【百合】放課後の呼び出しが男子からなんて、いつから錯覚してたの?   作:冷泉七都

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第4話

 文芸部の部室の前、そこには一人の少女がいる。

 ローファーから上履きに履き替えた夏樹だ。

 

 目眩がするような怒涛の展開に、今日ぐらいは休んでもいいかと魔が差したのは事実。

 だが、応援してくれている司沙に、事の顛末を伝えるのも大切だろうと考えた夏樹は、こうして文芸部の部室のドア前に立っている。

 

 夏樹は意を決してドアを開けた。

 部員は二人だけなので、部室には司沙しかいない。

 

「おっ!」

 

 司沙はドアの音に気づくと、ノートパソコンから視線を夏樹に向けた。

 

「司沙、結果なんだけど――」

「――まずは座ってから話そ。対面でしっかりと、ね。夏樹」

「うん」

 

 夏樹はせっかちになっていたと自覚して、深呼吸をする。

 そして、二つくっ付いた長机を挟んだ司沙の反対側に座った。

 

 司沙は文書ファイルを一時保存してパソコンを閉じ、夏樹の言葉を待つ。

 

 夏樹はこれを最初に伝えるべきだろうことを言うと決めた。

 

「……伊吹が女子だった――」

 

 そんなことを言われた司沙は。

 

 ……――?

 

 えっ――?

 

 は――?

 

 夏樹は何を言っているの?

 私は全く理解できない。

 

 いや、伊吹君が女子だったということか……。

 ラブコメでは、昔男子だと思って接していた子が、実は女子でした――なんてあるらしいけど。

 

 って、ありえないでしょ普通。

 そんなの創作上だけの話ではないのっ?

 

 一応聞いてみよう。

 

「それって……、ずっと男子だと思っていたけど、実は女子でしたってやつ……?」

「そうなの」

 

「いやいや。そうなの、って――。なんで、今の今まで気づいてなかったのっ?」

 

 DM上のやり取りであったとしても、それぐらい気づかない?

 

「わたし、ほとんど生まれて初めて異性からのメッセージだって思ったら……浮かれちゃったのかな。不覚にも気づかなかった」

 

 なるほど、恋は盲目ってやつか……。

 

 無理な結論だが、今はこれで理解しておこう。

 とするが――。

 

「あとさ、伊吹って名前。男子っぽくて騙された――」

 

 いやいやいや。

 

「あんたの夏樹も男子っぽいわっ!」

 

 声にするつもりはなかったのに、思わず出てしまった華麗なツッコミ。

 その声の大きさに驚きつつも、夏樹は自分の言葉の不条理に気付いてしまった。

 

「たしかに――」

 

 その声に驚いたのは司沙自身もで、いったん頭が整理された。

 そして今日の本題を思い出した。

 

 ――こほん。

 

 あからさまな咳払いをしてから、夏樹に尋ねる。

 

「――それで、コ・ク・ハ・クはどうなったの」

「うん。伊吹に告白された」

「で、オッケーしたと……」

 

 ふむふむ、と言わんばかりの司沙。

 これには夏樹も否定しづらいが――。

 

「してない」

「え……、なんて?」

「してない」

「え……」

「してない」

「え――」

「してない」

 

 夏樹は人の大事な告白という行事で遊ぶのはいけないと思いながらも、律儀に「え」と言う司沙が面白くて遊んでしまった。

 

「好きだったんだよね……、伊吹さんのこと」

「好きだよ。今も変わらず」

 

 そうだ。わたしは好き――伊吹のことが。

 

「じゃあ、なんで――?」

 

 好き同士なら付き合うのは当たり前。そんなのみんなが思っていることだ。

 そんな意味が込められた司沙の言葉。

 

 夏樹はこれが自分勝手なのかな、とか思案してしまうが、曖昧な気持ちで付き合いたくないというのが本心だ。

 

「わたし、まだ女子と付き合うとか、そういうの分かんないし――」

「なるほどね」

「でも! 伊吹の告白はまだ断ってないの」

「というと……?」

 

 司沙の視線が再度、夏樹の目を正面から貫いた。

 

「わたしが、伊吹と付き合えるようになるまで、待ってもらうことになった」

「おぉ。夏樹らしいっ」

「勘違いしてるかもだけど……伊吹からの提案だから――」

 

 関心する司沙に、夏樹は焦って真実を正しく伝える。

 せっかく伊吹が考えてくれたことを、わたしのものにするのはものすごく憚られた。

 

「でも、それにオッケーしたんでしょ。夏樹らしいよ」

「そう……かなぁ?」

「うん、そう」

 

 夏樹には、何がわたしらしいのやらだったが、この世界には親友にしかわからないものがある。

 

「夏樹の伊吹さんと付き合いたいって気持ちはわかった。夏樹のこと、応援するねっ!」

 

 付き合いたいって気持ち……。

 

 司沙が言った言葉が、わたしの中に響いた。

 その気持ちは確かにあるのに、肯定できない何かもあって――。

 恋って不思議だ。

 まだ、その結論にしか達せない。

 

 

 ノートパソコンで作業する司沙と黙々とマンガを読む夏樹の、変わり映えのしない光景が一時間ほど続いただろうか。

 そんなときに――。

 

「そうだっ!」

 

 司沙は何かを閃いたときに出る豆電球を光らせながら、夏樹に提案をかける。

 イスから立ち上がったりもして、かなりの名案という自身があるようだ。

 

「伊吹さんに、文芸部に来てもらったら?」

「でも、何かの部活に所属してるんじゃないかなぁ」

 

 いい意見なのに、反論が先に出てしまったのは夏樹の恥ずかしさからだ。

 

「それなら……休みの日、もし暇なら来ませんか――ってのはどう? 好きになるには物理的な距離も近づかないとじゃない?」

「んー……」

 

 一理あるなんてもんじゃない。一理しかない。

 

 わたしはさっそくスマホを取り出した。

 

「送ってみるよ」

 

 ずっと伊吹とはネット上だけで話していたから、予定をつくるなんて初めてで緊張した。

 

 対面で会わなかったら、伊吹が女子なんてやっぱり信じられない。

 スマホでDMの画面を見ると、付き合いたいほどの恋が溢れるのに――。

 

 

 そこから最終下校の18時半まで、メッセージに既読は付かなかった。

 

 夏樹は司沙と駅まで一緒に帰りながら、この事態への不安を滲み出す。

 

「どうしちゃったんだろう――」

「いつもこの時間には、返信来るの?」

「来ないけど、来ないけど! 不安になっちゃうじゃん……」

 

 ここはいっちょ明るくなる言葉を、と意気込む司沙。

 

「焦らしプレイだよ。焦らしプレイ!」

「そんなわけないでしょ!」

 

 夏樹はもっと落ち込んだ顔になった。

 

 やってしまったと反省した司沙は、きっと部活だよ――と夏樹をなだめるのであった。

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