世界の隙間を埋める1%の閃き ~あるいはTSして手当たり次第にバッドエンドフラグを叩き折る天使~   作:信頼できる語り手

15 / 69
平穏が一番かえ。


【義体】に関する隙間

 梧桐志鳳のLITH端末に住む金髪の直魂──プレイスホルダーは、勝手に端末の検索機能を使いながら、感嘆の声を上げた。

 

「それにしても、この時代は義体に関連する技術が発達してるかえ」

 

 半ばマスコットのようなポジションに落ち着きつつある彼だが、今の状態はあくまで、新しい義体が完成するまでの繋ぎ。

 

 高性能な最新型のLITH端末。それを超越者の権限で改造しまくった代物とはいえ、第0位階の器としては、些か心細い。

 

 そして、勤勉なプレイスホルダーは、新たな体の完成を待つ間に、この時代の義体に関する情報を集めていた。

 

「多分ですけどぉ、客体の派生技術も流用してると思いますよぉ?」

 

 紫のサイドテールの女性──山藤杜鵑花が、バウムクーヘンを食べる手を止めて、炭酸飲料を飲んでから答えた。

 

 信桜幕楽の運営する喫茶店──ウールーズは、降国風喫茶と名乗ってはいるが、フルールドリス以外の国の料理も頼めば出てくる。

 

 特に、常連四人が長く拠点を置いていた国の料理──梅国料理・ベリス料理・セントレア料理・シッスル料理は、完全に網羅していた。 

 

「客体、かえ?」

 

「異能社会で使われている、人型のロボットだぞ。現代では欠かせない存在だ」

 

 緑のロングウェーブの女性──アイン・ディアーブルが、ティラミスを食べながら、簡潔に補足する。

 

「要は、アンドロイドよね!」

 

 橙のハーフアップの女性──サラート・シャリーアが、スコーンを頬張りながら、更に簡単に言い換えた。

 

「異能者は未能者と比べて人口が少ないから、人手不足。だから、人手の代わりになる客体が必須」

 

 青のウルフカットの男性──梧桐志鳳は、饅頭を苦い茶で流し込み、現代異能社会の事情を語る。

 

 今や、適当に異能社会を歩くだけで、マナで動くアンドロイド──客体を見かける事ができる。

 

 志鳳の趣味である演劇でも、演技を学習させた客体を端役に使う劇団は多い。

 

 何なら、客体だけで演じる劇という面白い試みまであったくらいだ。

 

 勿論、ウールーズのような飲食店にも、指示通りに働く従業員として、何体か配備されているのが常だ。

 

「客体産業はまだまだ伸び代があって、業界人はウハウハよね!」

 

「その分、競争も激しいですけどねぇ。噂では、あのルースター社も客体関連事業に手を伸ばす予定だとかぁ」

 

「えっ、本当!?それは流石に、ヤバイわよ!!」

 

 人差し指を立てて驚いたサラートが、急いで端末を弄り始める。あわよくば、投資で稼ごうという魂胆だ。

 

 ルースター社は、高い品質と技術力で有名な12の異能企業の一社。

 

 手広くやっているナフタリ機械などとは違って、未能社会にこそ進出していないが、異能者の間では絶大なシェアを誇る。

 

 

 

「そういえば、今日はアレないですねぇ」

 

「アレ?何?」

 

「君がよく言ってるじゃないか。あの、何だっけ。ああそうだ……閃いた、ってヤツだぞ」

 

「あの言葉が出ると、物騒な事件に巻き込まれる前兆じゃないですかぁ?」

 

「不運を呼んでくる疫病神みたいな扱いは、流石に心外」

 

 饅頭を食べ終わった志鳳は、二人に対して強く抗議した。

 

「そんな毎回、大きな事件が発生してたら、僕の身が持たない」

 

 確かに、彼が重大事件の現場に居合わせる頻度は高いが、別に毎日というわけではない。

 

 割合的には、ウールーズで穏やかにボードゲームを楽しんだり、各人の趣味に付き合ったり、親衛隊に稽古を付けて遊んでいる時間の方が圧倒的に長いのだ。

 

 ごく稀に、連盟からの依頼で異能者として働いたりもする。

 

「平穏が一番かえ」

 

 プレイスホルダーは、彼らの食事風景を視界に入れないように気を付けつつ、しみじみと呟いた。

 

 端末の中にいる現状では、食欲をそそられても食事ができない。シグネットで自身の意識に干渉し、空腹の錯覚から目を逸らす。

 

「老人みたいな事を言う直魂だぞ」

 

「超越者は、肉体も精神も全盛期から老いないはずなんですけどぉ」

 

「あはは、私は皆と一緒なら、平穏も騒がしいのも両方好きかな」

 

 赤のミディアムヘアの女性──信桜幕楽が、志鳳に追加の饅頭を渡して笑う。

 

「あっ、私の投資してた企業がアシェル運輸にシェアを奪われて、潰れそうになってるわ!」

 

 サラートが目を見開いて叫んだ。

 

「許すまじね!絶対、裏で悪い事してるわ、この企業!最高経営責任者の顔写真も、何か腹黒そうだったし!」

 

「酷い決め付けですねぇ」

 

「私怨で叩くのは止めるべきだぞ」

 

「根拠のない妄想をラフトラックに書き込む癖は、一刻も早く直して」

 

「あはは、匿名掲示板に入り浸るのは程々に、かな」

 

 四人の集中攻撃を受けて、サラートは頬を膨らませる。

 

「ちゃんと連盟に怒られない範囲でやってるわ!個人の感想、思想の自由よね!」

 

「より悪質」

 

「そんな事をしてる暇があったら、オークションで掘り出し物でも探した方が有意義だぞ」

 

「それよりも、最近できたカジノに行きませんかぁ」

 

「梅国で面白い演劇が……」

 

 喧しくなった店内を眺めて、幕楽は楽しそうに微笑んだ。

 

「あはは」

 

「本当に、汝はいつも笑っておるかえ、赤色の」

 

「当たり前かな」

 

 プレイスホルダーの言葉に対して、幕楽は手に持っていたコースターを軽く振ってみせる。

 

「皆のいるこの場所が、私の幸せだから」

 

 ウールーズの文字が刻まれたコースターを優しく机に置いて、彼女は笑顔で言った。




沢山の感想お気に入り評価付与、ありがとうございます。

最新話以外の感想も大歓迎です。

質問やネタの提案がございましたら、作者Xマシュマロ活動報告へお願いします。

第1回ヒロイン人気投票

  • 赤:信桜幕楽
  • 緑:アイン・ディアーブル
  • 紫:山藤杜鵑花
  • 橙:サラート・シャリーア
  • 青:ナーヌス・バレンシア(梧桐詩凰)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。