世界の隙間を埋める1%の閃き ~あるいはTSして手当たり次第にバッドエンドフラグを叩き折る天使~   作:信頼できる語り手

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親衛隊級の先達として、胸を貸してやるよ。


【スポーツ】に関する閃き

 異能者(ぼくたち)の間では、球技はマイナースポーツに分類される。

 

 一部のスポーツマニアは、わざわざ未能者に交じって野球やサッカーを観戦したりするが、自身がプレーしようとはしない。

 

 これは身体能力の違い、もっと言えば祝福の有無によるものだ。

 

 サッカーを例に挙げよう。

 

 まず、異能者の強靭な肉体から繰り出される蹴りに、サッカーボールが耐えられない。

 

 その点を解決しても、異能者の脚力を考えれば、自チームのゴール前から相手チームのゴールに直接シュートできてしまう。

 

 見方によっては面白いかもしれないが、それはもはや、サッカーとは別のスポーツだろう。

 

 では、異能者の間で人気のあるスポーツは何かと言うと、バーグラーとバンケットだ。

 

 これらは異能者向けの二大スポーツであり、マナや術式の使用も想定して、ルールが整備されている。

 

 ルールの拡張性が高く、どんな異能者でも楽しめる事から、バーグラーサークルを兼ねている結社もあるくらいだ。 

 

『獲った』

 

 バーグラーのルールは至って単純。相手チームの陣地に置かれた目印代わりの祭具を盗んで、自陣に帰還すれば良い。

 

 僕は宝石型の祭具を掴むと、自陣に向かって駆け出した。

 

『甘いっつーの』

 

 艶のある黒髪の男──ネルウス・アレキサンダーが行く手を阻む。

 

『ユニフォーム、似合ってない』

 

『あんたも良い勝負だっつーの』

 

 異能者は頑丈なので、かなりのラフプレーも許される。この男相手なら攻撃術式をぶつけても問題ないはずだ。

 

 僕は左腕に嵌めた腕輪を意識しながら、マナを術式に変換していく。

 

『行けー!勝っちゃえー!』

 

 シビュラの閑話による声援が届いた。

 

『失伝──独り善がりな栄光(ロンリー・アウレオラ)

 

『失伝──人格に対する痛撃(アド・ホミネム)

 

 僕とネルウスが固有術式を行使したタイミングは、奇しくも同時だった。

 

 威力を抑えた光の矢が、それでも充分な物量でネルウスを襲う。

 

 そして、ネルウスの術式が僕を……。

 

『……どういうつもり?』

 

 襲わなかった。

 

 当然、超越者が術式構築を失敗するわけもなく、その攻撃は狙うべき相手に直撃する。

 

『出てきな、大赦』

 

『……っ!思姦のシグネットは相変わらず凶悪らしい。失伝──束の間の記憶(ワーキング・メモリ)──解除』

 

 客席から立ち上がった紺色の髪の女を見て、僕は発動中の術式を止めた。

 

「レテ・ダーム。おかしな悪戯しないで」

 

 記憶を弄られていたのか。そういえば、僕達はこの競技場の近くで、失楽園の襲撃に備えた作戦会議をしていたんだった。

 

 存在しない試合の予定を埋め込まれて、まんまとスポーツをやらされるとは。

 

「このシチュエーションは、お気に召さなかったらしい。やはり、スポ根モノは時代遅れか」

 

「そういう問題じゃない」

 

 レテとの間には距離があるが、超越者の耳の良さなら会話に支障はない。

 

 僕は競技場の端のベンチに向かい、スフィアに預けていた貴重品入りポーチを受け取る。

 

 手探りで筒状の祭具を取り出す。これは僕の礼装だ。筒にマナを流すと、体にフィットする形で衣服が形成される。

 

 いつの間にか着ていた試合用ユニフォームを乱暴に脱ぎ捨て、僕は礼装に着替えた。

 

「王!いきなり脱がないでくれませんか!?」

 

 ドルクとデクランの目を塞ぎながら、スフィアが注意してくる。

 

 仕方ないだろう。前の世界では長きに渡って世捨て人として、人目を気にしない生活をしていたのだ。

 

 エーシルのような軟派男がいる時には相応に警戒するが、ドルクやデクランが僕を異性として意識するとは思えない。

 

 そもそも未能者じゃあるまいし、異能者には男女の身体能力差もほとんどないのだ。邪な気持ちを持たれたとしても反撃できる。

 

「そういう目で見られる事自体が問題なんですよ!自覚を持って下さい!」

 

 

 

 僕がスフィアの説教を聞き流していると、ネルウスとレテがこちらに歩いてきた。

 

「記憶の改竄に気付けないなんて、精神系への対処がなってないな、ナーヌス・バレンシア」

 

 ネルウスが痛いところを突いてくる。確かに元引き篭もりである僕は、戦闘経験が偏っていると言われても否定はできない。

 

「……精神系の術式に抗えるか否かは、位階よりも性格的な個人差が大きい」

 

 言い訳ではあるが、異能学的な事実でもある。僕は梧桐志鳳と真逆で、精神系のシグネットに弱いのだ。

 

 レテが術式を解除した際の反応を見るに、スフィアにも劣る可能性がある。

 

 だからと言って、シグネットが内面に紐付いている以上、努力で性格を大きく変える事は難しい。

 

「一説には、精神系に弱い人間は意思が弱いらしい」

 

「えーっ、そうなの!?」

 

 レテの言葉に、シビュラがショックを受ける。

 

「はっ!くだらないね!」

 

 ネルウスが懐から飴を出して口に入れた。

 

「こういう特徴に当てはまる奴は駄目だ、カスだ、なんて言われて落ち込むのは、それこそ自意識過剰だっつーの」

 

 口の中で飴を転がして言う。

 

「自分が上等な人間だと思ってるから、そんな戯言を気にするわけだ。綺麗な服を着てるつもりになってるから、泥1滴の難癖を受け流せないっつーか」

 

 心理学をライフワークとしているだけあって、人間心理の話になると、よく舌が回る。

 

 噂によると、彼の歯に衣着せぬ毒舌カウンセリングはカルト的な人気があるらしい。

 

 ネルウスはネルウスで、思想が極端な気がするけど、それに救われる人間もいるのかもしれない。

 

 僕は下らない事を考えながら、ポーチからLITH端末を取り出して時間を確認する。

 

(ん、ニュース速報?)

 

 そのニュースに目を留めたのは、見慣れた企業の名前が入っていたからだ。

 

(マナセ広告主催のバーグラー大会。開催は明日。随分と急な話。何を企んでる?)

 

 マナセ広告。モナルキーアを撃退して以降、目立った動きはなかったはずだが……。

 

「優勝賞品は……。ぇ……黙示録……!?」

 

 あまりにも予想外の事態に、僕は思わず声に出してしまった。

 

 親衛隊の皆が集まってくる。僕は慌てながらも、ニュース記事に添付された画像を光のシグネットで拡大した。

 

「新たな黙示録……!本物……!?」

 

 それは、桜国の簪に似た形状をしている。

 

「受肉前なので、私のシグネットでは危険度を判別できませんね」

 

「でも、普通の祭具じゃない事は断言しちゃえるよ!人工物にしては、設計に違和感があるし!」

 

 祭具職人であるシビュラが身を乗り出す。

 

『クハハッ!たかがスポーツ大会の優勝景品に黙示録を持ち出すとは、豪快な一手だな!』

 

『……悪魔』

 

 さて、どうするか。

 

「ゆ、優勝賞品か。それで、王。俺達は何をすれば良い?」

 

 ドルクから意思を確認される。

 

 僕は息を吐く。最善に近い答えを導くのは簡単だ。固有術式を使って、思考を拡張すれば良い。

 

 だが、遺失支族が動き始めたからには、切り札を温存する必要がある。だから、素の僕のままで決断しなくてはならない。

 

「──皆に任せたい事がある」

 

 

 

「閃いた」

 

 スポーツ雑誌を広げていた志鳳は、とあるバーグラー選手の特集ページに付箋を貼った。

 

「スポーツを観戦したい」

 

「余は暫く外出したくないかえ……」

 

 そんな志鳳の発案に対して、プレイスホルダーが珍しく覇気のない口調で返す。

 

 彼の声は弱々しいだけでなく、いつもよりも若干高い。──いわゆる、女声だった。

 

 それもそのはず、今の彼は声帯どころか全身が女性に変貌している。

 

「超越者の魂で補綴戦姫の体を動かすなんて、夢が広がりますねぇ」

 

「補綴戦姫シリーズを手に入れてくるとは、お手柄だぞ。この機能美……まさに技術の結晶だな」

 

 補綴戦姫。世界に7体しか存在しない究極の義体。

 

 前回の事件で補綴戦姫の鹵獲に成功した志鳳達は、ウールーズで唯一の直魂であるプレイスホルダーへと譲渡する事にした。

 

 ただ、1つだけ些細な問題がある。

 

「やっぱり女性型の義体の方が、お洒落の幅が広がるのよね!」

 

 そう、補綴戦姫シリーズは全て女性型で設計されているのだ。細かい外見の変更は可能だが、基礎となる性別は変えられない。

 

「余は男だというのに……!」

 

「でも、超高性能の義体ですから、違和感は少ないんじゃないですかぁ?」

 

「それが逆に怖いかえ!しっくり嵌まり過ぎるせいで、気を抜くと自分の性別がよく分からなくなってくる……!」

 

 金色のショートヘアに老成した雰囲気。杜鵑花の調整が良かったのか、補綴戦姫の中にもプレイスホルダーの面影は残っている。

 

 しかし、縦縞の入った薄手のセーターを押し上げる胸部の膨らみにより、その体が女性になっている事がはっきり分かった。

 

 両胸のカップ数は、杜鵑花とアインより大きく、幕楽とサラートより小さい程度で、隠し切れないボリューム感がある。

 

「TSの醍醐味ね!」

 

「あはは、私はよく分からないけど、プレイスくんがパワーアップしたなら良いんじゃないかな?」

 

「他人事だと思って、呑気な事を……!」

 

 プレイスホルダーはどうにか体のラインを隠そうと奮闘していたが、直ぐに諦めてソファの上に胡座をかいた。

 

「それで、同志。スポーツ観戦と言ったかえ?」

 

「聴いてたんだ」

 

「意識のシグネットがあるのでな。同時に多方へ意識を向けるマルチタスクは、余の得意分野よ」

 

 プレイスホルダーが胸を張る。

 

「そして、スポーツに関して人々の意識を軽く探ってみると、気になる速報が見付かった」

 

「バーグラー大会?主催はマナセ広告……。優勝賞品は……!これって……!」

 

「うむ、汝への誘い、であろうな」

 

 志鳳が思案していると、彼の顔の左右からアイン達も端末画面を覗き込む。

 

「これが黙示録か。確かに異質な品に見えるぞ」

 

「遺物に近い雰囲気も感じますけどぉ……。いずれ受肉して摂理に牙を剥くのなら、さっさと回収して破壊すべきですねぇ」

 

「大会は4人チームなのね!」

 

 バーグラーは何人でも楽しめるスポーツだが、今回の大会は4人1チームでの出場となる。

 

「補欠も登録できるみたいかな」

 

「とりあえず、リーダーは幕楽。副リーダーは僕。だから、あと2枠」

 

「異議あり!」

 

 そこで、端末に応募内容を入力し始めた志鳳に待ったが掛かった。

 

「いや、副リーダーは天才である私だろう」

 

「勝負事に強い私じゃないですかぁ?」

 

「芸術的センスのある私よね!」

 

 実を言うと、ウールーズの副リーダーは固定ではない。持ち回りだ。

 

 どれだけ彼らの仲が良かろうと超越者は超越者。皆が皆、自分こそが要職に相応しいと思っているので、譲り合いにも限度がある。

 

「あはは、じゃんけんで決めようか?」

 

 幕楽が手を叩いて言った。

 

「それと、リーダーは別に私じゃなくても良いんだけど……」

 

「「「「それは駄目」」」」

 

 一番まともな幕楽以外がリーダーになると収拾が付かない。4人はその事をしっかり理解していた。

 

「ところで、汝ら。参加資格の項目をちゃんと読んだかえ?」

 

 プレイスホルダーはそんな5人に冷ややかな目を向ける。

 

「超越者は出場禁止と書いてあるが……」

 

「あ」

 

 

 

「そういうわけだから、皆よろしく」

 

「でありんす」

 

「ヂィ、ヂィ」

 

 志鳳は眷属の玉兎(ユートゥ)と隷獣の即即(ヂィヂィ)を伴って、選手控え室の親衛隊に声を掛けた。

 

「まったく、超越者級は出禁なんて、スポーツ大会の基本級を忘れないでくれよ」

 

 紫交じりの銀髪を結った男性──(ヤオ)飛龍(フェイロン)がぼやく。

 

 彼の言葉通り、超越者はルールで縛っても強過ぎる為、一般的なスポーツ大会には出場できない。

 

「今回は特例かと思った。モナルキーアも気が利かない」

 

「上位者までしか出られない大会なら、私達が余裕で優勝ある!」

 

  桃色の髪に水色のメッシュが入った女性──(リー)獲麟(フォリン)の自信に満ちた態度は、本職のバーグラー選手のようだ。

 

「王に勝利を捧げます。どうぞ」

 

 紫色の三つ編みの女性──(ワン)筮亀(シーグイ)が宣言する。

 

「えっと、役に入らなくちゃ……。はいっ!私も頑張ります、師匠っ!」

 

 志鳳を師匠と呼ぶのは、紅白の短髪の女性──バーティカルバー。

 

 直魂アイドルグループ・真善美のリーダーである彼女は、志鳳の下で演劇と異能を学んだ直弟子でもある。

 

「でも、本当に私が4人目で良かったんですかっ?師匠はエフェソスさん達にも伝手があるんですよねっ!」

 

「金枝玉葉に借りを作りたくない」

 

「あっ……」

 

 バーティカルバーは察した。

 

 優秀な血を取り入れる事が第1目標の金枝玉葉が、超越者に対する貸しをどう利用するかなど分かり切っている。

 

「ごめんなさい、直魂(わたし)は子供が作れないから失念してました……」

 

「あ」

 

 志鳳は察した。

 

「そ、そう言えばっ!この大会って凄く注目されてるみたいですよっ!超越者も何人か警備に雇われてるとかっ!さっき、残体同盟のザインさんと擦れ違いましたっ!」

 

「ん、僕も蝶路(チョウジ)の姿を見かけた気がする」

 

 試合開始前に微妙な空気になったのは、不幸な事故である。

 

 

 

 バレンシア派閥の控え室では、最後の確認が行われていた。

 

「この腕輪が、マナの検知器になっちゃってるんだよ。在野で覚醒した異能者の発見にも使われちゃう技術だね」

 

 シビュラは自身の腕輪を撫でる。

 

「き、規定以上のマナ出力を感知すると、音が鳴って反則扱い。場合によっては、退場もあるようだ」

 

「今回の大会は参加者の平均位階が高いから、規定ラインも引き上げられちゃってるみたいだね。一般的な第4位階くらいの力は発揮しちゃっても良いよ」

 

「逆に言えば、私達──上位者が本気を出したらアウトって事ですか。窮屈ですね」

 

 バレンシア親衛隊の3人は、既に腕輪の許容値を見切っていた。

 

 熟練のバーグラー選手でも苦労する作業なのだが、親衛隊はそれぞれが別方向に天才である。

 

 スフィアは学習能力、ドルクは体術全般、シビュラは祭具分析。

 

「あ、デクランさんは全力で暴れて構いませんよ」

 

「……うっす」

 

 武器の持ち込み禁止の大会で、果たして剣士の出番はあるのだろうか?

 

 デクランは遠い目で考えた。

 

 

 

「ここまでは順調に勝ち抜けましたね」

 

 あまりにも猶予が短過ぎる開催告知。黙示録という得体の知れない優勝賞品。

 

 参加者の平均位階は高く、親衛隊レベルの猛者も散見されたが、本腰を入れて優勝を狙う派閥は少なかったらしい。

 

 結成されて日が浅いスフィア達でも、トーナメント戦を勝ち進む事ができた。

 

 そう、ここまでは。

 

「優勝を目指すなら、彼らが最大の障害ですね」

 

 バレンシア派閥と梧桐派閥の選抜メンバーが布陣する。

 

 優勝賞品である黙示録の破壊。同じ目的を持っている事は、既に互いが気付いている。

 

 それでも、王に優勝を命じられたからには負けられない。

 

 何故なら、彼らが全力を尽くす事すら計算に入れて、ナーヌスと志鳳は動き出しているからだ。

 

 ──試合開始のブザーが響き渡る。

 

『……!秘伝──雨を運ぶ男(レイン・ブリンガー)……!』

 

 最初に動いたのはドルク。しかし、その行動は攻撃ではなく防御。

 

『秘伝──痛々しい速贄(ピティフル・インペイラー)

 

 足元から生えた竹の槍が、ドルクの具現した大蛙の胴体を貫く。

 

『お前が一番、強そうあるな!怪雨のドルク・バッシャール!』

 

 装蹄の(リー)獲麟(フォリン)

 

 シグネットは竹。非常に限定的な生物系だが、その威力は……。

 

『お、お手柔らかに。獲麟嬢』

 

 梧桐志鳳の親衛隊で最強の戦闘能力を誇る女性を前に、ドルクは油断なく構えた。

 

 

 

 両チームの司令塔が向かい合う。

 

『秘伝──厄災を示す地図(ハザード・マップ)

 

『秘伝──言葉にできない真意(ノンバーバル・メッセージ)

 

 業報の(ワン)筮亀(シーグイ)

 

 シグネットは交信。他人と情報を遣り取りできるだけの、それこそ閑話の術式で事足りるような異能。

 

『諧謔のスフィア・ミルクパズル。戦闘は不得手ですが、王の命により私が貴方を倒します。どうぞ』

 

『戦闘が苦手。閑話で代替できる程度のシグネット。……なんて、冗談でしょう?』

 

 スフィアは筮亀の脅威度を知覚して、思わず苦笑した。嘘吐きにも程がある。

 

『ご安全に、とは言ってられないみたいですね……!』

 

 

 

『皆伝──煌めく小さな御星様(トゥウィンクル ・スター)!』

 

『秘伝──移り気な群体(マーキュリアル・レギオン)

 

 堰堤の(ヤオ)飛龍(フェイロン)

 

 シグネットは水銀。シビュラの射出した宝石の弾丸が、液体金属の塊に呑み込まれる。

 

『親衛隊級の先達として、胸を貸してやるよ、輝石のシビュラ・クリスタル』

 

『姚飛龍……!天使様の、右腕……!』

 

 シビュラは感じ取った。同じ物質系でも、自分と飛龍の間には圧倒的な実力差がある。

 

『王も面倒な注文を付けるもんだ。獲麟の馬鹿がもう少し頭を使えれば、俺の仕事級も減るんだけどな』

 

(……これは戦闘じゃない。祭具を盗んじゃえば、シビュラ達の勝ち。一瞬で良いから、隙を突いちゃえば……。方法、手段。どうすれば良い?)

 

 シビュラの思考が集中状態に向かう。

 

 

 

『秘伝──時代遅れの覇者(エンシェント・ダイノソー)

 

 巨大な何かの尾が足元に叩き付けられ、デクランは血の気が引く感覚を味わった。

 

『怖い顔のお兄さん、初めましてっ!バーティカルバーですっ!』

 

 片鱗のバーティカルバー。

 

 シグネットは恐竜。彼女が創造した巨大生物は、上位者という存在の脅威を分かりやすく体現している。

 

 飛龍達以外の親衛隊を押し退けて、助っ人に指名された実力は伊達ではない。

 

『行っけーっ!』

 

『武装禁止ルール……。聖剣抜きでコレを相手にしろってのは、流石に無茶振りじゃねぇですかい……?』

 

 

 

 ──1対1で決着を付けよう。

 

 そんな伝言を受け取った志鳳は、ウールーズの5人を観客席に置いて、モナルキーアの待つ特別席に来ていた。

 

「久し振り、天使。いや、梧桐志鳳」

 

 灰色の長い髪に簪を挿したモナルキーアが、1本の槍を志鳳に向ける。

 

「知ってる?直魂は義体以外にも宿す事ができる。例えば、LITH端末とか……槍の祭具とか」

 

 槍が手の中で震える。

 

「この槍には大量の怨嗟に満ちた雑魂を封じ込めてる。私は君に負けてから、ずっとこの日を待ち侘びてた」

 

 高所に設置された特別席の窓からは、しなる竹を利用して高速移動する獲麟と、蛙に乗って跳び回るドルクの戦いが見えた。

 

「私はこの世界しか知らない。だから、他の黙示録ほど割り切れない」

 

 志鳳が器仗を握る。

 

「君に負けた自分の無能さが腹立たしい。部下……アメイズを切り捨てるしかなかった自分の弱さが許せない」

 

「アメイズは……」

 

 アメイズは君への忠義を貫いて、僕と刺し違えようとした。口に出そうになった、そんな言葉を呑み込む。

 

 モナルキーアは目を伏せた。

 

「……梧桐志鳳。できれば、君とは味方として出会いたかった」

 

「……僕も」

 

 志鳳とモナルキーアが対峙する。

 

「再戦のリング。決着のゴング」

 

 開戦の瞬間、志鳳の意識に異物が割り込んだ。

 

『緊急、緊急!聴こえるかえ、同志!』

 

『……!プレイスホルダー、何?今、モナルキーアと戦って……』

 

『失楽園が襲撃された!!』

 

 志鳳が目を見開く。

 

 モナルキーアの方を見ると、似たような表情をしている。何らかの手段で同じ情報を得たようだ。

 

 いや、それよりも。

 

(もしかして、遺失支族の総意じゃない……?)

 

 志鳳の思考を裏付けるように、モナルキーアは端末を取り出して怒鳴った。

 

「エンテンデール!私はこんな作戦、聞いてない……!」

 

『モナルキーアはん。足止め、ご苦労さんどすえ。天使さえいなければ、失楽園の襲撃も容易に……』

 

 モナルキーアは憤りながら通話を切る。

 

『私はマナセ広告のモナルキーア……!』

 

 槍を床に突き刺した。

 

『嫌いなものは虚偽。好きなものは数字』

 

 床に座り込む。

 

『勝負は預ける。どうせ、私の手元に黙示録(これ)がある限り、いずれ君と戦う事はできる』

 

 髪に挿した簪を触って、溜め息を吐いた。

 

『今日は気分が乗らないから、もうストライキする』

 

 

 

『失伝──針の上で天使は何人踊れるか(シースレス・エンジェル)

 

 プレイスホルダーからの続報がない。おそらく、この競技場でも何かが起きている。

 

『ウールーズの皆がいるから、何とかなるとは思うけど……』

 

 志鳳は端末を操作する。繋げる相手は紋章院の総裁──ポールヴ。

 

 まずは、失楽園の状況を把握しなくては。

 

『壟断、今すぐ失楽園に来れるかァ!』

 

『そのつもり。他の超越者と砂紋部隊は?』

 

『私の計算によると、間に合わない可能性が高いかと』

 

 枢密院の総裁──ディーシも通話に参加する。

 

『世界各地で未能者・異能者ごちゃ混ぜの一斉蜂起が起きてんだァ!上位者クラスも大勢寝返ったせいで、連盟の主力や超越者が軒並み足止めされてんだよォ!』

 

『私の計算によると、増援が不足しています』

 

『……そう。じゃあ、直ぐそっちに……っ!』

 

 志鳳が言葉を切った。彼が手を離した端末が爆発する。 

 

『行かせないってば』

 

 橙色のフードを被った女性が、ドライヤーの吹出口を志鳳に向けていた。

 

『ザイン……!?』

 

 ザイン・ラムール。

 

 残体同盟の旧世代。女王に認められた乱世の強者。

 

『失伝──禁じられた遊び(フォービドゥン・ゲームズ)

 

『失伝──この世は舞台(エンドレス・ステージ)……!』

 

 ザインの握ったドライヤーから異常な熱気が吹き出し、特別席から一般客席へと続く廊下を爆発させる。

 

 

 

 信頼とは何かと質問されれば、僕はこう答える。

 

 人類の進歩に不可欠なものだ、と。

 

 僕達のような研究者は、実証過程を直接見たわけでもない論文を信じ、それを前提として理論を積み上げる。

 

 日常生活においても、口にする水や食物が供給されるまでの工程の全てを直接確認している者は稀だと思う。

 

 全てを疑っていては、何もできない。

 

 曖昧な信頼という概念を土台として、人間は社会を発展させてきた。

 

『ナーヌス・バレンシア!緊急だヨ!』

 

 情報屋から連絡が入る。やっぱり、このタイミングを狙ってきたか。

 

 四大結社のボス達も退院はしているが、まだ本調子じゃない。

 

『皆、準備は良い?』

 

 僕は今、失楽園の入り口──資料館と呼ばれる場所の前にいる。

 

『資料館、西口。異状なしやけんね』

 

 邪竜のヴァニル・ラスティネイル。

 

『東口も今のところは問題なしだっつーの』

 

 思姦のネルウス・アレキサンダー。

 

『北口、同じく!でも、殺される準備は万端であります!襲撃者にワイルド系のイケメンがいると嬉しいでありますね!』

 

 溺惑のリーゼ・マルガリータ。

 

『南口、光のシグネットで敵影を確認』

 

 失楽園とバーグラー大会に対する戦力の割り振りは、本当にこれで正しかったのか?

 

 遺失支族が僕の予想を遥かに越える手を打ってくる可能性は?

 

 そもそも、敵はこの作戦に何処まで戦力を注ぎ込むつもりだ?

 

 迷いはある。不安はある。後悔はある。

 

 ──だが。

 

『それじゃあ、後は頼んだ』

 

 この世界で生きる人間は、何処かで誰かを信じて任せるしかない。

 

 そういう仕組みになっているのだろう。  




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第1回ヒロイン人気投票

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  • 緑:アイン・ディアーブル
  • 紫:山藤杜鵑花
  • 橙:サラート・シャリーア
  • 青:ナーヌス・バレンシア(梧桐詩凰)
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