現状「とある金髪と赤髪の少年が最も光り輝いていた」のと、ほぼ同年代を迎えていた。
そんな子供の思考の思考としては充分に異常な内心で「私」は誰にも言えない思考を繰り返していた。
もっと幼い頃は、もっと異常だったろう。
何と言っても、見かけは子供なのに精神は成人のものだったからだ。
「私」は転生者だった。
*
問題は前世記憶の内容だ。
もっとも鮮明なのは『銀河英雄伝説』という題名の小説(!)が存在する時代の記憶だった。
そして次の記憶では、未だ(?)西暦が使用されている時代。
初めて人類が超光速航法を利用して、太陽系外への探検隊を送り出した時代だった。
その次の人生では、西暦から宇宙暦に変わった瞬間の記憶があった。
地球政府との抗争に勝利した筈の、シリウスの指導者たちが自爆してしまった後に生まれた。
そして、残された人々が銀河連邦を成立させて行く、同じ時代に生きた。
その次には、銀河帝国の平民に生まれていた。
幸い、流血皇帝だの敗軍皇帝だのの時代を外して、絶対君主なりに真面目な皇帝の時代だった。
おかげで『原作』での「疾風」の親とか「赤毛」の親とかの様な、平凡なりに穏やかな人生を送った。
*
そして「現世」は、直近の前世と大差の無い環境に生まれ育って来た。
その点では、現世の両親には感謝している。正直に孝行をしたい。
だが、1人ひそかに作成していた『原作』年表に自分の誕生年を当てはめた瞬間「くたばれ、オーディン!」と心底の奥で絶叫したくなった。
帝国暦456年生まれ。
「獅子の泉」の元帥と呼ばれた名将たちと同世代のド真ん中だった………。
……。
…結論から言えば、俺は士官学校に進んだ。
自分から志願しなくても、徴兵されればヒラの兵士として戦争を強制される。
決して確率は小さくない。
そうならば、少なくとも士官学校に合格出来る程度に成績優秀ならば進学した方がマシだった。
貴族優先の格差社会だけに、平民から徴兵された一般兵士と士官学校の出身者とにはハッキリと差別待遇が存在していた。
無論、両親は特に母親は心配した。
徴兵ならば、年限が過ぎれば戻って来れる。
だが志願しては、まして士官とも成れば其の年限までが長い。
だが“俺”は知っていた。
両親の心配よりも早く、士官学校の出身者でも戦争には行かなくなる事を。
無論、それまでにヤン・ウェンリーとかに殺されなければ、と言う条件付きだったが。
そうした生き残り確率を少しでも大きくするため『原作』知識と言う反則を精一杯に活用して、いくつかのコネを作ろうと試みた。
視点:後世の歴史家
最近のラインハルトはキルヒアイスの視点から見ても機嫌が好い。
私用の通信回線の利用が増えていた。
細目に伯爵令嬢からのメッセージをチェックしたり、送信したりしている。
更には、時間を都合して画面を間に会話したりしていた。
ところが、男爵夫人からの通信を受けて画面の前に出てからは、今まで機嫌が好かった分だけ怒りも凄(すさ)まじかった。
視点:とある転生者
いよいよコネつくりのために俺は、正直には眠くなりそうな場所へと細目に出席していた。
音楽会に観劇、詩の朗読会に絵や陶磁器の展覧会など。
実は全て、とある1人の貴族が後援者である事が周知の芸術家たちだ。
案の定、2周ほど周回する頃には其の貴族からの呼び出しが来ていた。
当然ながら、イソイソと俺は参上した。
「男爵夫人。ここに至っては隠し事も誤魔化しも致しません。
貴女との御縁が欲しくてワザと振る舞いました」
『原作』での印象からすれば、こうした悪びれない態度の方が寛容を得られる可能性が在りそうだった。
「私は高が男爵家の当主よ。それにどちらかと言えば、貴族社会では孤立している方だわ」
「孤立と言うよりも孤高で御座いましょう。それに夫人には素晴らしい御友人が御ありです」
彼女にしては可愛らしく疑問の仕草をしていた。
「グリューネワルト伯爵夫人…いいえ、ミューゼル提督です」
「あの子は、まだ准将よ」
「今度は少将に成るでしょう」
実は、ヴァンフリート会戦がダラダラと進行中の時期だった。
1つの会戦ごとに帝国軍の全士官が出征する訳でも無い。
「それに、わずか3年前には幼年学校を卒業したばかりの少尉でした」
「そう言われてみれば、そうね」
「あの提督は間違いなく天才です。
地位が上がれば上がるほど大きな功績を立てられるでしょう。
もしも叛乱軍が同じ間隔で攻めて来る様であれば、准将から少将に成るよりも早く中将から大将に成るでしょう」
「それで、あの子に目を付けたの」
「恩給を受け取れる頃までは生き残っていたいですし、恩給の額も多い方がよいでしょう。
ミューゼル提督の部下ならば其の可能性が増えそうです」
男爵夫人は彼女らしく、爆笑と言うには流石に育ちの好い笑い方をしていた。
……次に俺が男爵夫人と接触する機会を持てたのは、軍内部だから入手出来る、とある情報を報告した時だった。
ヴァンフリート4=2から生還したミューゼル准将が少将に、その副官が大尉から少佐に昇進していた。
「どうやって、あの子に取り入る積もりかしら。
ただ私から紹介しただけでは、あの子は気に入らないかも知れないわよ」
「提督は御自分が天才だけに有能な人材を御求めでしょう。
実のところ私は、私自身よりも提督の御役に立てそうな人物に心当たりが在ります」
夫人は疑問を持ったらしい。
そう言う心当たりが在れば、むしろ足を引っ張るとか、出し抜くとかの実例には困らなかっただろう。
「むしろ、そう言った人物を私が提督に結び付ける事で、提督に対して功績を上げられるでしょう」
視点:ジークフリード・キルヒアイス
ラインハルト様は、他人の思惑や策謀で御自分が動かされると言う事は、当然に好まれない。
男爵夫人から「真相」を聞かされて、当たり前の様に怒られた。
フロイラインとの御縁を切られる積もりなど全く無いだけに尚更、面白くは無いのだろう。
下宿に居て男爵夫人からの通信を受けた其の晩は、何時も通りにフロイラインと通信されていたが、翌日、軍務省での用件が片付くなり、例の士官を探し出すように命令された。
視点:とある転生者
軍務省に在る現状での配属先で、現状での仕事をしていると、キルヒアイス少佐が俺を探しに来た。
さあ、ここからが「現世」での人生の分かれ道だ。
悪びれない、あるいは言動に陰湿さのない相手に対する寛大さ、とは『原作』でのフェルナーやバクダッシュに対するラインハルトやヤンの態度の描写だった。
男爵夫人に限らずラインハルトに対しても、多分は有効な筈だ。
「……裏も思惑も男爵夫人に申し上げた通りです。ウソも偽りも在りません」
「確かに、私としてもフロイラインとの対話は楽しい。
それに、これはフロイライン本人よりも伯爵家と言う背景を含めての問題だが、今後、どこまで信頼して秘密をあかせるかによっては、よい相談役として期待もしている。
その意味では、卿の手土産は私にとって価値あるものだった事は間違いないが、それだけに、卿の策略にしてやられた気分は、どうしても残る」
そう言いながらも笑っていた。どうやら第1段階はクリアしたか?
「だが、これで手土産は終わりかな?
だとしたら、卿自身が私の部下として有能である事を証明してもらいたいものだが」
「ナイン」そう、この時のために伏線を張って置いた。
「閣下はヴァンフリート会戦では、准将として准将相応の艦隊を指揮されました。
次回の戦いでは少将として、そうした准将相応の艦隊を複数ふくめた少将相応の艦隊を指揮されるでしょう。
当然ながら、指揮下に配属される准将たちについては優秀である事を希望されていると忖度します。
例えば、キルヒアイス少佐が准将の階級であれば、当然に1つを任されると想いますが。
実は今回、大佐から准将に昇進した士官たちの中で、双璧と言うべき2人に心当たりが在ります」
流石にラインハルトも興味を示した様だ。
「ほう?このキルヒアイス並みの准将を2人も知っているのか」
「実は士官学校の後輩なのです。
私が最上級生として舎監の手伝いをしていた当時、2年生と1年生だった其の2人を対番にしたのです。
それが縁で、私が飲みに呼び出せば出て来る程度の付き合いなのです」
「対番」とは以下の様な制度を言う。
士官学校は全寮制であり3年生以上は同学年で同室だが、2年生と1年生は、2年生と1年生それぞれが同数ずつで同室に成り、1対1の組み合わせで1年間の生活を送る。
2年生としては「士官」つまりは卒業後は部下を持つ上官を養成する学校としては最初の上官経験であり、幼年学校からの進学でも無い限り全くの新兵であろう1年生に対しては、1対1での軍隊生活そのもののキメ細かい教育が期待される。
少しばかりラインハルトが興味を示した。
おそらくラインハルト自身はキルヒアイスとの2人部屋だっただろう。
この頃の幼年学校には、貴族の子弟を下級貴族や平民出身の士官学校卒業生よりも早く昇進させるシステムとしての意味も在った筈だ。
「付き添い」付での入学も珍しい程では無かったかも知れない。
しかし「対番」ばかりに興味を示してもいない。直ぐに本題に戻って来た。
「卿よりも後輩と言うことは、准将としても若いな」
そして俺は、疾風と露悪者の名前を告げた。
……その時、7月某日。第6次イゼルローン攻防戦を前に帝国軍の増援艦隊が帝都を出征するのは、同年8月20日である。