【カオ転三次】騎手やってるってよ   作:FakePusai

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グガランナの凱旋門賞汗かきはなんで~って合ったので書いてみたらえらい時間かかりましたね。

生まれたときから書くんじゃなかったぜ……
これでも大分端折りました。


グガランナ走るってよ

 グガランナはいままで怒りを燃料として生きてきた。

 

 吾はこの世に生まれ落ち、母馬の19XX(生まれた年の下二桁)と呼ばれ(これとて最初は気づかなかったが)言われ、育った。

 最初は良かったの、母がおり、二足歩行(人間)に世話をされ、不満なく育っていった。

 藁の敷かれた部屋と母のにおい、外に出た時にみる他馬、一面の草。

 

 硬い物()で作られた柵の向こう、青々とした草原のその先に行ってみたいと思う気持ちがなかったとは言わぬ。

 しかし、未知と母では母のほうが重要であり、その傍から離れようとも思わなった。

 

 だが、ある暑い日、二足歩行(人間)に促されるまま家(馬房、それもいつもとは異なる場所)に誘導され入ればそれきりであった。

 

 母が後から来るかと思った……思ったまま、日が昇り、落ち、それを数度繰り返したとしても母は現れなかった。

 

 吾は泣いた。すすり泣き、悲しみを乗せた声を上げた。

 

 母の声が薄く聞こえた様な気がしたこともあった、あれが本当だったのか、それとも吾がそう思いたかったのか分からぬ。

 

 我に返れば、近くの部屋に居た同類達(とねっこ)も声を上げていたし、同類達と外に出され、話を聞いてみればそれぞれの母の事を思っていた(そうでも無い奴もいたが)

 

 しかし日が昇り落ちるにつれ、その声は減っていった。

 会ったばかりの頃は母への郷愁を語っていた者が、しばし時が建てば「かーちゃんよりかけっこしようぜ!」と言った形だ。

 

 恐怖した。

 

 この気持ちを持ち続けることがおかしいのか?

 

 それともここにいる同類達(とねっこ)がおかしいのか?

 

 分からない。分からないが、吾はその場では同意しつつ走った。

 走るのは好きだ。走っている間は忘れられるような気がするからだ。

 

 同類達(とねっこ)はなんというか、速くは無かった。

 とはいえ吾も先頭を走りたい訳でも無かったので後ろから付いて行ったり偶には先頭になったりもした。涼しくなりつつある空の下が気持ちが良かった。

 

 その後は顔に変な物(頭絡)をつけられたり、寒くなり白いものが降ったり、また暖かくなった。

 吾だけでなく皆も大きくなった。前暑かった()硬い物()で出来た柵の上に顔を出すのが大変であったが、いつのまにか苦にならなくなった。

 

 吾の生き様で転機は何度かあった。1度目は母と引き離されたときであるが、2度目は奇妙な二足歩行と会った時である。

 

 紐を付けられ柵の外にだされた吾は普段見ない二足歩行の前に連れ出された。

 引っ張られるのは嫌いだ。

 

 我は嫌がった。

 だが普段諦める二足歩行達も今日は様子が違った。

 なにか声を交わしながら(残念ながら二足歩行が何を言っているのかはわからぬ)吾を強引に引っ張ろうとする。

 

 そうこうしていれば向こうから見たことのない二足歩行が二人来た。

 (服装)が普段の二足歩行達と異なっていた、そしてその姿を見たとき肌が粟立った。

 

 一人は良い、皮が違えど強いとは思えなかったが。しかしもう一人の二足歩行はどうだ、なんというか……強い、逆らうと不味いという気持ちが沸き上がった。

 吾は警戒し耳を倒し、いつでも逃げられるよう注視した。

 

 「すいません、来て頂いたというのに警戒してしまい……」

 

 「よい、これが例のか?」

 

 「ええ、〇〇〇〇の19XXです。血統もお伝えした通り。半兄もオープン馬になっておりますし、馬体もこの通りです。期待できると思います」

 

 「どう見る?」

 

 二人のうち一人がもう一人に顔を向ける。向けられた男は吾を見定めるように、その目で見てきた。

 

 フンッヒヒーン

 

 つい威嚇の声を上げてしまったが、頭を紐で抑えられている状態でもこの弱そうな男はどうにかできる。

 だがもう一方の男だはどうだ?二足歩行であるというのに吾を殺せそうな気配を感じるのだ。

 

 「あぁ……、ちょっと人見知りするようでして、馴致をすれば大丈夫だと思うんですが」

 

 「馬体も素晴らしいですし、気性もこのくらいのほうが走ると思います。調教師の先生は例の所でいいかと」

 

 「ふん、そうか。いいだろう買おうではないか」

 

 「おお、ありがとうございます!」

 

 いつも見る皮の二足歩行が頭を下げる。

 

 後々吾の上に乗る人間に聞いてみれば、ここで吾は売られたということだ。

 

 

 その後、二足歩行がどこかへ行き(帰り)、世界はいつもに戻った。

 結局いつまで経っても母のもとに戻ることは叶わなかった。

 

 次の転機は二度目の暑さを感じる時が過ぎ、涼しく成った時だった。二足歩行が吾を強引に引っ張り、不思議な(馬運車)に連れ込んだ。

 気に入らなかったが、抵抗してもだめだった。振動を感じながらその中に居り、時がたった後外に出されればそこは知らぬ場所であった。

 

 まったくもって残念であった。

 

 いつもと異なる部屋(馬房)で吾はその時思った。もはや二足歩行は吾を母のもとに戻すことはないのだと。

 心の奥底に押し込められていた悲しみは怒りに転化した。

 

 この段階でもはや二足歩行は敵と成った。

 

 二足歩行が吾の背中になにか載せようとも、吾の上に乗ろうとも拒否だ。

 その結果がどうなろうともどうでも良い。

 

 数日経ち、二足歩行共も諦めたかと思った。

 

 吾は一人草むらに立っていた……がその時肌が粟立つ。それは昔感じたものと一緒だ。

 あの危険な二足歩行がまた来たと思った。

 

 しかし顔を出したのは二人、よく見る二足歩行ともう一人だ。

 阿里川の区別は付きづらいが、少なくともかつて見たものとは異なるように思える。

 

 天を仰ぐ。

 

 吾の知らない地平の向こうではこのような吾を殺せそうな存在が多いのかと。

 

 「あれが〇〇〇〇のXXですか?」

 

 「ええ、さっき言った通り本当に言う事聞かなくてですね……

 生産牧場じゃそこまでじゃ無かったらしいんですがここに来てひどくて」

 

 「環境変わってナーバスなんですかね」

 

 「そういうのとも違う気がするんですけどね……阿里川さんホントにやるんですか?危ないですよ」

 

 「まーオーナーから見てこいって言われちゃったんで、やるだけやりますよ」

 

 「阿里川さんはまあ有名ですからね、あいつもバッチリ言う事聞かせられると信じてますよ」

 

 「えぇ?俺そんなに有名なんです?育成牧場の人まで知られるような事してないですよ」

 

 「そりゃ競馬学校でてすぐのあんちゃんなのに、どんなゲキヤバ気性難でも乗りこなすなんて聞こえてきますよ」

 

 「うわぁ、まじか。それじゃあ期待に答えなきゃですかね……じゃあ時間かかるんで」

 

 「ほんと大丈夫ですか?まあ終わったら電話してください、ここ電波通りますから」

 

 不思議だ、二足歩行二人の内片方の言葉が分かる。二足歩行が我等の言葉を覚えた?いやもう片方と言葉を交わしている。

 不思議は警戒、警戒は敵だ。

 

 吾は一人になった者を睨みつけ警戒する。

 もう一人の姿が見えなくなった後、吾の警戒にかかわらずその二足歩行は柵の中に入ってくる。

 

 死にたいのか?

 

 「よお、君がえーと……〇〇〇〇の息子さん?」

 

 答えはこれだ。

 

 吾は力の限り体当たりを掛ける。

 これを食らって倒れなかった二足歩行は居なかった。

 

 「おっとっと」

 

 だが二足歩行は吾の体を受け止め耐えた。

 

 『クソ、お前は何者だ』

 

 「人の名前を聞く時はじ……失礼、まだなかったね」

 

 何を言っているか分からなかった。

 

 「俺は阿里川勇樹。君が馴致……人を乗せるためのあれこれを拒否するというから見に来たのさ。実家でも見ただろう?」

 

 確かに実家(生産牧場)でもここでも同族の背に人が乗っているのを見る。吾もあれをしろと?

 

 『何故吾がそのようなことをせねばならぬのだ』

 

 「んー、難しいな。馬と哲学問答か……」

 

 眼の前の阿里川と名乗った二足歩行は、しばし宙を見つめ思案する。

 

 「具体的には、いくつかあるが、まずは君が生き残る」

 

 『生き残る?』

 

 「そそ、生きているものはいつか死ぬ。

 人を背に乗せるべく生まれた君や君の同族はね、乗せることが出来なければ、俺達の同族が殺すさ」

 

 『死ぬ?殺す?』

 

 「永久の眠り、と言ったところかな。死ねば明日はこなくなる、分かるかい?」

 

 冷たさを感じる瞳で言い放つ目の間の存在。それが嘘だとは思えない。

 

 「後は何だろ、人を乗せてかけっこで勝てば名誉とか、餌とか、君がうまれた故郷が喜ぶとか、母馬の価値が高くなるとかかなぁ」

 

 死ぬ、その言葉を聞いて思うは母の顔。

 会う前に目覚めなくなるのはゴメンだ。

 何かを言っているようだが余り聞こえない。

 

 『クソ、では何をしろというのだ』

 

 「お、分かってくれたかい。さっき見た人とかの指示を聞いて鞍、背中に人を乗せる道具を乗せるとか、指示に従うとかをしてくれ」

 

 『だ、だが吾より遅い人間の言う事なぞ聞きたくないぞ』

 

 せめてもの抵抗。吾より遅く、弱いものが背中に乗るなぞ怖気が走る。

 

 「ほーん、じゃあ俺と走ってみる?力はさっき見せただろ?」

 

 力では負けた。だが走りなら!

 同族にすら負けない吾の走りを!と思い走り出す。

 

 「あっ、フライングだぞそれ」

 

 スタートし、遅い!と思ったときにはもう隣に並ばれていた。

 10歩も進まない内に横に追いつかれ、柵近くになる前に抜かれていた。

 

 「これで問題ないだろ」

 

 『くそ、くそ』

 

 「ここで訓練した後、他の馬も全員人が乗った状態でかけっこするけど、その時は俺が乗るからな。

 それまでちゃんと訓練しときな」

 

 そう言って柵を出ていった。

 

 

 そこから吾は悔しさを押し殺し、二足歩行に従い訓練を行った。

 人が乗り指示に従い、細く硬い狭い箱に入ることも行った。

 

 涼しさから寒くなり、そしてまた暖かくなり、やや暑くなりかけた時、吾をここにつれてきた(馬運車)が来た。

 

 そこからどこぞへ運ばれたが、次についたところは今まで比べ同族と二足歩行達の数が段違いであった。

 世話をすると思われる二足歩行が何かを言っているようだが、仲良くなる気は無い、無視したら中に入ってきたので突き飛ばした。

 

 「うお、あ、あぶねえぇ」

 

 ふん、何かを言っているようだが知らぬ。あの阿里川という者なら苦も無く受け止めるぞ。

 

 

 そうして数日経てばようやく、阿里川が顔を出した。

 

 「お前なぁ、厩務員の人が困ってるだろわがまますんなよ」

 

 『吾の体に触ろうとするからだ』

 

 「はぁぁ。そんなんじゃ掃除もできねえし調教も付けられないだろ」

 

 『弱い(遅い)ものの言う事など聞くか』

 

 ぐだぐだ言う阿里川に噛みついてみれば意に介さず、吾の口に手を突っ込んでこじ開ける。

 

 「しゃーねえなぁ俺がなんとかするしかねえか……ギルのやろう追加報酬くれねえかなぁ」

 

 そこから数日後ごとに顔を出し、他の二足歩行が出来ぬ作業と吾に乗り訓練を行った。

 たまに他のものが乗ろうとしたが拒否した。

 阿里川ですら気に入らぬのに、それより弱き者が乗れると思わないことだ。

 

 訓練している内にレースとなった(これは阿里川に教えられた)

 暮らしてたコースとは違う場所に行き、阿里川と話したとおりに走り、勝った。

 見たことがないくらいの二足歩行達が居たが、あれらはなんのためにいたのだ。

 

 『勝ったんだ早く降りろ』

 

 「あっぶね」

 

 いつまで乗っているつもりだと落とそうとしたが残念ながら落ちなかった。

 降りたのは何故かもう少し走った後であった。

 

 「危ねえから落とそうとすんなや」

 

 『ふん、知らぬわ』

 

 いやまて考えろ。レースで勝った後、吾はこいつを落とそうとした。だがその場では何も言われなかった。

 つまり大勢の二足歩行の前でレースというものに勝てば好き放題する瞬間があるのではないか?

 

 吾は次のレースにてもう少し力を入れ、急に止まることによって上に乗っている阿里川を前方に飛ばしてみた。

 ブチギレた阿里川が文句を言うが、何かが起こることは無かった。

 

 やはりである。

 

 吾はこれを繰り返した。だが阿里川は怪我もしなかった。他の二足歩行は軽く小突くだけで怪我をするというのに。

 もしかしたら時々現れる、吾を買ったという男もそうなのかもしれぬ。

 

 吾は学んだ、阿里川やあの(ギル)のような存在は二足歩行の中でとても珍しいと。

 少なくとも他の二足歩行は脆く、言うことを聞く必要はないようだ。

 

 

 多分3回か4回レースを行った後、吾は自分の部屋で阿里川の世話を受けながら言った。

 

 『吾はいつまで走れば良いのだ?』

 

 「え、後2年くらい?」

 

 『2年とはどの程度なのだ』

 

 「700回くらい日が落ちて登るくらいたつ感じ」

 

 『長過ぎるぞ』

 

 「みんなそんなもんだぞ」

 

 『同類(他馬)達のことなぞ吾に関係あるか』

 

 「そう言われてもな、レースも後15回はあるかな」

 

 『多いぞ、クソ。吾を故郷に帰せ』

 

 「え、故郷の生産牧場に帰りたいの?」

 

 『そうだ、終われば帰れるのではないのか?』

 

 「あー……そうだな、夏まで無敗なら夏の間は帰れるんじゃないか?」

 

 『なんだと!?嘘であったら承知はせぬぞ』

 

 「まあ俺が判断するんじゃなくて、ほらいるだろ調教師の先生が判断するだろ」

 

 『吾の言葉はあやつには通じぬ、お前が言えないのか?』

 

 「無敗なら言ってやるよ、負けなければな」

 

 吾等が会話している内に吾担当の二足歩行がやってきた。

 吾にビビリ、何故かこの阿里川が吾の世話の一部を担っている。

 

 

 「阿里川さん終わりました?」

 

 「ええ、まったくこいつが大人しくなればいいんですけどね」

 

 「いつもすいません、半分くらい世話してもらって……」

 

 「俺もこいつに乗って勝ってますから」

 

 二人が会話しているようだが吾は聞いていなかった。少なくとも吾が勝てば母に会えるのだと。

 阿里川が嘘をついているとは思えなかった。あやつは嘘はつかぬ存在だ。

 

 

 その後阿里川が嘘をついていないことは示された。

 暑い季節、久方ぶりに故郷に帰れば母が居て吾を覚えていてくれた。(柵は無視した)

 だがその影には小さき者が居た。弟、という存在であった。

 吾を見て逃げてしまい母に叱られた。

 

 その後なんとか意思疎通ができたものの、母の一番大事な存在が吾では無く、小さき弟に成ってしまった事に一抹の寂しさを覚えた。

 (しかし排除するようなことはしないぞ、もちろん)

 

 最後戻ることになる時、出来うる限りの抵抗をしたが阿里川に持ち上げられ抵抗虚しく帰る羽目になった。

 まったくもって忌々しい二足歩行である。

 

 

 涼しい時期から寒い時期も吾はレースで勝ち続けた。

 何回も上に居る気に入らぬ阿里川を叩き落としたがこの男は死ななかった。

 もはや吾とこやつの間だけの死合である。

 

 なんと嬉しいことに寒い時期の偉大なレース(阿里川に聞いたがよく分からなかったが二足歩行の中ではすごいことらしい)を勝ったため、吾は寒い時期にも故郷に戻った。 

 

 暑い時に居た弟は別に隔離されていた……そうか、吾と同じかと思い少し悲しくなった。

 弟よ、吾と同じく勝てば戻れる、気を強く持ってがんばるのだぞ。

 

 

 戻ることになる時、夏と同じく抵抗虚しく帰る羽目になった。

 まったくもって空気を読まない二足歩行だ。

 

 

 また温かい時期から暑い時期まで勝った。長いレースもあったが、吾に勝てる同類(他馬)は居なかった。

 

 「ここから一端故郷に戻って次はフランスだからな」

 

 『フランス?それはどこだ』

 

 「あー、どうだろ、ここからレースした場所までの100倍くらい遠く?」

 

 『よく分からぬが、そこまで遠くまで行きレースをしてなんになるのだ』

 

 「名誉かな?俺の名誉、あのギルの名誉、そして君の名誉、まあすげえって同類(他馬)から言われるってこった」

 

 『吾が偉大なことは言わなくても分かることだろう』

 

 「後なんだろ、お前の母馬もすごいって言われるかな」

 

 『なに!?』

 

 そういやマザコンだったなと一人納得しながら阿里川は続ける。

 

 「そのフランスって所のレース、お前より先に生まれた馬、誰も勝ってないからな。

 そんなレースで初めて勝ったらどうなる?お前ももちろんお前の母馬も人が記す歴史ってものに残るのさ」

 

 『母もお前ら二足歩行に称えられるというのか?』

 

 「もちろん」

 

 『ならば……吾が勝とうではないか』

 

 「そーしてくれると助かる」

 

 そう言うと作業に戻る阿里川。そうか、母のためにも頑張らねばなと思いつつ飯を咀嚼した。

 

 

 そこから一端故郷に戻れば、新しい子ども(今度は妹らしい)が居た。

 前の子はどうなったか、我と同じように訓練されているのか。

 

 母にフランスとか言うところの話をすれば、がんばんなよと適当な相槌であった。

 そういえば母も吾と同じように走ったのだろうか。

 

 

 そうこうしている内にフランス?に行く時期となった。

 箱に詰め込まれとても長い時間そのままであった。

 前に一度箱に詰め込まれ、とても暑く、臭い二足歩行達の居る所で走ったが、とてもうんざりしたことを思い出した。

 箱が終わればもう一度箱、とてもとても長い時間がかかった。

 でて吾が寝るところに付けば疲労困憊で一旦寝た。

 

 起きて阿里川に文句を盛大に言った。

 

 『何なのだここは遠すぎるぞ』

 

 「だから言ったじゃん遠いって、感謝しろよレース出ずにお前さんの面倒みてんだから」

 

 『知るか、お前が吾の面倒を見るのは当然であろう』

 

 「はー」

 

 ため息1つつき諦めたのか、この空気が異なる場所で作業を始めた。

 走る準備をしつつ、なれるための運動をさせられた。

 そこは見た目いつものところで変わらないようでいて、草がとても硬かった。

 

 『何だこれは、走りづらいぞ』

 

 「こっちの芝だ、慣れろ」

 

 『力がいつもより必要だし、足の出し方を変えねばならぬぞ』

 

 「足に負荷が掛かっても大丈夫だ、全力で2400、逃げを打つぞ」

 

 そんな事を言いながら硬い芝の上を走る。これで勝てるのか?吾は分からなかった。

 同じ場所を走る同類(他馬)達がどのような者たちかも分からぬ。

 吾は初めて勝てるかどうかの不安を覚えた。

 

 

 数日後、吾はほかと同じようにお披露目(パドック)で歩いていた。

 頭の中は今日のレースのことで頭がいっぱいであった。走る場所の情報は教えられた。芝にも慣れてきた。だが勝てるか?いつもと同じように一番でゴールを通過できるか?体は心に反応し汗をかく。

 なんとも無様だ、どこかのレースで汗をかく同類(他馬)を鼻で笑った。だが今、汗を書いているのは吾、笑われているのかもしれないのは吾。

 

 「なんだよお前でも緊張することがあるのか?」

 

 『ふん、上に乗って走らぬものには分からぬだろう、勝たなくてはならない時があることに』

 

 「なんだったかな、そうTake it easyお前が実力を出せば勝てるだろ」

 

 『ならばお前が示してみろ、勝利への道をな』

 

 「お前がそこまで言うならやってみるさ、ちゃんと指示聞けよ?」

 

 『勝てなければ吾はお前を許さぬぞ、この命に替えてな』

 

 「へいへい」

 

 お披露目が終わり鉄籠(ゲート)に走る。ここ数日で慣れたとはいえ走りにくい草だ。

 箱の中で集中する。今までと異なり、二足歩行(人間)達のおおきな声は聞こえぬ、開けばスタート、その時を待つ。

 

 吾が開いたとも思えない時、阿里川の合図が来た。

 ぶつかっても知らぬぞと思いつつ足を動かしスタートを測る。

 

 吾の顔スレスレに箱が開いていく。他の同類(他馬)達はまだ箱の中。我等は他より先を走る。

 

 ついてくる同類(他馬)が二頭、せりかかってくるが坂を登りながら右回転しつつ無視していれば何故か下がっていく。

 坂を降りストレート、だがここは他と違い全力を出す場所ではないという。

 上の指示で多少緩め一息。体に少し力が戻ってくる気がする。

 

 吾の視界にはまだ誰も近づいてこない、すくなくともまだ先頭だ。

 

 ストレートからさらに右旋回、ここが最終ストレート。あと30を数えるほどもない。

 

 吾の視界にはまだ誰も来ない、ここの同類(他馬)たちはあまり足が早くないと見る。楽勝ではないか。

 

 そう思った時、吾の尻に衝撃が走る。

 

 ピシリと鈍く響く音、阿里川が吾の尻を叩いた音だ。

 

 怒りが湧く、だが待て、吾は油断したのか?

 視界の端に同類(他馬)が見える。

 

 あと20。

 

 危ないところであった。油断し負ければ母になんと言えば良い?

 自分をごまかすように足に力をいれ回転を上げる。

 

 生涯一番の全力。少なくとも吾が死ぬまでの間、これ以上は無いという全力。

 視界の端の同類(他馬)達との距離がそのままとなる。

 

 危ないところであった。ここの同類(他馬)たちも吾の全力と同程度の速さで走れるということだ。

 

 あと10。

 

 足を動かし、前を見る。阿里川もまた吾を前へ前へと進めようと促す。

 

 気づけばゴールを過ぎていた。止まれの合図で速度を落とす。

 関節達が痛みを訴えてくるが、それも徐々に収まる。

 

 『勝ったか?』

 

 「勝った」

 

 勝ったということは吾がすごい事を示し、母が強いことを示した。

 吾はやった。

 

 『母よ!吾は勝ったぞぉぉ』

 

 二足歩行達には嘶きとしか聞こえないかもしれぬが、吾は精一杯叫んだ。

 

 これが吾がフランスなる場所でレース(後で凱旋門賞なるケッタイな名を教えられたが)を勝つまでの話だ。

 その後戻り、2回ほどのレースをこなし、その後二度とレースを走ることは無かった。

 

 その間にもいろいろあったが、まあそれはここで語ることでは無い。

 さて、弟よ妹よ、吾と同じように自分の、そして母の強さを示せるかな?

 




メイショウタバル君宝塚記念おめでとう、親父(ゴルシ)に似てないとか親父は応援してるんだかしてないんだかとか言われ放題を聞いて草生えたぞ

その宝塚記念は書こうと思ったら全然時間がなかったので次回以降と思われ
掲示板は大体下記終わってるのにやっぱ小説は時間がかかりますね。
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