四国立教大学文化サークル夏山登山獣害事件脱出期 作:四国の探索人
参加メンバー
4年濱口、山口
3年鍋島、畑中、杉山
2年細井
1年山中、寺内、浜下、竹下、岡山
一行は静かに、けれど確実に山を登っていく。
山中は後方を歩きながら、前方を見据えて小さくつぶやいた。
(昼食も挟んで、これまでの山道……もう、みんなの水筒は空に近いはずだ)
すぐ隣を歩く寺内の顔をちらりと見る。
「寺内……そろそろ、水筒の件を鍋島さんに話すか?」
寺内は小さく頷くと、苦笑まじりに返す。
「いいね。もう疲れてきたし、水不足を理由に引き返すって言おうや」
二人はゆっくりと列を前へ進みながら、鍋島に声をかけるタイミングを見計らっていた。
だが――その時だった。
「おっ、みんな。あそこ、見て!」
前方を歩いていた畑中が、木々の間を指さした。
「滝、あるよ。ちょっとしたやつだけど、水流れてる! 補給できるかも!」
その言葉に反応するように、サークルメンバーたちが足を止め、視線を向ける。
小道のすぐ脇、岩肌を伝って細く美しい水流が流れていた。水は透き通っており、音は柔らかく、まるで誰かを癒すような清らかさを持っていた。
「マジや、滝や……!」
「やった、水汲める!」
誰からともなく水筒を手に取り、岩の傍へ向かっていく。
その手つきには、切実さと嬉しさが入り混じっていた。
寺内がぽつりと、低い声でつぶやく。
「……山中さん」
山中は何も言わず、滝を見つめたまま硬直していた。
「……そうや。熊山って、吉野川水系の源流域にあたるんや。天然水が豊富な地域。そら湧き水も出るわ……」
寺内も肩を落とし、苦笑する。
「……これじゃ、水不足で中止作戦はもう使えんな」
山中は、心の中で悔しさともあきらめともつかない感情を嚙み締める。
(最低限の装備で途中撤退の空気を作るはずが……やってしまった。これは、頂上まで行く流れや)
その時、山口が周囲を見回しながら言った。
「そういえば、いつの間にか道も広くなりましたね。雑草とかも減ってるし。もしかして……正規の登山道に合流した?」
濱口がうなずく。
「確かに歩きやすいもんな。最初の頃と全然ちゃうし」
山中は地図アプリを確認し、ため息をつくように笑った。
「たぶん……畑中が言ってた滝のそばあたりで、従来のルートに合流したっぽいですね」
鍋島は明るい声でみんなに声をかけた。
「よし、これなら道も悪くないし、水もある。体力的に大丈夫なら、このまま進もう!」
誰も反対はしなかった。
誰も、“今この瞬間”、彼らの背後で何が起きているのかには気づいていなかった。
──すでに、人知れず失われた命があり、
それを悼む者が、一歩ずつ足跡をなぞるようにして、彼らの後を追い始めていることを。