四国立教大学文化サークル夏山登山獣害事件脱出期 作:四国の探索人
とある四国立教大学の文化系サークル、「ボードゲームサークル」。
1年生の山中は、部室の扉をそっと開けた。中は温かな光に包まれ、棚には色とりどりのボードゲームやカードが整然と並んでいる。
中には、同じく1年生の寺内がいた。彼はテーブルに向かい、資料を広げて黙々と作業している。
「お疲れ。平和学の授業、もう終わったん?」
寺内が顔を上げてそう言うと、山中は笑顔で返した。
「お、寺内は授業があったのか?」
すると寺内は、少し顔をしかめながら答える。
「いや、俺はレポート作成のためにここにいたんだ。」
「レポートなぁ……俺も社会学のやつ、まだ残ってるんだよな。」
山中は頭を掻きながら、苦笑いを浮かべた。
「でもまあ、レポートさえ出せば夏休みだから。そこまで焦らなくても大丈夫だよ。」
寺内はそう言って、少し安心したように笑った。
「そうだな。今日は活動あったよな?」
山中は窓の外に目をやり、青空を見上げながら尋ねる。
「うん。先輩たちも来るって聞いたよ。鍋島さんと畑中さんが来るんじゃないかな。」
2人がそんな話をしていると、扉が再び開き、3年生の鍋島が勢いよく部室に入ってきた。外の温かな風が一瞬、部室の空気を揺らす。
「君たち、お疲れ!」
「お疲れ様です、鍋島さん!」
山中と寺内は声を揃えて挨拶した。
「うんうん、ちゃんとレポートしてるね。単位だけは落とさないように。濱口さんみたいになると大変だからね?」
鍋島は冗談めかして笑い、部室の空気は一気に和やかになる。
「大丈夫ですよ。あの先生は、文字数さえあれば割となんとかなりますから。」
山中が自信ありげに言えば、寺内も「うちも似たような感じだね」と肩をすくめて笑った。
「それなら安心やね。……そういえば、来週から夏休みだよな?」
「ええ、大学も閉まりますし。」
山中は少し期待を込めて返した。
「それなら――登山、行かへん?」
突然の鍋島の提案に、部室の空気が一瞬ピリッと張り詰める。
「登山、ですか? ここ、ボードゲームサークルですよ?」
寺内が困惑したように尋ねる。
「いやぁ、ずっと部室でゲームしてたら、運動不足で太るって。ほら、自分のお腹、見てみ?」
鍋島が笑いながら自分の腹を指さすと、寺内も苦笑しながら腹をさする。
「まあ、予定はないけど……山中は?」
「俺もバイトないし、大丈夫だよ。」
山中は明るく答え、どこか楽しみにしているような目をした。
「よし、じゃあ他の先輩たちにもLINEで声かけとくわ。詳しいことはまた連絡するな。」
そう言って、鍋島は軽やかに部室を後にした。
「登山かぁ……しんどそうやな。お前、経験あるん?」
寺内は不安そうな顔で山中に尋ねる。
「あるっちゃある。昔、石鎚山登ったことある。ボーイスカウトのときにな。」
山中は少し懐かしそうに言う。
「それでも、経験あるだけマシやん。俺なんて公園の砂山登ったくらいやで?」
寺内は自嘲気味に笑う。
「高知出身なのに、山登ってないんか?」
「現代っ子やぞ? 山よりネットの時代やろ。てか、俺らボードゲームサークルやし。」
腕を組みながら、寺内は軽く笑って答えた。
山中はうなずいて言う。
「それもそうか。……そろそろ次の授業始まるな。俺、行ってくるわ。」
「おう。」
寺内は軽く手を挙げ、去っていく友人を見送る。
部室には静けさが戻り、並べられたボードゲームと穏やかな空気が再び満ちていた。
山中は急ぎ足で廊下を歩き、楽しげに話す学生たちの声を背に教室へと向かった。
心の中には、さっきまでの会話と、次のサークル活動への小さな期待が燻り続けていた。
教室に入ると、すでに何人かの学生が席に着き、穏やかな緊張感が漂っている。
山中は一番後ろの席に座り、教科書を広げたものの、頭の中はサークルのことばかりだった。
講義が始まると、教授の声が教室に響き渡る。難解な内容に、山中の意識はじわじわと教室から離れていく。
浮かんでくるのは、寺内の顔。鍋島先輩の明るい声。そして、謎の「登山計画」。
ワクワクと一抹の不安が入り混じる中で、時間は静かに流れていった。
講義が終わると、山中はすぐに外に出た。
胸の中にある、ボードゲームと仲間との記憶が、不意に笑顔を浮かばせる。