世界の隙間を埋める1%の閃き ~あるいはTSして手当たり次第にバッドエンドフラグを叩き折る天使~   作:信頼できる語り手

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様式美なので訊ねましょう。


第1幕
【決め台詞】に関する閃き


 深い青色が目に入る。どうやら、僕はまだ生きているようだ。

 

 いつの間にか視界を塞ぐほど伸びた青い髪が鬱陶しい。昔ならば間違いなく切っていただろうが、今の僕にはこれが必要だった。

 

 長い髪を煩わしく思う感情が、僕自身の正気を保証してくれる。まだ悪魔に体を乗っ取られていない事を確認できる。

 

 実に非合理的で根性論のような方法だ。過去の僕が聞けば呆れ返るだろう。いや、もう過去ではない。未来の僕と呼ぶべきか。

 

 これから別人として生きていく為にも、僕の好みに合わない長髪は都合が良かった。

 

「悪魔、聞こえる?」

 

 手に握っていた一枚の絵札に語りかける。馬鹿みたいな行動だが、直ぐに甲高い声で返答があった。

 

『何度言えば分かる、孤高の青!我輩は悪魔ではなく、黙示録!天敵の名前くらいは正しく記憶して貰いたいものだ!』

 

 脳内に響く不快な声に、僕は顔を顰める。

 

「まさか、契約を守るとは思わなかった」

 

『ほう、随分と悲観的だな』

 

「自棄になってた。自覚はある」

 

『クハハッ!我輩を笑わせてくれた礼だ。だってそうだろう?』

 

 悪魔は醜悪に笑う。

 

黙示録(われわれ)に対抗する為に黙示録(わがはい)の力を借りるなど、実に滑稽!』

 

 知った事か。全てを失った僕には、もうそれしかなかった。それだけだ。

 

『さあセカンドチャンスだ、孤高の青よ!世界の終焉を二度も見届けられる者など、あらゆる異界を見渡しても多くはないだろう!』

 

「うるさい、悪魔。二度目はない。僕が……」

 

 言い慣れない言葉を吐こうとして、息を詰まらせる。

 

 もっと相応しい者が居たはずだ。僕よりもこの役目に相応しい真の救世主が。

 

 だが、仕方ない。もう誰もいない。だから、僕で妥協しろ。

 

「僕が世界を救ってみせる……!」

 

 僕で妥協しろ、世界。

 

『つくづく人間は度し難いな!自分でも不可能だと理解しているだろうに!』

 

 理解しているとも。ほぼ確実に、世界は同じ末路を辿る。

 

『この世界は詰んでいる。何度繰り返したところで、絶望的にピースが足りないのだ。世界の隙間を埋める天使など存在しない』

 

 じゃあ、探してやる。僕の全身全霊を懸けて、悪魔を滅ぼす1%の天使を。

 

 世界の隙間を埋める1%の閃きを。

 

 

 

「閃いた」

 

「いつもの発作でありんすか?」

 

 青髪の異能者──梧桐(アオギリ)志鳳(シホウ)の突拍子もない呟きに、気怠げな女性の声が返る。

 

 同時に彼の背後の空間が歪み、黒髪で片目を隠した女性が滲み出すように顕現した。

 

 彼女の名は玉兎(ユートゥ)。志鳳を補佐するヒトならざる鬼──眷属である。

 

「決め台詞が必要だと思う」

 

「これまた急でありんすね。その心は?」

 

 志鳳の奇行は今に始まった事ではないので、玉兎も手慣れたものだ。

 

 ホテルの椅子に腰掛けた志鳳へと手を伸ばし、さして長くもない青髪を弄って遊び始める。 

 

「最近、物騒な事件がよく起きる」

 

「真面目な話でありんすか?まあ、遺物の強奪なんて滅多に起きない大事件でありんすな」

 

 遺物は異能に関わる道具の中でもとりわけ貴重で強力な存在だ。

 

 異能者の扱う道具の多くは、使用者の発するマナを燃料として動く。

 

 これらは祭具と呼ばれており、材料と職人の腕さえあれば、大量生産とはいかないまでも異能者の手で製造が可能である。

 

 反面、遺物と呼ばれるソレは何もかもが異質だ。

 

 まず、動力としてマナが必要ない。この時点で明らかにおかしい。

 

 異能者が術式を行使する過程には、その術式の規模に見合ったマナが必要だ。予め術式を刻み込まれている祭具も原理は同じである。

 

 だが、遺物の使用にはマナが必要ない。一説には道具でありながら意思を持つ生命体でもあり、自らマナを生み出すとされている。

 

 異能のド素人であっても遺物に適合さえすれば、マナの消費を気にせず強大な術式を連発できる。その危険性は語るまでもない。

 

 次に、人工的に作れない。これも異常だ。

 

 ならば、誰がどうやって生み出したのか。まさか、完成した道具の状態で無から湧いて出るとでも言うのか。

 

 遺物、もしくは気紛れな悪魔の落とし子。何もかもが未解明なソレに手を出してしまうのは、人類の業なのかもしれない。

 

 リスクを承知で求める者は尽きず、売り捌けば大金になる。

 

「その上、肝心の遺物は行方知れず」

 

「物騒な世の中でありんすな。どうせ真説大陸にでも高飛びしたんでありんしょう」

 

 真説大陸。異常な天候と環境に支配された無法地帯。

 

 一般人に周知されている表の六大陸の外側に存在する、裏の六大陸。とは言っても、異能者ならば誰もが知っている場所だ。

 

 真説大陸で暮らす人間は主に三種類いる。

 

 やむを得ない事情を持つ者、大陸の探索で一攫千金を目指す者、そして、表の六大陸でやり過ぎた悪党。

 

「もしかしたら、僕も何かの事件に巻き込まれるかもしれない。そんな時に必要なのが」

 

「必要なのが……?」

 

「決め台詞」

 

 玉兎の深い嘆息。しかし、志鳳に怯んだ様子はない。

 

「念の為に確認しておくでありんす。伊達や酔狂でないのならば、どのような思惑があって決め台詞が必要なのでありんすか?」

 

「格好良いから」

 

「想像の百倍は伊達と酔狂で構成されてたでありんす」

 

 ぐいぐいと髪を引っ張られるが、志鳳のポーカーフェイスは崩れない。

 

 志鳳は生まれつき感情を表に出すのが下手だった。常に無表情で、口数も少ない。ほとんど笑わず、初対面の相手に対して威圧感を与えてしまう事もある。

 

 しかし、実際の内面は見聞きした事柄に影響を受けやすいミーハー気質であり、何事も形から入ろうとするタイプの人間であった。

 

「格好良さは大事。やる気が上がる。パフォーマンスが向上する」

 

「本当でありんすか?」

 

「絶対、100%」

 

「以前も技名を叫んだ方が云々言い出して、結局効果はなかったでありんしょう?」

 

「今度は大丈夫。多分、80%」

 

「しれっと日和ったでありんす」

 

 閃いた事を閃いた時にやるのが志鳳の信条である。

 

「じゃあ、聞いて。僕の決め台詞。──これにて、終演(カーテンコール)

 

「ドヤ顔やめるでありんす。いや、無表情ではありんすが、雰囲気がウザイでありんす」

 

「ちなみに、僕の好きな演劇とかけてる」

 

「演劇好きは分かるでありんすが、以前のように劇団ごと買い取ろうとするのはやめておくんなんし」

 

「僕のポケットマネーだから、別に良い」

 

「結局は私達が管理する事になりんすから、自分で世話が出来ないなら買わないで欲しいでありんすな」

 

「ペットを飼うみたいな言い方」

 

 それに、今回に限っては志鳳の中に謎の予感があった。

 

「にしても、決め台詞でありんすか。なんというか……向ける相手が居ないと格好が付かないものでありんすな」

 

「それ」

 

「どれでありんすか?」

 

 この閃きに従うべきだ、従わなければならない。そんな得体の知れない予感が。

 

「シチュエーションは大事。決め台詞を言うための敵が必要」

 

 

 

「と言うわけで、来た。治安の悪さに定評のある真説大陸のメガラニカ遺構」

 

「思い付きで他の大陸まで移動するとは、無駄な行動力の高さでありんすな」

 

 メガラニカ遺構の大部分は常に雪が降っており、視界の悪い雪原である。しかし、志鳳は寒さの中でも無表情だった。

 

即即(ヂィヂィ)に乗せて貰って開廊の中を飛んだから、最短で到着できた。ありがとう」

 

「ヂィ、ヂィ」

 

 志鳳の使役する隷獣の即即が、翼を閉じながら軽く会釈を返した。

 

 異能者は世界各地に存在するトンネル状の人工異空間──開廊を利用して移動できる。

 

 おかげで、即即のような神々しい鳥の背に乗って飛んでいても、表社会のSNSで晒されたりはしない。

 

 特に志鳳は金に物を言わせて多数のプライベート開廊を所有していた。管理は例の如く玉兎に任せている。二回ほど殴られた。

 

「じゃあ、二人は戻って」

 

「やらかさないか心配なので、いつ召喚されても良いように、主様の眼を通して様子を見守っておくでありんす。共鳴を切らないように」

 

「プライバシー」

 

「先週やらかした回数を言ってみるでありんす」

 

「ごめんなさい」

 

 そんな遣り取りを終えて、玉兎と即即の姿が消える。

 

 幻想的な美しさを持つ女性と鳥を伴って歩くと、流石に悪目立ちし過ぎるだろうという配慮だ。

 

 志鳳一行は異能者としての位階が高く、特有の派手な容姿や気配で目立ってしまう。

 

 ただし、志鳳に関しては認識失墜という隠蔽効果を持つ祭具を身に付けており、一般の異能者に紛れ込む事ができる。

 

 今の志鳳を正しく認識できるのは同じく高位の異能者くらいだが、そのレベルの実力者には相応の分別がある。無闇に騒いだりはしない。

 

『で、どうするでありんすか?』

 

 玉兎が音を発さずに質問する。

 

 異能者の基本技術である閑話の術式だ。マナを介して直接思念を届ける事ができる。

 

「弱そうな雰囲気を出していれば、適当な悪党に絡まれるはず」

 

『もはや辻斬りの思考でありんす』

 

 

 

 その頃、同じく真説大陸のメガラニカ遺構にて。

 

 志鳳が降り立った付近の酒場に、一人の小柄な白髪の女性の姿があった。

 

 一定のリズムで机を指で叩き、思索に耽っている様子だ。

 

 志鳳と同様に認識失墜の祭具を起動しているが、念の為に顔を隠せるフード付き礼装も着用している点が、彼女の周到な性格を物語っている。

 

(ここまでは順調。後はこの遺物を売り捌くだけですね。遺物に相場なんてありませんし、冗談みたいな高値を吹っ掛けてやりましょうか)

 

 スフィア・ミルクパズル。

 

 遺物強奪事件の首謀者にして指示役の彼女は、勝利の美酒に酔いしれていた。

 

 スフィアは高位の異能者でありながら、非常に臆病な気質である。

 

 自身は決して矢面に立たず、大きな組織の介入があれば即座に潜伏する。彼女の正体に繋がるような手掛かりは残さない。

 

 それ故に、長く悪党の親玉として君臨する事ができた。

 

 異能者の固有属性とでも言うべきシグネットは超直感。知覚系に分類されるシグネットである。

 

 そして、シグネットは本人の内面を反映して進化する。

 

 結果、彼女のシグネットは自身に迫る危機の察知に関して、高い精度を誇る切り札へと変貌を遂げていた。

 

 スフィアは机を叩く指を止めて、顔を上げる。

 

(連盟が動き出す前に雲隠れできて良かった。安全第一が私の信条ですからね)

 

 連盟──正式名称は国際異能連盟。

 

 異能社会の秩序を維持する組織であり、異能者は自身の情報を連盟に登録する義務がある。

 

 正当な理由なく拒否すれば、異能者としての権利を剥奪されて、背信者だのモグリだのと不名誉な呼び方をされる。アウトローの完成である。

 

 なので、真っ当な異能者は全員が連盟に登録していると言っても過言ではない。

 

 勿論、スフィアは登録などしていない。バリバリのアウトローだ。

 

 そもそも真説大陸から出るつもりが欠片もない。この無法地帯は連盟の管轄外なのだ。誰が好き好んで捕まりに行くだろう。

 

(砂紋部隊なんていう粛清専門の特殊部隊もあると聞きますし、連盟の戦力は底が知れません。正面戦闘なんて三下か馬鹿がやる事です。ご安全に、ね)

 

 無用なリスクを徹底的に回避する。そのスタイルこそが、彼女を一流の悪党に押し上げてきた。

 

(それを考えると今回の仕事は些かリスキーでしたね。私とした事が、少し調子に乗っていたのでしょうか。反省はん、せ……い……?)

 

 軽い歩調で酒場を出ようとした瞬間、スフィアの思考が凍り付く。

 

 酒場の入り口から歩いてきた、青髪の青年と目が合ったのだ。

 

(壟……断……?何故ここに!?)

 

 困惑。焦燥。恐怖。スフィアは思わず足を止める。

 

 高位の異能者であるスフィアに対して、認識失墜は機能しない。

 

 それ故に、その人物の存在を正しく認識し、反射的に記憶からデータを引っ張り出す。

 

(梧桐志鳳。壟断の異名を持つ、最高峰の異能者。シグネットは光に纏わるものと推定されている。そして、私達アウトローを狩る事に長けた……天敵!)

 

 スフィアは珍しく冷静さを欠いていた。

 

 志鳳を視界に捉えた時点で、脇目も振らずに逃げるべきだったのだ。

 

(……ッ!私のシグネットが危機を察知し……!)

 

 敵対者から捕捉される事の恐ろしさを、誰よりも知っているのだから。

 

「……今のは蹴りですか?察知して避けたつもりだったんですけど、酒場の外まで吹き飛ばされたのはどういう仕組みでしょう?」

 

「蹴りしか避けなかったから。追撃の掌底に反応できてなかった」

 

「なるほど、危機察知のシグネットにも、格上が相手だとそういう弱点があるんですね。勉強になります」

 

 スフィアは呼吸を整えて、無理矢理に平静を取り戻そうとする。

 

「ところで、何の御用でしょう?いきなり殴られるなんて、私が何か気に触る事でも……」

 

「遺物強奪事件。首謀者は君。違う?」

 

 断定するような口調。梧桐志鳳は、この件に関して確信を持っている。

 

 スフィアは瞬時に判断を下した。

 

 もはや戦闘は避けられない。逃げるにしても隙を作る必要がある。

 

「様式美なので訊ねましょう。どうして私だと分かったんですか?」

 

「僕のシグネットは、過去を知る事ができる。君が不審な挙動をしてたから、反射的に過去を読んだ」

 

「……待って下さい。私の集めた情報と違います。貴方のシグネットは知覚系ではないでしょう。目撃証言では……」

 

 直後、スフィアの左腕が突然現れた光の槍に刺し貫かれた。会話中の先制攻撃。

 

 彼女が背中に隠すように準備していた、禍々しい短剣型の祭具が地面に落ちる。

 

「油断も隙もない。でも残念。僕に搦め手は通用しない」

 

「まさか……複数シグネット使いですか?珍しいですね」

 

 スフィアは純粋に驚いていた。

 

 複数シグネット持ちは確かに珍しいが、希少と言えるほど少なくはない。

 

 そして、単一のシグネットしか持たない異能者に対する優位性も、実はほとんどない。

 

 複数のシグネットは両立が難しいのだ。

 

 片方のシグネットを使っている間は、もう一方のシグネットを使用できない。

 

 シグネットの切り替え時は無防備になり、致命的な隙を生じる。

 

 様々な欠点があり、現在は何らかの要因で複数シグネットを得たとしても、片方にのみ注力する事が常識となっている。

 

 だから、複数シグネット持ちは居ても、実戦レベルの複数シグネット使いは非常に珍しい。

 

 器用貧乏の代名詞のようなソレが、まさか最高峰の異能者にまで成り上がるとは。

 

「過去を読んだ。君は強い。僕も最初から奥の手を使う」

 

「させると思いますか!」

 

 スフィアは自身のマナを複数の球状に集め、志鳳に向けて連射する。と同時にマナを固めて空中に足場を形成し、宙を駆けた。

 

 立体的な動きで志鳳に接近し、会話中にマナを流して治した左腕で、マナの斧を振り下ろした。

 

『失伝──針の上で天使は何人踊れるか(シースレス・エンジェル)

 

 細い光の糸が無数に発生し、志鳳の青髪に絡み付くように展開する。

 

 天使の輪のような、君主の冠のような、神秘的な威容。

 

 明らかに雰囲気の変わった志鳳は、スフィアの斧撃を全く同じ形状のマナの斧を使って容易く相殺した。

 

「知覚系のシグネットには共通する弱点がある」

 

 マナの弾丸を射出するが、改良を加えた同じ弾丸に弾かれる。

 

「処理能力の限界。物理法則に縛られず、摂理にのみ縛られる異能者の肉体。だけど、一つの意識体である限り思考の限界は必ず存在する」

 

 自身のマナの気配を抑制して背後に回る前に、同じ方法で背後から奇襲される。

 

「だから、術式を開発した。光のシグネットで拡張思考回路を構築して、無限の過去を──対象の全てを理解する術式」

 

 同じ術式で、改良した術式で。動く瞬間に、動き出す前に。

 

「嘘……!あり得ません!だって、それは!」

 

 そこで、スフィアは目を見開く。

 

「複数シグネットの完全なる同時使用──シグネットの複合!?連盟どころか、対抗神話の気狂い研究者達でさえ、理論上不可能と結論付けたはずでは……!?」

 

「間違ってない。普通の異能者には不可能。ただ、僕が例外なだけ」

 

「貴方は一体、何者なんですか……?」

 

 その瞬間、スフィアは確かに目撃した。梧桐志鳳が微笑んでいる。普段の無表情が連想できないほど、自然に、微笑んでいる。

 

「天使」

 

「天、使?何かの隠語ですか?」

 

「君は知らなくて良い。どうせ僕自身も直ぐに忘れる。拡張思考回路で得た情報は普段の僕には処理しきれないから」

 

 志鳳の動きが加速する。スフィアの対処が間に合わなくなる。息の合ったダンスのようだった術式の応酬が終着へと向かう。

 

「ただ、感謝はしている。(てんし)をここまで連れてきた、ただの梧桐志鳳の閃きに、敬意を」

 

 そして、最後の一撃。迎撃も回避も不可能だと悟り、スフィアは諦念を込めて苦笑する。

 

「危機察知のシグネットで自分の詰みが分かってしまうなんて、本当に笑えない冗談ですね……!」

 

「これにて、終演(カーテンコール)

 

 規格外の超越者の輝きを目に焼き付けながら、スフィア・ミルクパズルは敗北を受け入れた。

 

 

 

『なるほどなるほど、これが君の答えか、孤高の青!我輩とした事が、君に1本取られたようだ!』

 

 甲高い声が僕の中に響く。

 

『僕が世界を救ってみせる、か!確かにあの青年も君自身には違いない!何故なら!』

 

 黙示録(じぶんたち)の天敵が現れたというのに、焦った様子もない。

 

『君が黙示録(わがはい)に願って実行した時間遡行!その歪みが生み出した独立型の遺物──いわば、君自身のドッペルゲンガーと呼べる存在だからな、彼は!』

 

 むしろ愉しげだ。理解不能。相容れない。

 

『不思議なものだ!性格も性別も違うのに、世界を救う意志だけは継いでくれたらしい。嬉しいだろう、梧桐(アオギリ)詩凰(シオン)?』

 

 僕は悪魔を睨み付ける。

 

「今は、ナーヌス・バレンシア」

 

『名にこだわるとは、人間らしくて実に結構!君の肉体を奪った暁にはそう名乗る事にしよう!』

 

「そうなる前に僕が──僕達が黙示録(おまえら)を滅ぼす」

 

 これは第一歩に過ぎない。

 

 一つ目の火種。とある遺物が強奪された事に端を発する世界の崩壊。シナリオは書き換わった。

 

 僕は息を吐く。この救世は僕の自己満足。終わった世界に捧げる追悼。

 

 故に、正義もドラマも必要ない。 

 

 必要なのは──。

 

 世界の隙間を埋める1%の閃き。




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