世界の隙間を埋める1%の閃き ~あるいはTSして手当たり次第にバッドエンドフラグを叩き折る天使~   作:信頼できる語り手

12 / 69
この俺をもてなす栄誉をくれてやろう。


【教育】に関する閃き

 連盟に登録した異能者の多くは、最初に基礎的な異能教育を受ける。

 

 この教育期間の異能者を徒弟と呼び、基本的には約4年で全課程を修了──つまり卒業資格を得る事が可能だ。

 

 ただし、優秀な成績を残せば卒業までの期間を短縮できる。過去には1週間で徒弟を卒業した早熟の天才もいると噂されていた。

 

 徒弟として学ぶ事は強制ではないが、異能者は徒弟を卒業してようやく半人前という風潮がある。

 

 特殊な事情がなければ、最低限の教養と箔を身に付ける為に徒弟を卒業しておくのが無難だ。

 

 異能社会で仕事をする際の信頼度も、大きく変わってくる。

 

 徒弟に対する座学の授業は、基本的に通信制で行われる。未能者のように足繁く学校に通う文化はない。

 

 しかし、大半の異能者にとって重要なのは、当然ながら座学よりも実技であり、卒業試験で重視されるのもこちらだ。

 

 まずは、術式の行使を補助する器仗、異能者の身を守る礼装、その他の祭具に関して。

 

 これらの道具に適切な量のマナを流して、安定運用できるか。

 

 次に、マナさえあれば誰でも行使できる術式──共有術式を実戦レベルで習得しているか。

 

 共有術式は、下記の基本六術を組み合わせる事で成立している。

 

 マナで負傷を治癒、もしくは物体を強化する、促進の活術。

 

 マナで気配を隠蔽、もしくは苦痛を軽減する、抑制の呪術。

 

 マナで対象を射出、もしくは思念を伝達する、放出の発術。

 

 マナで術式に干渉、もしくは罠を設置できる、操作の律術。

 

 マナで攻撃を透過、もしくは素材を配合する、同調の協術。

 

 マナで武器を形成、もしくは障壁を構築する、固定の錬術。

 

 これらの術を組み合わせた式が、術式だ。得意不得意はあるが、早い段階で覚えておいて損はない。

 

 最後に、共有術式とシグネットを併用して自分のオリジナル──固有術式を編み出せれば、文句なく及第点だ。

 

 それらの実技は必須項目として、徒弟の卒業要件になっている。

 

 

 

「来客は久し振り。二人はお茶で良い?」

 

「その前に!私が冗談みたいに連れて来られた理由を……あっ、なんか嫌なデジャブが!」

 

 僕が来客用の飲み物を出そうとすると、白髪の小柄な女が慌てたように声を上げた。

 

 諧謔のスフィア・ミルクパズル。

 

 こいつは多分、徒弟を卒業していないな。

 

 位階の高い異能者にしては珍しく、価値観が未能者寄りに感じる。正規の異能教育を受けていない者にありがちな傾向。

 

 よく独学で上位者まで昇格したものだ。

 

「あわわ……また、超越者だぁ……!シビュラ、もしかして呪われちゃってる……?」

 

 桃色のツインテールの女が、太めの眉を八の字にして震えている。

 

 輝石のシビュラ・クリスタル。

 

 こっちは典型的な真面目ちゃんだ。

 

 上位者に至って少し調子に乗っていたが、徒弟の立場でしっかり学んだ優等生だろう。

 

 僕の予想だが、おそらく1年程度で卒業していそうだ。

 

「じゃあ、本題に入る。僕の親衛隊に入って欲しい」

 

「ええっ!?親衛隊って、あの!?」

 

「……条件は?」

 

 シビュラは悲鳴を上げたが、スフィアはむしろ冷静になったらしい。表情が真剣なものに変わった。頼もしい肝の座り方だ。

 

「極光のナーヌス・バレンシア。シグネットは光。得意距離は後衛(エイド)。淫祠邪教に所属する第0位階の超越者で、度を超えた秘密主義。そして現状、親衛隊はいない。合ってますよね?」

 

 スフィアは椅子に背を預けて脚を組み、女にしては長身の僕を見下ろす。

 

「私、今困ってるんです。大量の贖宥値を稼ぐまで、罰則罰則。おまけに、ずっと連盟に見張られて半囚人生活ですよ」

 

 わざとらしい困り顔を浮かべて見せた。

 

「私を捕まえた男には便利な女扱いされて、都合を考えずに呼び出される始末。可哀想だと思いません?でも……」

 

 スフィアが白々しく笑顔を作る。

 

「貴女ならどうにかできますよね、ナーヌスさん。なにせ、個人で国家に等しい価値を持つ超越者ですから。──暗躍が好きな悪党同士、仲良くしませんか?」

 

 なるほど。こいつはそういうヤツか。僕としても話が早くて助かる。

 

 ただ。

 

「……なんで、梧桐志鳳は様付けで、僕はさん付け?」

 

「んなっ……!何処でそれを……!?ち、違いますから!あの人に特別な感情を抱いてるとか、そういうアレじゃなくてですね……!!」

 

 動揺するスフィアの肩を、シビュラが励ますように叩いた。

 

「真っ赤になっちゃうほど好きな相手なら、シビュラはガンガン告白しちゃった方が良いと思うよ?」

 

「貴女は黙ってて下さい!ああもう、なんでこんな話にだけ食い付くんですか!?」

 

 僕の発言で、結果的に二人の距離が縮まったようだ。

 

 僕は自分で思うよりも、人付き合いが下手じゃないのかもしれない。

 

 

 

「閃いた」

 

「胸は盛るわ!これは決定事項よね!金髪に似合うのは、巨乳しかあり得ないわ!」

 

「余は一応男なのだが。分かって言っておるのかえ、橙色の」

 

「角とか生えてたら面白くないですかぁ?」

 

「それなら、機能性を重視して腕も増やすぞ」

 

「紫色の、緑色の。汝ら、余の義体で遊んでおらんかえ?」

 

 喫茶ウールーズの面々は、プレイスホルダーの新しい義体を前にして、様々な改造案を出していた。

 

 ちなみに、プレイスホルダーの古い義体は限界が近かったので、志鳳の拠点に保管している。

 

 では、肉体を持たない直魂である彼が、今どうしているのかというと……。

 

「まさか、人型以外の機械にも入れるとは思わなかったかえ」

 

 志鳳のLITH端末の中に移動していた。

 

「本当に知らなかったのか。直魂の事情には詳しくないが、昨今ではありきたりな方法らしいぞ」

 

「余の生きた時代には、こんな高性能な端末はなかったかえ」

 

 画面上に表示されたプレイスホルダーのアバターが、感心するように頷く。

 

 異能者が使うLITH端末は、他の祭具と同じく、電気ではなくマナで動いている。

 

 仮の肉体としては少し窮屈だが、居心地は悪くなかった。

 

「あはは、技術の進歩は凄いかな。はい、シュークリームのお代わり」

 

「ありがとう、幕楽さん!んー!相変わらず、幕楽さんのお菓子は最高ね!」

 

「美味しいですねぇ」

 

 サラートと杜鵑花が、シュークリームを幸せそうに頬張る。

 

「……さっきから、見せびらかすように食いおってからに。それは、体を持たない余に対する当て付けかえ?橙色の、紫色の」

 

「幕楽さんの料理が食べられないなんて、可哀想よね!うまうま!」

 

「本当ですねぇ。まぁ、以前の襲撃事件の天罰じゃないですかぁ?今ぁ、どんな気分ですぅ?」

 

「余の義体が完成したら覚えておくかえ、小娘共」

 

 杜鵑花は舌を出す。

 

「また眠らせてやらしい事する気ですかぁ?怖いですぅ」

 

「いつまでも根に持つとは、器が小さい娘かえ。尻は大きい癖に……。待て。謝るから、術式を使おうとするのは止めるかえ、紫色の。店を壊したら女王に殺される」

 

 そこで、志鳳が口を開いた。

 

「皆、聞いて。教育の現場を見学したい」

 

 志鳳の前には、異能者向けの教科書が置かれている。

 

 古本屋で見付けて軽く読んでみたら、意外と面白かったので、最新の異能教育に興味を持ったのだ。

 

「そうは言っても、徒弟は基本的に通信制だぞ。未能者の学校でも見に行くのか?」

 

「それは……。なんかこう、良い感じに」

 

「ふわふわしてるわね!」

 

「ふん、相変わらず間の抜けた男だな、壟断。たが、そういう事なら、この俺が良い機会を与えてやろう」

 

 ウールーズの店内に、よく通る低い美声が響いた。

 

 常連の全員が静まり返り、杜鵑花が眉を顰める。

 

 しかし、声の主である黒髪の男は全く気にせず、背筋を伸ばして堂々と振る舞った。

 

「久し振りだな、壟断。それと、有象無象の雑音共。この俺をもてなす栄誉をくれてやろう」

 

 艶のある黒髪をアップバングにした男性──玄松(クロマツ)夕鶴(ユヅル)が、店内をじろりと見回す。

 

「こんな傲慢男が断章取義(うち)のボスとか、本気で信じられないんですけどぉ……。サラートさん、神聖喜劇のボスと交換しませんかぁ?」

 

「断るわ。あっ、淫祠邪教のボスなら交換してくれるかもしれないわね」

 

「……。……今で我慢しますぅ」

 

「苦渋の決断だな。いや、私も気持ちはよく分かるぞ。残体同盟(うち)のボスも話が通じないし」

 

 小声で会話する杜鵑花達を無視して、勝手に椅子に座った夕鶴が、ふんぞり返りながらポトフを注文する。

 

 暫くして運ばれてきた料理に口を付け、偉そうに品評した。

 

「ふん、料理の腕だけは認めてやろう、撃針。この俺が食べるに値しなくもない」

 

「なんでこの人ぉ、こんなに上から目線なんですかぁ?」

 

 杜鵑花が心の底から嫌そうに言う。

 

「あはは、私も演奏の腕前だけは認めてあげるかな、夕鶴くん。性格と音楽の素養は一切関係ない事がよく分かったよ」

 

 珍しく毒を吐く幕楽。それでも料理には手を抜かないのだから、プロ意識が高い。

 

「ふん、この俺の繊細な感性と耳があってこその演奏だ。まあ、称賛は素直に受け取ってやろう」

 

 そして、料理を食べ終えたタイミングで、志鳳が話しかけた。

 

「で、夕鶴。さっきの話。良い機会って?」

 

「徒弟の卒業試験だ。連盟が言うには、桜国の一部地域において、多数の徒弟が同時に試験を希望したようでな。手間だから合同で野外試験をやる事になったらしい」

 

 夕鶴は事実だけを淡々と述べる。

 

「試験監督は確保できているが、大所帯で動くからには安全面に保険をかけたい。そこで……」

 

 志鳳に目を向けた。

 

「この俺に相談が持ち掛けられた。まあ、断る理由も特にない。だが、やるからには万が一の失敗も許せん。よって、貴様にも手伝わせてやろう、壟断」

 

 

 

「と言うわけで、来た。生徒会の権力に定評のある桜国」

 

「アニメの観すぎでありんす」

 

 志鳳は高所に陣取って、夕鶴から任されたエリアと徒弟達を監視していた。

 

 その傍らには、黒髪で片目を隠した女性──眷属の玉兎(ユートゥ)が控えている。

 

「そうだ、玉兎。記録用の祭具、出しといて」

 

『了解でありんす。御園──限定展開』

 

 玉兎が虚空に手を伸ばすと空間が歪み、そこから撮影用の祭具が現れた。

 

 眷属は人に近い姿をしているが、人間ではない。

 

 幻界と仮称される異界で暮らす人型の幻想生物。通称、幻妖鬼。

 

 その存在を理解するには、迷宮について知る必要がある。

 

 迷宮の出現は、幻想生物のいる世界──幻界の一部が、何かの拍子で現実世界に飛び出してしまう現象だ。

 

 それに引き摺られて、数多の幻想生物の複製体も、怪異や怪獣として顕現する。

 

 異能者は理性のない複製体を討伐する事で、稀に幻想生物の本体との繋がり──召喚紋章を入手できる。

 

 それを手に入れた異能者は、怪異を眷属、怪獣を隷獣として、幻界から召喚できるようになるのだ。

 

「御園は便利だけど、長時間マナを浸透させた私物しか入れられないのが欠点」

 

「何でも入れられたら、空間系のシグネット以上の無法でありんすからな……」

 

 そして、眷属だけが持つ特別な力──御園の展開。端的に言えば、幻界の自領を現実世界に展開する事ができる。

 

 御園に入れた私物は幻界に保管できる為、異能者から重宝される能力だ。

 

 非常に便利なので、位階の高い異能者のほとんどは、自分専用の眷属を所持している。

 

「見た感じ、眷属や隷獣を持ってる徒弟はいない」

 

「卒業してやっと半人前でありんすからね。そんな高価な代物には、まだ手を出せないでありんしょう」

 

 志鳳は活術で視力を強化し、光のシグネットで徒弟達の動きを観察していた。

 

「マナのコントロールも甘い。共有術式の構築も遅い。器仗の補助に頼って、ギリギリ実戦レベル」

 

「まあ、徒弟の段階から傑出した異能者なんて、そうそう見付からないでありんすよ」

 

「残念。才能の原石がいたら、未来の親衛隊候補として投資しようと思ってたのに」

 

 志鳳は普段から超越者や上位者とばかり関わっており、無駄に目が肥えていた。

 

 実際、ここにいるヒヨッコ達を束にしても、適当な異名持ちを一人放り込めば、瞬きの間に全滅させられるだろう。

 

 ちなみに、異名持ちは充分に一流と呼んで差し支えない領域である。超越者の基準がおかしいだけだ。

 

「あ、でも試験内容は結構面白い。今はああいう方式でやってるんだ。身体能力でごり押しできない工夫を入れてるのは、流石」

 

「術式を使いこなす試験でありんすからね。あの空中を走りながら的当てする試験は、割りと実戦的でありんすな」

 

「初対面の時に、スフィアがやったヤツ」

 

 なんだかんだ言いながらも、二人は試験に熱中していた。

 

 

 

『大変かえ、同志!邪悪な意識の持ち主が多数、こっちに向かってくる!異名持ちにギリギリ入る程度の連中だが、徒弟達に近寄らせたら不味いかえ!』

 

 LITH端末からの警告を聞いた瞬間、志鳳はほとんど反射で術式を使った。

 

『失伝──針の上で天使は何人踊れるか(シースレス・エンジェル)

 

 同時に、プレイスホルダーも術式を行使する。

 

『異能者の卵を狙った襲撃!これが今回の火種かえ!失伝──溢れる程の目覚め(フル・アローザル)!』

 

『御園──限定展開!主様!』

 

 玉兎が御園から遠隔通信用の祭具を取り出し、志鳳に手渡した。

 

『夕鶴!襲撃!』

 

『ああ、こっちも今気付いたところだ。音質の悪い連中が接近しているな。聴くに堪えん』

 

『そっちは、大丈夫?』

 

『誰に物を言っている、壟断。この俺が、直ぐに教育してやろう』 

 

 通信用の祭具から、不敵な思念が響く。

 

『絶望の音の奏で方を』

 

 

 

『失伝──この世は舞台(エンドレス・ステージ)

 

 志鳳は錬術でマナの足場を形成し、空中を駆けて敵の集団に近付く。

 

『再演──煌めく小さな御星様(トゥウィンクル ・スター)

 

 集団の進軍を止める為に、光の弾丸を降らせる。

 

 ああは言ったが、向こうの心配はあまりしていない。

 

 夕鶴を倒せる手段が在野にあるのなら、むしろ見てみたいくらいだ。

 

 四大組合の最高戦力。そのボスは伊達ではない。

 

 神聖喜劇のボス。ラミナ・クルシフィックスは時流の制御による、圧倒的な防御力。

 

 残体同盟のボス。ギーメル・パペスは莫大な水量の操作による、攻防一体の極致。

 

 断章取義のボス。玄松夕鶴の戦闘スタイルは──。

 

 

 

 実を言うと、この一件の裏には受肉した黙示録の暗躍があった。

 

 異名持ち程度の戦力による襲撃は、天使の目を引く為のブラフ。

 

 黙示録の手足となって動く、生物を模した彫刻のような偽典。

 

 近くの迷宮から誘導されてきた、多数の怪異と怪獣の群れ。

 

 瘴気の結晶を服用した中毒者。

 

 その他、様々な仕掛けを連鎖して起動させる事で、天使の処理能力を飽和させる。

 

 そういう作戦だった。

 

『失伝──破滅的な音響(ヴェイパー・ウェイヴ)

 

 全て、崩壊した。

 

 広範囲の敵性存在を対象とした、その一撃で。

 

『もっと響かせてやろう』

 

 彼が指揮棒を振るような動きをすると、更に破壊の波が拡大する。

 

 偽典が、怪異が、怪獣が、瘴気が。

 

 生物も、無生物も、等しく原型を失い、崩れていく。

 

 全ての小細工が、たった一人の男に砕かれる。

 

『脆いな。神聖喜劇の洗礼の足元にも及ばん。ならば、そろそろ終曲(フィナーレ)にしてやろう』 

 

 晩鐘の玄松夕鶴。

 

 シグネットは振動。破壊力という一点において、彼は現象系の中でも他の追随を許さない。

 

 ただ、圧倒的な攻撃力だけで、全ての策謀を踏み潰す、断章取義のトップ。

 

『アンコールの要求もなしか』

 

 もう誰も動かない。

 

「はははっ、素晴らしいな!」

 

 夕鶴は解放感に両腕を大きく広げて、爽快に笑った。

 

「雑音のない。──静かな世界」

 

 全てが崩壊した荒野で。

 

 

 

『惜しいな!徒弟への接近という敗北条件を設ける事で天使を追い詰める。作戦としては悪くなかったのだがね!』

 

「僕に言わせれば、馬鹿」

 

 僕は悪魔に対して断言した。

 

『おや、辛辣だな!何が間違っていたと?』

 

「自分で考えて。でも、お前達は超越者に対する理解が浅い」

 

 黙示録は人間とは別種。人間を理解できない。これは大きな弱点だ。

 

 妙覚という現象がある事からも察せるだろうに。

 

 異能者を追い詰める事の危険性。

 

(特に、超越者)

 

 人類の到達点である僕らは、追い込まれれば確実に限界以上の力を発揮する。

 

 というより、そういう人間でなければ第1位階に足を踏み入れられない。

 

 人類の歴史において、超越者は百名に満たない。逆を言えば、数十人はいる。

 

 だが、決して等間隔で出現するわけではない。

 

 立て続けに現れる時代もあれば、いくら待っても現れない時代もある。

 

 それは、突然変異なのだ。

 

 環境も血統も、無関係。他者の都合や思惑など、無意味。

 

(これまで、人為的に超越者を育てる計画は山ほど実行された。だけど、今の時点で成功例は──ゼロ)

 

 女王ベートが世界を敵に回して勝ち続けたのには、生来の強さ以外にも理由がある。

 

 すなわち、追い詰められた極限状態で戦い続け、常に限界の壁を超えていた事。

 

(まあ、他が真似すれば直ぐに潰れるだろうけど)

 

 超越者を追い詰めてはならない。

 

 これは、異能社会の暗黙の常識。

 

 

 

「──ああ。本当の話、なんですね」

 

 スフィアが悩ましげに息を吐く。

 

「信じてくれた?」

 

「性質の悪い冗談だと思いたかったんですが、貴女に協力すると宣言してから、私の危機察知が大変な事になってますよ」

 

 もう真っ赤です、とスフィアは肩を竦めた。

 

「特に強い反応が十。でも、私なら大体の居場所が分かります。これでようやく、反撃に移れますね?」

 

 スフィアは自分の体を抱き締めながら、意地悪く嘲笑う。それでも、震えが抑えられていない。

 

 当然か。彼女は敵の危険度を正しく把握したのだろう。

 

「随分、積極的。……実は半分くらい、お前は残らないと思ってた」

 

「世界の行く末には興味ありませんよ。ただ、借りっぱなしは私の主義に反するんです。強いて言うなら──悪の矜持」

 

「わ、私はっ!」

 

 シビュラが裏返った声を上げる。

 

「世界が滅びちゃったら、綺麗な宝石も夜景もなくなっちゃうし!シビュラの輝きを、見せ付ける相手もいなくなっちゃうし!あと、救世主になっちゃうのも、格好良いかなって!……だから!」

 

 二人は僕の前に跪いた。

 

「スフィア・ミルクパズル。あくまで、世界が安全になるまでの、期間限定ですが。忠誠を誓います、我が王」

 

「シビュラ・クリスタル。同じく、忠誠を誓っちゃいます、王!」

 

 存外、悪くないメンバーだ。

 

 僕──極光のナーヌス・バレンシアの親衛隊が、遂に始動する。

 

「ところで、なんで女性なのに王と呼ばせるんですか?」

 

「あっ、スフィアちゃん、それ訊いちゃうんだ……」

 

「?シビュラさんは、理由をご存知なんです?」

 

 確信した。やっぱり、こいつはまともな異能教育を受けてない。

 

 歴史とか過去の人物とか、興味ないよな、お前は。

 

「超越者が女王を名乗ると、連盟から警戒される。皆のトラウマ」

 

「教養がヨワヨワな常識知らずになっちゃってるよ、スフィアちゃん……」

 

「だから、それは何故ですか……!?」

 

 まずは基礎的な教育からだ、僕の親衛隊(スフィア)




沢山の感想お気に入り評価付与、ありがとうございます。

最新話以外の感想も大歓迎です。

質問やネタの提案がございましたら、作者Xマシュマロ活動報告へお願いします。

第1回ヒロイン人気投票

  • 赤:信桜幕楽
  • 緑:アイン・ディアーブル
  • 紫:山藤杜鵑花
  • 橙:サラート・シャリーア
  • 青:ナーヌス・バレンシア(梧桐詩凰)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。