と妹からの計4件の不在着信が入っていた。

 ラウィンに『昼ごはん作ってないから、どうにかして』と来ているので、そういうことだろう。

 伊吹は『ずっと寝てた』と返信しておく。

 

 その時――。

 

「夏樹、まだ寝てるの? お昼ご飯できたわよっ!」

 

 廊下から夏樹母の声が響いた。

 

「今起きたっ。すぐに行く」

「あ、廣渡さんの分も作ってるから」

「はーい」

 

 

 自分以外の親子の会話を聞くと不思議な気持ちになる――と、伊吹は今まさに実感した。

 

 二人は最低限の身支度をしてから、リビングへと向かった。

 ダイニングテーブルには、白米と味噌汁、焼き鮭などが三人分用意されている。

 

「急に押しかけたのに、わざわざありがとうございます」

 

 どこを切り取っても美味しそうな料理を見て、伊吹はキッチンに立っている夏樹母に感謝を伝えた。

 

「二人分も三人分も変わらないから良いわよ。夏樹の友達にも、ぜひ食べて欲しいしね」

 

 夏樹の友達と言われて、否定したいのは山々だが、違います。付き合ってます――なんて怖くて言えない。

 伊吹は「美味しく食べます」とだけ返しておいた。

 

 そして、三人はそれぞれ席に座って食べ始めた。

 

 栃沢家の味は伊吹の舌に合って、とてもおいしかった。

 

   / / /

 

 昼食を食べ終え、二人は夏樹の部屋でテレビゲームをして遊んでいる。

 一試合が終わり、キリがいいところになった。

 

「そろそろ帰ろうかな」

「もう帰っちゃうの?」

 

 夏樹が伊吹に悲しげな顔を見せる。

 

「もっと夏樹と居たいけど、程よくじゃないと中毒になっちゃうから」

「それもそうか……」

 

 伊吹自身でもよく分からない理由に、何故か夏樹は理解してゲームの電源を落とした。

 

 伊吹が持ち物をまとめて、二人は一階に降りていく。

 階段を降りたところで、夏樹母はリビングから顔を覗かせた。

 

「あら、廣渡さん。もう帰るの?」

「はい、長居してもあれなんで……」

「――そうだっ、夏樹。せっかくだから駅まで廣渡さん送っていきなさい」

 

 夏樹母の提案に、伊吹が期待の眼差しを夏樹に向ける。

 

「そっか……、そうだよね。一緒に行こっ」

 

 夏樹は伊吹に笑顔を送った。

 

 

 玄関を出て、最寄り駅まで歩いていく。

 夏樹の家が見えなくなると、二人は自然と手を繋ぎ始めた。

 もちろん、恋人繋ぎだ。

 

 しかし出発から1分が経つころまで、昨日あれだけ話し尽くしたせいか、特に話すこともなく時間が過ぎ去る。

 でも、決してそれが辛いなんてことはなく、二人隣で歩くだけで満足を得られる。

 

 そんなの良くある言葉だが、伊吹は実際にそうなると、夏樹と話さないのがもったいなく感じてしまう。

 

「ねぇ、夏樹」

「ん? なにっ?」

 

 伊吹は話したいことを思いついて、夏樹に喋りかけた。

 

「付き合ったこと、葵とか霜崎さんに言うのどうしよう。応援してくれてるから、早めに言ったほうが良いとは思うけど……」

 

 夏樹に抱く気持ちとは異なる恥ずかしさがあり、二人に上手く伝えられる気がしない。

 

「司沙には、伊吹が文芸部に来るときに、二人で伝えたら良いんじゃないかな」

「あぁ、それもそうだね。じゃあ、夏休み明け最初の木曜日か……」

「うん、あと二週間……。はぁ、秘密にできるか不安――」

 

 これからのことを思うと、二人とも緊張してしまう。

 歓迎されるのは今までからわかるのだが、夏樹も伊吹もこんな経験初めてで、いざその時にしっかり言えるかな――となる。

 

「あと葵さんは、伊吹から直接伝えたほうが良いと思う」

「? なんで?」

「だって、テニス部は夏休み中もあるでしょ。だから早めが良いかなって――」

「……うん、私から伝えるよ」

 

 伊吹は明日の部活で言うと決心した。

 

 夏樹が、付き合った宣言は伊吹一人が良いと思ったのには他の理由もある。

 それは、葵が伊吹を好きなのを知っているのに、夏樹も行ってしまったら見せつけているようだし、なにしろ葵が悲しんでしまうだろうからだ。

 こんな言い方では、夏樹が葵に対してマウントをとっているようだが、同じ人を好きになったよしみでの考え。

 葵には、いらない辛い思いをして欲しくない。

 

 不快でない沈黙を挟みながら、二人が取り留めのない話をしていると駅前に着いた。

 

「それじゃあまたねっ、夏樹」

「伊吹バイバイっ!」

 

 そうして伊吹は駅の階段を登り、夏樹は来た道を戻っていった。

 

 

 長いようで短い夏休みは、嬉し楽しの一生の思い出になった。




◇あとがき◇
 これにて第三章は終了です!
 ついに、次回はエピローグとなります。
 ぜひ、残り一話もお楽しみください!
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