その年の内には「新帝国暦元年」と呼ばれる筈の、その年の最初の1日。
帝国軍の双璧は年越しパーティーの席上から其のまま、惑星フェザーンを発進した。
同じく年の変わる頃、惑星ハイネセンでは最高評議会の評議員からして、パーティーどころでは無かった。
その上、殆(ほとんど)の評議員は集合していたのに議長が居ない。
いや、問題が問題だけに当事者の筈の国防委員長も委員の1人に委任状を持たせて当人は来ていない。
もっとも委任状は同盟憲章の定める通りの正式なものだった。
評議員の誰かが急病にでも成った時にでも、評議会を開催しなければ成らない事態が起こるかも知れない。
まして銀河帝国との戦争状態に同盟は在って、国防委員長である。
その委員は委任状を評議員たちに確認してもらうと、積極的に会議を盛り立てた。
ウォルター・アイランズは「この」時から約半年間の覚醒で、後世の歴史に名を残す事に成る。
そのアイランズに盛り立てられて、何とか最高評議会は結論を出した。
「何らかの条件付き講和を帝国軍から引き出す目的で軍事的抵抗を続ける」
その結論を持ってアイランズは、国防委員長代行として軍部の協力を取り付けるべく、宇宙艦隊司令長官を訪問した………。
……。
…翌2月の初頭。ランテマリオ星域
国防委員長代行の支援を後ろに、何とか3個艦隊から成る決戦兵力を終結させたビュコック「元帥」だったが、身もフタも無い事を言ったら、3個艦隊中の2個艦隊は寄せ集めである。
対する帝国軍側は先駆けの双璧だけでも互角に戦えそうにも思えたが、双璧は主将を待つ事を忘れなかった。
そのローエングラム元帥は、後詰と言うよりは今回その攻撃力をトドメ役として期待されている、ビッテンフェルトとファーレンハイト両艦隊のフェザーン到着を待って、これと入れ替わる様にフェザーンから出立した。
その、後続2個艦隊が惑星フェザーンの地表上に滞在していた数日間の間だけ、フェザーン回廊の帝国側に限定して民間航路が再開された。
……そして両艦隊も、味方を追走してフェザーンを飛び立つ。
ファーレンハイト艦隊にザルツ少将も便乗していた。
ビッテンフェルトにしても彼なりの親切心くらいは持っているのだが、曲線的思考の策士タイプは正直に嫌いである。
片や、ファーレンハイトをひと言で言えば「苦労人」だった。
『原作』によれば、フェザーンを9月22日に出立して惑星ウルヴァシーへの到着予定が10月8日、と言う記述も在る。
大体そんな感じで順調に航行、と言うよりは黒色槍騎兵が苦労人を急かしている様にも見える。
「自分たちが到着する前に戦いが始まるのを嫌がっている」事を隠す積もりも無さそうだった。
そんな航行中には小事件も発生していた。
フェザーン回廊の同盟側出口付近を哨戒していた駆逐艦の1隻から連絡が途絶して捜索の結果、救命艇が発見された。
ところが上官に追及された段階で、駆逐艦長と言うよりも協力者として同乗していたフェザーン商人が、ザルツ少将の名前を出した。
そう言う事情でファーレンハイト艦隊旗艦に連絡が入り、ザルツ少将が呼び出された。
そのザルツは、駆逐艦長と協力者の言い分を全面的に認め、むしろ積極的に艦長をかばった。
艦長の直属上官である大佐には、少将の脳内だけに存在する罪悪感の理由など知る事も無かったが
結果として艦長の処分は、軍規の面子以上のものには成らなかった………。
……。
…やがて同盟軍がランテマリオ星域に集結している事が帝国軍にも確認出来た。
「アムリッツァ」が「新ティアマト」に変わったのに「ランテマリオ」で変わっていないが、人外な修正力などは無用だ。
新ティアマト星域を選択したのはラインハルトであり、彼の選択だけが変わっていたのだ。
そして、ランテマリオ星域を選択したのがビュコックである事は変わらない。
フェザーン回廊から同盟首都までの各星系の位置が変わっている訳でも無い。
そしてランテマリオ星域には戦場と成るだけの必然性が在った。
それこそ、ラインハルトが新ティアマト星系を選択したのと同様な理由で。
……そのランテマリオ星域に帝国軍の後続部隊が到着した時点で、両軍は開戦を待っている様に見えなくも無かった。
実際に後続の両艦隊は、途中どこにも寄り道せずランテマリオ星域に侵入したが、その時には先駆けの双璧と合流したローエングラム本軍が、同星域に侵入済みだった。
しかし、戦闘は始まっていなかった。
古来「兵は拙速を聞く」と言う。
真言には違いない。
手遅れに成っては取り返しなどつかない。
だが同時に準備不足や、戦術的勝利の前に戦略的に勝つ準備をする事を忘れる言い訳などでは無い。
ラインハルトは「拙速を聞く」戦術家であると同時に、それ以上に戦略家として「勝った後に戦う」事を知っていた。
そして「勝った後に戦う」積もりならば予備の両艦隊のみならず、イゼルローン(?)回廊方面の別働軍も待つべき状況だった。
敵が大軍だとは言えない。
艦隊司令官だけでも双璧にラインハルト自身、ミュラー、ルッツ、シュタインメッツ、ワーレンと揃(そろ)っていた。
対する同盟側は第1艦隊の他は寄せ集め2個艦隊、ここで更に「ヤン艦隊」が加わっても艦隊の兵数に限れば、帝国軍の優勢は間違いない。
だが、その数量的な優勢を補いかねない大物がランテマリオ星域に到着していた。
1個艦隊で1万数千隻が艦隊フォーメーションを組みながらワープを連続して何千光年かを移動するのと、移動要塞1つが丸ごと移動するのとでは、どちらが早く到着するか。
確かな事は、その艦隊を構成する各艦の中での鈍速艦が単独航行する方が、間違いなく艦隊よりも早いと言う事だ。
移動要塞イゼルローンは回廊の外に逃げ出しヤン艦隊を収容してワープに入ると、そのままキルヒアイス方面軍を振り切ってランテマリオ星域へと向かった。
同星域に到着したのは、フェザーン回廊側で合流集結した帝国軍が星域内に侵入した同日、数時間前の事だった………。
……。
…流石の「戦争の天才」をして「これは厄介だな」と、そう言わせていた。
フェザーンに待機させていた予備戦力、そしてキルヒアイス方面軍も合流し、ほぼ全戦力をこのランテマリオ星域に集結させていた。
だが、前面の同盟軍には宇宙艦隊のほぼ全戦力に加えてヤン艦隊が集結し、何より難攻の要塞が数的優勢を打ち消していた。
おまけに、その“難攻”を預かるのが「奇蹟の魔術師」とあっては流石にラインハルトでも、おいそれとは短期決戦に移れない。
「やむをえん。惑星ウルヴァシーの拠点恒久化を優先する」
長期戦を覚悟したのだ。
尚この時、1隻の駆逐艦が投降したか、要塞に降下したのにまで注意を向けたものは少なかった………。
……。
…途端(とたん)にヤン艦隊の暗躍が始まった。
元々ヤンであれば、自らの艦隊を自国領内での機動戦力として遊撃戦を展開するのであれば、同盟領内、数十の補給拠点を1回の戦いごとに移動して、自在に動き回って見せただろう。
フェザーン回廊を突破されたとなれば、もう1つの回廊を死守する事など愚行としか見定めないヤンだ。
特定の拠点を持たない事で、戦略を柔軟に出来る事を知っていた。
そのヤンが今や、補給拠点を自ら引っ張って歩いているのだ。
いよいよもって神出鬼没である。帝国軍は振り回された。
片や帝国軍は、フェザーン回廊を経由して惑星ウルヴァシーまで物資を運んで来なければ成らない。
ヤンの暗躍下で。
これに対して同盟軍宇宙艦隊主力の方は、ランテマリオ星域に集結したまま待機している。
この星系が選ばれたのは、ここから後方の恒星系が殆(ほとんど)有人惑星を持っている、と言う理由からだった。
と言う事は自国軍であれば、そうした有人惑星を補給拠点と出来る。
だから決戦が先送りに成っても、補給を受け続けながら待機する事が可能だった。
だからと言ってヤンの留守を狙おうなどとすれば、それこそ決戦を挑発する罠であり、その途端にヤンとイゼルローンが出現するだろう。
だが、挑発を承知でヤンに正面対決を挑みたい。その誘惑がラインハルトを誘っていた。