世界の隙間を埋める1%の閃き ~あるいはTSして手当たり次第にバッドエンドフラグを叩き折る天使~   作:信頼できる語り手

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6人合わせて。


【梧桐志鳳】の大罪

「もしも、人生の全てを知ってしまったら、君はどうする?」

 

 向かいの席に座った赤髪の女性に話しかける。笑顔も見せず機械的に食事をする彼女の姿は、まるで鏡に映した僕自身だ。

 

「自分の誕生から辿るべき結末まで、全てが書かれた脚本を覗き見てしまったとして。それから先の余生を、君はどう過ごす?」

 

「今日は珍しく饒舌かな」

 

 彼女は揶揄うわけでもなく、事実を日記に記録するような無関心さで呟く。

 

 僕も彼女個人に興味はない。過去のシグネットで彼女の素性は既に読み取っている。

 

 古の女王『ベート・バトゥル』が封印された器。ただし、女王を完全に押さえる事はできておらず、近い内に肉体を奪われるだろうと僕は予想していた。

 

 総じて、どうでも良い。僕達は行き付けの喫茶店が被っただけの仲だ。互いに避ける理由もないので顔見知り程度にはなったが、友人でも何でもない。

 

「私は見なかった事にするよ」

 

「え……?」

 

 想定外の答えに、僕は思わず聞き返した。しかし、彼女が紫色の瞳の奥で何を考えているのかまでは読めない。

 

「全部忘れたフリをして、何も知らない馬鹿になるかな。演技だよ、演技。貴方は責任感が強そうだから、そういう不真面目な事はできないかもしれないけどね」

 

「演技……」

 

「そう。人間なんて皆、適当な自分を演出して生きてるんだから」

 

 演出。

 

 彼女が投げやりに放った言葉が僕の中で乱反射する。何故だか分からないが、それはとても魅力的な提案に思えた。

 

 演技、演出。アイデアが湧き出して止まらない。不思議なものだ。少し前まで感じていた閉塞感が消え、世界が鮮やかに照らし出される。

 

 その灯の中心には赤髪の彼女がいた。

 

「君の事が知りたい」

 

「え?」

 

 今度は彼女が聞き返してくる。僕は少し考えて言葉を続けた。

 

「……得意な事とか」

 

「貴方はどうなのかな?」

 

「僕は……救える。世界を救える」

 

 迷いながら言い切る。これが今の僕にできる、唯一の自己紹介だった。

 

「あはは、何それ! あははははは……っ!」

 

 彼女が初めて笑った。愉快げに目を細めながら、肩を叩いてくる。

 

「女の子の口説き方が下手過ぎだね。もっと色んな人と交流して、経験を積んだ方が良いんじゃないかな?」

 

「女の子……。君、何歳?」

 

「あはは、ほら、そういうところ。女性に年齢を訊いたら駄目なんだよ」

 

 笑いと一緒にコーヒーを飲み込んだ。

 

「得意な事か……。私はやっぱり料理かな」

 

「どれくらい?」

 

「少なくとも、この喫茶店のお菓子よりは美味しい料理が作れるよ」

 

「比較にならない。そもそも、ここの菓子は普通に不味い」

 

「それは確かに、その通りかな」

 

「なんだとー!」

 

 紫の髪を頭の前で二つ結びにした女性が、店の奥から走ってくる。

 

「お? お? このアイドル的看板娘ツァディーちゃんの手料理に何か文句あるかお? もう一度言ってみるお、青髪」

 

 彼女は肩をぐるぐる回しながら威嚇してきた。

 

「こんなレベルでも喫茶店って開けるんだね。私も開こうかな」

 

「よーし、料理対決だお、赤髪! こっちが勝ったら2人で並んで土下座する事! 負けたら……まあ、この店の看板を降ろしてアイドルにでも転身してやるお!!」

 

「私は別に構わないけど……」

 

「ん、僕も手伝う」

 

 世界が回り出す。

 

「貴方は味見役だよ。さあ、久々に張り切って……笑えるくらい美味しい料理を作ろうかな」

 

「……? 何で?」

 

「だって、私だけ爆笑しちゃったのが悔しいから。貴方も笑ってくれないと、ね」

 

 彼女が微笑んだ。僕は理解できない感情を抱きながら、その笑顔に目を奪われる。

 

 ──まだ蝋燭の火よりも小さいこの熱を護りたいと、僕は思った。

 

 

 

 この異界を理解する必要がある、とラミナ戦の傷を癒しながら考えた。

 

 まだ舞台は終わっていない。ならば、現場で起きたトラブルの解決は演出家の仕事だ。ただ、役者と背景が切り替わっただけの話。

 

「よー、ハーレム王ー」

 

「……名前で呼んで。あと、プレイスホルダーは女性扱いすると怒るから注意」

 

 避難所の中で乾パンを齧っていると、プリンのような髪色の青年──ナサヤが話しかけてきた。僕達にとっては覚えたての……この異界の言語である。

 

「ちょっとした冗談だぜー。アンタの固い顔を解そうと思ってな」

 

「無表情は生まれ付き」

 

 喜怒哀楽の表情は人間である証明だ。誰かの心に自分という存在を刻んでしまう。そうなると取り返しが付かない。失う事に耐え切れない。僕はよく知っている。

 

 願わくば、2周目の世界の皆には僕が演出した舞台だけを記憶して欲しい。何も失わないハッピーエンドを享受して欲しい。

 

 ……そこに僕がいなくても。

 

志鳳(シホウ)、って言ったな。アンタ……いや、アンタら、本当に人間かー? 神格精霊とかじゃなくて?」

 

 ナサヤから害意は読み取れないが、隠し切れない畏怖の念を感じる。超越者である僕達が日常的に浴びてきた視線だ。気にはならない。

 

 しかし、未だ異能を晒していない僕に対してこの態度……彼は他者の力量を見抜く感覚が鋭敏なのだろう。……知覚系? いや、安易に在界の基準に当てはめるのは危険か。

 

「精霊……?」

 

「あー、こういうヤツ」

 

 ナサヤが小さなコインを上に投げると、ヒュンヒュンと飛び回った。そして、彼の頬にペチペチと体当たりする。

 

「おい、甘えるのは止めろってー」

 

「異能が自律して動いてる……? 生物系のシグネットでもなさそうなのに……」

 

 僕が驚いていると、エネルギーが尽きたようにコインがポトリと落ちた。

 

「ありゃりゃ、流石に適当な依代じゃ長く保たないぜー。ま、何となく分かっただろ?」

 

 つまり、この世界では人間が直接マナを扱わず、『精霊』というエネルギー体に代理で異能を行使して貰っているらしい。

 

「てか、あの金髪の姉……兄ちゃんは精霊じゃないのか? 精巧に作られてるけど、生身の肉体とは違うよなー?」

 

「プレイスホルダーは『直魂』と呼ばれる幽霊のような存在。……もしかすると、この世界では精霊に分類されるのかもしれないけど」

 

 僕は会話と同時並行で過去を読む。見知らぬ場所での情報収集において、僕ほど優れた異能者は他にいない。

 

「1つ、質問したい」

 

「おー、何でも訊いてくれよー」

 

 いや、1つで充分だ。この世界に長居するつもりはない。元の世界に戻らなくては。

 

「魔王、って何?」

 

 ナサヤは一緒に魔王を倒して欲しいと言った。おそらく、それが帰還の鍵になる。僕の閃きがそう予感していた。

 

「──呪いの魔王『フォビア』」

 

 ナサヤが痛みを堪えるように俯く。

 

「この世界を終わらせようとしてる、目茶苦茶ヤバい奴の事だぜー」

 

 

 

「避難所の外に出るぞ、志鳳君!」

 

「流石、アイン。話が早い」

 

 緑髪の友人に対して、僕は親指を立てた。ウールーズのリーダーである幕楽(マクラ)が眠っている今、僕達を止める者は誰もいない。

 

「正気かー? あのなー、志鳳。アンタにゃまだ言ってなかったが、外には不死身の化け物や馬鹿デカい彫像がうじゃうじゃと……」

 

「知ってる」

 

 僕はこくりと頷いた。ナサヤの過去を読んだので、既に概要は把握している。

 

「つまり、半終末」

 

「そういう事だぞ。どうやらこの世界は、在界と似た状況にあるらしい。プレイスホルダー君が起きたら確認する予定だが、おそらく摂理も大きく破損している」

 

「じゃあ、魔王の正体は……」

 

「「黙示録」」

 

 僕とアインの声が重なった。

 

「志鳳さん達、外に行くんですかぁ? 私も体を動かしたいんですけどぉ」

 

 紫色のサイドテールを弄りながら、杜鵑花(サツキ)が近付いてくる。

 

「駄目だ。まずは現状動ける最高戦力である私達が偵察に行く。君は気絶している幕楽君達の護衛に残ってくれ」

 

「はぁ? 貴女が私よりも強いなんて、目を開けたまま寝言を言うのが上手いですねぇ? 最近は余裕で勝ち越してますしぃ」

 

「たった1勝差を誇張し過ぎだ。とにかく、大人しくここで遊んでいる事だぞ。頭の中にギャンブルしか詰まってないお子様の君なら、避難所の子供達とも気が合うだろう?」

 

「1発、蹴りますぅ」

 

 2人の喧嘩は通常運転なのでスルーだ。

 

「志鳳さん、私も残って幕楽さんを護るわね!」

 

「ん、サラート。任せた。……あと、プレイスホルダーも護ってあげて」

 

 サラートが大きな胸を叩いて宣言してくれたので、ハーフアップの橙髪を撫でておく。

 

「ちょっと、勝手に話を進めるなよなー! まだ、アンタらが何者なのかも……」

 

「リーダー、撃針の信桜(シノザクラ)幕楽(マクラ)。副リーダー、壟断の梧桐(アオギリ)志鳳(シホウ)

 

 僕は幕楽の分まで答えた。

 

「そして、真の副リーダーにして世界の命運を握る超天才、幻像のアイン・ディアーブル!」

 

「事実上、副リーダーはこの私ぃ。泡沫の山藤(ヤマフジ)杜鵑花(サツキ)ですぅ」

 

「陰の副リーダーと噂される、聖傅のサラート・シャリーアよ! ついでに、向こうで寝てるのが、無涯のプレイスホルダーさん!」

 

「6人合わせて……」

 

「「「「ウールーズ!!」」」」

 

 決めポーズまで完璧な仕上がりである。皆で名乗りを練習しておいて良かった。

 

「ったく、神ってのは何処の世界も……」

 

 ナサヤが深々と溜め息を吐く。

 

「合わせるのはいつも、人間の側でなくてはならない、ねー……。オッケー、分かったぜー」

 

 彼は服の下から三節棍を取り出した。

 

「せめて、俺達に希望を見せてくれよー。異界の神々、御一行様?」

 

 

 

 秩序なく彷徨う烙印者の集団に、僕は迷いなく飛び込んだ。光の槍を連続で放ち、四肢を吹き飛ばしていく。

 

『口伝──燦然たる開演(ハイライト・ショータイム)

 

 ラミナの人格パターンをシミュレーションし、近寄ってきた敵は拳で打ち砕いた。

 

『手応えがない』

 

 直近で戦った洗礼のラミナ・クルシフィックスと比べると、あまりにも弱い。

 

 彼女は絶対的な異能を持っているにも関わらず、祝福の宿る心身も極限まで鍛えていた。弱点と呼べるのは『これから動く先の時間遅延を事前に解除する』という制約のみ。

 

「来い、弓の神格精霊ー!」

 

 ナサヤが見えない弓に矢をつがえるような仕草をする。周囲の空間がギリギリと軋みを上げた。

 

「──我、傲慢の罪を禊ぐ者なり。破魔矢!!」

 

 烙印者の体が風船のように弾ける。在界の強者達と比較しても、威力は悪くない。

 

『口伝──見かけ倒しの試作品(トランペリー・プロトタイプ)

 

 僕達が動きを止めた烙印者に向けて、アインが固有術式を発動した。

 

『模造──鳥籠!』

 

 巨大な鳥籠に押し込まれた烙印者は、完全に自由を奪われてしまう。

 

「近場の敵は一掃できたぞ。それにしても、ナサヤ君。自信なさげにしていた割りには、予想よりも戦えるな」

 

「そりゃ、どーも。……って言いたいとこだが、俺の場合は契約精霊のおかげだぜー」

 

 ナサヤは微妙な表情で頭を掻いた。 

 

「俺・エメラルド・アレキサンドライトの3人は、それぞれ神格精霊(かみ)と契約してるからなー」

 

「神……。超越者(わたしたち)も神と呼ばれる事はあるが……」

 

「あー、それなー。アンタらの存在は霊能者よりも神格精霊に近いんだよな。端的に言って、人間にしてはあまりにも強過ぎる」

 

 アインが首を捻る。

 

「この世界ではヒトが最強じゃないのか?」

 

「当たり前だろー? 人間なんて精霊や神の前では無力だぜ。だが……」

 

 ナサヤは虚空に感情をぶつけるように、三節棍をヒュンヒュンと振った。

 

「そんな神格精霊(かみ)の抵抗も、呪いの魔王『フォビア』には敵わなかった。アレキサンドライトの眉唾な召喚術に賭ける程度には、絶望的な状況だったわけだー」

 

「それで、僕達がこの世界に来た」

 

「巻き込んで悪いとは思ってるぜー? 殺されても納得するくらいにはな」

 

 僕はアインと顔を見合わせる。

 

「そんな無駄な事はしない。僕達も緊急事態だったから、この世界に召喚されて助かった」

 

「不幸中の幸いだぞ」

 

「そうか……そりゃ良かったぜ」

 

 ナサヤの声は酷く震えていた。

 

 

 

「良いですかぁ、ルビーさん。博打は還元率の高いモノを狙うんですよぉ? こうやって胴元の養分にされちゃ駄目ですぅ。という事で、この飴は勉強代として徴収しますねぇ」

 

「えーん、えーん」

 

「子供相手に何をやってるんだ、君は……」

 

 避難所の女児を泣かせていた杜鵑花に、アインが呆れながらツッコミを入れる。 

 

「もう帰ってきたんですかぁ?」

 

「ああ、とりあえず近辺の安全確保はできた。私は疲れたから仮眠するぞ。志鳳君は?」

 

「僕はナサヤと話す事があるから」

 

 ナサヤの方を見ると、執事服の女性が色々と世話を焼いていた。

 

「旦那様! ご無事で何よりでございます! お怪我があれば直ぐに……」

 

「大袈裟だなー、エメラルド。いつもやってる仕事だぜ? ま、今回はスペシャルゲストのおかげで、かなり捗ったけど」

 

「ナサヤ、遊ぼ」

 

「また今度なー、サファイア」

 

 ナサヤは苦笑しながらエメラルドをあしらい、駆け寄ってきた子供の頭を撫で、僕の方へやってくる。

 

「モテる男」 

 

「よせやいー。リーダーだから頼られてるだけだっての。エメラルドの場合は恋愛ってより信仰に近いしな。いずれ、俺を崇める『ナサヤ教』とか作り出さないか心配だぜ」

 

 僕はナサヤに案内されて、避難所の奥にある彼の部屋に入った。

 

 

 

「様式美だから訊ねておく」

 

 ナサヤの首を素早く掴む。異能者のように祝福を受けていない彼は、僕の伸ばした手に全く反応できていなかった。

 

 だから、反応したのは……他の何か。

 

「僕に隠し事が通じると思った?」

 

 射線にナサヤを挟むように動かす。これで弓の神格精霊は無力化した。

 

 そして、最後の1体を睨み付ける。

 

「偽りを司る神格精霊『カウンターフィト』。切り札を隠してたのは、ずっと分かってた」

 

「っ! 何もかも、お見通しかよ! 反則的な能力だぜ!! ……ぐっ!?」

 

 僕は彼の首を握る手に少し力を入れてから、床に投げ落とした。

 

「げほっ、げほっ……!」

 

「僕達の世界で流行っていた漫画がある」

 

「あ、あー……?」

 

 困惑の声を無視して続ける。

 

「作者は白河(シラカワ)夜船(ヨフネ)。タイトルは──『大罪のナサヤ』」

 

「……!?」

 

「彼女がナサヤの世界について知ってるのは、渡界者だからで説明が付く。では、何故この世界の詳細を向こうで広めようとしたのか」

 

 部屋の中をゆっくり歩く。これも演出だ。視線誘導のテクニック。観客を圧倒するシーンを作るには、没入感を高める必要がある。

 

「白河夜船……この世界での名前はヨフネ。彼女は世界を繋げたかった。カウンターフィトは元々、ヨフネの契約精霊だったはず」

 

「……そうだ。だから、ヨフネがいなくなった時に、俺が代わりに契約を……」

 

「でも、実はその契約は切れてなかった」

 

 ナサヤは絶句した。

 

「ヨフネは考えた。偽りの神格精霊と繋がった自分が『大罪のナサヤ』を広める事で、世界間の結び付きが強まるのではないか。そして、いつか、元の世界に……」

 

 ナサヤが顔を手で覆う。

 

「……はー、ヨフネらしいぜー。そんなの天文学的な確率だろ?」

 

「人は大切なモノの為なら、悪魔にも奇跡にも縋る。僕はそれを笑わない」

 

「……ったく、神ってのは何処の世界も……」

 

 

 

 さて、ここからが本題だ。

 

「……言い訳になるが、カウンターフィトを隠してたのは害意あっての事じゃないぜー。コイツは臆病で戦闘が苦手なんだ」

 

「それは、ごめん。僕は事実しか読み取れないから、内心は覗けない」

 

「オッケー、状況が状況だしなー。過敏になっても仕方ない。って事で、互いに水に流そうぜー」

 

 ナサヤが疲れたように息を吐く。

 

「それで、僕が訊きたいのは元の世界との繋がりの方。カウンターフィトに頼んで、帰還させて貰う事はできない?」

 

「ちょっと待ってくれー」

 

 ナサヤは見えない何かと暫く会話し、顎を触りながら言った。

 

「今すぐには無理だぜー。世界に悪い気が満ちて、カウンターフィトが弱体化してる。プラス、魔王の能力だな。万全の状態になれば、アンタらを戻せるらしいが……ただし……」 

 

「時間制限がある。僕達が世界間を移動した痕跡(あな)が消えたら、元の世界を辿れなくなるから」

 

「そういう事だぜー。……ごめんな」

 

 奥歯を噛み締める音がする。

 

「世界がこうなったのは俺が……魔王を殺し切れなかったせいなんだ。最大のチャンスを無駄にしちまった。それが俺の『大罪』」

 

 彼の謝罪は僕1人に向けたものだったのだろうか。それとも……。

 

「要するに、この世界を滅亡の危機から救えば帰れる。単純で分かりやすい」

 

 指を1本ずつ折り込んでから、強く拳を握る。 

 

「僕が世界を……」

 

「話は聴かせて貰ったわ、志鳳さん!」

 

 その静けさをぶち壊すように、3人の人影が部屋に飛び込んできた。

 

「この天才の知恵が必要だろう?」

 

「刺激的な話には、私も混ぜてくださいよぉ」

 

「皆でやった方が確実よね!」

 

「ん、間違えた」

 

 僕は言葉を訂正する。

 

「──僕達が世界を救ってみせる」

 

 ナサヤが驚いたように目を見開く。

 

「……アンタ、そんな顔で笑うんだなー」

 

 僕はふと懐かしい感覚を思い出した。僕という人生が幕を開けた、あの日の事を。

 

「僕達の舞台をちゃんと観てて。直ぐにナサヤも心の底から笑えるようにしてあげる」

 

「何だー、急に?」

 

「何でもない。ただ」

 

 胸に手を当て、変わらぬ熱を確認する。

 

「僕だけ笑ったのが、悔しいから」

 

 

 

 皆が部屋を出て行った後、ナサヤが僕の肩を叩いた。

 

「なあ、アンタ。正直、大きなお世話かと思ってたが、敢えてお節介を言わせて貰うぜ」

 

 振り向くと、彼は真剣な眼差しでこちらを覗き込んでいる。

 

「死ぬなよ」

 

 僕は何も答えなかった。

 

「こんな世界にいると、自然と分かるようになっちまってな。死の運命を受け入れてる奴の……」

 

「大丈夫」

 

 最後まで聴く必要はない。僕だって飽きるほど考えた事だ。黙示録が全滅し、世界に刻まれた全ての歪みが解消され、物語がハッピーエンドを迎えた、その時。

 

 ──黙示録の歪みが生み出した遺物(ぼく)はどうなるのか、なんて。

 

「全部、あるべき形になる。それだけ」

 

 演出家(ぼく)は無表情の仮面を被り直す。誰かの心に自分という存在を刻んでしまわないように。




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  • 緑:アイン・ディアーブル
  • 紫:山藤杜鵑花
  • 橙:サラート・シャリーア
  • 青:ナーヌス・バレンシア(梧桐詩凰)
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