四国立教大学文化サークル夏山登山獣害事件脱出期 作:四国の探索人
鍋島が目を覚ました頃、ちょうど時計の針は7時を指していた。タイミングを合わせるようにして、濱口と杉山が部室に顔を見せる。
細井が顔を上げてつぶやく。
「あと来てないのは、女性陣だけか?」
濱口がスマホを取り出しながら言う。
「LINE、なんか来てる?」
山中が画面を確認するが、通知はなかった。
「特には……ないですね。電話してみます」
そう言って、山中は竹下に電話をかけるが、コール音だけがむなしく響く。続いて岡山へ連絡を入れると、すぐに繋がった。
「すいません、今ちょうど竹下を回収してるとこなんで、もうちょっとかかります〜」
岡山の声は少し息が上がっていた。
「了解です、気をつけて来てください」
電話を切った山中が振り返って言う。
「もう少しかかるそうです。岡山さんが今、竹下さんを迎えに行ってるって」
その言葉に、寺内がぼそっと漏らす。
「……これだから女は」
すかさず鍋島が制した。
「やめとけやめとけ。それ以上言うと、ますますモテんようになるぞ」
「……反省します」
寺内は軽く頭を下げ、周囲から小さな笑いが漏れた。
集合時間からすでに1時間が過ぎていた頃、大学の駐車場に1台の車が滑り込んだ。
運転席から岡山が降り、後部座席には竹下と浜下の姿。
竹下が軽く頭を下げる。
「すいません、遅れました」
鍋島はそれに応じて手を振る。
「よし、これで全員やな。まずは計画の確認もあるし、一回中に入ろうか」
濱口が時計を見ながら口を開く。
「けど、もう結構時間押してません? 今から話してたら遅れませんか?」
山口が肩をすくめる。
「一泊予定やろ? 一時間くらいなら大丈夫や。焦って事故るよりマシやし。さ、始めよう」
部室に戻ると、鍋島が全体を見渡して言った。
「じゃあ、参加メンバーの確認からしようか。僕は全員知ってるけど、学年や名前知らん人もいるやろうから、簡単に自己紹介を」
鍋島は手元のメモを見ながら言う。
「学年順にいくな。まず4年生」
濱口が前に出る。
「4年の濱口です。今日は車も出します」
その隣に立っていた男が続く。
「同じく4年の山口。よろしく」
鍋島がうなずいて続ける。
「3年は僕、鍋島と──」
杉山が手を挙げる。
「杉山です。3年」
畑中も少し笑って前に出る。
「その杉山の幼馴染み、畑中です」
「で、2年は俺一人だけやな。細井です」
1年生たちも順に名乗っていく。
「1年の山中です」
「同じく寺内です」
「女子で、浜下です」
「友達の岡山です」
「竹下です、よろしくお願いします」
鍋島が手を打ち、まとめる。
「合計11人。男子8人、女子3人。年齢もバラバラやけど、今日はみんな仲間や。よろしくな」
鍋島が手を叩いて話を再開する。
「目的地は、徳島の熊山。調べた感じでは、一応一泊二日で行けるらしい。でもまあ、俺らは素人の集まりやから、余裕を持って二泊三日の想定で動くつもり」
その言葉に、浜下が少し不安げに手を挙げた。
「今さらですけど……熊山って、名前の通り熊が出たりしないんですか?」
山中が即座に答える。
「一応、生息区域ではあるけど、四国の熊は絶滅寸前で、十数頭しか確認されてないらしいです。出会う確率はかなり低いですね」
竹下が冗談めかして言う。
「ってことは、出会えたらむしろラッキー? インスタ映え狙えるやん」
寺内がぼそっと返す。
「生きて帰れたらの話だけどね……」
畑中が補足するように言葉を継ぐ。
「まぁでも、ツキノワグマやし。向こうから襲ってくる可能性は低いと思うよ。音出してれば避けてくれるって言うし」
鍋島が一同を見渡してうなずく。
「そのへんは一応知識として頭に入れといてな。さて、そろそろ移動始めようか」
濱口が軽く笑いながら言う。
「みんな、好きな先輩の車に乗りな~」
寺内が困ったように顔をしかめる。
「いや、それ選びにくいやつですよ……」
鍋島が手を挙げる。
「とりあえず僕の車が先頭になるから、ナビ役として山中くんはこっち乗って」
「了解です」
山中がうなずくと、メンバーたちはそれぞれの荷物を手に、車へと向かいはじめた。